第4話 クラブが長くなると、なぜこの現象が起きやすくなるのか

長さは飛距離だけでなく、手元高さと力のベクトルを変える

前回は、PINGのカラーコードチャートについて考えました。

PINGのカラーコードチャートは、単なるライ角表ではありません。

身長と手首から床までの長さをもとに、その人に合いやすいクラブ長とライ角の基準を出す。
つまり、その人がクラブを自然に扱える手元高さを探している。

そう見ると、カラーコードチャートの意味はかなり変わります。

ライ角とは、フェースの向きを変えるだけのものではありません。
ライ角とは、手元の高さを変えるものです。

手元の高さが変われば、クラブの通り道が変わります。
クラブの通り道が変われば、インパクトでボールに加わる力のベクトルが変わります。

ここまで整理すると、次に見えてくる問題があります。

それが、

クラブが長くなるほど、この問題は大きくなる

ということです。


長いクラブは、ただ難しいのではない

よく、

「フェアウェイウッドは長いから難しい」
「ロングアイアンは長いから難しい」
「ドライバーは長いから安定しない」

と言われます。

もちろん、それは間違いではありません。

クラブが長くなれば、ヘッドは遠くなります。
遠くなれば、芯に当てるのは難しくなります。
振り遅れも起きやすくなります。

しかし、私はここで少し違う見方をしたいと思います。

長いクラブが難しい理由は、単に長いからではありません。

長くなることで、手元高さのズレ、ライ角のズレ、クラブの通り道のズレ、力のベクトルのズレが増幅されるから難しい

のです。

ここを見ないと、長いクラブの問題を正しく理解できません。 “第4話 クラブが長くなると、なぜこの現象が起きやすくなるのか” の続きを読む

第4話 オープン度で加速距離 s を変える

m と a を一定にし、s だけを変えて V を管理する

ここまで、アプローチの距離感を 入力 という視点から整理してきました。

第1話では、オリムピッククラブで見たイアン・ポールターのアプローチ練習から、
アプローチはボールではなく、ウェッジへの入力から始まる
という話をしました。

第2話では、距離感を難しくしている要因として、有効重量 m を取り上げました。

同じヘッドスピードで振っているつもりでも、身体・腕・クラブのリンクが毎回変われば、ウェッジに乗る有効重量 m が変わってしまう。

だから、オープンスタンスによって身体・腕・クラブのリンクを保ち、
有効重量 m を一定に近づける
という話をしました。

第3話では、加速度 a を扱いました。

アプローチで「同じスピードで振る」と言われることがありますが、物理的にはクラブヘッドはトップからインパクトへ向かって加速しています。

本当にそろえるべきなのは、等速ではなく、
PP#3にかかる圧力を一定にし、加速度 a を一定に近づけること
だと整理しました。

では、最後に残る問題です。

m を一定にする。
a を一定にする。

そのうえで、距離は何で変えるのか。

答えは、s = 加速距離 です。 “第4話 オープン度で加速距離 s を変える” の続きを読む

第3話 PP#3にかかる圧力をそろえる

加速度 a を一定にするという高品質な距離感

前回は、アプローチにおけるオープンスタンスの本質を、有効重量 m という考え方から整理しました。

アプローチの距離感は、単にヘッドスピードだけで決まるわけではありません。

身体、腕、クラブがどれだけ一体になって動いているか。
ウェッジにどれだけの質量が乗っているか。

ここが毎回変われば、同じように振ったつもりでも、ボールに伝わる仕事量は変わります。

つまり、

Vを合わせているつもりでも、mが毎回変わっている。

これが、アプローチの距離感を難しくしている大きな理由です。

そこで前回は、オープンスタンスによって身体・腕・クラブのリンクを保ち、有効重量 m を一定に近づけるという話をしました。

今回は、その次の段階です。

