店長が「シビア」という言葉を覚えたのは、漫画アクションに連載されていた『嗚呼!! 花の応援団』だったと思います。
たしか青田赤道が「厳しくいくよ〜」というような意味合いで使っていた記憶があります。
それで思い出すのが、YMOの教授が『RYDEEN』の演奏前に、コマネチから「くぇーっ、くぇっ」をやっているところです。今見ても妙な勢いがあります。
こういう昭和の言葉や映像には、理屈では説明しにくい強さがあります。
そして、ゴルフクラブのフィッティングを長くやっていると、この「シビア」という言葉が実にしっくりくる場面があります。
それが、重心距離の長いアイアンのライ角です。
重心距離の長いアイアンは、ミスヒットには強い。
しかし、ライ角にはシビアです。
今回のフィッティングは、まさにそのような内容でした。
ご相談は、安さにつられてポチっと購入してしまったG440アイアンが、どうも上手く打てないというものです。
詳しくお話を聞くと、そのG440アイアンは、これまでお使いのPINGのカラーコードよりも1度フラットなライ角でした。
もちろん、1度です。
たった1度と言えば、たった1度です。
しかし、重心距離の長いアイアンにおいて、この1度は決して小さくありません。
特にG440アイアンのように、ヘッドが大きく、重心距離が長く、ミスヒットに強い設計のアイアンでは、ライ角のズレがスイング中の違和感や、インパクト時のフェース向きに出やすくなります。
しかも、装着されていたシャフトはDynamic Gold S200でした。
Dynamic Gold S200と聞くと、多くの方は「重い」「硬い」「ハード」という印象を持つかもしれません。
確かに、軽量シャフトに比べれば重量はあります。
また、手元調子のシャフトということで、一般的には「しっかりしている」「左に行きにくい」「叩ける」というイメージを持たれやすいシャフトです。
しかし、ここで注意しなければならないのは、手元調子という言葉の受け取り方です。
手元調子とは、シャフトの手元側に近いところからしなりを感じやすいということです。
つまり、プレーヤーの手元に近い部分からシャフトが曲がる。
これは見方を変えると、ヘッド側が大きく動きやすいということでもあります。
硬いシャフトだからヘッドが動かない、という単純な話ではありません。
むしろ、手元側からしなることで、ヘッドの位置や向きがプレーヤーのタイミングに対して遅れたり、戻りすぎたりすることがあります。
特に重心距離の長い大型ヘッドでは、このヘッドの動きがより大きな意味を持ちます。
ヘッドそのものが返りにくい。
そこに、手元側からしなるシャフトが組み合わさる。
さらに、ライ角がこれまでより1度フラットになっている。
この条件が重なると、プレーヤーにとっては「なぜか上手く当たらない」「右に出る」「つかまらない」「芯に当たっているようで結果が悪い」という状態になりやすくなります。
このお話をいただいた時点で、お客様のスイングのタイプを加味して、店長はおそらくカラーコードはグリーンだろうと思っていました。
そこで、店内にあるG440アイアンの試打ヘッドにDynamic Gold S200を装着し、ライボードでライ角をチェックしました。
結果は、やはりグリーン。
ソールのマークは、ほぼぴったりセンターにつきました。
この時点で、今回の問題はかなりはっきりしました。
購入されたG440アイアンは、これまでお使いのカラーコードより1度フラット。
しかし、実際にライボードで確認すると、必要だったのはグリーン。
つまり、クラブの性能が悪いのではなく、ライ角がプレーヤーに対して合っていなかったということです。
もし、これがi240のようなコンパクトなヘッドであれば、結果は少し違っていたかもしれません。
ヘッドが小さく、重心距離が短めで、プレーヤーがフェースを操作しやすいアイアンであれば、ブラック、あるいはブルーでも何とか打てた可能性があります。
しかし、G440アイアンはそうではありません。
G440アイアンは、ヘッドが大きく、重心距離が長く、ミスヒットへの寛容性を高めたアイアンです。
本来であれば、やさしいアイアンです。
ところが、ライ角が1度ズレると、そのやさしさとは反対に、まるで寛容性がまったくないかのような動きを見せることがあります。
