売れる言葉と、PINGが見ていたもの
――しなりの大きさではなく、ボールに何が伝わったか――
前回は、ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性について書きました。
ヘッドスピードを上げる練習器具には、たしかに効用があります。
普段より強く振るきっかけになる。
出力制限が外れる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
一時的に飛距離が伸びることもある。
ですから、ヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。
ただし、問題はその先です。
そのヘッドスピードが、どのように作られたのか。
そして、その速度がボールスピードに変換されたのか。
ここを見なければなりません。
体を止める。
手を使う。
リリースを早くする。
身体とクラブの束縛を早く切る。
こうした動きでも、ヘッドスピードという数字は上がります。
しかし、その代わりに有効重量を失い、インパクトでクラブが軽くなっているなら、それは本当に飛ぶスイングに近づいたとは言えません。
ヘッドスピードは上がった。
しかし、クラブは軽くなった。
ここに、ヘッドスピードアップという言葉の難しさがあります。
この問題は、ヘッドスピードだけの話ではありません。
シャフトの話でも、まったく同じことが起こります。
たとえば、
軽い。
柔らかい。
しなる。
楽に振れる。
こうした言葉は、とても分かりやすいです。
お客様にも伝わりやすい。
売り場でも説明しやすい。
動画や広告でも使いやすい。
そして何より、売りやすい。
しかし、分かりやすい言葉が、必ずしも正しい理解につながるとは限りません。
「柔らかいシャフトはやさしい」
「しなるシャフトは飛ぶ」
「軽いシャフトなら楽に振れる」
これらは、部分的には正しいことがあります。
しかし、常に正しいわけではありません。
本当に見なければならないのは、
そのシャフトが、インパクトでヘッド挙動を安定させているか。
ロフトを安定させているか。
打点を安定させているか。
フェース向きを安定させているか。
そして、ボールスピードに貢献しているか。
ここです。
つまり、ヘッドスピードの話と同じです。
ヘッドスピードも、シャフトのしなりも、入口の言葉です。
出口で見るべきなのは、ボールスピードと弾道です。
PINGの創業者、カーステン・ソルハイムは、非常に面白いデモンストレーションを行っていました。
机の端にスケールを出し、その長さを変えて、小さな球の跳ね上がり方を見せるデモです。
スケールを長く出すと、大きくしなります。
見た目には、いかにもエネルギーがありそうに見えます。
一方で、スケールを短く出すと、しなりは小さくなります。
しかし、球を強く跳ね上げるのは、必ずしも大きくしなる方ではありません。
大きくしなることと、ボールに効率よくエネルギーを伝えることは同じではない。
カーステンは、それを非常に分かりやすい実験で示していたのだと思います。
これは、当時のPINGアイアンに装着されていた ZZ-Lite のような、軽量でありながら硬め、特に先端剛性を持ったシャフトの考え方にもつながります。
単に柔らかくしならせるのではない。
単に楽に振れるようにするのでもない。
インパクトで余計な動きを抑え、ボールにエネルギーを伝える。
そこを見ていたのだと思います。
ここで大切なのは、カーステンが「見た目のしなり」を見ていたのではないということです。
見ていたのは、結果です。
球がどう跳ね上がるか。
クラブがボールに何を伝えたか。
実際にどのような弾道になったか。
これは、非常にPINGらしい考え方だと思います。
PINGの原点には、感覚だけでなく、実験があります。
見た目ではなく、結果を見る。
印象ではなく、測る。
言葉ではなく、実際にボールがどう飛んだかを見る。
この姿勢が、PINGらしさだと思います。
ところが、ゴルフの市場では、どうしてもキャッチーな言葉が強くなります。
ヘッドスピードアップ。
ヘッドが走る。
しなりで飛ぶ。
軽くてやさしい。
楽に振れる。
こうした言葉は分かりやすい。
そして、売れやすい。
反対に、
ボールスピードへの変換効率。
ミート率。
有効重量。
インパクトロフト。
スピン量。
ヘッド挙動の安定性。
こうした言葉は、正しくても分かりにくい。
だから市場では、正確な言葉よりも、分かりやすい言葉が前に出ます。
そして、分かりやすい言葉は広がります。
問題は、その分かりやすさが、ゴルフの本質を削ってしまうことです。
これは、日本市場では特に起こりやすいことだと思います。
「軽い」
「柔らかい」
「しなる」
「楽に振れる」
これらの言葉は、日本のゴルファーに非常に伝わりやすい。
もちろん、その方向が必要なゴルファーもいます。
体力が落ちてきた方。
振り切れない方。
クラブの重さが負担になっている方。
そういう方にとって、軽さやしなりが助けになることはあります。
しかし、すべてのゴルファーにとって、
軽い方が良い。
柔らかい方が良い。
しなる方が飛ぶ。
とは言えません。
特に、ヘッドが大きく、高MOIで、インパクト時の安定性を持ったクラブでは、シャフト側が動きすぎることで、かえって結果が出にくくなることがあります。
