シェフラーの右足は、突然現れた特殊な動きではありません。
ベン・ホーガン、ジャック・ニクラウス、グレッグ・ノーマン、デビッド・デュバル、そしてスコッティ・シェフラー。
各選手のスイングを時代順に並べると、右足の荷重を抜き、左足側で身体の円運動を支えるという共通点が見えてきます。
もちろん、5人の右足がまったく同じように動いているわけではありません。
ホーガンの右足は大きく滑りませんし、シェフラーのように派手に浮くこともありません。
ここでいう「系譜」とは、右足の形が受け継がれたという意味ではありません。
インパクトへ向かう過程で右足を主な支点から外し、左足側で身体の回転を受けるという、運動構造の系譜です。
原型となったベン・ホーガン
ベン・ホーガンのインパクトを見ると、右足は地面に残っています。
しかし、右足に強く荷重を残し、それをベースとしてボールを押し込んでいるようには見えません。
右踵は浮き始め、右膝は左脚へ向かい、身体の荷重は左足側へ移っています。
右足は地面に接していても、身体の回転を生み出す主な支点ではなくなっているのです。
身体を支えているのは左足であり、回転の中心は左股関節側にあります。
右足がどこまで動いたかではなく、右足が支点としてどれだけ残っているかを見る必要があります。
この意味で、ホーガンのスイングには、後に続く右足スライドの原型があると考えられます。
動きが見えるようになったニクラウス
ジャック・ニクラウスになると、右足の荷重が抜ける様子が、より分かりやすくなります。
インパクトへ向かって右踵が大きく浮き、右足はつま先側へ移ります。
一方、左足はその場に残り、身体の大きな回転を受け止めています。
ニクラウスは大きなバックスイングをしていましたが、その大きな運動を左右両足で複雑に処理していたのではありません。
ダウンスイングでは左足側に支点をつくり、そこを中心として身体とクラブを回転させていました。
右足が浮くのは、右足で身体を押し続けているからではありません。
右足の荷重が抜け、左足を中心とした回転に身体全体が運ばれた結果です。
スライドになったグレッグ・ノーマン
グレッグ・ノーマンになると、右足の自由度はさらに大きくなります。
インパクト付近で右踵が浮くだけでなく、右足そのものが位置を変えます。
右足を地面に固定し、そこから身体を押し出すスイングであれば、このような動きはできません。
右足が動けるのは、その時点ですでに右足の荷重が抜けているからです。
ノーマンは、右足をベースとして身体を回すのではなく、左足側で身体の大きな円運動を受けています。
シェフラーのフットワークがグレッグ・ノーマンと比較されることがあるのは、見た目が似ているからだけではありません。
右足を固定された土台として使わず、自由に動ける状態にしているという構造が共通しているからです。
デュバルが示した左足一支点
デビッド・デュバルのスイングでも、インパクトに向かって身体は大きく左足側へ移ります。
右足の荷重は抜け、右足は身体の回転に対する主な支点ではなくなります。
その一方で、左股関節の位置は保たれ、傾いた上体、腕、クラブが一つの大きな円運動として運ばれます。
全盛期のデュバルが、顔を目標方向へ向けながらも正確にボールを捉えられたのは、目でボールを見続けていたからではありません。
左足一支点によって円の中心が定まり、クラブヘッドが通る接線が安定していたからだと考えられます。
ボールを目で追わなくても、クラブがどこを通るかが構造によって決まっていたのです。
完成形となったシェフラー
そして、スコッティ・シェフラーです。
シェフラーは、これまでの選手が行っていた右足の荷重抜きを、誰の目にも分かる形で表現しています。
ダウンスイングで右足の荷重を抜き、左股関節だけを支点とする。
その結果、右足は地面から浮き、身体の回転方向とは反対側へ大きく動きます。
見た目には、足を激しく使ってクラブを加速しているように見えます。
しかし、順序は逆です。
右足を動かすから左足一支点になるのではありません。
左足一支点の円運動をつくった結果として、荷重を失った右足が自由に動いているのです。
さらにシェフラーは、インパクト直前にヒッターの直線的な入力を加えます。
その反動を受け止める右足のベースがないため、右足のカウンターは過去の選手よりも大きく現れます。
ホーガンでは荷重の移動として見えていたものが、ニクラウスでは踵の浮きとして現れ、ノーマンとデュバルでは足の移動へ発展し、シェフラーでは完全なスライドとして見えるようになったのです。
共通しているのはボールストライキング
この5人に共通しているのは、特徴的な右足だけではありません。
いずれも、ゴルフ史を代表するボールストライカーです。
右足の荷重を抜けば、身体を支える支点を左足側の一つに絞ることができます。
支点が一つになれば円の中心が安定し、パワーパッケージが維持されれば円の半径も安定します。
中心と半径が安定すれば、インパクトにおける接線の向きも決まります。
5人のボールストライキングを生み出したのは、右足を滑らせる技術ではありません。
右足を主な支点から外すことで、クラブヘッドが通る円と接線を安定させる構造だったのです。
ホブランが見た完成形
ツアー選手権の後、ホブランはシェフラーについて、こう述べました。
“He knows where the ball’s going.”
「彼はボールがどこへ行くか分かっている」
ホブランは、単に現在の世界ナンバーワンと戦っていたのではありません。
ベン・ホーガン、ジャック・ニクラウス、グレッグ・ノーマン、デビッド・デュバルという、歴代のボールストライカーが築いてきた運動構造。
その先にある完成形と戦っていたのです。
同じコース、同じ厳しいコンディションの中で、シェフラーのボールだけが繰り返し目標へ向かって飛んでいく。
その姿を見たからこそ、ホブランの中に「自分も、ボールがどこへ行くか分かるスイングが欲しい」という考えが浮かんだのではないでしょうか。
シェフラーの右足は、単なる個性的なフットワークではありません。
歴代の優れたボールストライカーが受け継いできた左足一支点の運動が、最もはっきりと外見に現れたものなのです。
