Trajectory Tuning 2.0 はロフトとライ角だけか?

Trajectory Tuning 2.0 によって、変化するのはロフトとライ角だけでしょうか?

昨日の図では、固定されたヘッドに対してシャフトの方向がどのように変化するかを示しました。

この方法でロフトとライ角が変化するのは、ゴルファーが実際にはシャフトを一定の方向に構えて使うからです。

つまり、ゴルファー側から見れば、

シャフトが動いているというより、ヘッドの姿勢が変わっている

と考えた方が分かりやすいわけです。

そして私たちが扱っているクラブは、当然ながら3次元空間に存在しています。

そうであれば、

ロフトだけが変わる。
ライ角だけが変わる。

ということはありません。

もう一つ変化するものがあります。

そうです。

フェースアングルです。

フェースアングルも変わっている

例えば、Standardのライ角を59°として近似計算すると、次のようになります。

位置 ロフト変化 ライ角変化 実ライ角 フェースアングル変化※
Standard 59.00°
Small + +1.06° −0.44° 58.56° 約1.73° Closed
Big + +1.50° −1.50° 57.50° 約2.35° Closed
Flat + +1.06° −2.56° 56.44° 約1.60° Closed
Flat −3.00° 56.00°
Flat − −1.06° −2.56° 56.44° 約1.60° Open
Big − −1.50° −1.50° 57.50° 約2.35° Open
Small − −1.06° −0.44° 58.56° 約1.73° Open

ライ角60°で同じように計算すると

位置 ロフト変化 ライ角変化 実ライ角 フェースアングル変化※
Standard 60.00°
Small + +1.06° −0.44° 59.56° 約1.80° Closed
Big + +1.50° −1.50° 58.50° 約2.45° Closed
Flat + +1.06° −2.56° 57.44° 約1.66° Closed
Flat −3.00° 57.00°
Flat − −1.06° −2.56° 57.44° 約1.66° Open
Big − −1.50° −1.50° 58.50° 約2.45° Open
Small − −1.06° −0.44° 59.56° 約1.80° Open

59°基準より60°基準の方が、同じロフト変化でもフェースアングルの変化が少し大きくなります。

つまり、ライ角がアップライトになるほど、ロフト調整によるフェースの開閉への影響も大きくなっていきます。

※フェースアングルはPING公式公称値ではなく、今回の幾何モデルによる近似値です。

「見た目」はフィッティングで無視できない

ここは、実際のフィッティングではかなり重要です。

人によってはフェースアングルを非常に気にします。

Closed、俗にいう**「かぶって見える」**状態を嫌う人は少なくありません。

特に左へのミス、フックを嫌うゴルファーは、構えた瞬間にフェースが少し閉じて見えるだけでも違和感を持つことがあります。

反対に、もともとボールをつかまえることが苦手なゴルファーの場合は、フェースが開いて見えることを嫌います。

つまり、同じ実ロフトが欲しいからといって、単純にスリーブだけでロフトを調整すればよいとは限らないのです。

例えば10°のロフトが欲しい場合でも、

9°のヘッドを+側に調整して10°に近づける

方法と、

10.5°や12°など、よりロフトの大きなヘッドを−側に調整して10°付近へ持ってくる

方法では、構えた時のフェースアングルが違って見えます。

前者ならフェースはClosed方向へ。

後者ならOpen方向へ。

同じようなリアルロフトになったとしても、ゴルファーから見えるクラブは別物になるわけです。

だから「何度にしたか」だけでは足りない

フィッティングでは、

最終的なロフトが何度になったか

だけを見ても十分ではありません。

同時に、

ライ角はどうなったのか。
フェースアングルはどう見えるのか。
その見え方をゴルファー本人がどう感じるのか。

まで見なければなりません。

ですから私は、その人に合わせて、

一つロフトの少ないヘッドを使って+側へ調整する

こともあれば、

一つロフトの多いヘッドを使って−側へ調整する

こともあります。

目的は単にロフトを合わせることではありません。

必要なリアルロフトを作りながら、その人が構えやすいフェースアングルまで作ること。

これもフィッティングの仕事です。

Trajectory Tuning 2.0を「ロフト調整機能」とだけ考えてしまうと、この部分を見落としてしまいます。

実際には、

ロフト
ライ角
フェースアングル
シャフト長

という4つが同時に関係しています。

そして、その3つの組み合わせによって、

ボールの飛び方だけでなく、ゴルファーがアドレスした時に感じるクラブの見え方まで変わる。

ここまで考えて初めて、Trajectory Tuning 2.0をフィッティングに活かすことができるのではないでしょうか。

Trajectory Tuning 2.0 の秘密

Trajectory Tuning 2.0が具体的にどのような構造になっているのか、想像図を作成してみました。

稚拙な図で申し訳ありませんが、一点鎖線で示した中心線に対して、シャフト軸が約1.5°傾くような構造になっているのではないか、と考えています。

あくまで構造から逆算した推測です(笑)。

しかし、この1.5°という数字で考えると、Trajectory Tuning 2.0の動きが非常にきれいに説明できます。

8ポジションなので、スリーブは45°ずつ回転します。

Standardを基準にすると、90°回転したところでロフト方向の変化が最大となり、

+1.5°または−1.5°

になります。

さらに180°回転すると、ロフト方向の変化は再びゼロに戻り、その代わりライ角が

3°フラット

になります。

つまり、1.5°傾いた軸を回転させることで、ロフトとライ角の組み合わせを作っていると考えられます。

なぜ、こんな構造にしたのか

ここで面白いのが、やはり重量です。

 