G400 MAX が発売されたときにも、似たようなことを感じたことがあります。
当時、ピンゴルフジャパンの推奨シャフトは、軽く柔らかい方向に寄っていました。
ところが、営業さんがデモで思うような結果が出ないと困って相談に来られたことがあります。
そのとき私は、
なるべく先端剛性があり、軽量でも少し硬めのシャフトを使うこと
をアドバイスしました。
理由は単純です。
G400 MAX は、ヘッドとしては非常に安定したクラブでした。
高MOIで、ブレにくく、ミスヒットにも強い。
しかし、そのヘッドに対して、シャフトが大きく動きすぎると、インパクトでヘッド挙動が不安定になります。
ロフトが増える。
フェースの戻りが遅れる。
打点が散る。
スピン量が増える。
ボールスピードが出にくくなる。
そうなると、せっかくのヘッド性能が見えにくくなります。
軽い、柔らかい、しなる。
言葉としては、いかにもやさしそうです。
しかし、インパクトでボールに効率よくエネルギーが伝わらなければ、結果にはつながりません。
そのとき、少し不思議に感じたことがあります。
当時のピンゴルフジャパンのマーケティングには、カーステン・ソルハイムが行っていた、あのスケールのデモンストレーションの考え方が、十分には反映されていなかったのかもしれません。
もちろん、日本市場には日本市場の難しさがあります。
「軽い」
「柔らかい」
「しなる」
「楽に振れる」
これらの言葉は、とても伝わりやすい。
そして、売りやすい。
その方向へ寄せたくなる気持ちは分かります。
しかし、PINGの原点に立ち返るなら、本当に見るべきなのは、しなりの大きさではなかったはずです。
実際にボールへ何が伝わったか。
カーステンが見ていたのは、そこだったと思います。
これは、先ほどのヘッドスピードの話とまったく同じです。
「ヘッドスピードアップ」という言葉は分かりやすい。
しかし、本当に見るべきなのは、その速度がボールスピードに変換されたかどうかです。
「柔らかいシャフト」「しなるシャフト」という言葉も分かりやすい。
しかし、本当に見るべきなのは、そのしなりがインパクトでボールスピードに貢献しているかどうかです。
ヘッドスピードも、シャフトのしなりも、入口の言葉です。
出口で見るべきなのは、ボールスピード。
そして、実際の弾道です。
ここを間違えると、ゴルフクラブの評価も、練習器具の評価も、スイングの評価も、すべてズレてしまいます。
売れる言葉は、たいてい分かりやすいものです。
ヘッドスピードアップ。
しなりで飛ぶ。
軽くてやさしい。
楽に振れる。
どれも、聞いた瞬間に分かります。
しかし、分かりやすい言葉ほど、条件を削り落としています。
ヘッドスピードは大切です。
でも、ボールスピードに変換されなければ飛距離にはなりません。
シャフトのしなりも大切です。
でも、そのしなりがインパクトを不安定にするなら、結果にはつながりません。
軽さも大切です。
でも、軽すぎてヘッド挙動が暴れるなら、ボールにエネルギーは伝わりません。
つまり、キャッチーな言葉は入口としては便利です。
しかし、入口の言葉だけでゴルフを判断すると、本質を見誤ります。
PINGの原点は、キャッチーな言葉ではなく、実験だったと思います。
しなったかどうかではなく、球がどう飛んだか。
速く振れたかどうかではなく、ボールがどう飛び出したか。
やさしそうに見えるかどうかではなく、実際に結果が安定したか。
そこを見るのが、PINGらしいクラブ作りであり、フィッティングの考え方だと思います。
現在のフィッティングでも同じです。
ヘッドスピードだけを見てはいけません。
シャフトの柔らかさだけを見てもいけません。
一発の最高値だけを見てもいけません。
見るべきなのは、
ボールスピード。
ミート率。
打点。
打ち出し角。
スピン量。
曲がり幅。
平均飛距離。
そして、その弾道がコースで使えるかどうか。
ここです。
ジュニアにも、保護者にも、そして私たちゴルフを伝える側にも、必要なのはこの視点だと思います。
分かりやすい数字に引っ張られないこと。
ヘッドスピードで勝った。
だから飛ぶ。
柔らかくしなる。
だから飛ぶ。
軽い。
だからやさしい。
そう単純に見ないことです。
本当に見るべきなのは、その先です。
ボールに何が伝わったのか。
どのようなボールスピードになったのか。
どのような弾道になったのか。
それが安定して再現できるのか。
ここを見て初めて、クラブも、練習も、スイングも正しく評価できます。
ヘッドスピードは入口です。
しなりも入口です。
軽さも入口です。
しかし、答えは入口にはありません。
答えは、ボールがどう飛んだかにあります。
カーステン・ソルハイムがスケールのデモで見せたかったものも、おそらくそこだったのだと思います。
大きくしなることが、必ずしも大きく伝わることではない。
速く動くことが、必ずしもボールに伝わることではない。
分かりやすい言葉が、必ずしも正しい理解ではない。
だからこそ、私たちはキャッチーな言葉の奥にある、本当に見るべきものを伝えていかなければならないと思います。
ヘッドスピードではなく、ボールスピード。
しなりの大きさではなく、インパクトでボールに何が伝わったか。
入口の数字ではなく、出口としての弾道。
そこに、PINGが見ていたものがあるのだと思います。
