第二話 ウインダム・クラークはなぜ中尺・重量級パターを選んだのか
第一話では、全米オープンのパッティングがなぜ難しいのかを考えました。
全米オープンは、ただ距離が長い大会ではありません。
歴史ある名門コースで行われることが多く、グリーンは速く、硬く、傾斜も強い。
しかも、外した後の返しが簡単ではありません。
そこで求められるのは、強く打つパッティングではありません。
弱く、正確に、ボールへエネルギーを与える技術です。
この視点で見ると、ウインダム・クラークのパター選びは非常に面白くなります。
2023年、クラークがロサンゼルス・カントリークラブで全米オープンを制したとき、彼の手にあったのはOdyssey Versa Jailbird系のパターでした。
このパターは、いわゆる普通の長さ、普通の重さのパターではありません。
通常より長めで、重量感があり、カウンターバランスの効いた中尺系のパターです。
そして今回、店長がさらに注目しているのが、SCOTTSDALE TEC ALLY BLUE ONSET CBです。
メーカーはOdysseyからPINGへ変わりました。
しかし、ここで大事なのは、メーカー名ではありません。
Odysseyだから勝った。
PINGだから勝った。
という単純な話ではないのです。
重要なのは、そこに共通している思想です。
長めであること。
重めであること。
手先で細かく操作するよりも、ストローク全体を安定させる方向で作られていること。
ここが、クラークのパター選びの本質だと思います。
実は、全米オープンでは過去にも、この「手先の余計な動きを抑える」思想を持ったパターで勝った選手が目立ちます。
2012年、オリンピッククラブで優勝したウェブ・シンプソンは、ベリーパターを使用していました。
2020年、ウイングドフットで優勝したブライソン・デシャンボーは、アームロック型のパターを使用していました。
そして2024年、パインハーストNo.2で再び全米オープンを制したブライソンも、アームロック型のパターでした。
さらに2023年、ロサンゼルス・カントリークラブで優勝したウインダム・クラークは、長めのカウンターバランス型Odyssey Versa Jailbird系パター。
こうして見ると、全米オープンでは、普通の長さのパターで手先の感覚だけを使うというより、長さ、重さ、グリップ側のバランス、あるいは腕との一体感を使って、ストローク中の余計な動きを抑えるタイプのパターが目立ちます。

ここでいう「中尺以上」は、単に長いパターという意味ではありません。
ベリーパター。
アームロック。
カウンターバランス。
これらを、まったく同じパターとして扱うことはできません。
しかし、共通している方向性はあります。
それは、手首の過剰な動きを抑え、ストローク全体を安定させる方向のパターである、ということです。
もちろん、これだけで全米オープンを勝てるわけではありません。
ショット力。
アプローチ。
メンタル。
コースマネジメント。
すべてが揃わなければ、全米オープンは勝てません。
しかし、速く硬いグリーンで、弱いタッチを何度も正確に出し続けるという条件を考えると、これらのパターに共通する思想は非常に興味深いものがあります。
それは、
パターを自由に動かすのではなく、余計に動かさない。
という考え方です。
普通の長さのパターは、操作しやすいというメリットがあります。
フェースを開いたり、閉じたり。
距離感を手先で合わせたり。
微妙なタッチを自分の感覚で出したり。
もちろん、それが合う選手もいます。
しかし、全米オープンのようなグリーンでは、この「操作しやすさ」が、逆に危険になることがあります。
なぜなら、全米オープンでは強く打てないからです。
速いグリーンでは、ボールに大きなエネルギーを与えることができません。
ほんの少しだけ打つ。
ほんの少しだけ転がす。
カップの近くで止める。
外れても、次のパットを簡単に残す。
こういうパッティングが必要になります。
ところが、弱く打つパッティングほど、手先の余計な動きが結果に出やすくなります。
ほんの少し手首が動く。
ほんの少しフェースが開く。
ほんの少しインパクトで緩む。
ほんの少し押し出す。
これだけで、ボールの出球は変わります。
強く打つパットなら、勢いでごまかせることがあります。
しかし、弱く打つパットでは、ごまかしが効きません。
だからこそ、クラークは手先で操作しやすいパターではなく、余計な操作をしにくいパターを選んでいるように見えるのです。
中尺・重量級パターの良さは、ここにあります。
ヘッドが重い。
長さがある。
グリップ側にも重さがある。
全体として、パターが勝手にフラフラしにくい。
つまり、ストローク中に余計な動きが入りにくくなります。
もちろん、これは魔法の道具ではありません。
重いパターを使えば誰でも入る、という話ではありません。
むしろ、合わない人には合いません。
しかし、全米オープンのような速く硬いグリーンで、弱いタッチを正確に出し続けるという条件では、非常に合理的な選択になります。
ここで注意したいのは、これは昔のロングパターやアンカーリングとは違うということです。
クラークのパターは、体に固定して打つためのパターではありません。
長さと重さを使って、ストローク全体を安定させるパターです。
手で打つのではなく、パター全体の重さで転がす。
この感覚に近いと思います。
店長がクラークを推していた理由は、ここにあります。
クラークは、ただ飛ばす選手ではありません。
全米オープンという大会で必要になるパッティングの性質を考えたとき、その要求に合った道具を選んでいるように見える選手です。
全米オープンでは、入れるパッティングだけでは勝てません。
外し方を小さくするパッティングが必要です。
大きくオーバーしない。
大きくショートしない。
ラインから大きく外さない。
次のパットを難しくしない。
このためには、パターの操作性よりも、パターの安定性が重要になります。
軽くて自由に動かせるパターよりも、余計な動きをさせないパター。
手先で距離を合わせるパターよりも、ストローク全体でエネルギーを一定にするパター。
クラークの中尺・重量級パターには、この考え方が見えます。
つまり、全米オープンでは「入れるための感性」だけでなく、「外し方を小さくするための構造」が効いている可能性があります。
クラークのパター選びも、この流れの中で見ると、かなり合理的に見えてきます。
だから店長は、クラークのパター選びを単なる流行とは見ていません。
2023年のJailbird。
そして、SCOTTSDALE TEC ALLY BLUE ONSET CB。
メーカーは違っても、そこにある思想は近い。
それは、全米オープンのようなグリーンで、弱く、正確に、ボールを転がすためのパター選びです。
クラークは、全米オープンを力でねじ伏せたのではありません。
もちろん、ショット力は大きな武器です。
しかし最後に勝敗を分けるのは、グリーン上で余計な1打を打たないことです。
その意味で、クラークのパターは「入れるための奇策」ではなく、「外し方を小さくするための設計」だったのではないか。
店長は、そこにクラークの強さを見ています。
次回は、さらに一歩踏み込みます。
重いパターは、なぜソフトタッチに強いのか。
弱く打つパッティングで、なぜヘッドの重さやカウンターバランスが有利に働くのか。
第三話では、
重いパターはなぜソフトタッチに強いのか
を考えてみたいと思います。
他のメジャーではそれほど勝利はありません。調べた限りは
| 年 | 選手 | 大会 | パターの系統 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2011年 | キーガン・ブラッドリー | PGA選手権 | ベリーパター | メジャーでアンカー系パター優勝の初期代表例 |
| 2012年 | アーニー・エルス | 全英オープン | ベリーパター | ロング/ベリー系使用者として紹介される代表例 |
| 2013年 | アダム・スコット | マスターズ | ロングパター | 胸に当てる長尺パター時代の象徴 |
これくらいでした。