有効重量 m が一定に近づいても、まだ距離感が安定しない理由があります。

それが、加速度 a です。


距離感は、速度だけではなく加速度で決まる

アプローチではよく、

「同じスピードで振りましょう」
「ゆっくり振りましょう」
「テンポをそろえましょう」

と言われます。

もちろん、これらは間違いではありません。

しかし、物理的に考えると、少し曖昧です。

クラブはトップで静止に近い状態から、インパクトに向かって動きます。
ということは、インパクトまでにクラブヘッドは速度を増していきます。

つまり、実際には加速しているわけです。

完全な等速であれば、ヘッドスピードは増えません。
トップからインパクトまで同じ速度なら、ボールへ必要な仕事量を作ることはできません。

ですから、アプローチで本当に大事なのは、

等速で振ることではなく、加速度をそろえること

だと考えた方がよいのです。 


V² = 2as で考える

ここで、単純な式を使います。

V² = 2as

です。

ここで、

V = インパクト時のヘッド速度
a = 加速度
s = 加速距離

です。

アプローチの距離を変える時、多くの人は V、つまりインパクト時のヘッド速度だけを見ます。

しかし、Vは勝手に決まるものではありません。

Vは、

どれくらいの加速度 a で
どれくらいの距離 s を加速したか

によって決まります。

つまり、距離感を安定させるには、Vだけを見ていても不十分です。

その手前にある、

a と s をどう管理するか

が大事になります。


加速度 a が毎回変わると、距離はそろわない

前回、有効重量 m を一定にする話をしました。

しかし、m が一定に近づいても、ダウンスイングで加速度 a が毎回変われば、インパクト時の V は変わります。

たとえば、同じトップの大きさでも、

ある時は強く打ちにいく。
ある時は緩める。
ある時は切り返しで急ぐ。
ある時はインパクト直前で止める。
ある時は手首だけが急に動く。

これでは、加速度 a が毎回変わってしまいます。

すると、同じ加速距離 s であっても、インパクト時の V は変わります。

つまり、

m をそろえても、a が変われば距離は変わる

ということです。

ここで必要になるのが、加速度を一定にするための感覚です。


PP#3というセンサー

TGM、つまり『The Golfing Machine』では、プレッシャーポイントという考え方があります。

その中でも、今回重要になるのが プレッシャーポイント3 です。

一般的には、右手人差し指の付け根側に感じるクラブからの圧力、と考えるとわかりやすいと思います。

ダウンスイングでクラブが下りてくる時、右手人差し指の付け根付近に、クラブとの接触圧を感じる。

この圧力が、毎回強くなったり弱くなったりしていると、クラブに対する入力も変わっている可能性が高い。

反対に、ダウンスイングからインパクトまで、このPP#3にかかる圧力を一定に感じられれば、ウェッジに与えている加速度 a も一定に近づく。

これは、かなり質の高い距離感の作り方だと思います。


PP#3が感じているもの

ここで、少し丁寧に整理しておきたいことがあります。

PP#3は、単純に「重力」を感じているわけではありません。

ダウンスイングでは、クラブはトップからインパクトへ向かって下りていきます。
したがって、クラブ全体の運動には、重力による加速も含まれています。

これは大切な補足です。

しかし、PP#3が圧力として感じている中心は、重力そのものではありません。

なぜなら、クラブにも、手にも、身体にも、同じように重力はかかっているからです。
単純な落下そのものは、PP#3の圧力としては感じにくい。

PP#3が感じているのは、主にクラブと手の間に生じる相対的な圧力です。

身体の回転によってクラブを動かす。
クラブは慣性によって遅れようとする。
そのクラブをプレーン上に保つ。
その時に、右手人差し指付け根側に感じる圧力がPP#3です。

