抵抗があるから、精密に動かせる
PING SCOTTSDALE TEC ALLY BLUE ONSET は、日米で驚異的なパッティング成績を生んでいます。
その理由を読み解く鍵として、PINGのマーティ・ジャートソンが紹介しているのが、Episode 77: Putter Torque featuring Dr. Erik Henrikson です。
このシリーズでは、このエピソードをもとに、パターの重心、トルク、視覚、触覚、フェース向きの再現性を整理していきます。
前回は、ゼロトルクだけが正解ではないという話をしました。
トルクは、フェースを乱すだけのものではありません。
手の中にフェースの向きや重心の位置を知らせる、感覚のシグナルになることがあります。
では、なぜそのようなシグナルが必要なのでしょうか。
今回のテーマは、ここです。
抵抗があるから、精密に動かせる。
多くのゴルファーは、クラブやパターについて、こう考えがちです。
軽い方が振りやすい。
抵抗が少ない方が動かしやすい。
フェースが勝手に動かない方が安心。
余計なトルクはない方がよい。
もちろん、その考え方が当てはまる場面もあります。
重すぎるパターは、動かしにくい。
抵抗が強すぎると、ストロークがぎこちなくなる。
フェースの開閉が大きすぎると、インパクトで合わせにくくなる。
しかし、逆もあります。
軽すぎると、どこへ動いているのか分かりにくい。
抵抗がなさすぎると、フェースの向きが感じにくい。
手の中に情報がなければ、精密に戻す手がかりがなくなる。
これが、PING Proving Grounds Podcastで語られている非常に重要な考え方です。
Podcastの中で、ドクター・エリック・ヘンリクソンは、いくつかの例を挙げています。
たとえば、外科用の道具です。
手術に使う器具は、極端に軽いものではありません。
ある程度の重さ、ある程度の抵抗があります。
なぜなら、精密に動かす必要があるからです。
軽すぎる道具は、一見扱いやすそうに思えます。
しかし、手の中に存在感がなければ、刃先がどこにあるのか、どれくらいの力で動いているのかが分かりにくくなります。
人の体を扱う道具では、わずかなズレが大きな問題になります。
だから、手の中で感じられる抵抗が必要になります。
これは、パターにも似ています。
パターも、ほんのわずかなフェース角のズレが、ボールの出だしを変えてしまいます。
1メートル、2メートルのパットでは、ほんの少しフェースが開いただけで外れます。
ほんの少し被っただけで、カップの左を抜けます。
だから、手の中でフェースの向きを感じられることが重要になります。
もうひとつ、ピアノの鍵盤の例も出てきます。
グランドピアノの鍵盤には、適度な重さがあります。
もし鍵盤が軽すぎたら、正確な強弱を出すのは難しくなります。
指先に抵抗があるから、音の強さ、タイミング、タッチをコントロールできます。
高級なPCのキーボードは、ある程度の重さがあって、その強さを超えるとすっと押し込めます。
重さがあるから難しいのではありません。
適度な重さがあるから、精密に扱える。
これも、パターに通じます。
パターが軽すぎると、手先だけで動かしやすくなります。
しかし、そのぶんヘッドの位置やフェースの向きを感じにくくなる場合があります。
逆に、ある程度のヘッドの重さや慣性があると、ストローク中にヘッドの存在を感じられます。
どこにヘッドがあるか。
どちらへ動いているか。
フェースが開いているのか、閉じようとしているのか。
そうした情報が手に入ることで、プレーヤーはインパクトでフェースを戻しやすくなります。
Podcastでは、ダンベルの例も紹介されています。
初心者にベンチプレスをさせるとき、怪我をさせたくないので、非常に軽いダンベルを持たせる。
すると、かえってフォームが安定しないことがあります。
軽すぎるために、どこへ動かしているのか分からない。
腕がふらつく。
軌道が安定しない。
そこで、少しだけ重さを加える。
すると、抵抗が生まれ、動きの方向を感じやすくなる。
結果として、フォームが安定する。
これは非常に分かりやすい例です。
抵抗があるから、体は方向を理解できる。
重さがあるから、動きの軌道を感じられる。
適度な負荷があるから、精密に動かせる。
パターもまったく同じです。
ここで大切なのは、重ければよいという話ではないことです。
重すぎるパターは、合わない人には合いません。
ヘッドの抵抗が強すぎると、ストロークが止まる人もいます。
距離感が出しにくくなる人もいます。
フェースを戻しきれなくなる人もいます。
逆に、軽いパターが合う人もいます。
テンポが速い人。
手の感覚で細かくコントロールしたい人。
ヘッドの重さに引っ張られたくない人。
そういう人にとっては、軽さが助けになる場合もあります。
つまり、問題は重いか軽いかではありません。
