見えないものを見る 第1話 コペルニクスは、なぜ中心を入れ替えたのか

コペルニクス的発想の転換とは、既存の理論に新しい説明を付け加えることではありません。

自分が立っている場所そのものを、別の位置から見直すことです。

かつて人類は、地球を中心に太陽や星が動いていると考えていました。

なぜ、人類は間違えたのでしょうか。

当時の人々の観察力が低かったからではありません。

地球が動いていることが、見えなかったからです。

地面に立っていても、地球が自転している感覚はありません。

一方、太陽は東から昇り、西へ沈んで見えます。

夜空の星も、時間とともに空を移動していきます。

見えているものだけを素直に受け取れば、空が動き、地球は止まっていると考える方が自然です。

しかし、コペルニクスは、見えている天体の動きに説明を付け足したのではありません。

地球を中心から外し、地球そのものが動いていると考えました。

現象を見る中心を入れ替えたのです。

人間は、網膜に映った画像を、そのまま脳内へ転写しているわけではありません。

目に入った情報を、知識や経験、身体感覚と組み合わせて、意味のある世界へ再構成しています。

その証拠に、現代人が夜空の星や太陽の動きを見ても、それをそのまま天体が地球の周囲を回っている証拠だとは考えません。

網膜に映る景色は、昔の人々とほとんど変わらないはずです。

変わったのは、画像を処理するための知識です。

人は、見たものをそのまま理解しているのではありません。

持っている知識を通して、見たものを解釈しています。

ある洋装店の社長は、メジャーで測らなくても、女性のスリーサイズがほぼ分かると話しています。

もちろん、特殊な視力を持っていたわけではありません。

  • 肩幅。
  • 胸郭の厚み。
  • ウエストの絞れ方。
  • 骨盤の幅。
  • 姿勢。
  • 衣服の張り方。
  • 生地の落ち方。

そうした複数の情報を、長年の知識と経験によって、寸法へ変換していたのでしょう。

その店で、ある女性が一着の服を見て、自分の身体にはサイズが合わないと判断しました。

そして、断り文句のつもりで、

「もし私が着られるなら買います」

と言ったそうです。

ところが社長は、その女性の体形だけでなく、服の裁断、生地、伸縮性、仕上がり寸法、着用時のゆとりまで理解したうえで、

「ぜひ試着してみてください」

と勧めました。

服は見事にジャストフィットしました。

女性は、約束どおり、その服を購入することになったそうです。

女性が見ていたのは、服に表示されたサイズでした。

社長が見ていたのは、女性の身体と、その服が実際に組み合わされたときに生まれる形でした。

社長は数字を無視したのではありません。

表示された数字よりも多くの情報を、目の前の画像から読み取っていたのです。

熟練者の目とは、単なる目測ではありません。

知識と経験というフィルターを通して、画像を構造や数値へ変換する計測器です。

ゴルフのインパクト映像も、これと同じではないでしょうか。

現代の技術によって、クラブパス、フェース向き、アタックアングル、ダイナミックロフトなど、クラブの動きは以前より詳しく見えるようになりました。

その結果、旧来の飛球線法則は、Dプレーンという考え方へ更新されました。

これは大きな進歩です。

しかし、見えるようになったのは、クラブの動きです。

クラブフェースが、ボール球面上のどの位置へ接触したのか。

接触面がどのように広がったのか。

ボールカバーが、どの方向へ変形したのか。

どの位置へ、どの方向の力が加わったのか。

その部分は、今も正確な数値としては見えていません。

だからといって、何も分からないわけではありません。

クラブのロフト。

フェースの開き。

アタックアングル。

リーディングエッジの高さ。

ボールが芝によって支持される高さ。

インパクト時のボールの変形。

フェースから離れた直後の打ち出し方向と回転。

何を見るべきかを知っていれば、映像からコンタクトポイントをかなり狭い範囲まで推定できます。

見えないから分からないのではありません。

何を見るべきかを知らなければ、見えていても読み取れないのです。

以前、ファジー・ゼラーがGolf Channelのフルショット解説で、ビリヤードを例に挙げていました。

ビリヤードでは、キューをどちらへ動かしたかだけでは、球の動きを説明できません。

球の中心を撞いたのか。

上を撞いたのか。

下を撞いたのか。

中心から左右へずれた場所を撞いたのか。

球のどこへ力を加えたかによって、打ち出し方向も回転も変わります。

ゼラーが見ていたのは、クラブの動きだけではありません。

球体であるボールのどこへコンタクトするのかという、ボール側の位置でした。

この説明は、一人の名手が使った感覚的な比喩に見えるかもしれません。

しかし、PINGのポール・ウッドが示した研究結果と並べると、別の意味を持ち始めます。

ポール・ウッドの研究では、フェースの向きがボールの方向へ与える影響は、クラブのロフトによって変化します。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化がボールの左右方向へ強く現れます。

一方、ロフトが大きくなるほど、同じフェース角の変化でも、ボールの左右方向への影響は小さくなります。

なぜ、フェースの向きが同じように変化しているのに、ロフトによってボールへの影響が変わるのでしょうか。

ゼラーは、球のどこへ力を加えるかを見ていました。

ポール・ウッドは、ロフトによってフェース向きの影響率が変わることを示しました。

二つは別々の話に見えます。

しかし、球体であるボールを中心に置けば、同じ構造を異なる方向から見ていた可能性があります。

人類は、見えるものを中心に理論を作ります。

しかし、見えるようになったものが、必ずしも現象の中心とは限りません。

かつて人類は、動いて見える空を中心に宇宙を考えました。

現在のゴルフ理論は、測定できるようになったクラブの動きを中心に、インパクトを考えています。

では、実際に力を受け取り、速度と方向と回転を得て飛び出していくボールを中心に置いたとき、同じ現象はどのように見えるのでしょうか。

次回は、ボールの重心を原点に置き、ロフトとフェース向きによって、球面上のコンタクトポイントがどのように変化するのかを考えます。

見えないものを、知識によって見えるようにする。

そこでどのような物理現象が起こり、それによってボールがどのように速度、方向、回転を得るのかを考えることが、本当の意味でボールをコントロールする第一歩になるはずです。

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