ここまで、
「ダイナミックでいこう」
というタイトルで、ゴルフクラブとスイングを少し違った角度から考えてきました。
最初のきっかけは、
ウェッジのライ角を、アイアンの流れより2度ほどフラットにすると統一感が出る
という話でした。
スタティックに考えれば、
ライ角をフラットにするとフェースは相対的に右を向く。
それで説明は終わります。
しかし実際には、
ライ角を変えると手元の位置が変わり、
腕の位置が変わり、
人間とクラブの慣性関係が変わり、
時間差が変わり、
クラブパスやフェースの動きまで変わる可能性があります。
つまり、
止まっているクラブだけを見ても、動いているクラブのすべては説明できない。
そこから、このシリーズは始まりました。
人間とクラブは別々ではない
フィッティングでは、
クラブはクラブ。
人間は人間。
として考えがちです。
しかし、スイング中には両者はつながっています。
手。
腕。
肩。
上体。
骨盤。
脚。
そしてクラブ。
すべてがひとつの運動系として動いています。
つまり、
人間 ↔ クラブ
です。
人間がクラブを動かすだけではありません。
クラブの長さ。
重量。
ライ角。
シャフト重量。
剛性。
重心位置。
それらもまた、人間の動きを変えています。
フィッティングとは、
クラブの数字を合わせることではなく、
人間とクラブの関係を合わせること
なのだと思います。
支点が変われば、同じクラブでも違う
このシリーズでは、支点についても考えました。
円運動では、
支点から接点へ引いた半径と、
その接点での接線は90度で交わります。
その接線方向がターゲットに向けば、
クラブヘッドの進行方向もターゲットへ整いやすくなります。
ここで重要なのは、
スタンスがどちらを向いているかではありません。
力がどちらへ向いているか。
そして、
その力を作る支点がどこにあるか。
です。
ホーガンのスタンス図に補助線を入れてみると、
ショートアイアンでは小さかった扇形が、
長いクラブになるほど大きく開いていきます。
これは、
クラブが長くなるほど大きくなる慣性と、
必要な回転量の増加が一致しているように見えました。
ホーガンが変えていたのは、
単なるスタンスの向きではなく、
クラブの慣性に合わせた人体側の初期条件
だったのかもしれません。

ここまでの話を一枚にまとめると、こうなります。
スタティックな数字だけを見るのではなく、
人間とクラブをひとつの運動系として捉え、
支点。
慣性。
力の方向。
時間差。
そしてリンク機構。
そこまで含めて考える。
これが、このシリーズでいう
「ダイナミック」
です。
クラブの進化はスイングも変えた
クラブ、特にシャフトの進化は、
ゴルフスイングそのものに変化を起こした。
そう言ってもいいのではないでしょうか。
昔に比べると、
現在はウッド用シャフトだけでなく、
アイアン用シャフトもかなり軽量化されています。
クラブ全体の慣性が小さくなれば、
以前ほど大きな力を使わなくても、
クラブを加速しやすくなります。
すると、
身体全体を使ってクラブを動かすスインガー的な動きだけでなく、
腕や手元を使うヒッター的な動きも成立しやすくなります。
店長の感覚では、
こうしたクラブの変化とともに、
ヒッター的なスイングをするゴルファーが増え、
ゴルフの低年齢化も進んだように感じています。
女子ゴルファーの飛距離が伸びていることも、
同じように考えることができます。
クラブの慣性が小さくなったことで、
同じ身体のエネルギーでも、以前よりクラブを加速しやすくなった。
これが飛距離向上のひとつの要因になっているのではないでしょうか。
昔のクラブと現代クラブでは慣性が違う
前にも簡単な計算をしました。
現代のドライバーを、
45インチ。
ヘッド203g。
シャフト65g。
として、
クラブを
「先端にヘッドが付いた棒」
として単純化します。
概算式は、
です。
すると、
現代ドライバーの慣性モーメントは、
程度になります。
一方、
昔のウッドをイメージして、
43.5インチ。
ヘッド210g。
スチールシャフト130g。
とすると、
程度になります。
昔のウッドの方が短いのに、
慣性はむしろ大きい。
ここが重要です。
現代のドライバーは長い。
しかし、
シャフトが軽い。
昔のウッドは短い。
しかし、
シャフトそのものが重い。
つまり、
昔はヘッドだけではなく、
クラブ全体の棒そのものが大きな慣性を持っていた
わけです。
だからこそ、
ホーガンのように、
クラブが長くなるほどスタンスをクローズにし、
回転量をあらかじめ確保するような補正が必要だったのかもしれません。
ここで「力」について、もう一度整理する
ここまで、
右から左へ力が向く、
という表現を使ってきました。
しかし、
ここでひとつ注意しておきたいことがあります。
この「右から左への力」は、
身体全体を右から左へ大きくスライドさせる、
という意味ではありません。
つまり、
「左へ動く」と「左へ力を出す」は同じではありません。
身体全体の重心移動と、
クラブへ伝わる力の方向は、
別のものです。
左股関節付近を支点として身体が回転しているなら、
身体全体の重心が大きく左へ移動していなくても、
リンク機構を通して、
手元やクラブへ左方向の力成分を作ることはできます。
ここで見ているのは、
移動量ではありません。
力のベクトル
です。
ですから、
右から左へ矢印を描いたとしても、
それは体重移動の量を示しているわけではありません。
支点を保ちながら回転する人体の中で、
クラブへどの方向に力が伝わっているか
を示しています。
Linear Force=体重移動ではない
この違いをはっきりさせると、
Geometrically Oriented Linear Force