つまり、クラブの運動には重力による加速も含まれます。
しかし、PP#3で管理したい中心は、

自分自身の回転運動によってクラブに与えている加速度入力の一定感

です。

ここを誤解すると、PP#3を「右手で押す場所」と考えてしまいます。

しかし、今回のアプローチで大事なのは、右手で強く押すことではありません。

PP#3にかかる圧力を一定に保つこと。

これが大切です。


ポールターの「加速してインパクトを迎える」という言葉

ここで、もう一度ポールターの話に戻ります。

ポールターのアプローチに関する説明で印象的なのは、

加速してインパクトを迎える

という考え方です。

ただ、この言葉は少し丁寧に扱う必要があります。

プロが練習の中で本能的に身につけているのは、インパクトで急に力を入れる動きではありません。

むしろ、

大きく上げてインパクトで弱めない。
クラブとの接続を切らない。
PP#3にかかる圧力を保ったまま、減速せずにボールの位置を通過する。

その結果として、ヘッドは加速した状態でインパクトを迎える。

つまり「加速する」とは、急に打ちにいくことではなく、減速しない入力を保つことなのです。

物理的に言えば、これは a を急に大きくすることではありません。

a を消さないこと。
加速度を途中で失わせないこと。
一定に近い圧力のままインパクトへ向かうこと。

だから、短い距離でもインパクトが緩まない。
だから、ヘッドが芝に負けにくい。
だから、距離感がそろいやすい。

ポールターに見えた安定感は、この「減速しない入力管理」にあったのだと思います。


プロの言葉は、感覚語と原理を分けて考える

ここで、プロの言葉についても少し整理しておきたいと思います。

プロの言葉は、すべて同じように受け取るべきではありません。

そのプロが、動きの原理を理解したうえで話しているのか。
それとも、練習によって身についた高度な運動を、自分の感覚として表現しているだけなのか。

ここは分けて考える必要があります。

プロが語る感覚は、本人にとっては正しい。
しかし、それがそのまま他のゴルファーの再現方法になるとは限りません。

たとえば、

「ゆっくり振る」
「柔らかく打つ」
「手を使わない」
「ヘッドを走らせる」

こういう言葉は、本人の感覚としては正しくても、聞き手がそのまま真似すると、まったく違う動きになることがあります。

練習によって本能的に身についた動きは、本人の中では「自然に」「柔らかく」「ゆっくり」という言葉になります。

しかし、その裏側では、有効重量 m、加速度 a、加速距離 s が非常に高い精度で管理されていることがあります。

だから、プロの言葉を聞く時には、その言葉が原理を説明しているのか、本人の感覚を表しているのかを分けて考える必要があります。

ポールターの「加速してインパクトを迎える」という話は、単なる感覚語ではありません。

オリムピッククラブで見た実際のアプローチ練習。
スタンスの向きによってトップの大きさを制限しているように見えたこと。
インパクトで緩めず、同じような距離にボールが集まっていたこと。

それらと、この言葉が一致します。

だからこそ、ポールターの言葉は信頼できるのだと思います。


力加減を変えるのではなく、圧力をそろえる

アプローチが苦手な人は、距離を変える時に「力加減」を変えようとします。

短い距離だから弱く打つ。
少し長い距離だから強く打つ。

この考え方になると、毎回加速度 a が変わります。

強く打とうとすれば、切り返しで急ぎやすい。
弱く打とうとすれば、インパクトで緩みやすい。

どちらにしても、PP#3にかかる圧力は一定になりません。

ポールターのような質の高いアプローチが安定して見える理由は、ここが違うのだと思います。

距離を変える時に、力の入れ方そのものを大きく変えていない。
PP#3にかかる圧力を一定に保ち、ウェッジに与える加速度 a をそろえている。

そのうえで、加速距離 s を変えている。

つまり、

力加減で距離を変えるのではなく、一定の圧力で、加速する距離を変えている。

ここが非常に重要です。


「同じスピードで振る」の正体

ここで、よく言われる「同じスピードで振る」という言葉を考えてみます。

多くのゴルファーは、

「同じスピードで振ったつもりです」
「テンポは同じでした」
「ゆっくり振りました」

と言います。

しかし、物理的には、トップからインパクトまで完全な等速で振っているわけではありません。

クラブヘッドは加速しています。

では、なぜ本人は「同じスピード」と感じるのでしょうか。

おそらく、人間は、加速度が一定に保たれている状態を、等速に近い感覚として捉えやすいのだと思います。

急に力を入れない。
途中で緩めない。
同じ圧力でクラブが下りてくる。
同じテンポで通過していく。

本人の感覚では、これが「同じスピード」に感じられる。

しかし、物理的には、これは等速ではなく、

加速度入力が一定に近い状態

と考えた方が正確です。

ここで重要なのは、等速はそもそも感じにくいということです。

物理的には、静止と等速直線運動は同じように扱われます。
どちらも、加速度は0です。
力が新たに作用していない状態です。

つまり、人間が直接感じているのは、速度そのものではありません。
力の変化、圧力の変化、加速度の変化です。

だから、アプローチで「同じスピードで振っている」と感じている時も、本当に等速を感じているわけではありません。
実際には、PP#3にかかる圧力が急変せず、加速度入力が一定に近い状態を、等速に近い感覚として捉えているのだと思います。


