帝王の言葉 第5話 飛距離を無条件の利益にしないコース設定

前回は、ハーバータウン・ゴルフリンクスとオリンピッククラブを例に、開催コースが変われば、同じ選手でも飛距離の価値が変わることを考えました。

飛距離のある選手が勝つこと自体に、問題があるわけではありません。

問題は、遠くへ飛ばすことに、ほとんど代償がないことです。

現在の多くのツアー競技では、ティーショットを遠くへ飛ばすほど残り距離が短くなります。

残り距離が短くなれば、ロフトの大きなクラブを持つことができます。

短いクラブなら、高い球を打ちやすく、スピン量と落下角も確保しやすくなります。

その結果、ピンの近くへボールを止めることも容易になります。

つまり、

飛ばす。
残り距離を短くする。
短いクラブを持つ。
高い球でピンの近くへ止める。

という流れが、ほぼ一直線につながっています。

これでは、飛距離が単なる一つの技術ではなく、次のショットを簡単にするための万能の能力になってしまいます。

では、飛距離を抑えるためにフェアウェイを狭くし、ラフを深くすればよいのでしょうか。

それだけでは不十分です。

ロングヒッターは、飛距離のない選手よりも短いクラブでグリーンを狙えます。

飛ばない選手がフェアウェイから5番アイアンを持つ場面で、飛距離のある選手はラフから8番アイアンや9番アイアンを持てるかもしれません。

ラフへ入れた罰があっても、短いクラブと大きな出力によって、その不利を取り戻すことができます。

単にラフを深くするだけでは、飛距離の優位性は消えません。

むしろ、飛距離のない選手の方が、長いクラブで硬いグリーンへボールを止めなければならず、難しい課題を与えられることになります。

必要なのは、飛距離を直接罰することではありません。

飛ばした先から、ピンの周辺へボールを止めにくくすることです。

例えば、ティーショットが300ヤードを超えると、フェアウェイを突き抜けてセミラフまで転がるようにします。

残り距離は短くなります。

しかし、セミラフからはボールとフェースの間に芝が入り、スピン量や打ち出し条件が不安定になります。

フライヤーが出れば、短いクラブでもグリーン上へ正確に止めることはできません。

さらに、飛ばした先のフェアウェイをグリーンに対して悪い角度にすれば、短いクラブを持つ利益は小さくなります。

手前のバンカーを越えなければならない。

グリーンの奥行きを使えない。

着弾地点からピンまでの停止距離がない。

グリーン面が奥へ下っている。

こうした条件が重なれば、残り距離が短くても、ピンの周辺へボールを止めることは難しくなります。

一方、280ヤード地点の正しい場所へティーショットを置けば、残り距離は長くなります。

しかし、フェアウェイからクリーンに打てる。

グリーンの奥行きを使える。

手前の広い着弾地点を使える。

受け傾斜へボールを落とせる。

そうなれば、長いクラブを持っていても、戦略によってボールを止めることができます。

ここで、飛距離に初めて交換条件が生まれます。

300ヤードを超えて飛ばせば、残り距離は短くなる。

しかし、ボールを止めるためのライと角度を失う。

少し距離を抑えれば、残り距離は長くなる。

しかし、ボールを止められる場所と角度を得る。

どちらを選ぶのかは、ピン位置、風、地面の硬さ、選手の持ち球によって変わります。

毎回同じ答えにはなりません。

この「答えが一つではない」ということが、ゴルフの戦略です。

飛距離のある選手は、それでも大きな武器を持っています。

正しい方向へ300ヤードを運ぶことができれば、大きな利益を得られます。

しかし、方向や着弾地点を間違えれば、その飛距離が次打を難しくする。

飛距離が武器であると同時に、使い方を問われる能力になります。

スタジアムコースが作った、もう一つの問題

ここで考えなければならないのが、PGAツアーのスタジアムコースです。

スタジアムコースは、多くの観客を収容し、トップ選手のプレーを間近で見せることを目的に造られています。

観客が立てる広い場所。

選手を追いかけやすい動線。

テレビカメラを配置しやすい空間。

グリーン周辺を囲む観戦席。

興行を成立させるためには、非常に合理的な構造です。

しかし、観客を入れやすいことと、競技として優れたターゲットを作ることは、同じではありません。

ホールの両側へ多くの観客を配置すると、本来なら林や深いラフへ入るはずだったボールが、観客や仮設物によって止められることがあります。

ラフは観客に踏み固められます。

大きく曲げても、ボールはすぐに発見されます。

観客用の通路や仮設物の近くでは、ルール上の救済を受けられる場合もあります。

つまり、ホールの両側にいる観客が、ミスショットを受け止めるセーフティーネットになるのです。

フェアウェイが30ヤードしかなくても、その両側に観客エリアが広がっていれば、選手が実際に使える幅は、それ以上に広くなります。

コース図では狭く見えても、競技上の有効幅は観客席まで広がってしまいます。

これでは、フェアウェイを狭く設定しても、本来の効果は得られません。

また、スタジアム型の会場では、観客へ派手なショットを見せるために、ドライバーを思い切り振れるホールが好まれます。

