左股関節の上昇と接線方向の加速
ここまで、アプローチの距離感を 入力 という視点から整理してきました。
第2話では、有効重量 m を一定にすること。
第3話では、加速度 a を一定にすること。
第4話では、加速距離 s を変えることで、インパクト時の速度 V を管理すること。
式で言えば、
V² = 2as
そして、
E ≒ 1/2mV²
です。
つまり、アプローチの入力制御とは、
m を一定にする。
a を一定にする。
s を変える。
その結果として、インパクト時の V が決まり、ボールへ伝わる仕事量が決まる。
ここまでは整理できました。
しかし、ここで一つ大きな問題が残ります。
では、クラブの遅れは、なぜインパクトゾーンでヘッド速度に変わるのか。
短いアプローチでも、ヘッドが芝に負けず、ボールに仕事をする。
手で叩きにいかなくても、ヘッドがインパクトを通過する。
ポールターのように、短い距離でも緩まない。
その原因を説明しないままでは、入力の話はまだ完成しません。
今回は、インパクトゾーンでの加速の原理を整理します。
インパクトゾーンの加速は、手で叩くことではない
まず、誤解しやすいのはここです。
インパクトゾーンで加速すると聞くと、
右手で押す。
インパクトで打ちにいく。
ボールに向かって力を入れる。
そのように考えがちです。
しかし、今回考えている加速は、それとは違います。
インパクトで急に力を入れることではありません。
インパクトで手を使って叩くことでもありません。
むしろ、インパクトで急に何かをしようとした瞬間に、これまで整えてきた入力は崩れます。
有効重量 m が変わる。
PP#3にかかる圧力が変わる。
加速度 a が急変する。
ロフトが変わる。
最下点が変わる。
フェース向きが変わる。
つまり、インパクトで「打ちにいく」ほど、距離感は不安定になります。
では、何がヘッドを加速させているのか。
大きなファクターは、バンプによって左股関節が上昇することです。
バンプは、単なる左への横移動ではない

バンプというと、左への体重移動、あるいは腰の横移動として説明されることがあります。
もちろん、切り返しで左側へ圧力が移ることは重要です。
しかし、それだけで終わると、身体は左へ流れるだけになります。
左へ流れるだけでは、回転は生まれません。
むしろ、左腰が詰まり、身体の回転が止まりやすくなります。
アプローチでもフルショットでも、重要なのは、左へ移動したあとです。
左股関節側に圧力が移り、そこから左股関節が上昇していく。
ここが非常に大切です。
左股関節が上昇することで、骨盤は左に流れるのではなく、左サイドを支点にして回転しながら抜けていきます。
つまり、バンプの本質は、
左へ流れることではなく、左股関節を上昇させる準備
だと考えた方がよいと思います。
左股関節が上昇すると、身体の回転が止まらない
インパクトゾーンでヘッドが減速する大きな原因の一つは、身体の回転が止まることです。
身体が止まる。
手元が止まる。
すると、クラブだけが急に動く。
あるいは、クラブも一緒に止まってしまう。
この時、PP#3の圧力は乱れます。
急に強くなることもあります。
逆に、圧力が抜けることもあります。
どちらにしても、加速度 a は一定ではなくなります。
一方、バンプから左股関節が上昇すると、骨盤は回転しながら抜けていきます。
左腰が詰まらない。
身体の回転が止まらない。
胸も腕も止まりにくい。
手元も移動し続ける。
この 手元が移動し続けること が、インパクトゾーンでの加速に大きく関係します。
バンプは、遅れたヘッドを自然に待つ形を作る
ここが重要です。
バンプは、単に身体を左へ動かす動きではありません。
うまく働くと、バンプによって身体が先に行きすぎず、遅れたヘッドを自然に待つ形 ができます。
これは、身体を止めて待つという意味ではありません。
手でヘッドを戻すという意味でもありません。
左股関節側に圧力を移し、そこから左股関節が上昇する。
その結果、身体の回転は止まらず、骨盤は回転しながら抜けていく。
その中で、遅れたクラブがプレーン上で整ってくる。
つまり、バンプは、
身体を止めるための動きではなく、ヘッドが自然に戻ってくる時間と空間を作る動き
とも言えます。
この形ができると、手でフェースを合わせにいかなくても、クラブはプレーン上で整いやすくなります。