PP#3の圧力一定が、加速度一定につながる

ここでPP#3に戻ります。

ダウンスイングからインパクトまで、右手人差し指付け根側にかかる圧力を同じにする。

これは、

「手で押し込む」
「右手で叩く」
「インパクトで力を入れる」

という意味ではありません。

むしろ逆です。

急に力を入れない。
急に抜かない。
クラブに対する圧力を途中で変えない。

この一定の圧力が、ウェッジに対する加速度 a を安定させます。

そして、加速度 a が安定すれば、同じ加速距離 s に対して、インパクト時の V も安定します。

つまり、距離感が安定する。


手で打つのではなく、圧力を保つ

ここで誤解してはいけないのは、PP#3を意識することが、手打ちではないということです。

むしろ、PP#3は手で打つためのものではなく、クラブとの接続を感じるためのポイントです。

クラブがどこにあるのか。
クラブにどれくらいの圧力がかかっているのか。
ダウンスイング中に、その圧力が急に増えたり減ったりしていないか。

それを感じる場所です。

手先でボールを合わせにいくと、PP#3の圧力は乱れます。

強くなったり、消えたり、インパクト直前で抜けたりします。

一方、身体・腕・クラブのリンクが保たれている時は、PP#3の圧力も比較的安定しやすい。

つまり、PP#3は、加速度だけでなく、リンクの状態を確認するセンサーにもなります。


アプローチでよく見るのは、aを変えて距離を合わせること

短いアプローチでよく見るミスは、

大きく上げて、インパクトで弱める

です。

この場合、加速距離 s は大きい。
しかし、距離を出したくないので、インパクト前に加速度 a を落とす。

つまり、ブレーキをかけています。

この時、ヘッドは減速し、クラブの重さは消え、最下点もずれやすくなります。

結果として、ザックリやトップが出ます。

反対に、強く入れようとすると、切り返しでaが急に大きくなります。
すると、ヘッドが走りすぎたり、ロフトが立ちすぎたり、距離が出すぎたりします。

どちらも、aが安定していない状態です。


プロは、aを変えずにsを変える

ここが、プロのアプローチの大きな違いです。

プロは、距離を変えるために毎回力加減を変えているのではありません。

もちろん、現実には微調整はあります。
しかし基本の考え方としては、

加速度 a を一定に近づける。
そのうえで、加速距離 s を変える。

という構造です。

PP#3にかかる圧力をそろえる。
同じ圧力でクラブを下ろす。
急がない。
緩めない。
そして、トップの大きさ、つまり加速距離を変える。

これなら、距離調整がかなり整理されます。

力加減を毎回変えるのではなく、圧力は同じ。
変えるのは、クラブが加速できる距離です。


ここまでの整理

前回と今回をつなげると、こうなります。

まず、オープンスタンスによって、身体・腕・クラブのリンクを保ち、有効重量 m を一定に近づける。

次に、PP#3にかかる圧力を一定にし、ウェッジに与える加速度 a を一定に近づける。

すると、距離調整で大きく変えるべきものは、加速距離 s になります。

これは非常に大きな整理です。

なぜなら、アプローチの距離感から、変数を減らせるからです。

スクエアスタンスで手先に頼ると、

m も変わる。
a も変わる。
s も変わる。

これでは、距離感は難しい。

しかし、オープンスタンスとPP#3の圧力管理を使えば、

mを一定に近づける。
aを一定に近づける。
sを変える。

という形にできます。


アプローチの「同じテンポ」は、圧力の一定感である

アプローチでよく言う「テンポが大事」という言葉も、ここから考えると整理しやすくなります。

テンポとは、単にゆっくり振ることではありません。

トップからインパクトまで、クラブにかかる圧力が急変しないこと。
切り返しで急がないこと。
インパクトで緩めないこと。
クラブとの接続が切れないこと。

これらがそろった時、プレーヤーは「テンポが良い」と感じます。

つまり、テンポとは感覚的な言葉ですが、原因側で見れば、

加速度 a が安定している状態

と考えることができます。


まとめ

アプローチの距離感は、ヘッドスピードだけの問題ではありません。

前回は、有効重量 m の話をしました。

同じVでも、mが変われば、ボールに伝わる仕事量は変わります。

今回は、加速度 a の話です。

同じトップの大きさでも、aが変われば、インパクト時のVは変わります。

だから、距離感を安定させるには、

有効重量 m を一定に近づけること。
加速度 a を一定に近づけること。

この2つが重要になります。

そのための方法が、

オープンスタンスによるリンクの維持
そして、
PP#3にかかる圧力をそろえること

です。

クラブ全体の運動には、重力による加速も含まれます。
しかし、PP#3が圧力として感じる中心は、重力そのものではなく、自分自身の回転運動によってクラブに与えた加速度の反力です。

