見えないものを見る 第2話 ボールのどこに当たったのか

第1話では、人間は見えているものを中心に理論を作りやすい、という話をしました。

かつて人類には、太陽や星が動いているように見えました。

地球が動いていることは見えませんでした。

だから、地球を中心に宇宙を考える天動説は、当時の人々にとって自然な説明でした。

ゴルフでも、弾道計測器の登場によって、以前は見えなかったクラブの動きが見えるようになりました。

  • クラブパス。
  • フェース向き。
  • アタックアングル。
  • ダイナミックロフト。

これらの数値によって、インパクト直前のクラブの状態は、以前よりはるかに詳しく説明できるようになりました。

しかし、実際に力を受けて飛び出すのはクラブではありません。

ボールです。

そこで今回は、クラブの動きを中心に考えるのではなく、球体であるボールの重心を原点に置いて、インパクトを見直してみます。

フェースの向きだけでは説明できないこと

PINGのポール・ウッドは、フェースの向きがボールの方向へ与える影響は、クラブのロフトによって変わることを示しています。

低ロフトのクラブでは、フェースの向きが変わると、ボールの打ち出し方向も左右へ大きく変化します。

一方、ロフトが大きいクラブでは、同じようにフェースの向きが変化しても、ボールの左右方向への影響は小さくなります。

たとえば、ドライバーのフェースが右を向けば、ボールの打ち出し方向は右へ大きく変わります。

しかし、ロフトの大きいウェッジでは、同じ角度だけフェースを右へ向けても、ドライバーほど単純に右へ飛び出すわけではありません。

なぜでしょうか。

フェースの向きが、そのままボールの方向を決めているのであれば、ロフトが変わっても、同じフェース角の変化は同じように作用するはずです。

ところが、実際にはそうなりません。

ここに、クラブ側の向きだけではなく、ボール側の接触位置を考える必要があります。

ボールの重心を原点に置く

ボールを正面から見て、その重心を原点に置きます。

そして、

  • 左右方向をx軸
  • 上下方向をz軸

として考えます。

クラブフェースがボールへ接触するとき、フェースはボール全体へ同時に当たるわけではありません。

最初に接触する場所があります。

その場所からボールは変形し、接触面が広がっていきます。

つまり、インパクトを考えるうえでは、

フェースがどちらを向いていたか

だけでなく、

ボール重心から見て、球面上のどの位置へ接触したか

が重要になります。

ファジー・ゼラーがビリヤードを例に説明したのも、この点だったのでしょう。

キューを同じ方向へ動かしても、球の中心を撞くのか、上を撞くのか、下を撞くのか、左右へずれた場所を撞くのかによって、球の動きは変わります。

ゴルフボールも球体です。

クラブをどちらへ動かしたかだけでなく、ボールのどこへ力を加えたかによって、打ち出し方向と回転は変わるはずです。

ロフトが変わると接触位置も変わる

ロフトの小さいクラブでは、フェースは地面に対して比較的立っています。

そのため、フェースが右や左を向くと、ボールとの接触位置も、ボール重心から見て左右方向へ大きく移動しやすくなります。

一方、ロフトが大きくなると、フェースは上を向いていきます。

この状態では、同じ角度だけフェースを開閉しても、その変化はボール球面上の左右方向だけには現れません。

接触位置の変化が、上下方向にも多く配分されるようになります。

言い換えると、

ロフトが大きくなるほど、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のズレは小さくなる

と考えられます。

ここで重要なのは、フェース向きの変化そのものが消えるわけではないことです。

フェースは同じように開いています。

しかし、球体であるボールとの関係で見ると、その変化が左右方向へ現れる割合が小さくなるのです。

単純化した幾何学モデル

この関係を、簡単なモデルで考えてみます。

ボール半径を (R)。

クラブのロフトを (L)。

フェースの開度を (F)。

そして、ボール重心から見たコンタクトポイントの左右方向成分を (x) とします。

接触面を理想的な平面とし、ボールを完全な球体として単純化すると、左右方向の成分は、概念的に次の形で表せます。

[
x=R\cos L\sin F
]