PINGは、ホーゼル周辺の重量がヘッド性能に与える影響を非常に重視しています。

G440から採用されたFree Hosel Designも、まさにその延長線上にあります。

少しでもホーゼル周辺を軽くし、その重量をヘッド後方や低い位置へ再配分する。

数グラムの差であっても、慣性モーメントや重心位置には影響します。

そう考えると、複雑な調整機構を追加するのではなく、

1.5°傾けた一つの軸を回転させるだけで、複数のロフト・とライ角を作る

という仕組みは、非常に合理的です。

Trajectory Tuning 2.0は、単なる調整機能ではなく、

軽量化・調整機能・ヘッド性能を、一つのシンプルな構造の中で成立させるための設計

と考えることもできます。

ただし、フィッティングでは話が変わる

問題はここからです。

こういう構造になっているのであれば、スリーブを動かした時に変わるのは、ロフトだけではありません。

ライ角も変わります。

そして、ライ角が変われば、

フェースアングルへの影響も変わります。

クラブは三次元の物体です。

ロフト、ライ角、フェースアングルは、完全に独立しているわけではありません。

つまり、

「+1°にした」

というだけでは、実際にクラブで何が変わったのかを十分には説明できないということです。

ロフトが変わり、

ライ角も変わり、

その組み合わせによってフェースアングルにも影響が出る。

フィッティングでは、この3つをセットで考える必要があります。

例えば左へのミスが減ったとしても、

ロフトが変わったからなのか。

ライ角がフラットになったからなのか。

フェースアングルが開く方向へ変化したからなのか。

あるいは、そのすべてが同時に作用した結果なのか。

そこまで考えなければ、本当の意味で「なぜ球筋が変わったのか」は分かりません。

Trajectory Tuning 2.0は便利な機能ですが、便利だからこそ、

どのポジションに合わせたかではなく、そのポジションで何が変わったのか

を理解して使う必要があります。

次回は、

ライ角が変わることで、フェースアングルがどのように変化するのか

を、具体的な数字で見ていきたいと思います。

USのライ角とJAPANのライ角は1度違う!

アメリカのPINGと日本のPINGでは、同じモデルなのにライ角の表記が違います。

この違いを見て、

「USのヘッドと日本のヘッドは別物なのですか?」

と聞かれたことはありません。

多分、そこまでスペック表を見比べている人がほとんどいないのでしょう。

店長のような、少し変わった人しか見ていないのかもしれません。

では実際に、

US PING

PING GOLF JAPAN

のスペックを比べてみると、ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッドで、USの方が約1°フラットなライ角表記になっていることが分かります。

同じヘッドなのに、なぜでしょうか。

USには「平均ライ角」と書いてある

US PINGのスペック表には、次の記述があります。

Lie angle is an average of the five adjustable loft positions indicated on the hosel.

日本語にすると、

「ライ角は、ホーゼルに表示されている5つのロフト調整ポジションの平均値です。」

という意味です。

ここが重要です。

USのライ角表示は、Standardポジションのライ角そのものではありません。

5つのロフト調整ポジションのライ角を平均した値

をカタログスペックとして表示しているのです。

Trajectory Tuning 2.0をもう一度考えてみる

前回、Trajectory Tuning 2.0について、

シャフト軸がホーゼル中心軸に対して約1.5°傾いているのではないか

という仮説を立てました。

8ポジションなので、360°を8分割すれば45°刻みです。

この1.5°の傾きを45°ずつ回転させると、ロフト方向とライ方向への成分は概算で次のようになります。

位置 ロフト変化 ライ角変化
Standard
Small + +1.06° −0.44°
Big + +1.50° −1.50°
Flat + +1.06° −2.56°
Flat −3.00°
Flat − −1.06° −2.56°
Big − −1.50° −1.50°
Small − −1.06° −0.44°

PING公式のロフト表記は、

  • Standard:0°
  • Small ±:±1°
  • Big ±:±1.5°
  • Flat:0°
  • Flat ±:±1°

です。

計算値とかなりきれいに一致します。

そしてUS PINGがいう、

「5つのadjustable loft positions」

とは、

  • Standard
  • Small +
  • Small −
  • Big +
  • Big −

の5ポジションと考えるのが自然です。

つまり、USのライ角表示は、このNormal側5ポジションの平均ライ角ということになります。

Normal Zoneの平均ライ角を計算すると

Standardからのライ角変化は、

  • Standard:0°
  • Small +:−0.44°
  • Small −:−0.44°
  • Big +:−1.50°
  • Big −:−1.50°