その結果、スクエアなインパクトを迎えやすくなる。
ここはかなり大事です。
手でヘッドを戻そうとすると、フェースの向きは急変します。
ロフトも変わります。
最下点も変わります。
しかし、バンプによって遅れたヘッドを自然に待てる形ができると、フェースは急に合わせるものではなく、運動の中でスクエアに近づいていきます。
手元が移動し続けるから、クラブの遅れが速度に変わる
クラブヘッドは、身体や手元より遅れようとします。
これは慣性です。
身体が回転し、手元が移動する。
しかし、クラブヘッドはその場に残ろうとする。
そのため、クラブには遅れが生まれます。
この遅れ自体は、悪いものではありません。
問題は、その遅れをどう扱うかです。
身体が止まると、遅れたクラブを手で戻すしかなくなります。
すると、手首がほどけたり、フェースが急に返ったり、ロフトが変わったりします。
しかし、身体の回転が止まらず、手元が移動し続ければ、クラブの遅れはプレーン上で保たれます。
そして、身体・腕・クラブのリンクが保たれていれば、その遅れは接線方向のヘッド速度へ変換されます。
つまり、
クラブは手で叩くから走るのではない。
身体の回転が止まらず、手元が移動し続けることで、遅れたクラブが接線方向へ速度を持つ。

ここが、インパクトゾーンでの加速の大きな原理です。
プレーン上の拘束が、ヘッドの通過を作る
クラブは自由に飛んでいくわけではありません。
身体、腕、手元、グリップ、そしてPP#3によって、クラブはプレーン上に拘束されています。
この拘束があるから、クラブヘッドは無秩序に動かず、円弧に近い軌道を描きます。
インパクトゾーンで大事なのは、この拘束が壊れないことです。
手元が止まる。
手首がほどける。
身体が起きる。
左腰が詰まる。
クラブを手で戻す。
こうなると、クラブの半径やプレーンが崩れます。
半径が崩れれば、ヘッドの通過方向も変わります。
プレーンが崩れれば、入射角も変わります。
PP#3の圧力も乱れます。
反対に、左股関節の上昇によって身体が回転し続け、手元が移動し続ければ、クラブはプレーン上に保たれやすくなります。
その結果、ヘッドはインパクトゾーンで減速せず、ボールの位置を通過できます。
PP#3は、加速を作るスイッチではない
ここで、PP#3についても整理しておきます。
PP#3に圧力を感じると聞くと、右手で押す場所のように考えられがちです。
しかし、今回の考え方ではそうではありません。
PP#3は、加速を作るスイッチではありません。
むしろ、
クラブとの接続が保たれているかを感じるセンサー
です。
身体の回転が止まらない。
手元が移動し続ける。
クラブは慣性で遅れようとする。
そのクラブをプレーン上に保つ。
この時、右手人差し指の付け根側に、クラブとの相対的な圧力を感じます。
この圧力が急に強くなるなら、どこかで急な入力が入っている可能性があります。
この圧力が急に抜けるなら、クラブとの接続が切れている可能性があります。
理想は、PP#3にかかる圧力が急変しないこと。
つまり、
PP#3の圧力を一定に保つことは、身体の回転とクラブの遅れが安定してつながっていることの確認でもある
ということです。
まとめ
インパクトゾーンでの加速は、手で叩くことではありません。
右手で押し込むことでもありません。
インパクトで急に力を入れることでもありません。
大きな要因は、
バンプによって左股関節側に圧力が移り、そこから左股関節が上昇していくこと
です。
左股関節が上昇することで、骨盤は左に流れるのではなく、回転しながら抜けていく。
骨盤が抜けるから、身体の回転が止まらない。
身体が止まらないから、手元が移動し続ける。
手元が移動し続けるから、クラブは慣性で遅れる。
その遅れが、プレーン上の拘束によって、接線方向のヘッド速度へ変換される。
さらに、バンプは遅れたヘッドを自然に待つ形を作ります。
だから、手でヘッドを戻さなくても、クラブはプレーン上で整い、スクエアなインパクトを迎えやすくなる。
つまり、ヘッドは手で走らせるのではありません。
バンプと左股関節の上昇によって、遅れたヘッドが自然に速度へ変換される。
これが、アプローチにおけるインパクトゾーンの加速原理だと思います。
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