この式は、実際の変形衝突を完全に表すものではありません。

ボールはインパクトでつぶれます。

フェースには溝があります。

打点やヘッド重心、アタックアングル、ライ角も影響します。

したがって、これはあくまで、ロフトとフェース開度によって球面上の接触位置がどう変わるかを考えるための、単純化した幾何学モデルです。

しかし、この式から一つの重要な傾向が分かります。

ロフト (L) が大きくなるほど、(\cos L) は小さくなります。

したがって、フェース開度 (F) が同じであっても、左右方向のズレ (x) は小さくなります。

同じフェース開度でも結果は同じではない

たとえば、フェースを同じ5度だけ右へ向けたとします。

低ロフトのクラブでは、コンタクトポイントはボール重心から見て、比較的大きく右方向へ移動します。

中ロフトのアイアンでは、その右方向への移動量は小さくなります。

高ロフトのウェッジでは、さらに小さくなり、接触位置の変化は主として上下方向へ現れるようになります。

つまり、

  • 低ロフトでは、フェース向きの変化が左右方向へ強く現れる
  • 高ロフトでは、フェース向きの変化が左右方向へ現れにくくなる

というポール・ウッドの研究結果を、ボール側のコンタクトポイントから説明できる可能性があります。

これまで、

ロフトが大きいほど、フェース向きの影響が小さくなる

という結果は知られていました。

しかし、それを単なる影響率として記憶するだけでは、なぜそうなるのかは見えてきません。

ボールを中心に置き、球面上の接触位置を考えると、その背景にある幾何学的な構造が見えてきます。

フェース向きがボールを飛ばすのか

一般には、

ボールの打ち出し方向は、主にフェース向きによって決まる

と説明されます。

実用上、それは一定の範囲で有効な説明です。

しかし、より正確に考えるなら、ボールがフェース角という数値を読み取って飛び出すわけではありません。

ボールは、接触中に力を受けて飛び出します。

その力が、

  • ボールのどの位置へ加わったのか
  • どの方向から加わったのか
  • 接触面がどのように広がったのか
  • ボールがどの方向へ変形したのか

によって、最終的な打ち出し方向と回転が決まります。

フェース向きは、その接触条件を作る重要な要素です。

しかし、フェース向きそのものが、単独でボールの飛び方を決めているわけではありません。

同じフェース向きでも、ロフトが変われば、ボール球面上のコンタクトポイントは変わります。

同じロフトでも、打点やアタックアングルが変われば、接触位置と力の向きは変わります。

そう考えると、クラブ側の数値は、ボールへ加わる力を決定する一つの条件であって、現象そのものではないことが分かります。

見えているフェースと、見えていない接触点

弾道計測器は、フェースが何度右を向いていたかを表示できます。

しかし、そのフェースが、ボール球面上のどこへ最初に接触したのかまでは、通常表示しません。

測定できるのはクラブ側の角度です。

一方、実際に力を受け取るのはボール側の接触点です。

ここに、見えているものと、まだ見えていないものの間があります。

低ロフトでは、フェース向きの変化が左右方向のコンタクト位置へ大きく現れる。

高ロフトでは、その変化が上下方向へ分散し、左右方向への影響が小さくなる。

このように考えれば、ロフトによってフェース向きの影響が変わることは、不思議な現象ではありません。

フェースの影響率が突然変わったのではなく、

ボール重心から見た、力の加わる位置と方向が変わった

と考えればよいのです。

ボールのどこに当たったのか

クラブパスが何度だったのか。

フェースが何度開いていたのか。

ダイナミックロフトが何度だったのか。

これらはすべて重要な情報です。

しかし、それらをボールの飛び方へつなげるには、もう一つの問いが必要です。

そのクラブは、ボールのどこに当たったのか。

ゼラーがビリヤードを使って説明した視点と、ポール・ウッドが示したロフトによる影響率の変化。

この二つをボール重心の座標上で考えると、別々に見えていた話がつながり始めます。

クラブの向きを見るだけではなく、ボールのどこへ力が加わったのかを見る。

それが、クラブ中心のインパクト理解から、ボール中心のインパクト理解へ移る第一歩です。

次回は、ロフトが大きくなることで左右方向への感度が下がり、なぜ高ロフトのクラブほど直進性が高く見えるのかを、もう少し具体的に考えていきます。

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