現段階で店長がスイングロボットを作るとすると、回転するモーターではなく、リニアモーター、もしくは直線的な動きを再現する機構を用いたスイングロボットを作ると思います。
また、前回紹介したスイングロボットも、今後はなるべく人間に近い動きを再現するものへと進化していくのではないでしょうか。
なぜ、そのように考えるのでしょうか?
それは、スイングロボットがクラブ開発の中間段階で、設計通りの性能が実現しているかどうかを判断するための道具だからです。
この段階で、できる限り人間の動きによって生み出されるクラブの運動を再現できれば、実際のゴルファーが使用したときの性能を、より正確に予測できるようになります。
その結果、開発段階での完成度を高め、最終的なヒューマンテストで問題が見つかり、設計を差し戻すケースを減らせるはずです。
もちろん、人間には個人差があり、すべてのゴルファーを一台のロボットで再現できるわけではありません。
しかし、人間の運動の仕組みに近づけることには、大きな意味があると考えています。
それでは、前回紹介した4種類のロボットが、どのようにクラブを動かしているのかを見ていきましょう。
1. THE PING MAN
PING Manの特徴は、肩の運動を再現する機構と、自由に動く手首を持っていることです。
動力によって肩側の機構を動かすと、アームが回転し、その先に取り付けられたクラブは慣性によって遅れてついてきます。
手首を直接駆動してリリースさせるのではなく、アームの運動によってクラブが動き、手首とクラブの角度が変化します。
さらに、PING Manには肩の位置が変化する動きを考慮した機構も組み込まれています。
これは、単純に固定された支点の周りでクラブを回転させるだけの機械とは異なる部分です。
つまりPING Manは、クラブ自身の慣性によって生まれる動きを利用すると同時に、腕の回転中心となる位置の変化も再現しようとしているのです。
2. Golf Laboratories / LDRIC
Golf Laboratoriesのロボットも、基本的にはアームを動力で回転させ、手首には自由に動く機構を採用しています。
PING Manとの大きな違いは、サーボモーターによるトルク制御です。
サーボモーターに与えるトルクの変化をプログラムすることで、人間のスイングに近い加速特性を再現しようとしています。
例えば、同じ駆動条件で重量の異なるクラブを振った場合、クラブの慣性モーメントによって加速の仕方が変わります。
このような変化を測定できることは、クラブ開発にとって重要です。
単純にヘッドスピードを一定にするロボットでは、クラブが重くなっても軽くなっても、モーター側が補正して同じ速度で振ってしまう可能性があります。
しかし、人間の場合、クラブの重量や慣性モーメントが変われば、同じようにスイングしようとしても、その運動は変化します。
Golf Laboratoriesは、この違いを試験に反映させようとしているわけです。
THE PING MANも、肩側の機構を駆動し、クラブの慣性によって手首をリリースさせるという点では、Golf Laboratoriesと近い仲間です。
しかし、THE PING MANでは、スイング中に肩が上がり、腕の回転中心となる位置も変化します。
人間のスイングでも肩の位置は変化しますので、この部分については、THE PING MANの方が人間の動きに近いと店長は考えています。
3. ミヤマエ ROBO-10
日本のミヤマエは、少し異なるアプローチを採用しています。
ROBO-10は、アーム部とリスト部に加え、胴体も駆動することができます。
つまり、アームの回転だけでなく、手首の動きや胴体の回転まで機械側で制御できる構造です。
この方式の利点は、さまざまなスイングを設定できることです。
クラブの入射角や軌道、フェースの向きなどを変化させることで、ストレートボールだけでなく、フックやフェードといった球筋も再現できます。
関節を個別に制御できるという点では、人間の複雑な動きを再現するための自由度が高いといえるでしょう。
ただし、ここで一つ考えたいことがあります。
人間の手首は、常に筋肉によって積極的に動かされているのでしょうか?
それとも、腕や身体の運動によってクラブが動き、その結果として手首が動いているのでしょうか?
前者であれば、リストを積極的に制御するロボットが適しているかもしれません。
後者であれば、自由に動く手首を採用したロボットの方が、その運動原理に近いことになります。
もちろん、実際の人間の手首には筋肉による制御も働いています。完全な自由関節でも、常に積極的に駆動される関節でもありません。
この違いをどう再現するかが、一つの課題です。
4. Iron Byron
Iron Byronは、今回紹介した中でも歴史の古い試打ロボットです。
その基本構造は、二重振り子のモデルに基づいています。
一つ目の振り子は人間の腕に相当し、二つ目の振り子はゴルフクラブに相当します。
主回転軸を空気圧モーターで駆動し、クラブ側は手首に相当する関節を介して動きます。
非常に単純な構造ですが、ゴルフスイングの重要な特徴を再現しています。
それは、腕とクラブが常に一体となって動くわけではないということです。
ダウンスイングでは、腕の運動に対してクラブが遅れ、その後、クラブが腕に対して回転することで、ヘッドが加速します。
この二重振り子のモデルは、ゴルフスイングの研究でも長く使われてきました。
しかし、Iron Byronには大きな制約があります。
それは、基本的な回転中心が固定されていることです。
人間のスイングでは、肩の位置も動きます。身体そのものが移動することで、腕やクラブの運動にも変化が生じます。
この部分は、単純な二重振り子だけでは十分に再現できません。
ただし、腕に相当する部分を駆動し、クラブの慣性を利用してリリースさせるという基本原理では、THE PING MANやGolf LaboratoriesもIron Byronと共通しています。
その意味では、ミヤマエを除く今回の3機種は、二重振り子という基本的な考え方を共有する仲間として捉えることができます。
5. 手元とクラブヘッドの最下点
では、実際の人間のスイングはどうなっているのでしょうか?