アプローチでいう「同じスピードで振る」とは、物理的な等速ではありません。

実際には、

PP#3にかかる圧力を一定にし、加速度入力を一定に近づけること

だと考えた方がよい。

距離を力加減で合わせるのではない。
圧力をそろえる。
加速度をそろえる。
そして、加速距離を変える。

この考え方ができると、アプローチの距離感はかなり整理されます。


次回予告

次回は、いよいよ入力編の核心に入ります。

mを一定にする。
aを一定にする。

では、距離は何で変えるのか。

答えは、s = 加速距離 です。

オープンスタンスの度合いによって、バックスイングの大きさが変わる。
バックスイングの大きさが変われば、クラブヘッドが加速できる距離 s が変わる。
s が変われば、インパクト時の速度 V が変わる。

つまり、

mとaを一定にし、sだけを変えることで、Vを管理する。

次回は、この部分を整理します。

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ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話

売れる言葉と、PINGが見ていたもの

――しなりの大きさではなく、ボールに何が伝わったか――

前回は、ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性について書きました。

ヘッドスピードを上げる練習器具には、たしかに効用があります。

普段より強く振るきっかけになる。
出力制限が外れる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
一時的に飛距離が伸びることもある。

ですから、ヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

ただし、問題はその先です。

そのヘッドスピードが、どのように作られたのか。
そして、その速度がボールスピードに変換されたのか。

ここを見なければなりません。

体を止める。
手を使う。
リリースを早くする。
身体とクラブの束縛を早く切る。

こうした動きでも、ヘッドスピードという数字は上がります。

しかし、その代わりに有効重量を失い、インパクトでクラブが軽くなっているなら、それは本当に飛ぶスイングに近づいたとは言えません。

ヘッドスピードは上がった。
しかし、クラブは軽くなった。

ここに、ヘッドスピードアップという言葉の難しさがあります。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話” の続きを読む

第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか

Reitanの使用パターから見えるPINGのツアーカスタム思想

前回は、Kristoffer Reitanの優勝について見てきました。

ノルウェー出身のReitan。
ノルウェーといえば、ビクター・ホブラン。
そして、PING創業者カーステン・ソルハイムの故郷でもあります。

そのノルウェーから来た選手が、PINGのパターを手にしてPGA TOURで勝利した。

しかも、勝利の大きな鍵になったのがパッティングでした。

PING Tourの投稿では、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上で大きくフィールドに差をつけていたことになります。

では、そのパッティングを支えたパターは、いったいどのようなものだったのでしょうか。

今回見ていきたいのは、Reitanが使用した Custom PLD Ally Blue H です。

ただし、このパターは少し不思議です。

公式にはPLD。
しかし、見た目にはScottsdale TEC Ally Blue Hの要素も強く感じます。

今回は、そのあたりを整理してみたいと思います。


公式には、Custom PLD Ally Blue H

まず、事実として押さえておきたいのは、Reitanのパターが Custom PLD Ally Blue H と紹介されていることです。

Alistair Cameron@ACameronWRX

A great time for Kristoffer Reitan to add a

PLD Milled Ally Blue H to the bag! With more toe hang than his previous putter, the custom head was created so that he could see an uninterrupted sight line. He also added the G440 K 9 degree w/Mitsubishi Tensei White 1K 60TX

PLDと聞くと、多くのPINGファンは、削り出し、精密加工、ツアー仕様、プレーヤーの感覚に合わせた作り込みを思い浮かべると思います。 “第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか” の続きを読む

第1話 カーステンの故郷から来た勝者

Kristoffer Reitanの優勝を支えたPINGカスタムPLDパター

※pga tourでの優勝がありましたので、通常記事に2回割り込みます。

PING Tourの投稿で、非常に興味深いニュースが紹介されていました。

Kristoffer Reitanが、PINGのカスタムPLDパターを使用して優勝。
しかも、その勝利の大きな鍵になったのが、パッティングでした。

投稿によると、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上でフィールドに対して大きく差をつけていたということです。

