前回は、ホーガンのスタンス図に補助線を入れ、
接線は力の方向、支点から広がる扇形は回転量
として考えてみました。
そして、長いクラブほど扇形が大きく開いていることから、
クラブの慣性が大きくなるほど、人体側でもより大きな回転量を準備していたのではないか
という仮説を立てました。
では、ホーガンの時代と現代では、クラブの慣性はどれくらい違うのでしょうか。
まず、現代のドライバー
現代的なドライバーを、
45インチ
ヘッド203g
シャフト65g
として単純化してみます。
慣性モーメントは、

という近似式で考えます。
すると、およそ

になります。
次に、ホーガン時代をイメージして、
43.5インチ
ヘッド210g
スチールシャフト130g
とします。
同じように計算すると、

程度になります。
驚くのは、
昔のウッドの方が短いのに、慣性はむしろ大きい
ということです。
現代のドライバーは長い。
しかしシャフトが軽い。
昔のウッドは短い。
しかしシャフトそのものが重い。
つまり、当時はヘッドだけでなく、
クラブ全体の棒そのものが大きな慣性を持っていた
わけです。
アイアンと比べても、昔のウッドは別物だった
130gシャフトを入れた現代アイアンを同じ方法で概算すると、
4番アイアン 約0.280
7番アイアン 約0.277
PW 約0.272
kg・m²程度です。
そこに、
現代Driver 約0.294
昔のSteel Wood 約0.309
を並べると、
現代クラブでは番手間の慣性差がかなり小さく、
昔のウッドだけが明確に大きかったことが見えてきます。
つまり、
昔はクラブ側の慣性差が大きかった。
だから、人間側でそれを補正する必要も大きかった。
その補正のひとつが、
ホーガンのスタンスだったのではないでしょうか。
長いクラブほど、なぜクローズなのか
ホーガンのスタンス図では、
ショートアイアンではオープン。
長くなるにつれてスクエアに近づき、
ウッドではクローズになります。
これを単なる「構え方の違い」として見ると、
クラブごとに違うスイングをしているように見えます。
しかし、慣性差を補正していたと考えると意味が変わります。
長いクラブほど慣性が大きい。
その分、切り返しからインパクトまでに必要な回転量も大きくなる。
だから、
最初から人体側の配置を変えておく。
スイング中に帳尻を合わせるのではなく、
アドレスの段階で準備しておく。
そう考えると、
クローズスタンスは目的ではありません。
同じ方向へ力を出すためのプリセット
だった可能性があります。
ここで「力」について、ひとつ整理しておきます
ここまで「右から左へ力が向く」と書くと、
大きな体重移動をイメージする方もいるかもしれません。
しかし、ここで言っているのは、
身体全体を右から左へ大きくスライドさせることではありません。
大切なのは、
身体重心の移動方向
と
クラブへ伝わる力の方向
は同じではない、
ということです。
例えば左股関節付近を支点として身体が回転している場合、
身体全体の重心が大きく左へ移動していなくても、
リンク機構を通して、
手元やクラブへ左方向の力成分を作ることはできます。
つまり、
「左へ動く」と「左へ力を出す」は同じではありません。
ここで見ているのは、
移動量ではなく、
力のベクトル
です。
ですから、右から左へ矢印を描いたとしても、
それは「体重移動の量」を示しているのではありません。
支点を保ちながら回転する人体の中で、
クラブへどの方向に力が伝わっているか
を示していると考えてください。
Linear Force=体重移動ではない
この違いをはっきりさせると、
Geometrically Oriented Linear Force
という言葉も見え方が変わります。
Linear Forceというと、
身体を一直線に左へ動かすような印象を持つかもしれません。
しかし、重要なのは、
幾何学的に方向づけられた力
です。
身体が大きくスライドする必要はありません。
支点が安定していれば、
円運動の中でも、
接線方向へ有効な力を作ることができます。
むしろ、
大きくスライドしてしまえば、
支点そのものが動き、
接線の向きも変わってしまいます。
今回の話で大切なのは、
支点を保つことと、力の方向を揃えること
です。
現代クラブは、ホーガンの補正を必要としなくなったのか
ここで現代クラブに戻ります。
45インチのドライバーでも、
65g程度の軽量シャフトを使うことで、
慣性は約0.294kg・m²。
130gアイアンとの差は、思ったほど大きくありません。
つまり現代クラブは、
クラブ設計そのものによって、
番手間の慣性差をかなり小さくしています。
昔は、
クラブ側で揃えられなかった差を、
人間側のスタンスで補正していた。
現代では、
その一部をクラブ設計側が引き受けている。
そう考えることができます。
だとすれば、
現代のゴルファーが、
ホーガンと同じだけスタンスを大きく変える必要はないのかもしれません。
しかし、
考え方そのものは今でも使えます。
形を揃えるのではなく、力の方向を揃える。
クラブの数字を揃えるのではなく、動いたときの反応を揃える。
この考え方です。
そしてここで、
もう一度ウェッジの話が戻ってきます。
なぜ、
アイアンの流れから2度フラットにすることで、
かえって統一感が出るのか。
それは、
見た目の数字を揃えるためではなく、
人間とクラブの動的な反応を揃えるため
なのかもしれません。
次は、この2度フラットという小さな変更が、
なぜ手元の時間軸まで変えるのか。
そこをもう少し深く考えてみたいと思います。