プロゴルファーのスイングをよく観察すると、興味深いことに気づきます。
手元の最下点とクラブヘッドの最下点は、同じ位置ではないのです。
手元はインパクトの少し手前で最下点を通過し、その後、上昇する軌道へと移っていきます。
一方、クラブヘッドは手元が最下点を通過した後も下降を続け、インパクト付近、あるいはその先で最下点を迎えます。
アイアンでは一般に、クラブヘッドの最下点はボールより目標方向側になります。
なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか?
手元とクラブヘッドは手首の関節を介してつながっており、常に一体となって動いているわけではありません。
さらに、人間のスイングでは肩の位置そのものも移動します。
そのため、手元が最下点を通過した後も、クラブヘッドが下降し続けるという運動が起こります。
ここで、先ほどのGolf LaboratoriesとTHE PING MANの違いを思い出してください。
Golf Laboratoriesのように、アームの回転中心が固定されている構造でも、手首の角度が変化することで、二つの最下点を異なる位置に作ることは可能です。
しかし、THE PING MANは、それに加えて肩の位置の変化も考慮しています。
実際のプロゴルファーのスイングでは、手元の最下点を迎える前後で、肩も動き続けています。
この部分を再現できることが、人間の動きに近づけるための重要な条件だと店長は考えています。
6. クラブを回転させているものは何か?
ここまで見てくると、もう一つの疑問が生まれます。
クラブヘッドは円弧を描きながら動いています。
しかし、その円運動を生み出しているのは、何なのでしょうか?
人間の身体には、モーターのように回転する動力源はありません。
筋肉は収縮によって力を生み出し、その力が骨格と関節を介して運動へと変換されます。
筋肉による引張力は、関節に回転力を与えることもできますし、身体の位置を移動させることもできます。
つまり、人間のスイングは、単に関節を回転させるだけの運動ではありません。
身体の移動、肩の運動、腕の回転、そして手首を介したクラブの運動が組み合わさっています。
ここで、冒頭に述べたリニアモーターの話に戻ります。
店長がリニアモーター、あるいは直線的な動きを再現する機構を使いたいと考えるのは、単に回転モーターを別の動力に置き換えたいからではありません。
身体の位置が移動することによって、腕やクラブの回転運動がどのように変化するのかを再現したいからです。
もちろん、リニアモーターを使っただけで人間のスイングが再現できるわけではありません。
重要なのは、どの方向に力を加え、その力がどのように関節を通じてクラブへ伝わるのかということです。
そして、そこにクラブ自身の慣性が加わることで、複雑なスイングの運動が生まれます。
人間に近いスイングロボットとは?
スイングロボットの性能を考えるとき、ヘッドスピードや打点の再現性だけに注目しがちです。
しかし、クラブ開発に使用するのであれば、もう一つ重要なことがあります。
それは、クラブの仕様を変えたとき、その違いが人間のスイングと同じように運動へ反映されるかどうかです。
手元の軌道が変われば、クラブヘッドの軌道も変わります。
肩の位置が変化すれば、手元が動く方向も変化します。
そして、クラブの重量や慣性モーメントが変われば、腕や手首との連動も変化する可能性があります。
単に決められた軌道を正確に繰り返すロボットと、人間のような力の伝達を再現するロボットでは、クラブの性能評価にも違いが生まれるかもしれません。
人間に近いスイングロボットとは、単に人間と同じ形で動く機械ではなく、人間と同じようにクラブの特性に反応する機械なのではないでしょうか。
そのためには、クラブヘッドの動きだけではなく、その動きを生み出す肩や腕、手首の運動、さらには身体の移動まで考える必要があります。
今回紹介したロボットは、それぞれ異なる方法で人間のスイングを再現しようとしています。
その中でも店長は、肩の位置の変化とクラブの慣性によるリリースを組み合わせたPING Manに、人間の運動との共通点を感じています。
しかし、それでも人間のスイングのすべてを再現できているわけではありません。
もし、身体の直線的な移動と、そこから生まれる腕やクラブの回転運動まで再現できたなら、もっと人間に近いスイングロボットになるのではないでしょうか。
そして、そのようなロボットが開発されれば、クラブの設計段階で人間が使ったときの性能を、今まで以上に正確に予測できるようになるかもしれません。
クラブヘッドがどのように動いたかだけではなく、なぜそのように動いたのか。
それを考えることが、より良いクラブを作るためにも、より良いフィッティングを実現するためにも重要なのだと思います。
これで、スイングロボットについての考察を終わりたいと思います。