ゴルフの試合は、ドライバーの飛距離だけで決まるわけではありません。
アイアンの切れだけで決まるわけでもありません。

最後にボールをカップに沈める。
その部分で差をつけた選手が、優勝争いでは強い。

今回のReitanの勝利は、まさにそのことを示しているように感じます。 “第1話 カーステンの故郷から来た勝者” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【最終回】

PINGには、なぜこういう選手が集まるのか

前回は、Stewart Cinkについて書きました。

Cinkは、2009年の全英オープンをNike契約選手として制したメジャーチャンピオンです。
その後、Nikeがクラブ事業から撤退し、クラブ選択の自由度が高くなった時期に、PINGのクラブを選びました。

つまり、CinkはPINGと契約したからPINGを使い始めたのではありません。

順番は逆です。

PINGを信頼して使っていたから、契約に至った。

この流れが、CinkとPINGの関係の面白いところです。

そして私は、この話はCinkだけの特殊な例ではないと思っています。

PINGには、昔からこういう選手が多くいます。

古くはLee Westwood。
Miguel Angel Jimenez。
そして日本で言えば、金谷拓実選手。

世代も国もプレースタイルも違いますが、共通しているのは、クラブを単なる宣伝道具として見ていないことです。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【第1話】

Stewart Cinkの優勝から見える、PINGとの関係

Stewart Cinkが、また勝ちました。

2026年のRegions Traditionで優勝。
その少し前にはSenior PGA Championshipも制しており、52歳にしてPGA TOUR Championsのシニアメジャーを短期間で2つ勝ったことになります。

この結果だけでも十分にすごいのですが、店長として気になるのは、やはりそのバッグの中身です。

Cinkは、ただ最新モデルを並べている選手ではありません。

最新の性能を取り入れる部分は取り入れる。
しかし、自分にとって必要なクラブは、たとえ旧モデルであっても残す。

ここに、PINGというメーカーの考え方がよく表れているように思います。

では、なぜCinkはPINGを選んだのか。

その答えは、今回の優勝だけでなく、彼がPINGと正式契約する前のクラブ選びにあります。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

PING i540打感考察②

「なんて打感が良いんだ」

——トップアマの言葉から、i540の打感を考える

前回は、PING i540アイアンの海外レビューで使われている表現について整理しました。

日本では「打感が良い」「柔らかい」と表現されることが多い一方で、海外レビューでは、

hot
solid
muted

といった言葉が使われています。

つまりi540の打感は、単純な「柔らかさ」ではなく、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

という方向で理解したほうがよいのではないか、という話でした。

今回は、その感覚を実際の試打の中から考えてみたいと思います。

あるトップアマの方が、i540を打ったときのことです。

その方は、非常に良いスイングをされています。
私の見方で言えば、スターシステムに則ったスイングです。

身体の回転、支点、クラブの走り、ライン・オブ・コンプレッションがきれいにつながり、手でインパクトを作りにいくのではなく、スイングの構造の中でクラブがボールへ届く。

そういうスイングでした。

しかし、最近は少し調子を落としていました。

その状態でi540を打ったとき、最初に出た言葉が、

「なんて打感が良いんだ」

でした。

この言葉は、とても印象的でした。 “PING i540打感考察②” の続きを読む

エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感

このシリーズでは、ヘッドスピード、ボールスピード、有効重量、ベクトル分散、体重移動、そしてスターシステムへつなげて、スインガースイングについて考えてきました。

最後に、どうしても触れておきたい言葉があります。

それが、

ボールに当てる

という表現です。

もちろん、物理的にはクラブヘッドはボールに当たっています。
これは間違いありません。

しかし、スイングの意識として、

ボールに当てに行く
フェースを合わせる
インパクトでつじつまを合わせる

となった瞬間、スイングは小さくなります。

手で合わせる。
ヘッドをボールに向ける。
フェースを返す。
身体を止める。
インパクトで押し込む。

こうなると、身体とクラブの接続は切れやすくなります。
有効重量は逃げます。
ベクトルは分散します。

つまり、

当てに行った結果、軽く当たる

のです。

これは、かなり皮肉な話です。 “エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感” の続きを読む