ハンターメイハン最終話 ゴルフは形を争うスポーツではない

ここまで、

ハンター・メイハンについて長く書いてきました。

このシリーズを書こうと思ったきっかけは、

PINGのProven Grounds Podcastで、

久しぶりにメイハンを見たことでした。

店長にとって、

ハンター・メイハンは、

かつて

「理想的なゴルフスイング」

の象徴のような選手でした。

クラブはプレーン上を動く。

トップはコンパクト。

身体と腕は同調する。

無駄な動きが少なく、

まるで教科書の完成形のように見えました。

だからこそ、

現在のメイハンの言葉は、

とても興味深く聞こえます。

彼が若い選手に伝えているのは、

自分と同じスイングを作りなさい、

ではありません。

むしろ、

「自分が本当に得意なものを見つけなさい。」

そして、

「それを理解し、磨き上げ、誰にも触らせるな。」

ということです。

その具体例として出てきたのが、

スコッティ・シェフラーでした。

シェフラーの足の動きは、

教科書的には決してきれいには見えません。

しかしメイハンは、

あの足の動きは、

彼のパワーの一部であり、彼自身の一部だ

と話します。

ここに、

このシリーズの最初のテーマがありました。

形を見るのか。

それとも、

その形を生み出している機能を見るのか。

ということです。

人間の身体は、

骨と関節で構成されたリンク機構です。

基本となる機能には共通するものがあっても、

骨格の長さや関節の向きは、

一人一人違います。

だから、

同じ機能を使っていても、

外から見える形まで、

全員同じになるはずはありません。

形は見えます。

だから教えやすい。

しかし、

一つの形を変えれば、

スイング全体の機構にも影響します。

だから、

「機能しているものには触るな」

というメイハンの言葉には、

大きな意味があるのだと思います。

ただし、

何でも自由でいいという話でもありません。

メイハンは、

高校生に高い基準を求めています。

準備する。

一球一球に目的を持つ。

自分でコントロールできることを、

きちんとやる。

そして、

Competeする。

前のミスを引きずらず、

次の一打に最善を尽くす。

そこには、

高い基準を求めていい。

個性を尊重することと、要求水準を下げることは違う。

ということです。

そして、

メイハンは、

「80をどうやって77にするのか」

という話もしています。

77を74、73にするのは、

スイング改造ではなく、

18ホールの中の、

たった1回か2回の判断かもしれない。

これは、

とてもゴルフらしい話です。

スコアが悪いと、

私たちはすぐにスイングを疑います。

しかし、

本当に直すべきなのは、

そのショットを選んだ判断だったかもしれない。

自分にできないショットを選んだことかもしれない。

あるいは、

前のミスを次の一打へ持ち込んだことかもしれません。

だから、

スイングがきれいになることと、ゴルフが上手くなることは同じではない。

のだと思います。

2010年のライダーカップで、

メイハンは極限のプレッシャーの中で、

あのアプローチを打ちました。

世界でもトップクラスの選手で、

誰もが手本にしたようなスイングを持っていた選手です。

それでも、

一打のミスは起きます。

だからこそ、

自分のゴルフを知る必要がある。

何が得意なのか。

何ならプレッシャーの中でも再現できるのか。

そのうえで、

一つのショットを選ぶ。

考えるときは考える。

決めたら、

打つ。

前のショットを引きずらない。

そして、

目の前の一打をCompeteする。

こうして振り返ると、

一見別々に見えたメイハンの話は、

全部同じところへ向かっていたように思います。

自分の得意なものを知る。

機能しているものを壊さない。

自分にできるショットを選ぶ。

決断したら迷わない。

そして、

一打一打に最善を尽くす。

店長には、

これが現在のハンター・メイハンが考えている、

「ゴルフが上手くなる」

ということなのではないかと思います。

かつて、

誰よりも「きれいなスイング」の象徴だったハンター・メイハン。

その彼が現在、

若い選手たちに伝えているのが、

自分と同じ形にしなさい、

ではなく、

「自分が本当に得意なものを見つけなさい。」

だったこと。

店長には、