です。

平均すると、

約−0.78°

になります。

つまり、Standardのライ角より、平均すると約0.8°フラットです。

カタログ値は0.5°刻みなどで表示されますから、日本とUSで約1°の差が出ていても不思議ではありません。

ここまで来ると、

USと日本でヘッドが違うのではなく、ライ角の表示方法が違う

と考える方が自然です。

USは「Normal Zone」と「Flat Zone」で考えている

ここから、Trajectory Tuning 2.0の考え方がさらに見えてきます。

USでは、ライ角を単純に、

Standard
Flat

の2点だけで考えているのではなく、

Normal Lie Zone

Flat Lie Zone

という2つの領域として捉えているのではないでしょうか。

Normal Zoneには、

  • Standard
  • Small ±
  • Big ±

があり、

その中でロフトを、

標準
±1°
±1.5°

に設定する。

一方Flat Zoneには、

  • Flat
  • Flat ±

があり、

その中でロフトを、

標準
±1°

に設定する。

このように考えると、PINGの説明書の構成が非常に分かりやすくなります。

つまり、

まずライ角のゾーンを選び、その中でロフトを選ぶ。

これがTrajectory Tuning 2.0の本来の考え方なのではないでしょうか。

Flatも一つの角度ではなく「ゾーン」

私が最初にTrajectory Tuning 2.0の説明を受けた時、

「Flat Zoneは約2.6°フラット」

と聞いていました。

当時は単純に、

「Flatは2.6°フラットなのだ」

と理解していました。

しかし今回計算してみると、

  • Flat +:約2.56°フラット
  • Flat:3.00°フラット
  • Flat −:約2.56°フラット

となります。

つまり、Flatは一つの固定ライ角ではありません。

約2.6〜3.0°フラットの範囲を持った“Flat Zone”

と考えれば、説明がきれいにつながります。

同じことはNormal Zoneにも言えます。

Normal Zoneでも、

  • Standard:0°
  • Small ±:約0.44°フラット
  • Big ±:約1.5°フラット

と、実際にはライ角が変化しています。

つまり、

Normal Zoneの中でもライ角は一定ではない。
Flat Zoneの中でもライ角は一定ではない。

ということです。

日本の表記では、この考え方が少し見えにくくなる

一方、日本のPINGでは、ライ角をStandardポジションの値として表示しています。

これはスペック表としては非常に分かりやすいです。

しかし、Trajectory Tuning 2.0を

Normal Zone
Flat Zone

という考え方で理解しようとすると、少し説明が難しくなります。

日本の表記では、

「このクラブのライ角は59°です」

と見える。

しかし実際にはスリーブを回せば、

Normal Zoneの中でもライ角は変化し、

Flat Zoneではさらに大きくフラットになります。

つまり59°という数字は、

クラブそのものに固定されたライ角

というより、

Standardポジションに置いた時の基準ライ角

なのです。

USはNormal Zoneの平均値を表示し、

日本はStandardポジションの値を表示する。

同じクラブを、違う基準で表現しているわけです。

日本側が、この「ゾーン」という考え方まで意識してStandard値を採用したのかどうかは分かりません。

ただ、少なくともTrajectory Tuning 2.0の構造を考えると、USのAverage Lie Angleという表記はかなり合理的です。

同じヘッドなのに、ライ角が違って見える理由

結局、

USとJAPANでライ角が違うから、ヘッドが違う

という話ではありません。

同じヘッドでも、

USは、

Normal Zone内の5ポジションの平均ライ角

を表示し、

日本は、

Standardポジションのライ角

を表示している。

だから数字が違って見える。

そして、その表示の違いを追っていくと、

Trajectory Tuning 2.0は、単にロフトを変えるスリーブではなく、Normal ZoneとFlat Zoneという2つのライ角領域の中でロフトを組み合わせる機構

として見えてきます。

公式の説明だけを読んでいた時とは、かなり印象が変わってきませんか。

次回は、このTrajectory Tuning 2.0によるフェースアングルの変化まで考えてみたいと思います。

PING Trajectory Tuning 2.0 の秘密

PING Trajectory Tuning 2.0は、公式には次の8ポジションになっています。

ポジション ロフト調整
Standard
Small + +1.0°
Big + +1.5°
Small − −1.0°
Big − −1.5°
Flat
Flat + +1.0°
Flat − −1.0°

トルクレンチの説明書にも、このように記載されています。

つまり公式の説明では、まず大きく

ノーマルライ角

フラットライ角

の2つのグループがあり、

ノーマルライ角では、

標準ロフト
±1°
±1.5°

フラットライ角では、

標準ロフト
±1°

という構成になっています。

ここだけを見ると、

「ロフトを変えるポジション」と
「ライ角をフラットにするポジション」

が別々に存在しているようにも見えます。

しかし、実際のアダプターはどうやってこれを実現しているのでしょうか。

8ポジションを45°ずつ回転させる

Trajectory Tuning 2.0には8つのポジションがあります。

ということは、円周上では、

360° ÷ 8 = 45°

ずつ配置されていることになります。

そして、このアダプターのシャフト軸が、ホーゼルの中心軸に対して1.5°傾いていると仮定します。

この1.5°の傾きを45°ずつ回転させていくと、その傾きはロフト方向とライ方向に分解されます。

すると、概算では次のようになります。

位置 ロフト変化 ライ角変化
Standard
Small + +1.06° −0.44°
Big + +1.50° −1.50°
Flat + +1.06° −2.56°
Flat −3.00°
Flat − −1.06° −2.56°
Big − −1.50° −1.50°
Small − −1.06° −0.44°

