前回は、細野勇策プロが4種類のアイアンを組み合わせている理由について考えてみました。
今回は、もう一つ気になる部分について考察したいと思います。
それは、細野プロのセッティングには、ハイブリッド(HB)が1本も入っていないことです。
一般的には、ロングアイアンをやさしく打つためのクラブとして、ハイブリッドが広く使われています。
ところが細野プロは、G440 MAXの4Wと7W、i500の3番アイアン、そしてG440の5番・6番アイアンという組み合わせを採用しています。
なぜ、ハイブリッドを使用しないのでしょうか。
ハイブリッドはアイアンと同じスイングで打てるのか?
ハイブリッドは、フェアウェイウッドとアイアンの長所を組み合わせたクラブです。
フェアウェイウッドのようなボールの上がりやすさと、アイアンに近いシャフト長による扱いやすさ。
非常に合理的なクラブだと思います。
しかし、両方の長所を持っているということは、両方の弱点も持っているのではないでしょうか。
ここで店長が気になるのは、スイングそのものです。
同じようにスイングして、クラブヘッドの性能によって欲しい弾道を得ようとしている細野プロが、ハイブリッドを使ったとしたらどうなるでしょうか。
多くのゴルファーが感じるハイブリッドのメリットは、フェアウェイウッドほどシャフトが長くなく、ヘッドも返しやすいため、振り切りやすいということではないでしょうか。
つまり、弾道を助けるだけでなく、スイングそのものを助けてくれるクラブとも言えます。
しかし、ここで考えてみてください。
すでに十分にクラブを振り切れるゴルファーにとって、その助けは本当に必要なのでしょうか?
他のクラブと同じように振った結果、ヘッドが返りすぎてしまうとしたらどうでしょう。
そのゴルファーは、つかまりすぎを警戒してスイングを抑えたり、フェースが返るタイミングを調整したりする必要が出てきます。
本来、ゴルファーを助けるためのクラブなのに、反対にゴルファーがクラブに合わせなければならなくなるのです。
ハイブリッドは、アイアンと同じようにスイングすればよいと言われます。
しかし、本当に同じスイングで打てているのでしょうか?
ヘッドの重心位置も違えば、シャフト長も、クラブ全体の慣性特性も異なります。
そのため、同じようにスイングしているつもりでも、インパクト時のクラブの挙動は同じにはなりません。
さらに、その違いを補正するために、ゴルファー自身が無意識にスイングを変えている可能性があります。
ヘッドの寛容性とショットの分散は同じではない
ここで次の図をご覧ください。

この図は、一般的なハイブリッドを使用するセッティングと、細野プロのようにショートウッドとロングアイアンを組み合わせるセッティングについて、ショットの分散を比較したイメージです。
オレンジ色の帯は、各クラブで共通して狙いたい着弾ゾーンを表しています。
もちろん、細野プロの実測データではありません。
上段では、ハイブリッドを使用したときにショットの分散が大きくなるケースを描いています。
ハイブリッドのヘッド自体に寛容性がないという意味ではありません。
むしろ、ヘッドの寛容性は高いのに、ゴルファーがそのクラブに合わせてスイングを調整してしまい、結果として分散が大きくなる場合があるのではないか、という仮説です。
下段は、ショートウッドとアイアンを組み合わせることで、スイングの再現性を維持し、分散を抑えられる可能性を表しています。
ここで重要なのは、クラブヘッド自体の寛容性と、ゴルファーが実際に使用したときのショットの分散は、必ずしも一致しないということです。
ショートウッドのメリット
細野プロの7番ウッドは、42インチです。
シャフトも0.5インチのチップカットが施されています。
実は店長も、ショートウッドのシャフトを短くして使用しています。
ショートウッドのメリットは、比較的大きなロフトによって、高い打ち出し角と十分なバックスピン量を得やすいことです。
バックスピン成分が大きければ、同じ横方向のスピン成分が発生しても、スピン軸の傾きは小さくなります。
もちろん、スピン量が多ければ必ず曲がらないということではありませんが、方向の安定性を考えるうえで重要な特性です。
一方、フェアウェイウッドの弱点の一つはシャフトが長いことです。
そこで、シャフトを短くする。
クラブ長を短くすることで慣性特性を変え、打点やスイングの再現性を高められる可能性があります。
