帝王の言葉 第3話 全米オープンは2016年から変わったのか

前回は、ジャック・ニクラスが40年以上前に開発へ関わった「ケイマンボール」から、現在の飛距離問題を考えました。

今回は、全米オープンの歴代優勝者を振り返ってみます。

全米オープンは、長い距離、狭いフェアウェイ、深いラフ、硬く速いグリーンによって、選手の総合力を試す大会とされてきました。

しかし、過去40年間の優勝者を並べてみると、2016年を境に、優勝する選手のタイプが変わっているように見えます。

まず、1986年から2015年までの優勝者です。

1986年 レイモンド・フロイド
1987年 スコット・シンプソン
1988年 カーティス・ストレンジ
1989年 カーティス・ストレンジ
1990年 ヘール・アーウィン
1991年 ペイン・スチュワート
1992年 トム・カイト
1993年 リー・ジャンゼン
1994年 アーニー・エルス
1995年 コリー・ペイビン
1996年 スティーブ・ジョーンズ
1997年 アーニー・エルス
1998年 リー・ジャンゼン
1999年 ペイン・スチュワート
2000年 タイガー・ウッズ
2001年 レティーフ・グーセン
2002年 タイガー・ウッズ
2003年 ジム・フューリク
2004年 レティーフ・グーセン
2005年 マイケル・キャンベル
2006年 ジェフ・オギルビー
2007年 アンヘル・カブレラ
2008年 タイガー・ウッズ
2009年 ルーカス・グローバー
2010年 グレーム・マクドウェル
2011年 ローリー・マキロイ
2012年 ウェブ・シンプソン
2013年 ジャスティン・ローズ
2014年 マルティン・カイマー
2015年 ジョーダン・スピース

この30年間にも、タイガー・ウッズ、アーニー・エルス、ローリー・マキロイ、アンヘル・カブレラのような飛距離のある選手はいました。

しかし、その一方で、

ヘール・アーウィン。
トム・カイト。
コリー・ペイビン。
リー・ジャンゼン。
ペイン・スチュワート。
ジム・フューリク。
グレーム・マクドウェル。
ウェブ・シンプソン。

といった、ツアーを代表するロングヒッターではない選手も全米オープンを制しています。

さらに、カーティス・ストレンジ、スコット・シンプソン、マイケル・キャンベル、ジェフ・オギルビーなど、飛距離だけを最大の武器としていたわけではない選手にも、優勝への道が残されていました。

もちろん、飛距離のある選手が勝つ年もある。

飛距離のない選手が、正確性や距離管理によって勝つ年もある。

優勝者の顔ぶれには、選手の能力と攻略法の多様性がありました。

飛距離のない選手は、飛ばないことを単純に補おうとしたのではありません。

ティーショットを正しい場所へ置く。

グリーンへ入れる角度を作る。

距離を正確に打ち分ける。

打ってはいけない場所を避ける。

そして、長いクラブでも狙った場所へボールを止める。

そうした技術と判断によって、飛距離のある選手と異なる方法で勝つことができました。

ところが、2016年以降の優勝者を見ると、様子が変わります。

2016年 ダスティン・ジョンソン
2017年 ブルックス・ケプカ
2018年 ブルックス・ケプカ
2019年 ゲーリー・ウッドランド
2020年 ブライソン・デシャンボー
2021年 ジョン・ラーム
2022年 マット・フィッツパトリック
2023年 ウィンダム・クラーク
2024年 ブライソン・デシャンボー
2025年 J.J.スポーン

この10年間の優勝者は、それ以前と比べて、明らかに十分な飛距離を持つ選手へ偏っています。

ダスティン・ジョンソンは、長年にわたってPGAツアーを代表するロングヒッターでした。

ブルックス・ケプカ、ゲーリー・ウッドランド、ブライソン・デシャンボー、ジョン・ラーム、ウィンダム・クラークも、飛距離を大きな武器とする選手です。

2025年のJ.J.スポーンは、この流れの中では例外に近い存在でしょう。

マット・フィッツパトリックも、以前は正確性やコースマネジメントを中心とする選手と見られていました。しかし、2022年に全米オープンを制するまでに、大幅な飛距離アップへ取り組んでいます。

つまり、もともと高いコントロール技術を持つ選手でさえ、現代の全米オープンを勝つには、さらに飛距離を加える必要があったとも考えられます。

では、2016年を境に、飛距離のない選手の技術が落ちたのでしょうか。

私は、そうは思いません。

現代の選手は、弾道計測、クラブフィッティング、スイング分析、フィジカルトレーニング、コースデータなど、過去とは比較にならないほど多くの情報を使っています。

ショット精度や距離管理の水準が、突然低下したとは考えにくいでしょう。

変わったのは選手の技術ではなく、コースが技術を評価する方法ではないでしょうか。

コースを長くする。

ラフを深くする。

グリーンを硬くする。

一見すると、これはロングヒッターを抑える設定に見えます。

しかし実際には、飛距離のある選手ほど、長いホールでも短いクラブを持つことができます。

ラフに入っても、ほかの選手よりロフトの大きなクラブで打てる。

高い球を打ち、大きな落下角でグリーンへ止められる。

つまり、飛距離を抑えるためにコースを長くした結果、飛距離を持たない選手の方が、さらに難しいショットを要求されることになります。

2016年のオークモントで勝ったのはダスティン・ジョンソンでした。

翌年のエリンヒルズでは、広く長いコースをブルックス・ケプカが制しました。

その後も、飛距離のある選手が優勝を続けています。

これは偶然なのでしょうか。

あるいは全米オープンが、正確性とボールコントロールを試す大会から、まず一定以上の飛距離を持っていなければ勝負へ参加できない大会へ変わったのでしょうか。

もちろん、2016年以降の優勝者が、飛距離だけで勝ったわけではありません。

彼らはアイアンショット、ショートゲーム、パッティング、精神力まで含めた、非常に高い総合技術を持っています。

問題は、ロングヒッターに技術があるかどうかではありません。

飛距離を持たない選手が、別の高い技術によって勝つための道が、コース設定の中に残されているかどうかです。

1986年から2015年までの全米オープンでは、飛距離のある選手にも、飛距離以外を武器にする選手にも、優勝の可能性がありました。

しかし2016年以降、その多様性が急速に失われたように見えます。

2016年以降の優勝者の変化は、飛距離のない選手の技術が落ちたことを示しているのではありません。

むしろ、飛距離のない選手の高度な技術を、勝利へ変換しにくい大会になった可能性を示しているのではないでしょうか。

次回は、ハーバータウンやオリンピッククラブでの試合を例に、なぜ同じ選手、同じクラブ、同じボールでも、コースが変われば飛距離の優位性が小さくなるのかを考えます。

コメントを残す