どうでしょう。

PING公式の、

±1°
±1.5°
最大3°フラット

という数字が、ほぼそのまま出てきます。

Small ±の約1.06°は、公式表示では±1°。

Big ±はちょうど±1.5°。

Flatではロフト変化が0°となり、ライ角がちょうど3°フラット。

つまり、かなりきれいに一致します。

実際には「ロフトだけ」が変わっているわけではない

ここが一番重要なところです。

公式表示では、

Small + = +1°

と書かれています。

しかし、幾何学的に考えると、

ロフト +1.06°
ライ角 −0.44°

という組み合わせになっていると考えられます。

Big +なら、

ロフト +1.50°
ライ角 −1.50°

Flat +なら、

ロフト +1.06°
ライ角 −2.56°

です。

つまり、Trajectory Tuning 2.0は、

ロフトを変えるポジション

ライ角を変えるポジション

が独立して存在しているのではありません。

実際には、

傾いたシャフト軸を回転させることで、ロフトとライ角の組み合わせを変えている

ということになります。

なぜ3°フラットになるのか

これも1.5°という数字から説明できます。

Standardでは、シャフト軸の1.5°の傾きが一方向を向いています。

そこから180°回転したFlatでは、その傾きが完全に反対側を向きます。

つまり、

+1.5° → −1.5°

となるため、その差は、

3.0°

です。

だからFlatポジションでは、Standardに対して最大3°フラットになる。

「中心から3°ずれている」のではなく、

中心から1.5°ずれていて、その反対側まで動くことで合計3°の差が生まれる

と考えると、非常に分かりやすくなります。

そうだったのか、Trajectory Tuning 2.0

公式の説明だけを見ると、

ノーマルライ角
フラットライ角

という2種類があり、

その中でロフトを変えているように見えます。

しかし、実際の構造を考えると印象はかなり変わります。

Trajectory Tuning 2.0は、

ロフト調整機能

というより、

シャフト軸の方向を3次元的に変えることで、ロフトとライ角の組み合わせを作る機構

と考えた方が本質に近いのではないでしょうか。

そして、その数値を計算してみると、

公式表示の±1°、±1.5°、最大3°フラットが、1.5°偏心・45°刻みという構造で非常にきれいに説明できます。

そうだったのか、PING Trajectory Tuning 2.0。

公式のロフト・ライ角表示から受ける印象とは、ずいぶん違って見えてきます。

そして、さらに面白いことがあります。

USとJAPANでは、同じヘッドを使っているにもかかわらず、カタログに表示されているライ角の数値が違います。

なぜ同じクラブなのに、ライ角が違うのでしょうか。

次回は、この謎について考えてみたいと思います。

ハイブリッドの左ミスを考える ― ライ角から考えられること

先週、ジュニア君たちのラウンドを見ていた時のことです。

本来であれば、距離を欲張るよりも方向性を重視して使いたい場面で、ハイブリッドのショットがかなり左へミスしていました。それが今回のシリーズを考えるきっかけになっています。

ハイブリッドは、ロングアイアンの弱点を補うための「お助けクラブ」として位置づけられています。

それなのに、そのクラブでスコアメイクできないのであれば問題です。

特にヘッドスピードの速いゴルファーやハードヒッターにとって、ハイブリッドの大きな弱点となるのが、

左へのミス

です。

一般的には、その理由として、

  • 深い重心
  • ヘッド形状
  • オフセット
  • フェースの返りやすさ

などが挙げられます。

もちろん、それらも関係しているでしょう。

しかし、今回スペックを改めて比較してみると、

それだけでは説明しきれない別の理由

が見えてきました。

ハイブリッドは「ロングアイアンを簡単にしたクラブ」なのか

そもそもハイブリッドは、

ロングアイアンをそのまま簡単にしたクラブ

として作られたというより、

ロングアイアンで打っていた距離を、もっと簡単に出すためのクラブ

として発達してきたと考えた方がよさそうです。

ロングアイアンの弱点は、単にボールが上がりにくいことだけではありません。

短めのクラブ長と小さなヘッドで、必要なキャリーを出すための十分なヘッドスピードを確保しなければならない。

そこでハイブリッドでは、

深い重心でボールを上げやすくし、ヘッドを大きくしてミスに強くし、さらにシャフトを長くしてヘッドスピードを稼ぐ

という方向へ進みました。

今回比較したスペックでは、

クラブ ロフト ライ角 長さ
3I 19° 59.0° 39.0″
HB #3 20° 58.5° 40.25″
FW #5 19° 58.0° 42.5″

ほぼ同じロフトでも、

Iron 39.0″

HB 40.25″

FW 42.5″

と、ハイブリッドはちょうど中間に位置しています。

これはメーカー側から見れば非常に合理的です。

FWほど長くないので当てやすい。

アイアンより長いのでヘッドスピードを出しやすい。

深重心なのでボールも上がりやすい。

これによって、「難しいロングアイアンの代わりになるクラブ」が成立します。

しかし、ここに別の問題が生まれます。

同じロフトでも、手元の高さが違う

ライ角とクラブ長から、ソールを基準通りに置いた時の手元高さを単純な幾何計算で推定すると、

手元高さ ≒ クラブ長 × sin(ライ角)

