前回は、ライ角を変えることで、静止したフェースの向きだけでなく、クラブが運動するときの挙動そのものが変わる可能性について考えました。
その中で出てきたのが、
フラットにすると、手元が少し遅れる。
という現象です。
では、なぜ手元が遅れるのでしょうか。
ここで、いきなりクラブだけを見てはいけません。
人間とクラブは、別々に動いているわけではないからです。
肩が動きます。
肘が動きます。
手首が動きます。
骨盤が動きます。
その先にクラブがあります。
つまり、ゴルフスイングは、
人間とクラブがつながったリンク機構
として考えた方が自然です。
たとえば、からくり人形を想像してください。
ひとつの動力から、いくつものリンクを通して複雑な動きを作ります。
ひとつの関節の角度が変われば、その先の部品の動きも変わります。
ゴルフスイングも、これとよく似ています。
ライ角を2度変える。
数字だけを見れば、ほんのわずかな変更です。
しかし、その2度によって、クラブが人体に対して置かれる位置が変わります。
手元の高さも変わります。
腕の角度も変わります。
肩から手元までの有効半径も変わります。
そして、クラブから人間へ返ってくる反力の向きも変わります。
つまり、ライ角変更は、
クラブヘッドだけの問題ではありません。
人体を含めたリンク機構全体の初期条件を変える操作なのです。
ここで慣性モーメントを思い出します。
[
I=\sum mr^2
]
質量が同じでも、回転軸から遠くなれば、回転しにくさは大きくなります。
では、ライ角をフラットにしたことで、手元や腕の運動半径がわずかに大きくなったらどうでしょう。
仮に、その有効半径が600mmから614mmへ変わったとします。
増加量はわずか14mmです。
しかし慣性モーメントは距離の二乗で効きます。
[
\left(\frac{614}{600}\right)^2
\approx1.047
]

約4.7%増えます。
もちろん、これは人間をかなり単純化したモデルです。
実際には、肩、肘、手首、骨盤が同時に動きます。
ですから、「ライ角を2度フラットにすると慣性が必ず4.7%増える」という意味ではありません。
大切なのは、
数ミリ、数度の配置変化でも、動いている系では無視できない差になる
ということです。
さらに重要なのが「時間」です。
同じトルクで動かすなら、
α=r/l
です。
慣性モーメント (I) が大きくなれば、角加速度 (\alpha) は小さくなります。
つまり、動き始めがわずかに遅くなる。
この「わずか」が問題です。
ゴルフスイングは高速で進んでいます。
トップからインパクトまでの時間は、ほんの一瞬です。
その中で、もし手元の到達が5ミリ秒遅れたらどうでしょう。
5ミリ秒。
数字だけを見れば、ほとんどゼロに見えます。
しかし、その5ミリ秒の間にも、
骨盤は回っています。
胸郭も回っています。
腕も動いています。
クラブも回っています。
つまり、手元が5ミリ秒遅れるということは、
同じ人間なのに、違う身体の向きでインパクトを迎える
ということです。
ここで、スタティックな考え方との差が一気に大きくなります。
スタティックでは、
「ライ角が2度変わった」
で終わります。
ダイナミックでは、
「その2度によって、クラブと人体の運動の時間軸が変わった」
と考えます。
そして時間軸が変われば、
手元の位置が変わります。
ハンドファースト量が変わります。
クラブパスが変わります。
フェースが閉じるタイミングも変わります。
結果として、
静的なフェース向きとは逆方向に、ボールが飛ぶことすらあり得る。
では、ここでひとつ疑問が出てきます。
もしクラブの動きが、人体との時間関係によって決まるのであれば、
ゴルフスイングで本当に重要なのは、
「スタンスがどちらを向いているか」
なのでしょうか。
それとも、
力がどちらへ向いているか
なのでしょうか。
次は、そこを考えてみたいと思います。