自分にとって、精密に動かせる抵抗になっているか。
ここが大切です。
パターの抵抗には、いくつかの種類があります。
ヘッド重量による抵抗。
ヘッドの慣性モーメントによる抵抗。
重心深度による抵抗。
トゥハングによる抵抗。
シャフト軸と重心のズレによる抵抗。
ストローク中にフェースが開閉するときの抵抗。
これらが組み合わさって、プレーヤーの手の中に感覚を作ります。
フェースを大きく開閉するプレーヤーには、ある程度の抵抗が必要になることがあります。
なぜなら、開いたフェースをどれくらい戻すのか、その情報を手の中で感じたいからです。
逆に、フェースローテーションが少ないプレーヤーには、大きな抵抗は必要ないかもしれません。
あまり多くの情報が入ると、逆に操作しすぎてしまうこともあります。
だから、フィッティングが必要になります。
その人にとって、どれくらいの抵抗がフェース管理を助けるのか。
これを見なければいけません。
この考え方は、パター選びを大きく変えます。
「重いパターは安定する」
「軽いパターは操作しやすい」
「マレットはやさしい」
「ブレードは感覚が良い」
こうした言い方は、半分は正しいですが、半分は足りません。
本当に見るべきなのは、
その重さでフェースを感じられるか。
その抵抗でストロークが安定するか。
そのヘッド形状でインパクトのフェース角が揃うか。
そのトルクが、自分にとって情報になるか、邪魔になるか。
です。
パターの役割は、ヘッドをただ動かすことではありません。
インパクトでフェースを狙った方向に戻すこと。
そのために、適度な抵抗が必要になる場合があるのです。
ここで、SCOTTSDALE TEC ALLY BLUE ONSETをもう一度見てみます。
このパターは大型マレットです。
大型マレットには、ヘッドサイズによる安心感があります。
慣性モーメントの高さもあります。
芯を外したときの許容性もあります。
しかし、それだけではありません。
ALLY BLUE ONSETは、オンセット構造によって、フェース全体が見えやすい。
トップレールが見えやすい。
ホーゼルが視覚的に邪魔になりにくい。
さらに、シャフト軸と重心の関係によって、マレットでありながらブレードに近い感覚を残しています。
これは、非常に重要です。
単なる大型マレットなら、安心感はあっても、フェースの感覚が薄くなることがあります。
逆にブレードなら、フェースの感覚は出やすいが、ミスヒットへの許容性は小さくなることがあります。
ALLY BLUE ONSETは、その中間を狙っているように見えます。
マレットのやさしさ。
ブレードのようなフェース感覚。
そして、精密に動かすための適度な抵抗。
ここに、このパターの面白さがあります。
パッティングで本当に難しいのは、強く打つことではありません。
小さく、正確に動かすことです。
ドライバーのように大きなスイングをするわけではありません。
アイアンのように強い入射角で打ち込むわけでもありません。
パターは、わずかな動きでボールを打ちます。
しかし、そのわずかな動きの中で、フェース角、打点、テンポ、距離感を合わせなければなりません。
だからこそ、道具からの情報が重要になります。
手の中に何も情報がないと、微妙な調整が難しくなります。
逆に、情報が多すぎると、操作しすぎることもあります。
大切なのは、ちょうどよい情報です。
ちょうどよい重さ。
ちょうどよい抵抗。
ちょうどよいフェースの感じ方。
ちょうどよい重心の存在感。
これが合うと、パターはストロークを助けてくれます。
今回の結論です。
抵抗があるから、精密に動かせる。
パターは軽ければよいわけではありません。
トルクが少なければよいわけでもありません。
何も感じないことが、常に良いわけでもありません。
適度な抵抗があるから、ヘッドの位置が分かります。
適度な重さがあるから、フェースの向きが分かります。
適度なトルクがあるから、重心の方向が分かります。
その情報があるから、インパクトでフェースを戻す手がかりになります。
パター選びで見るべきなのは、
自分にとって精密に動かせる抵抗があるかどうか
です。
SCOTTSDALE TEC ALLY BLUE ONSETが面白いのは、大型マレットの安心感を持ちながら、手の中でフェースを感じるための情報を残しているところです。
それは、単なる流行の形ではありません。
スコアを縮めるための、感覚設計です。
次回は、PINGの歴史に戻ります。
なぜKarsten Solheimは、重心を「押す」のではなく「引く」と考えたのか。
そして、なぜプラマーズネックが生まれたのか。
第5話では、
PINGパターの原点は「重心を引く」ことにあった
というテーマを整理していきます。
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