となります。

19〜20°付近を比較すると、

クラブ 推定手元高さ
FW #5 36.04″
HB #3 34.32″
3I 33.43″

HB #3は、3Iより約0.89インチ手元が高くなります。

ところが、ハイブリッドは見た目も構え方もアイアンに近い。

そのためプレーヤーは、無意識にアイアンと同じような高さへ手元を置こうとします。

しかし実際には、シャフトが1.25インチ長い。

この長さをアイアンと同じ構えの中へ押し込もうとすると、クラブのどこかで帳尻を合わせなければなりません。

手元を下げればトウ側は浮きます。

そしてスイング中には、

長さを処理するためにリリースを早める

という補償動作が起こる可能性もあります。

ハードヒッターでは、このアーリーリリースによってフェースの閉じるタイミングが早くなれば、左へのミスにつながりやすくなります。

FWでは、なぜ同じ問題が目立ちにくいのか

FWもHB以上にシャフトは長い。

しかしFWでは、ライ角もそれに合わせてかなりフラットになっています。

19°前後なら、

FW #5:42.5″・58.0°

です。

長さによって手元は高くなりますが、その一方でライ角はフラットです。

つまり、

長さによる手元高さの上昇

と、

フラットなライ角によるつかまりの抑制

が、ある程度相殺されています。

一方HBは、

3Iより1.25インチしか長くなっていないのに、ライ角は0.5°になっっています。

PINGのTrajectory Tuning 2.0には、ロフト調整だけでなく、最大約3°フラット

までライ角を変えられるポジションがあります。

ですので、実際にポジションを変えてみてください。

次回は、PINGのTrajectory Tuning 2.0について考えます。

ハイブリッドのやさしさを間違えてはいけません

そもそも、ハイブリッドが左へ行きやすい理由の一つは、

「ロングアイアンをそのまま簡単にしたクラブ」ではなく、ロングアイアンの距離を、もっと簡単に出すクラブとして設計されたこと

にあるのではないでしょうか。

ロングアイアンの弱点は、単に球が上がりにくいことだけではありません。

短めのクラブ長と小さなヘッドで、必要なキャリーを出すための十分なヘッドスピードを確保しなければなりません。

そこでハイブリッドでは、

  • 重心を深くする
  • ヘッドを大きくする
  • 球を上げやすくする
  • シャフトを少し長くしてヘッドスピードを稼ぐ

という方向へ進みました。

今回の比較では、

クラブ ロフト 長さ
3I 19° 39.0″
HB #3 20° 40.25″

ほぼ同じロフトなのに、ハイブリッドの方が1.25インチ長い

この1.25インチにはかなり意味があります。

クラブの回転半径が大きくなるため、同じ角速度で振ればヘッドの線速度を高めることができます。

つまりハイブリッドは、

ロングアイアンよりも楽にボールスピードを出す

ための設計でもあるわけです。

さらに、ハイブリッドやレスキュー系のクラブは、その成り立ちを見ても、アイアンというより小型のフェアウェイウッドに近い性格を持っています。

そのためクラブ長も、

Iron ← HB → FW

という中間的な設定になります。

19〜20°付近を比較すると、

3I 39.0″

HB #3 40.25″

FW #5 42.5″

となります。

メーカー側から見れば、これは非常に合理的です。

FWほど長くないので当てやすい。

アイアンより長いのでヘッドスピードを出しやすい。

重心が深いので球も上がりやすい。

これで、「難しいロングアイアンの代わりになるクラブ」が成立します。

しかし、ここに別の問題が生まれます。

ハイブリッドが誕生した目的は、

ロングアイアンと同じスイングを再現すること

ではなく、

ロングアイアンの距離を、より簡単に出すこと

だったのではないか。

この二つは似ていますが、同じではありません。

特に上級者やハードヒッターの場合、もともと3番、4番アイアンでも必要なヘッドスピードを出せます。

そこへ、

1インチ以上長いシャフト
+ 深い重心
+ つかまりを補助するヘッド
+ 軽量なハイブリッド用シャフト

を組み合わせれば、「簡単にするための補助」が過剰になる可能性があります。

そして、ここからもう一つの問題につながります。

ハイブリッドは見た目も構え方もアイアンに近い。

そのためゴルファーは、無意識にアイアンに近い感覚で構えます。

しかし、実際にはシャフトが1〜1.5インチ長い。

そこでアイアンと同じような構えを作ろうとすると、その長さの余剰を、どこかで処理しなければならなくなります。

その結果、

アイアンと同じ構えを作ろうとする

実際にはクラブが長い

ダウンスイング後半で長さを処理する必要が出る

クラブを早めにリリースする

という補償動作が起きる可能性があります。

アーリーリリースが起きれば、フェースは早く閉じやすくなります。

つまり、ハイブリッドの左へのミスは、

「ヘッドがつかまりやすいから」

だけではなく、

ロングアイアンより簡単に距離を出すために長くしたこと自体が、ハードヒッターには左へのミスを誘発する要因になっているのではないか

ということです。

ハイブリッドは確かにやさしいクラブです。

しかし、その「やさしさ」はすべてのゴルファーに同じように働くとは限りません。

 

ハイブリッドの弱点、ひっかけやすいのはなぜ?

先週、ジュニア君たちのラウンドを見ていた時のことです。

本来であれば、距離を欲張るよりも方向性を重視して使いたい場面で、ハイブリッドのショットがかなり左へミスしていました。

これは少し気になるところです。

ハイブリッドは、ロングアイアンよりもボールを上げやすく、ミスにも強い。いわば「お助けクラブ」として使われることの多いクラブです。

ところが、そのクラブで方向性を失ってしまえば、スコアメイクのための武器にはなりません。

特にヘッドスピードの速いゴルファーやハードヒッターにとって、ハイブリッドの大きな弱点になるのが左へのミスです。

ハイブリッドがまだ一般的ではなかった時代、その距離を攻めるクラブといえばロングアイアンでした。

今のように「難しいからハイブリッドに替える」という選択肢はありません。

ですから、3番アイアンや4番アイアンを一生懸命練習したものです。

そのおかげもあって、私自身、今でもロングアイアンがまったく打てないというわけではありません。

そもそも昔のアイアンセットは、3番アイアンから入っているのが普通でした。

バッグの中には当たり前のように3番、4番が入っていましたから、練習場でもラウンドでも自然と触れる機会がありました。

ところが今は、アイアンセットが5番から、場合によっては6番からということも珍しくありません。

そうなると、若いゴルファーほどロングアイアンそのものを打つ機会がほとんどありません。

もしかすると、ハイブリッドが普及したことでロングアイアンが難しくなったのではなく、ロングアイアンを練習する機会そのものがなくなったという面もあるのではないでしょうか。