つまり、ショートウッドの高さとスピンを生かしながら、長さによる扱いにくさを減らすという考え方です。
ハイブリッドは振り切りやすい。しかし……
一方、ハイブリッドは、同じような飛距離を担当するショートウッドに比べて、ロフトが少なく、シャフトも短い傾向があります。
シャフトが短ければ、クラブを振り切りやすくなります。
これは大きなメリットです。
しかし、この振り切りやすさが、ゴルファーによっては裏目に出ることがあります。
ヘッドが返りすぎ、フェースが閉じた状態でインパクトを迎えてしまう場合です。
さらに、ショートウッドよりロフトが少なく、バックスピン量も少ない弾道になった場合、同じ横方向のスピン成分に対して、スピン軸が大きく傾きます。
その結果、つかまりすぎたボールが大きく曲がる可能性があります。
つまり、振り切りやすいことが、必ずしも狙った方向へ打ちやすいことにはならないのです。
もちろん、すべてのゴルファーに当てはまる話ではありません。
ハイブリッドの方が安定するゴルファーも大勢いるでしょう。
しかし、アイアンとハイブリッドの間で無意識にスイングを変えているゴルファーがいるとすれば、それは見逃せない問題だと思います。
アイアンは飛距離性能を高さに振り向ける
では、細野プロのアイアンはどうでしょうか。
G440の5番アイアンは、標準ロフト22°を24.5°に、6番アイアンは25.5°を28°に調整しています。
どちらも2.5°ロフトを寝かせています。
これは非常に興味深い調整です。
現在のアイアンは、飛距離性能を高めるためにストロングロフト化が進んでいます。
しかし細野プロは、飛距離性能の高いヘッドを選びながら、あえてロフトを増やしているのです。
これは、ヘッドの持つ飛距離性能を最大飛距離の追求に使うのではなく、必要な距離を確保したうえで、ボールの高さやスピン量を得るために利用しているのではないでしょうか。
さらに5番・6番アイアンには、バンスを2°減らす加工も施されています。
ロフトを寝かせることによって増加するバンスを、ソール加工によって調整している可能性があります。
単なる飛距離調整ではなく、弾道と地面との接触条件まで含めた調整に見えます。
ショートウッドは短く、アイアンはロフトを増やす
ここまでを整理してみましょう。
細野プロのセッティングでは、ショートウッドのシャフト長を調整し、アイアンではロフトを増やしています。
ショートウッドは、ロフトと重心設計による高さやスピンを利用しながら、短尺化によって扱いやすさを高める。
アイアンは、ヘッドの飛距離性能を利用しながら、ロフトを増やして必要な高さを確保する。
つまり、それぞれのヘッドが得意とする性能を生かしながら、弱点となり得る部分を調整しているわけです。
その結果、ハイブリッドに頼らなくても、必要な飛距離と弾道を得られるセッティングが成立しているのではないでしょうか。
ここで思い出したいのが、前回の記事で取り上げた細野プロの考え方です。
9番アイアンから下ではピンを狙い、それより長いクラブではゾーンを狙う。
その考え方からすれば、ショートウッドもロングアイアンも、狙ったゾーンにボールを運ぶためのクラブです。
重要なのは、そのゾーンに収まる確率を高めること。
そのために、クラブヘッドの選択だけでなく、ロフトやシャフト長まで調整しているのではないでしょうか。
最後に クラブにスイングを合わせていないか?
フィッティングでは、クラブの飛距離、打ち出し角、スピン量、寛容性などを評価します。
もちろん、どれも重要な要素です。
しかし、店長はもう一つ、考えなければならないことがあると思っています。
それは、クラブを持ち替えたときに、ゴルファーが同じようにスイングできているかということです。
クラブ単体では良い結果が出ていても、別のクラブに持ち替えるたびに無意識の調整が必要であれば、コース上での再現性は低くなるかもしれません。
反対に、それぞれのクラブが持つ性能を生かしながら、ゴルファー自身の運動をできるだけ変えずに済むのであれば、セッティング全体としての安定性を高められる可能性があります。
細野プロがハイブリッドを使っていない本当の理由は分かりません。
しかし、ショートウッドのシャフト長を調整し、アイアンのロフトを増やし、異なるモデルを組み合わせているセッティングを見ていると、一つの考え方が浮かんできます。
クラブを揃えるためにスイングを変えるのではなく、自分のスイングに合わせてクラブを選ぶ。
フィッティングの原点は、そこにあるのではないでしょうか。