そこにこのシリーズの答えがあるように思います。

ゴルフは、

形を競うスポーツではありません。

最後に問われるのは、

その人が持っているものを使って、目の前の一打をどう打つか。

です。

その一打、一打を積み重ねて、

できるだけ少ない打数で18ホールを終える。

結局、

ゴルフとは、

そこへ戻ってくるのだと思います。

長いシリーズになりましたが、

ハンター・メイハンについては、

これで一度終わりたいと思います。

ハンター・メイハン第10話 どこまで選手に要求してよいのか?

前回は、

考えるときは考える。
打つときは打つ。

という話をしました。

ハンター・メイハンがタイガー・ウッズについて語った、

必要なだけ考える。しかしクラブを持ったら速い。

という話。

そしてVISION54の、

Think BoxとPlay Box。

さらに、

一度に二つのことへ意識を集中させない、

というメンタルマネジメントの考え方。

これらは、

ゴルフを教えるうえでも非常に重要な考え方だと思います。

では、

実際に選手を指導するとき、

コーチはどこまで要求していいのでしょうか。

これは、

ジュニアや高校生を教えていると、

必ず出てくる問題です。

厳しく言いすぎてはいけない。

楽しくゴルフをしてほしい。

まだ子供なのだから、

プロと同じことを求めてはいけない。

そう考えるのは自然です。

ハンター・メイハンも、

高校生のチームを指導し始めたとき、

同じようなことを考えていたようです。 “ハンター・メイハン第10話 どこまで選手に要求してよいのか?” の続きを読む

ハンター・メイハン 第9話 考えるのは打つ前まで

前回は、

ルーティンは毎回同じでなければならないのか。

という話をしました。

ハンター・メイハンがタイガー・ウッズについて語っていたのは、

毎回同じ秒数で打つことではありませんでした。

タイガーは、

必要なら考える。

長く考えることもある。

そして、

自分が納得できるところまで時間を使う。 “ハンター・メイハン 第9話 考えるのは打つ前まで” の続きを読む

ハンター・メイハン 第8話 ルーチンは毎回同じでなければならないか?

前回は、ハンター・メイハンが高校生に伝えている、

Compete――一打一打を競争する

という言葉について書きました。

前のショットを引きずらない。

未来の結果を考えない。

今、目の前にある一打に集中する。

では、その一打に入るために、プロは何をしているのでしょうか。

そこでメイハンが話していたのが、

タイガー・ウッズのプリショットルーティン

です。

一般的にプリショットルーティンというと、

毎回同じ場所に立つ。

同じ回数素振りをする。

同じタイミングでアドレスに入る。

そして、

同じ秒数で打つ。

そんなイメージがあると思います。

店長も、

「ルーティンとは、毎回同じことをするもの」

という説明を何度も聞いてきました。

しかし、

メイハンが実際にタイガーとプレーして感じていたものは、少し違いました。

メイハンは、

タイガーのプレーには素晴らしいcadence――間とリズムがあったと話しています。

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ハンター・メイハン 第7話 Compete 1打1打を競争する

前回は、2010年ライダーカップでのハンター・メイハンの一打について考えました。

極限のプレッシャーの中で、

何を打つのか。

自分が最も再現できるショットは何なのか。

そして、

自分の持っているメカニズムと、選択したショットが一致しているのか。

という話です。

しかし、現在高校生を指導しているメイハンが、選手たちに最も強く伝えている言葉は、もっとシンプルなものでした。

それが、

Compete

です。

日本語にすれば、

「競争する」

でしょうか。

PINGのPodcastで、マッチプレーの話になったとき、メイハンは高校生のチームを指導し始めた頃のことを話しています。

「このチームは何を大切にするのか」

「何を自分たちの言葉にするのか」

と考えたとき、

頭に浮かび続けたのが、

Compete

という言葉だったそうです。

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ハンター・メイハン 第6話 2010年ライダーカップのあの一打