そうは言っても、今の時代はそうはいきません

では、お助けクラブが、急に牙をむくように、左にボールを飛ばすのでしょうか?
一般にはその理由として、

  • 重心深度の深さ
  • ヘッド形状
  • オフセット
  • フェースの返りやすさ

などが挙げられます。

1. 重心深度が深い

ハイブリッドはロングアイアンよりヘッドに奥行きがあり、一般に重心がフェース面から後方にあります。

ここで重要なのは、ボールと接触する点はフェース面ですが、ヘッドの質量中心はその後方にあることです。

インパクト時に打点が重心線から外れると、

打点 → ヘッド重心

の距離によってモーメントが生じます。

特にトウ寄りに当たった場合には、ヘッドが開く方向に回転し、その反作用としてボールにはドロー方向のギア効果が生じます。

重心深度の大きなヘッドでは、この「フェース面と重心との距離」が大きくなるため、アイアンよりギア効果を無視しにくくなります。

したがって、

少しトウ寄りに当たる
→ ドロー回転が増える
→ ハードヒッターでは左への曲がり幅が大きくなる

ということがあります。

ただし、重心が深いだけでフェースが閉じるわけではありません。
ここは分けて考えた方がよいです。


2. ヘッド形状

アイアンはフェースから後方への奥行きが小さいですが、ハイブリッドは小型のウッドに近い立体的なヘッドです。

そのため、重心位置を

  • 後方
  • ヒール側
  • 低い位置

などへ設計しやすくなります。

特につかまりを重視したモデルでは、重心距離を短くする設計が可能です。

ここでいう重心距離は、おおまかには

シャフト軸からヘッド重心までの距離

です。

これが短ければ、シャフト軸を中心としてヘッドを回転させるために必要なモーメントが小さくなり、

フェースターンを起こしやすいヘッド

になります。

したがって、「ヘッドが厚いから左」というより、

厚みのあるヘッド形状によって、メーカーが重心位置を大きく操作でき、その結果としてつかまりを強く設計できる

と考えた方が正確です。


3. オフセット

これは比較的分かりやすい要素です。

オフセットが大きいと、シャフト軸よりフェースが後方にあります。

その結果、ダウンスイングでグリップが先行してきたとき、

シャフト軸がボール位置を通過してからフェースがボールに到達するまでの時間・距離がわずかに増える

ことになります。

その間にもクラブは回転運動を続けています。

したがって、同じスイングでもフェースがスクエア方向まで戻る余裕が増えます。

また、構えたときにもフェースが後ろに見えるため、ゴルファー自身が無意識にフェースを戻そうとする可能性があります。

もともと右へ逃がしやすいゴルファーには有効ですが、フェースを十分に戻せるハードヒッターには、

「戻り過ぎる」

方向に働く場合があります。


4. 「フェースの返りやすさ」

これは独立した原因というより、重心位置・重心距離・ヘッド慣性モーメント・シャフト特性などの結果として現れる性質です。

クラブを上から見ると、シャフト軸とヘッド重心は一致していません。

シャフトを動かすと、その後ろにある重心が運ばれます。

このとき、

  • 重心距離が短い
  • ヒール寄り重心
  • シャフト軸まわりの慣性モーメントが小さい
  • シャフトのねじり戻りが早い

といった条件が重なると、フェースの回転速度、つまり**closure rate(フェースクロージャーレート)**が高くなりやすくなります。

ハードヒッターの場合、この差がさらに表面化します。

ヘッドスピードが高ければ、わずかなフェース角の違いでも球の初期方向への影響が大きく、さらにドロー系のスピン軸が付けば、左への曲がりも大きくなります。

ですから、

「簡単につかまるクラブ」=「誰にとっても方向性が良いクラブ」

ではありません。

 

 

第6話 Project X LZ、そしてアイアン選びへ

PROJECT X LZ

メーカーはProject X LZについて、次のように説明しています。

新技術TWT(トリプル・ウォール・テクノロジー)にてティップとバット部分の強度を上げ、シャフト中間部分の“Loading Zone”でエネルギー伝導率の最大化・最適化を達成。(当社製品従来比)

さらに、フレックスごとにテーパー率と重量を変え、ツアー選手向けの6.5/125gから、アマチュアゴルファー向けの5.0/110gまで用意されています。

この説明を読んで、腑に落ちることがありました。

このシャフトは、単に「ボールが高くなるシャフト」ではない。

ということです。

私は釣りもしていて、以前はロッドも自作していました。

ピンポイントにルアーを入れることが重要な釣りでは、ロッドのティップを詰めて組んだ方が、ルアーの初速が出て、しかもコントロールしやすいということに気づいていました。

ただ柔らかくして、ロッドを大きくしならせればいいわけではありません。

Loadを受け止める。

そのエネルギーを使う。

そしてリリースした後には、ティップが正確に戻る。

Project X LZの、

ティップとバット部分の強度を上げ、その中間にLoading Zoneを作る

という説明を読んだとき、このキャスティングロッドの感覚と重なるものがありました。

もちろん、ゴルフシャフトと釣り竿は同じではありません。

そして、スイングにもよります。

しかし、今回のお客様のように、ボールの近くまで長くLoadingを続けるタイプのスイングには、このシャフトは非常に合う可能性があります。

メーカー自身が、

「エネルギー伝導率の最大化・最適化」

を掲げているシャフトですから、その意味では当たり前なのかもしれません。

問題は、ちょっとお高い。

でも、

いいシャフトだと思います。

そしてBLUEPRINT Tへ戻ります

さて、ここまでBLUEPRINT Tから始まって、ヘッドの大きさ、フェースターン、リリース、Loading、そしてProject X LZまで話を広げてきました。

