クラブの数字を揃えることと、動きを揃えることは同じではない
という話をしました。
では、動きを揃えるためには何を見ればよいのでしょうか。
ここで、フィッティングの考え方を少し変えてみます。
先日、あるお客様からこんな相談がありました。
「アイアンは振り切れるようになった。でも今度はドライバーが暴れるようになった」
普通なら、
「では、ドライバーに問題があるのかもしれませんね。新しいドライバーを試してみましょう」
となりそうな場面です。
しかし私は、
「一度、スイングを見せてください」
と連絡しました。
なぜなら、変わったのはドライバーではありません。
お客様のスイングの方だったからです。
クラブと人間を分けて考えていいのか
一般的なフィッティングでは、
クラブはクラブ。
人間は人間。
として考えることが多いと思います。
クラブ側では、
長さ。
重量。
ライ角。
ロフト。
シャフト重量。
トルク。
バランス。
人間側では、
身長。
腕の長さ。
ヘッドスピード。
入射角。
クラブパス。
フェースアングル。
それぞれを測って、
「この人にはこのクラブ」
と合わせていきます。
もちろん、それは必要です。
しかし、実際にボールを打っている瞬間には、
人間とクラブは別々に存在しているわけではありません。
手でつながっています。
その手は腕につながっています。
腕は肩につながっています。
肩は上体につながり、
上体は骨盤につながり、
骨盤は脚を通して地面につながっています。
つまりスイング中には、
人間とクラブはひとつの運動系になっています。
クラブだけの慣性では足りない
これまで、

という慣性モーメントの式を使ってきました。
これはクラブを考える上で非常に便利です。
しかし、本当のスイングでは、
クラブだけが回っているわけではありません。
腕も動きます。
手元も動きます。
上体も動きます。
そして、それぞれが違う半径で動いています。
だとすれば、本当に見るべきなのは、
クラブ単体の慣性モーメント
ではなく、
人間とクラブを合わせた有効慣性
なのかもしれません。
例えば、クラブのライ角を2度変える。
クラブの重量は変わりません。
長さも変わりません。
しかし、
手元の高さが変わる。
腕の角度が変わる。
肩から手元までの距離が変わる。
骨盤との位置関係も変わる。
そうなれば、
人間側の質量がどこに配置されるかまで変わります。
つまり、
クラブの数字は同じでも、人間を含めた慣性系は変わる
可能性があります。
フィッティングで見ているものは「結果」ではないか
ここで、フィッティング現場を考えてみます。
ライ角を変える。
すると弾道が変わる。
シャフトを変える。
すると打点が変わる。
長さを変える。
するとクラブパスが変わる。
私たちは、その結果を見て、
「このライ角が合っている」
「このシャフトが合っている」
と判断します。
しかし、その途中で何が起きているのでしょうか。
ライ角を変えたからフェースの向きが変わった。
シャフトを変えたから、しなり方が変わった。
もちろん、それも起きています。
でも、それだけではないはずです。
クラブの条件が変わったことで、
人間の動きそのものも変わっています。
ここを見落とすと、
フィッティングは再びスタティックな説明へ戻ってしまいます。
人間もリンク機構として考えてみる
もちろん、ゴルファーは機械ではありません。
しかし、運動を工学的に解析するのであれば、人間の身体も複数の関節と質量がつながったリンク機構として考えることができます。
『The Golfing Machine』という名前も象徴的です。
パワーがあり、
関節があり、
それぞれのリンクが動き、
その先にクラブがつながっている。
そう考えると、違うクラブを渡したときに、人間がまったく同じ動きを再現しないことも当然に見えてきます。
重いクラブなら、
少しゆっくり動くかもしれません。
長いクラブなら、
手元を少し高くするかもしれません。
アップライトなら、
腕の位置が変わるかもしれません。
フラットなら、
前傾や手元位置を変えるかもしれません。
本人が意識していなくても、
身体はクラブに合わせて動きを変えます。
つまり、
クラブが人間を動かしている
とも言えます。
これは重要です。
フィッティングでは普通、
「人間にクラブを合わせる」
と考えます。
しかし実際には、

です。
お互いに影響し合っています。
ここに「時間」が入る
さらにダイナミックに考えると、
この相互作用には時間があります。
クラブを動かす。
クラブが慣性によって抵抗する。
その反力が手元へ返ってくる。
腕がその反力を受ける。
肩の動きが変わる。
上体の回転が変わる。
その結果、
またクラブへ伝わる力が変わる。
これは一方向ではありません。
人間 → クラブ
だけではなく、
クラブ → 人間
へも戻ってきます。
つまりスイングは、
単純な入力と出力ではありません。
相互作用が続く、
フィードバックを持った運動系
として考えた方が自然です。
だから小さな変更が大きく見える
これなら、
ライ角を1度、2度変えただけで、
弾道が想像以上に変わることも説明しやすくなります。
変わったのは、
フェース面の幾何学だけではありません。
その小さな変更が、
手元位置を変え、
腕の配置を変え、
慣性を変え、
時間差を変え、
結果として、
クラブパスやフェースの動きまで変えている。
つまり、
小さな静的変更が、動的な連鎖を生む。
これがダイナミックの面白いところです。
フィッティングは「クラブを測る作業」ではない
ここまで考えると、
フィッティングの見方も変わってきます。
測るべきなのは、
クラブ単体の数字だけではありません。
そのクラブを持ったとき、
人間がどう動くのか。
手元がどう動くのか。
支点がどこへ移るのか。
力がどちらへ向くのか。
そして、
その変化が弾道にどう現れるのか。
つまり、
フィッティングとは、クラブを測る作業ではなく、人間とクラブの関係を測る作業
なのかもしれません。
この考え方に立つと、
「適正ライ角」
という言葉の意味も変わってきます。
床に置いたクラブがきれいに接地する角度。
それだけではありません。
その角度によって、
その人の運動が最も自然につながるかどうか。
そこまで含めて、
初めて適正ライ角と言えるのではないでしょうか。
そして、この話はライ角だけでは終わりません。
シャフト重量も。
クラブ長も。
重心位置も。
ヘッド重量も。
すべて、人間側の運動を変えます。
暴れていたのはドライバーだったのか
さて、冒頭のお客様の話に戻ります。
「アイアンは振り切れるようになった。でもドライバーが暴れる」
スイングを見て、分かったことがありました。
振り切れるようになったことで変わっていたもの。
それは、
支点のブレでした。
実は以前から、そのお客様のドライバースイングには、その兆候がありました。
ドライバーでは、身体ごと回すようなスイングになっていたのです。
ただ、その方はクラブチャンピオンを獲るほどのゴルファーです。
結果も出ています。
ですから以前は、
「これで完成している」
と私も考えていました。
ところが、アイアンをしっかり振り切れるようになったことで、スイング全体が変化しました。
そして支点が安定したとき、
ドライバーの飛距離は約20ヤード伸びました。
これは私にとっても大きな収穫でした。
新しいドライバーに替えたわけではありません。
ヘッドを替えたわけでもありません。
シャフトを替えたわけでもありません。
支点が変わっただけです。
それだけで、
同じクラブがまったく違う働きを始めました。
となると、次に考えなければならないのは、
クラブではありません。
支点とは何なのか。
そして、
同じクラブでも、支点が変わればなぜこれほど結果が変わるのか。
次は、スイングの「支点」そのものを考えてみたいと思います。
