第1話 マキロイより気になったポールターの安定感

アプローチは、ボールではなくウェッジへの入力から始まる

オリムピッククラブで、イアン・ポールターのアプローチ練習を見たことがあります。

その時、近くではローリー・マキロイも練習していました。

普通に考えれば、目を奪われるのはマキロイです。
世界トップクラスのスイング。
圧倒的なスピード。
身体能力の高さ。
ボールを打つ姿そのものに、華があります。

ところが、その時の私は、なぜかポールターのアプローチから目が離せませんでした。

理由は、派手さではありません。
高く上げる球でも、強烈なスピンでもありません。

むしろ、見た目にはとても静かでした。

しかし、ボールが同じような距離に集まっていく。
構えが大きく変わらない。
リズムも大きく変わらない。
インパクトで緩んでいる感じもない。

その安定感が、妙に印象に残ったのです。

イアン・ポールターといえば、ライダーカップで強さを発揮した選手です。

ヨーロッパチームの一員として、何度も重要な場面で結果を出してきました。
“THE POSTMAN” と呼ばれたのも、必要な場面で必ず仕事を届ける、という意味合いがあったのだと思います。

一打一打の意味が重くなる場面で、力を発揮できる選手です。

そのポールターのアプローチ練習を見ていると、なるほどと思う部分がありました。

勝負どころで強い選手のアプローチは、手先で距離を合わせているようには見えない。
偶然寄せているようにも見えない。

最初から、距離が大きく外れない構造を作っているように見えたのです。

私が特に気になったのは、スタンスの向きでした。

ポールターは、スタンスのオープン度を変えることで、バックスイングの大きさを制限しているように見えました。

つまり、何ヤードだから手でここまで上げる、というよりも、
構えた時点で、

そこまでしか上がらない状態

を作っているように見えたのです。

これは、非常に重要です。

多くのアマチュアは、短いアプローチで距離を落とそうとすると、インパクトで弱めます。

大きく上げて、当たる直前に緩める。
ヘッドを止める。
身体を止める。
手で合わせる。

しかし、それでは毎回違うインパクトになります。

ある時は身体ごと動く。
ある時は腕だけになる。
ある時は手首だけで合わせる。
ある時はヘッドだけが走る。

これでは、距離感がそろいません。

アプローチの距離感というと、多くの人はまず結果を考えます。

何ヤード飛ばすか。
どこに落とすか。
どれくらい転がすか。
スピンを入れるか。
高く上げるか。
低く出すか。

もちろん、それらは大切です。

しかし、それはすべて結果側の話です。

その前にあるのは、

ウェッジにどれだけの入力を与えるか

です。

ここを見落としてはいけません。

アプローチは、ボールをどうするかの前に、ウェッジに何をさせるかです。

ウェッジに入る入力が大きすぎれば、インパクトで減速しなければならない。
入力が小さすぎれば、芝に負ける。
入力が毎回違えば、キャリーもスピンもランも読めない。

だから、まず制御すべきなのはボールではありません。

ウェッジへの入力です。

この時のポールターのアプローチは、まさにそこが整理されているように見えました。

スタンスの向きで、バックスイングの大きさを制限する。
バックスイングの大きさが制限されれば、クラブヘッドが加速できる距離も制限される。
加速できる距離が制限されれば、インパクト時のヘッド速度も大きくなりすぎない。

つまり、距離をインパクトで殺しているのではなく、
構えの時点で、ウェッジに入る入力の上限を決めている。

ここに、プロのアプローチの大きなヒントがあります。

アプローチが苦手な人ほど、インパクトで距離を合わせようとします。

「強かった」
「弱かった」
「緩んだ」
「入った」
「手が出た」
「ヘッドが走った」

こういう言葉が多くなります。

しかし、インパクトで調整している限り、距離感は安定しません。

なぜなら、インパクトは一瞬だからです。
その一瞬で、速度、ロフト、フェース向き、最下点、入射角、スピン量をすべて合わせようとするのは、あまりにも難しい。

本来は逆です。

インパクトで合わせるのではなく、
インパクトまでに、すでに合う状態を作っておく。

ポールターのアプローチには、その考え方が見えたのです。

このシリーズでは、アプローチを少し違う角度から考えていきます。

テーマは、距離感ではありません。

もっと手前にある、

ウェッジへの入力制御

です。

アプローチの距離は、単に振り幅だけで決まるわけではありません。
ヘッドスピードだけで決まるわけでもありません。

身体とクラブがどれだけつながっているか。
どれだけ一定の圧力でクラブを動かせているか。
どれだけの加速距離を与えているか。

そうした要素によって、ウェッジへの入力は決まります。

そして、その入力が安定して初めて、ボール位置、フェースの開き、バンス、グリップポジションといった出力側の調整が意味を持ちます。

ポールターのアプローチ練習を見た時、私はただ「安定している」と感じました。

しかし、今あらためて考えると、その安定感には理由があったのだと思います。

距離を手で合わせていたのではない。
インパクトで弱めていたのでもない。
大きく振って、途中で調整していたのでもない。

構えの段階で、ウェッジへの入力を決めていた。

その入力が大きくなりすぎないように、スタンスの向きでバックスイングを制限していた。
そして、その制限された入力を、最後まで止めずに使っていた。

だから、短い距離でも緩まない。
だから、ボールが同じような距離に集まる。
だから、アプローチに安定感が出る。

アプローチは、ボールに合わせる技術ではありません。

まず、ウェッジに入る入力をそろえる技術です。

ボールの高さ、スピン、ラン、落とし場所は、その後に出てくる結果です。

次回は、この入力をもう少し物理的に考えます。

特に重要になるのは、

有効重量

です。

同じヘッドスピードでも、身体とクラブが一体で動いているのか、手先だけで合わせているのかで、ボールに伝わる仕事量は変わります。

つまり、距離感を狂わせているのは、スピードだけではありません。

ウェッジに乗っている有効重量が、毎回変わっていること。

ここに、アプローチが安定しない大きな理由があります。

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ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話