最後に、もう一度アイアンの話へ戻りましょう。

PGA TOURでも、マッスルバックをセットの中心として使用している選手は少数派です。

調査の定義にもよりますが、おおよそ2割程度。

世界最高レベルの選手でさえ、キャビティバックを使っている選手の方が多いのです。

これは当然だと思います。

マッスルバックを使わなければ、良いゴルフができないわけではありません。

ヘッドを意図したタイミングで動かす。

弾道を変える。

ロフトを管理する。

リリースのタイミングを自分で作る。

そうしたことができるゴルファーにとって、マッスルバックの運動特性は大きな武器になることがあります。

今回のお客様が、まさにそうでした。

しかし、それができなくてもスコアが良ければ、それもまた良いゴルフです。

むしろクラブに助けてもらい、できるだけ同じ弾道を繰り返す方がスコアにつながるゴルファーもたくさんいます。

だから、

小さいヘッドだから難しい。
大きいヘッドだからやさしい。

だけでは、アイアンを選ぶことはできません。

何をクラブに任せたいのか。

何を自分でコントロールしたいのか。

そして、どのようなゴルフをしたいのか。

ゴルファーの能力だけではなく、プレースタイルまで含めてアイアンを選ぶ。

それが今回のフィッティングから、改めて感じたことでした。

 

第5話 Loadingとは何か

さて、今回選んだProject X LZについてお話しする前に、まず「Loading」という言葉について考えてみたいと思います。

Loadingと聞くと、一般的には「読み込み」という意味を思い浮かべる方が多いかもしれません。

プログラムをロードする。

データをロードする。

コンピューターの世界では、よく使われる言葉です。

しかし「Load」には、もう一つ重要な意味があります。

荷を載せる。負荷をかける。

工学では、

Load = 荷重・負荷

という意味で使われます。

ゴルフでLoadingを考える場合には、こちらの意味の方が分かりやすいと思います。

クラブにLoadをかける

ゴルファーがグリップを動かすと、クラブヘッドも動こうとします。

しかし、クラブヘッドには質量があります。

質量がある以上、慣性があります。

手元は進もうとする。

クラブヘッドは、その場に残ろうとする。

その結果、クラブには負荷がかかります。

つまり、

クラブにLoadがかかる。

ということです。

そして、このLoadという考え方は、The Golfing Machineにも登場します。

最近では「フライングウェッジ」という言葉で、The Golfing Machineを知った方もいるかもしれません。

ただ、正確には、

Flying Wedges

です。

Wedgesと複数形になっています。

左腕とクラブによって作られるLeft Arm Flying Wedgeと、右前腕とクラブによって作られるRight Forearm Flying Wedge。

二つの「くさび」です。citeturn0search1turn0search0

ウェッジというくらいですから、そこには当然「角度」があります。

そして、その二つのウェッジがスイングの中を飛んでいく。

だからFlying Wedgesです。

ところが、その「角度」だけを見ていると、The Golfing Machineのもう一つ重要な部分を見落としてしまいます。

Loadingです。

形ではなく、Loadを見る

トップで左腕とシャフトに角度がある。

ダウンスイングでもその角度が残っている。

それを見ると、

「タメがある」

「コックを残している」

と考えたくなります。

しかし、その形を意識的に作っているとは限りません。

手元に力を加える。

クラブヘッドには慣性がある。

その結果としてクラブにLoadがかかる。

Loadingが続いているから、外から見ると角度が残って見える。

つまり、

角度を残しているからLoadingしているのではなく、Loadingしている結果として角度が残って見える。

私は、この順番が非常に重要だと考えています。

Float Loading

そしてThe Golfing Machineには、

Float Loading

という考え方があります。

Float Loadingの特徴は、Loadingがトップだけで完成するのではなく、切り返しからダウンスイングに入る過程でもLoadingが加わることです。一般的なTGM解説でも、左手首のコックが切り返し付近まで深まる動きとして説明されています。citeturn0search11