ここまで何度か触れてきた、

2010年ライダーカップ。

そろそろ、あの一打について書かなければならないと思います。

できれば、この話には触れたくありませんでした。

なぜなら、一つのミスショットだけを取り上げて選手を評価することは、店長は好きではないからです。

ましてや、その選手はハンター・メイハンです。

世界でもトップクラスの選手として戦い、PGAツアーで何度も優勝し、ライダーカップ、プレジデンツカップにも出場した選手です。

しかし、現在のメイハンが語っている、

「自分が本当に得意なものを見つけ、それを守れ」

という言葉を考えると、

どうしても2010年のライダーカップを避けて通ることができません。

舞台はウェールズのセルティック・マナー。

アメリカとヨーロッパの勝敗は、最後のシングルスマッチまで持ち越されました。

その最後の一組が、

グレーム・マクドウェル対ハンター・メイハン。

16番でマクドウェルが大きなバーディーパットを決めます。

これでメイハンは2ダウン。

残りは17番と18番の2ホール。

つまり、17番を落とせば、その時点でライダーカップが決まります。

17番はパー3。

メイハンのティーショットはグリーンに届かず、手前に止まりました。

報道では、グリーン手前およそ15ヤードほどからのアプローチだったとされています。

そして、そこで起きたのが、

多くのゴルフファンの記憶に残っている、あのショットです。

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ハンター・メイハン 第5話 自分のメカニズムにあったショットを選ぶ