ここが非常に面白いところです。
大型ヘッドのアイアンは、打点のズレには強い。
しかし、ライ角のズレには強くない。
むしろ、ヘッドが大きく、重心距離が長いからこそ、ライ角のズレがそのままクラブの挙動に表れやすいのだと思います。
今回のフィッティングは、通常のフィッティングとは少し違います。
本来であれば、プレーヤーの構え、スイング、インパクト、打点、弾道を見ながら、最適なヘッド、シャフト、ライ角を探していきます。
しかし今回は、すでに購入されたクラブがあり、そのクラブがなぜ上手く打てないのかを、ヘッド、シャフト、ライ角から逆算していく作業でした。
いわば、通常のフィッティングではなく、リバースエンジニアリングです。
「なぜ、このクラブは打てないのか」
そこから逆にたどっていくと、答えはライ角にありました。
そして、G440アイアンはその1度の違いを、非常にはっきりと見せてくれました。
PINGのフィッティングでは、基本的に最初にヘッドを決定します。
そして、いったんヘッドを決めたあとは、原則としてそのヘッドを大きく変更せずに、ライ角、シャフト、長さ、重量などを調整していきます。
これは、非常に理にかなった考え方だと思っています。
なぜなら、ヘッドが変わると、重心距離が変わるからです。
重心距離が変わるということは、シャフト軸に対してヘッドがどのように動こうとするか、プレーヤーの手元にどのような力が返ってくるか、インパクト時にフェースがどのように戻るかが変わるということです。
つまり、ヘッドを変えるということは、単に「顔」や「飛距離性能」を変えるだけではありません。
クラブ全体にかかる力の方向と大きさを変えてしまう、ということです。
その状態で、ライ角を見て、シャフトを替えて、またヘッドを替えて、さらにライ角を見直して……ということを繰り返すと、どこに問題があるのかが分からなくなります。
ヘッドが合っていないのか。
ライ角が合っていないのか。
シャフトが合っていないのか。
それとも、単にヘッドの重心距離が変わったことで、クラブの動きそのものが変わってしまったのか。
この判断が曖昧になります。
そうなると、フィッティングは答えに近づいているようで、実は永遠に答えにたどり着けない状態になります。
だからこそ、PINGのフィッティングでは、まずヘッドを決める。
そのヘッドの特性を前提にして、ライ角を合わせ、シャフトを合わせ、長さを合わせていく。
これは、フィッティングの変数を整理するための非常に重要な手順です。
今回のG440アイアンのケースでも、まさにそこがポイントでした。
G440アイアンというヘッドを使うのであれば、G440アイアンの重心距離、ヘッドサイズ、慣性モーメントを前提にしてライ角を合わせる必要があります。
i240ならブラックやブルーで成立したかもしれない。
しかし、G440ではグリーンが必要だった。
これは、プレーヤーが変わったからではありません。
ヘッドが変わったことで、クラブにかかる力のバランスが変わったからです。
つまり、カラーコードはプレーヤーだけで決まるものではありません。
ヘッドとの組み合わせによっても、実際の最適値は変わって見えることがあります。
ここを無視してしまうと、「前はこのカラーコードで打てたのに、なぜ今回は打てないのか」という問題が起きます。
その答えは、ヘッドの違いにあります。
特にG440アイアンのような重心距離の長い大型ヘッドでは、ライ角の1度が非常に大きな意味を持ちます。
安く購入できたアイアンが悪いわけではありません。
中古やネット購入が悪いわけでもありません。
しかし、そのクラブが自分に合っているかどうかは、また別の話です。
大型ヘッドでやさしいはずのアイアンなのに、なぜか打ちにくい。
ミスヒットに強いはずなのに、結果が安定しない。
スペック的には問題なさそうなのに、どうも気持ちよく振れない。
その原因が、実はライ角にあることがあります。
重心距離の長いアイアンは、ミスヒットには寛容です。
しかし、ライ角にはシビアです。
やさしいヘッドだから適当でよいのではありません。
やさしいヘッドだからこそ、正しく合わせた時に、その寛容性が初めて活きるのです。