広い着弾地点。

短いパー4のワンオン。

パー5の2オン。

大量のバーディーやイーグル。

こうした場面は、テレビ中継でも分かりやすく、観客も盛り上がります。

しかし、それが繰り返されると、コースはターゲットを示す場所ではなく、飛距離を展示する舞台になってしまいます。

観客を入れるための広さが、そのまま選手の許容範囲になっていることが問題なのです。

観客のために、コースを簡単にする必要はない

では、観客を減らさなければならないのでしょうか。

そうではありません。

現在には、ドローン、高倍率カメラ、弾道追尾、大型ビジョン、スマートフォンへの映像配信があります。

観客をホールの両側へ並べなくても、選手のプレーを届けることはできます。

例えば観客を、

ティーイングエリア周辺。

グリーン周辺。

複数ホールを見渡せる丘。

大型ビジョンを備えた集中観戦エリア。

安全に管理できる特定のホール。

へ集約します。

グリーン周辺の観客は、大型ビジョンでティーショットやセカンドショットを確認できます。

ドローン映像なら、選手がどこを狙い、ボールがどのルートを飛び、どの位置に止まったのかを上空から見せられます。

弾道追尾とコース図を組み合わせれば、

なぜドライバーを持たなかったのか。

なぜフェアウェイの左側を狙ったのか。

なぜ20ヤード短く打ったのか。

次打でどの着弾地点を使おうとしているのか。

まで観客へ伝えられます。

これは、単に従来の観戦を映像で代替するだけではありません。

飛距離以外の技術を、観客が理解するための装置にもなります。

観客をコースの両側へ並べ、選手の近くへ連れていくのではありません。

コース全体と選手の戦略を、映像によって観客へ届けるのです。

こうすれば、観客数を維持しながら、ラフや林、傾斜といった本来のペナルティを守ることができます。

スタジアムコースでも、敷地全体は広く使いながら、選手が狙うべき有効なターゲットを狭く設定できます。

観客のための空間と、競技のための空間を分ければよいのです。

フェアウェイの中にも、正解と不正解を作る

現代のコース設定には、もう一つ問題があります。

それは、ティーショットの落下地点だけでなく、フェアウェイのどこから打っても、グリーンへの条件があまり変わらないことです。

フェアウェイの左側でも右側でも、短いクラブを持てばピンを狙える。

これでは、ティーショットの方向性は、フェアウェイに入ったかどうかだけで評価されます。

本来は、フェアウェイの中にも正しい場所と間違った場所が必要です。

右側のピンに対して、左側のフェアウェイからならグリーンの奥行きを使える。

右側からは、バンカーや急な傾斜を越えなければならない。

翌日は左側にピンを切り、正しいティーショットの位置も反対側に変える。

ピン位置とティーショットのターゲットを連動させれば、同じホールでも毎日違う攻略が生まれます。

選手は、単にフェアウェイへ打つのではありません。

次のショットから逆算して、フェアウェイ内のどこへ打つのかを決める必要があります。

そして、ボールを止めるために使えるスペースを設計することも重要です。

グリーンを硬くするだけでは、すべての選手が止めにくくなるだけです。

正しい場所からなら、グリーンの手前へ着弾させ、傾斜とランを使ってピンへ寄せられる。

間違った場所からは、その着弾地点がバンカーやマウンドによって隠される。

こうすれば、ボールを止める能力は、クラブのロフトだけでなく、ティーショットの位置と戦略によって決まります。

ゴルフは、ボールを空中から直接ピンの近くへ止める競技だけではありません。

地面へ着弾させ、傾斜と速度を使い、最終的な停止地点を作る競技でもあります。

ところが現代のツアーでは、短いクラブで高い球を打ち、直接グリーンへ止める方法が優先されます。

飛距離によって短いクラブを持てる選手ほど、地形や角度を考える必要がなくなります。

それでは、コースが持つ立体的な意味が失われてしまいます。

飛距離問題の解決策は、すべての選手を同じ距離まで戻すことではありません。

飛距離が、常に同じ利益を生む構造を変えることです。

飛ばした方がよいホールがあってもよい。

距離を抑えた方がよいホールがあってもよい。

飛ばすなら、方向と着弾地点まで正確でなければならない。

抑えるなら、長いクラブでボールを止める技術が必要になる。

異なる選手が、異なる方法で同じターゲットへ到達できる。

その多様性こそが、ゴルフを単なる飛距離競争ではなく、技術と判断を問う競技にします。

必要なのは、ロングヒッターを排除するコースではありません。

飛距離だけでは正解にたどり着けないコースです。

そして現代の映像技術があれば、観客動員のために、そのターゲットを広げる必要もありません。

観客を多く入れることと、選手に簡単なコースを提供することは、まったく別の問題なのです。

次回は、飛距離を商品として売ってきたメーカーとメディアが、ゴルファーの価値観をどのように変えたのかを考えます。

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