前回は、

ゴルフは、ショットを打つ前の判断から始まっている

という話をしました。

残り距離だけを見てクラブを選ぶのではなく、

ライ。

風。

傾斜。

グリーンの形。

外してはいけない場所。

そして、

今の自分が、そのショットをどのくらい再現できるのか。

そこまで含めて考える必要があります。

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ハンター・メイハン 第4話 80を77にすること

前回は、

スイングは形の集合ではなく、一つにつながった機構である

という話をしました。

ハンター・メイハンがスコッティ・シェフラーの足の動きを簡単に直そうとしないのも、

その部分だけを切り取って見ているのではなく、

その動きがスイング全体の中で何をしているのか

を見ているからではないか、という話です。 “ハンター・メイハン 第4話 80を77にすること” の続きを読む

プロの本当の凄さは、どこにあるのか

金沢ゴルフ協会のジュニア教室の木曜練習会の横で、「北陸のドラえもん」こと中村忠夫プロがレッスンをされています。

よく、子供たちのところにも遊びに来てくれるだけでなく、時折、ジュニアのラウンドにも付き添ってくださっています。

ツアー優勝経験を持つプロが、自分たちのラウンドを見てくれる。

考えてみれば、何とも恵まれた環境です。

先日も中村プロに顔を出していただいたので、ジュニアたちに聞いてみました。

「中村プロのどの部分が参考になった?」

すると返ってきた答えは、

「飛距離がすごいんですよ。」

でした。

私は思わず、

「えっ、そこなの?」

と言ってしまいました。

もちろんプロですから飛距離も出ます。

しかし、一番自分たちと違うところは、そこではないのではないか。

中村プロは、子供たちが無理な攻め方をしたり、難しいアプローチを選択したりすると、

「プロはそんなことしないよ」

と教えてくださっているそうです。

そこで私はジュニアたちに、

「中村プロって、30ヤード以内まで来たら、そこからほとんど2打で終わっていることに気づいていない?」

と聞きました。

すると中村プロは、それを肯定しながら、こうおっしゃいました。

「そうなんだけど、杉原輝雄プロはそれが50ヤードだったのよ。」

この一言は非常に印象的でした。

ツアー優勝経験を持つ中村プロにとって、30ヤード以内はかなり高い確率で2打で終われる領域。

ところが杉原輝雄プロになると、その領域が50ヤードまで広がっていたというのです。

さらに私は以前、先生の木場本弘治元日本体育大学ゴルフ部監督から、

「デビッド・デュバルは90ヤード以内なら3ヤード刻みで距離を打ち分けることができた」

と聞いたことがあります。

デュバルは実際に世界ランキング1位まで上り詰めた選手です。

もちろん、

30ヤードならツアー優勝できる。

50ヤードならトッププロになれる。

90ヤードなら世界一になれる。

そんな単純な公式があるわけではありません。

しかし、この三つの話を並べてみると、プロゴルファーの「上手さ」を見る一つの物差しが見えてくるように思います。

30ヤード以内を2打で終えられるツアープロ。

その領域が50ヤードまで広がるトッププロ。

そして90ヤード以内を数ヤード単位で管理する世界トップレベル。

つまり、レベルが上がるほど、

「ここまで運べば、あとは大きなミスをせずにホールアウトできる」

という領域が広く、そして細かくなっていくのではないでしょうか。

飛距離は分かりやすいものです。

一球見れば、

「すごい。」

と分かります。

しかし、本当に上手いゴルファーの凄さは、一球ではなかなか分かりません。

18ホール一緒に回って初めて、

「グリーンを外しているのにボギーにならない。」

「30ヤード以内に来たら、いつも2打で終わっている。」

と気づきます。

そこに、ツアープロとアマチュアの大きな違いがあります。

だからジュニアたちには、中村プロの飛距離だけを見てほしくありません。

どういう場所からピンを狙うのか。

どこでは無理をしないのか。

どんなアプローチを選択するのか。

そして、グリーンを外した後に何打でホールアウトしているのか。

せっかくツアー優勝経験のあるプロが一緒に回ってくれているのです。

プロの球を見るだけではなく、プロがどうやってスコアを作っているのかを見る。

それができるようになれば、この恵まれた環境から学べるものは、さらに大きくなると思います。

見えないものを見る 第4話 ロフトが増えると、なぜスピンアクシスは傾きにくくなるのか

第3話では、ロフトが大きくなるほど、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなる可能性を考えました。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。

一方、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。

その結果、ボールを左右へ向けるz軸まわりのトルクも小さくなりやすい。

これが、ロフトが増えるほど直進性が高くなる一つ目の理由でした。

しかし、ロフトが大きいクラブの直進性には、もう一つ重要な理由があります。

それが、スピンアクシスです。

ボールは「バックスピン」と「サイドスピン」に分かれて回っているわけではない

ゴルフでは、よく、

  • バックスピン
  • サイドスピン

という言葉が使われます。

しかし、実際のボールが二つの別々の回転をしているわけではありません。

ボールは、一つの軸を中心に回転しています。

その軸が地面に対して水平に近ければ、回転はほぼ純粋なバックスピンになります。

一方、その軸が左右へ傾けば、ボールには横方向の空力が加わり、弾道が曲がります。

つまり、ボールの曲がりを考えるときに重要なのは、

横回転が何回転あるか

というより、

ボールの回転軸がどれだけ傾いているか

です。

この回転軸を、スピンアクシスと呼びます。

スピンアクシスは、回転成分の比で決まる

ボールの回転を単純化して考えると、

  • バックスピン方向の成分
  • 横方向の回転成分

に分けることができます。

スピンアクシスの傾きは、概念的には、この二つの比で決まります。

バックスピン成分を (\omega_{\text{back}})。

横方向の回転成分を (\omega_{\text{side}})。

スピンアクシスの傾きを (\theta) とすれば、

\tan^{-1}
\left(
\frac{\omega_{\text{side}}}
{\omega_{\text{back}}}
\right)
]