手元が動き始める。

クラブヘッドは慣性によって遅れる。

すると、ダウンスイングに入ってからさらにLoadが加わります。

その結果、外から見ると左腕とシャフトの角度が、トップよりも深くなったように見えることさえあります。

セルヒオ・ガルシアなどは、この現象をイメージしやすいゴルファーでしょう。

そして、私がもう一人思い浮かべるのがベン・ホーガンです。

ホーガンのリリース

ホーガンといえば、非常に遅いリリースが印象的です。

そしてインパクト付近でのスピネーションも有名です。

しかし私は、スピネーションを積極的に行ったから、あのリリースになったとは考えていません。

むしろ、

Loadingを続け、ボールの近くまで手元を進め、そこからリリースした結果として、あのスピネーションが現れたのではないか。

と考えています。

そう考えると、大切なのはインパクトで手をどう動かしたかではありません。

そこへ到達するまで、クラブにどの方向へ力を加え続けてきたのか。

ということになります。

今回のお客様との共通点

今回のお客様のスイングを見ていて、私が非常に印象的に感じたことがあります。

スイングプレーンと、クラブに力をかけている方向が、ダウンスイングを通してほとんど変わらない。

手元を途中で身体の方へ引き込んだり、ボールに合わせるために力の方向を大きく変えたりしません。

同じプレーン上を手元が進み、その方向へ力を加え続けています。

なんとなく、ホーガンのクラブへの力のかけ方と似ています。

その結果、ボールのかなり近くまでLoadingを続けることができる。

そして、そこからリリースする。

だから、手元のプレーンを大きく変えなくてもグリップを先へ進めることができ、ダイナミックロフトも自然に減っていきます。

つまり、

ロフトを立てようとしているのではありません。

Loadingを続けた結果として、インパクトでロフトが立っている。

だからこそ、

「抑えるのは容易です」

という言葉が出てきたのではないかと思います。

そしてProject X LZへ

ここまでLoadingについて考えてくると、今回選んだシャフトの名前が非常に面白く見えてきます。

Project X LZ。

LZとは、

Loading Zone。

ゴルファーがボールの近くまでLoadをかけ続ける。

では、そのLoadを受けるシャフト側に、わざわざ「Loading Zone」と名付けられた領域を作ったProject X LZとは、どのようなシャフトなのでしょうか。

そして、なぜこのシャフトが今回のお客様にこれほど合ったのでしょうか。

次回は、今度はゴルファー側ではなく、シャフト側のLoadingを考えてみたいと思います。

第4話 抑えられるから、もっと上げてみる

前回まで、なぜBLUEPRINT Tではボールを抑えて打つことが容易だったのかを考えてきました。

フィッティング中、お客様にボールを抑えて打つことについて確認すると、

「抑えるのは容易です」

という答えが返ってきました。

ここまでくると、フィッターとしては、

「それなら、とことんやってみましょう」

ということになります。

このお客様は、自分でダイナミックロフトを減らすことができます。

必要であれば、ボールを低く抑えることもできる。

それなら、クラブ側まで低い弾道を作る必要はありません。

むしろ逆です。

ダイナミックロフトをとことん減らしても、ボールが十分な高さまで上がればいい。

そう考えました。

飛距離ではなく「高さ」を見る

ここから、シャフト選びが始まりました。

今回、シャフトを選ぶときに基準にしたのは、飛距離ではありません。

弾道の高さです。

低く打つ能力は、すでにお客様が持っています。

ならばクラブに求めるのは、その能力をさらに強くすることではありません。

反対側の余裕を作ることです。

つまり、

もっと高く打てるようにする。

高いところまで使えるようになれば、そこから必要な高さまで自分で下げることができます。

低い弾道しか打てないクラブよりも、

高くも打てる。

低くも打てる。

その方が、このお客様が持っている能力をより広い範囲で使うことができます。

候補は二つ

そこで、重量を確保しながら高さを出せる可能性のあるシャフトを考えました。

候補になったのが、

N.S.PRO MODUS³ TOUR 130

そして、

Project X LZ

です。

今回のお客様が希望する重量帯まで考えると、Project X LZが候補になりました。

さらに話を聞いてみると、以前にもProject X LZを使用したことがあるとのことでした。

これは試してみる価値があります。

実際に打っていただきました。

すると、

ぴったりとはまりました。

高さを出したら、飛距離も出た

面白いのはここからです。

Project X LZを試した目的は、飛距離を伸ばすことではありません。

あくまで、

弾道の高さを確保すること

でした。

ところが結果として、飛距離も伸びました。

しかも、曲がらない。

そして現在、BLUEPRINT Tの9番アイアンで150ヤード。

お客様からは、

「30代の頃の飛距離が戻った」

という言葉まで出てきました。

なぜ、高さを求めた結果として飛距離まで戻ったのでしょうか。

ここには、今回のフィッティングを考える上でもう一つ重要な要素があります。

シャフトです。

クラブの性能を引き出すのか、ゴルファーの能力を引き出すのか

クラブフィッティングというと、

「このヘッドは飛ぶ」

「このシャフトはつかまる」

「このシャフトは球が上がる」

といった、クラブそのものの性能を比較することが多いと思います。

もちろん、それも重要です。

しかし、今回のフィッティングで私が見ていたのは、少し違うものでした。

このお客様は、何ができるのか。

ボールを抑えることができる。

ダイナミックロフトを減らすことができる。

クラブを自分のタイミングでリリースすることができる。

そうした能力をすでに持っています。

ならば、クラブに求めるべきなのは、その代わりをすることではありません。

その能力を、もっと引き出すことです。

BLUEPRINT Tによって、自分のタイミングでクラブを動かせるようになった。

そして、そこへProject X LZによって高さを加えた。

低くする能力を持っている人に、さらに低くするクラブを渡したわけではありません。

低くできる人だからこそ、高さを与えたのです。

結果として、お客様が使える弾道の範囲が広がりました。

そして、その中で通常のショットを打ったとき、飛距離まで戻ってきた。

今回起きたことを考えると、

フィッティングとは、クラブの性能をゴルファーに使ってもらうことだけではない。

むしろ、

ゴルファーがすでに持っている能力を、クラブによって引き出すこと。

それがフィッティングの一つの役割なのではないかと思います。

ただ、まだ一つ疑問が残っています。

なぜProject X LZだったのでしょうか。

同じように重量のあるシャフトは他にもあります。

単純に「球が上がるシャフトだったから」というだけでは、今回の結果を十分に説明できません。

Project X LZという名前の「LZ」は、

Loading Zone

を意味します。

次回は、このLoading Zoneが何をしているのか。

そして、お客様のリリースとシャフトの動きがどのようにつながったのか。

Project X LZそのものを、もう少し詳しく見てみたいと思います。