という言葉も見え方が変わります。
Linear Forceというと、
身体を一直線に左へ動かすような印象を持つかもしれません。
しかし、
重要なのは、
幾何学的に方向づけられた力
です。
身体が大きくスライドする必要はありません。
支点が安定していれば、
円運動の中でも、
接線方向へ有効な力を作ることができます。
むしろ、
大きくスライドしてしまえば、
支点そのものが動き、
接線の向きも変わってしまいます。
今回の話で大切なのは、
支点を保つことと、力の方向を揃えること
です。
現代のフィッティングは選択肢が増えた
そして、
もうひとつ大きく変わったのがフィッティングです。
昔に比べると、
シャフト重量。
硬さ。
クラブ長。
ヘッド特性。
それぞれの選択肢がかなり増えています。
特にPINGのシャフトラインナップを見ると、
軽量帯から重量帯まで、
かなりきれいに揃えられています。
そのため、
「この人には軽すぎる」
「この人には重すぎる」
という極端なズレが起きにくくなり、
多くのゴルファーに対して、
かなり近いところまで合わせることができます。
つまり現代のフィッティングでは、
人間がクラブに合わせる割合が減り、クラブを人間に合わせやすくなった
と言えます。
これは非常に大きな変化です。
一方でヘッドは逆方向へ進化した
シャフトは軽くなりました。
つまり、
クラブ全体としては動かしやすくなった。
ところがヘッド側では、
慣性モーメントを大きくする方向へ進化しています。
ヘッドを大型化し、
重心を深くし、
左右・上下への質量配分を広げる。
これによって、
オフセンターヒットでもフェースがぶれにくくなり、
エネルギーロスを小さくできるようになりました。
さらに、
重心位置やフェース設計の進化によって、
打ち出し角とスピン量も最適化しやすくなっています。
つまり現代クラブは、
クラブ全体は動かしやすくし、
ヘッド単体は慣性モーメントを大きくして安定させる。
という、
少し逆方向の進化を同時に進めてきたことになります。
昔のクラブは、
動かすことそのものが難しかった。
現代のクラブは、
動かしやすく、
しかもミスにも強い。
だからこそ、
スイングの幅も広がり、
フィッティングの幅も広がった。
そう考えることができます。
ただし、スインガーとヒッターでは見るものが違う
ここで最後に、
スインガーとヒッターについて整理してみます。
スインガースイングでは、
身体で生み出した力が、
リンク機構を通して回転運動へ変換されます。
回転力がかかるのは、
クラブだけではありません。
身体。
腕。
手元。
クラブ。
それらを含めた、
回転系全体
です。
だから、
スインガーにとって重要になるのは、
運動系全体の慣性
です。
どれだけ大きな慣性を持った系を、
身体のエネルギーで動かしているのか。
ここが大きなポイントになります。
一方、
ヒッター系では少し違います。
ヒッターは、
手元からクラブへ直接的に力を加え、
クラブそのものを回転させようとします。
この場合、
クラブ重量や慣性だけでは足りません。
手元から加えた力によって、
シャフトは曲がります。
そして、
その曲がったシャフトが、
どのタイミングで戻ってくるのか。
ここまで考える必要があります。
つまり、
スインガーでは慣性が大きな要素。
ヒッターでは慣性に加えて、シャフトの変形と復元タイミングまで重要になる。
フィッティングで見るべき要素が、
少しだけ複雑になります。
同じ重量。
同じ硬さ。
同じ長さ。
それだけでは、
同じ結果にはなりません。
ダイナミックとは何だったのか
このシリーズを始めたとき、
「ダイナミック」という言葉は、
力強い。
大胆な。
そんなイメージを持つ言葉だと書きました。
しかし本来の意味は、
動的
です。
止まっているものではなく、
動いているものを考える。
ゴルフクラブも、
人間も、
止まってはいません。
だから、
静的な数字だけで、
すべてを説明することはできません。
ライ角。
シャフト重量。
クラブ長。
重心。
慣性。
支点。
力の方向。
時間差。
それらがすべてつながって、
ひとつのスイングになります。
そして、
クラブもスイングもこれだけ多様化した現在では、
それぞれの要素を一度きちんと
因数分解して考えること
が必要なのだと思います。
何がクラブ側の要素なのか。
何が人間側の要素なのか。
何が慣性によって起きているのか。
何が身体のリンク機構によって起きているのか。
何が時間差によって起きているのか。
そして、
そのゴルファーのスイング全体を、どの因数を使って構築すればよいのか。
これは、
フィッティングだけの話ではありません。
レッスンでも同じです。
肩が何度回っている。
手首が何度曲がっている。
ライ角が何度。
シャフトフレックスが何。
もちろん、
それぞれの数字には意味があります。
しかし、
その数字ひとつだけを取り出しても、
動いているゴルファー全体を説明することはできません。
大切なのは、
それぞれの因数が、他の因数とどのようにつながっているのかを見ること。
そして、
どの因数を変えれば、
運動全体がどう変わるのかを考えることです。
これが、
スイングを見ることでもあり、
フィッティングをすることでもあるのだと思います。
そして最後に、
このシリーズで一番伝えたかったことをひとつだけ書くなら、
これです。
同じ数字に揃えることが、統一感ではない。
同じように動けることが、統一感なのだと思います。
スタティックに見るとバラバラでも、
ダイナミックに見ると揃っている。
ゴルフクラブも、
スイングも、
フィッティングも、
そんな見方ができるのではないでしょうか。
これで、
「ダイナミックでいこう」
は一度終わりにしたいと思います。