と表せます。

ここで重要なのは、スピンアクシスの傾きは、横方向の回転成分だけでは決まらないことです。

同じ横方向の回転成分が存在していても、バックスピン成分が大きければ、軸の傾きは小さくなります。

逆に、バックスピン成分が小さければ、少しの横方向成分でも、軸は大きく傾きます。

同じ500回転でも、意味は同じではない

たとえば、横方向の回転成分が500rpmだったとします。

バックスピンが2,000rpmなら、

となり、スピンアクシスの傾きは約14度です。

一方、バックスピンが5,000rpmなら、

となり、傾きは約6度です。

さらに、バックスピンが8,000rpmなら、傾きは約4度まで小さくなります。

横方向の回転成分は、すべて同じ500rpmです。

しかし、バックスピン量が違うだけで、スピンアクシスの傾きは大きく変わります。

つまり、

横方向の回転が同じ量だけ生じても、総スピンの中で占める割合が違えば、ボールの曲がり方は同じではない

ということです。

ロフトが大きいほど、バックスピン成分が強くなる

一般に、ロフトが大きいクラブほど、ボールには大きなバックスピン成分が与えられます。

もちろん、実際のスピン量は、

  • ボールスピード
  • ダイナミックロフト
  • アタックアングル
  • 打点
  • ボールカバー
  • フェースとボールの摩擦状態

によって変化します。

しかし、ほかの条件が大きく変わらなければ、ロフトの大きいクラブほど、回転ベクトルのうちバックスピン方向の成分は大きくなります。

そのため、同じ大きさの横方向成分が生じても、スピンアクシスは傾きにくくなります。

低ロフトのドライバーでは、総スピン量が少ないため、少しの横方向成分でも、スピンアクシスは大きく傾きます。

一方、ロフトの大きいアイアンやウェッジでは、バックスピン成分が大きいため、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きは小さくなります。

これが、高ロフトクラブほど曲がりにくく見える理由の一つです。

直進性には二つの段階がある

ここまでの話を整理すると、ロフトが大きくなることで直進性が上がる理由は、二段階あります。

一つ目は、インパクト時の問題です。

ロフトが大きくなると、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなります。

その結果、左右方向へ回そうとする作用腕が短くなり、z軸まわりのトルクが小さくなりやすい。

つまり、

そもそも横方向の回転成分を生みにくくなる

ということです。

二つ目は、ボールが飛び出した後の問題です。

仮に横方向の回転成分が生じても、ロフトが大きいクラブでは、バックスピン成分が大きくなります。

そのため、横方向成分の割合が小さくなり、スピンアクシスの傾きも小さくなります。

つまり、

生じた横方向成分が、弾道の曲がりとして現れにくくなる

ということです。

高ロフトクラブは、

  • 横方向の回転を作りにくい
  • 作られた横方向の回転も、軸の傾きとして現れにくい

という二重の構造を持っています。

ドライバーとウェッジでは、同じフェース誤差でも結果が違う

たとえば、ドライバーとウェッジで、フェースとパスの関係に同じ大きさの誤差があったとします。

クラブ側の角度差だけを見れば、同じ誤差です。

しかし、ボール側では結果が異なります。

ドライバーでは、

  • ロフトが小さい
  • 左右方向のコンタクト偏位が大きくなりやすい
  • 総スピン量が少ない
  • 横方向成分の割合が大きくなりやすい
  • スピンアクシスが大きく傾きやすい

という条件が重なります。

一方、ウェッジでは、

  • ロフトが大きい
  • 左右方向のコンタクト偏位が小さくなりやすい
  • バックスピン成分が大きい
  • 横方向成分の割合が小さい
  • スピンアクシスが傾きにくい

という条件になります。

つまり、同じクラブ側の角度誤差でも、

ボールにとっての意味は同じではない

ということです。

ここでも、見えている角度だけで現象を判断することの限界が見えてきます。

スピンアクシスは原因ではなく、結果である

弾道計測器には、スピンアクシスが何度傾いたか表示されます。

しかし、スピンアクシスがボールを曲げた原因なのでしょうか。

より正確には、スピンアクシスは、

  • ボールのどこに力が加わったか
  • どの方向のトルクが生じたか
  • バックスピン方向と横方向へ、どのように角運動量が配分されたか

というインパクトの結果です。

つまり、スピンアクシスは、原因そのものではありません。

ボールが受け取った回転ベクトルを、飛び出した後に表したものです。

この違いは重要です。

一般的な説明では、

フェースとパスの差があるから、スピンアクシスが傾いた

とされます。

実用的には、それで弾道を予測できます。

しかし、実際にボールが受けたのは角度差ではありません。

ボールは、フェース角やクラブパスという数字を読み取って回転したのではありません。

ボールのある位置へ、ある方向の力が加わり、その結果として角運動量を受け取りました。

フェースとパスの差は、その接触状態を作るクラブ側の条件です。

スピンアクシスは、そこから生まれたボール側の出力です。

総スピン量だけを見ても、曲がりは分からない

ゴルフでは、スピン量が多い、少ないという話がよくされます。

しかし、総スピン量だけでは、ボールがどれだけ曲がるかは分かりません。

たとえば、総スピンが6,000rpmでも、その軸がほぼ水平なら、弾道は大きく曲がりません。

反対に、総スピンが2,000rpmでも、軸が大きく傾けば、ボールは大きく曲がる可能性があります。

重要なのは、総量だけではなく、

どの方向の回転として配分されたか

です。

スピン量は角運動量の大きさ。

スピンアクシスは、その角運動量の向き。

この二つを合わせて初めて、ボールの空中での動きを考えることができます。

高ロフトクラブの方向性を、ボール側から見る

一般には、ショートアイアンやウェッジの方向性がよい理由として、

  • シャフトが短い
  • スイングが小さい
  • ヘッドスピードが遅い
  • フェース管理がしやすい

と説明されます。

もちろん、これらも重要です。

しかし、ボール側から見ると、さらに二つの理由が加わります。

第一に、ロフトが大きくなることで、同じフェース開度でも、左右方向のコンタクト偏位が小さくなること。

第二に、バックスピン成分が増えることで、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きが小さくなること。

つまり、高ロフトクラブは、

インパクト時にも、飛球中にも、左右方向の誤差が拡大しにくい

という構造を持っている可能性があります。

直進性とは、曲がらないことだけではない

ここでいう直進性とは、単に空中でボールが曲がらないことだけではありません。

  • 初期方向が大きくずれない
  • スピンアクシスが大きく傾かない
  • 横方向の空力が小さい
  • 狙った範囲に着弾しやすい

という一連の安定性です。

ロフトが大きいクラブでは、

まず、コンタクトポイントの左右方向の偏位が小さくなり、初期方向への影響が抑えられる。

さらに、バックスピン成分が大きくなることで、スピンアクシスの傾きも抑えられる。

その結果、打ち出しから着弾まで、左右方向への誤差が拡大しにくくなります。

見えるスピンと、見えない力の配分

弾道計測器には、

  • 総スピン量
  • スピンアクシス
  • 曲がり幅

が表示されます。

しかし、それらはすべて、インパクト後にボールへ残った結果です。

その前に、

  • ボールのどこへ接触したのか
  • どの方向へ力が加わったのか
  • どの方向の角運動量が作られたのか
  • バックスピン成分と横方向成分へ、どのように配分されたのか

という見えない過程があります。

スピンアクシスを見るということは、単に結果の角度を見ることではありません。

その角度の背後で、ボールがどのような力を受け取ったのかを考えることです。

次回は、ロフトというフェース姿勢だけでなく、クラブヘッドの進入方向、つまりアタックアングルが変わると、ボール側の実効コンタクト位置と方向性がどのように変化するのかを考えます。

プロがピンを狙う場面で、なぜダウンブローを強めることがあるのか。

その理由を、スピン量だけではなく、ボール重心に対する作用点とトルクから見直していきます。