売れる言葉と、PINGが見ていたもの

――しなりの大きさではなく、ボールに何が伝わったか――

前回は、ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性について書きました。

ヘッドスピードを上げる練習器具には、たしかに効用があります。

普段より強く振るきっかけになる。
出力制限が外れる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
一時的に飛距離が伸びることもある。

ですから、ヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

ただし、問題はその先です。

そのヘッドスピードが、どのように作られたのか。
そして、その速度がボールスピードに変換されたのか。

ここを見なければなりません。

体を止める。
手を使う。
リリースを早くする。
身体とクラブの束縛を早く切る。

こうした動きでも、ヘッドスピードという数字は上がります。

しかし、その代わりに有効重量を失い、インパクトでクラブが軽くなっているなら、それは本当に飛ぶスイングに近づいたとは言えません。

ヘッドスピードは上がった。
しかし、クラブは軽くなった。

ここに、ヘッドスピードアップという言葉の難しさがあります。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話

ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性

――一時的に飛ぶからこそ、注意が必要です――

前回は、金沢市のジュニア練習会での出来事から、ヘッドスピードと飛距離は同じではないという話をしました。

簡易的な測定器では、ジュニアの方がヘッドスピードで勝っていました。
しかし、実際にボールを打つと、委員長の方が50ヤードほど飛ぶ。

ここに、ヘッドスピードという数字の難しさがあります。

ヘッドスピードは、クラブヘッドがどれだけ速く動いたかを示す数字です。
しかし、飛距離を決めるのは、それだけではありません。

本当に見るべきなのは、

そのヘッドスピードが、どれだけボールスピードに変換されたか

です。

今回は、そこからもう一歩進んで、ヘッドスピードを上げる練習器具について考えてみたいと思います。


ゴルフの練習器具には、ヘッドスピードアップを前面に出したものがたくさんあります。

ヘッドスピードが上がる。
振るだけで飛距離アップ。
ヘッドが走る。
速く振れるようになる。

こうした言葉は、とても分かりやすいです。

そして、実際に使ってみると、一時的にヘッドスピードが上がることもあります。
場合によっては、ボールスピードが上がり、飛距離が伸びることもあります。

ですから、私はヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

効用はあります。

普段より強く振るきっかけになる。
普段より大きく振るきっかけになる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
クラブを振ることへの怖さが減る。
自分にはまだ速く振れる余地があると気づく。

こういう意味では、ヘッドスピードアップ系の器具は、一定の役割を持っています。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話” の続きを読む

第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか

Reitanの使用パターから見えるPINGのツアーカスタム思想

前回は、Kristoffer Reitanの優勝について見てきました。

ノルウェー出身のReitan。
ノルウェーといえば、ビクター・ホブラン。
そして、PING創業者カーステン・ソルハイムの故郷でもあります。

そのノルウェーから来た選手が、PINGのパターを手にしてPGA TOURで勝利した。

しかも、勝利の大きな鍵になったのがパッティングでした。

PING Tourの投稿では、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上で大きくフィールドに差をつけていたことになります。

では、そのパッティングを支えたパターは、いったいどのようなものだったのでしょうか。

今回見ていきたいのは、Reitanが使用した Custom PLD Ally Blue H です。

ただし、このパターは少し不思議です。

公式にはPLD。
しかし、見た目にはScottsdale TEC Ally Blue Hの要素も強く感じます。

今回は、そのあたりを整理してみたいと思います。


公式には、Custom PLD Ally Blue H

まず、事実として押さえておきたいのは、Reitanのパターが Custom PLD Ally Blue H と紹介されていることです。

Alistair Cameron@ACameronWRX

A great time for Kristoffer Reitan to add a

PLD Milled Ally Blue H to the bag! With more toe hang than his previous putter, the custom head was created so that he could see an uninterrupted sight line. He also added the G440 K 9 degree w/Mitsubishi Tensei White 1K 60TX

PLDと聞くと、多くのPINGファンは、削り出し、精密加工、ツアー仕様、プレーヤーの感覚に合わせた作り込みを思い浮かべると思います。 “第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか” の続きを読む

第1話 カーステンの故郷から来た勝者

Kristoffer Reitanの優勝を支えたPINGカスタムPLDパター

※pga tourでの優勝がありましたので、通常記事に2回割り込みます。

PING Tourの投稿で、非常に興味深いニュースが紹介されていました。

Kristoffer Reitanが、PINGのカスタムPLDパターを使用して優勝。
しかも、その勝利の大きな鍵になったのが、パッティングでした。

投稿によると、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上でフィールドに対して大きく差をつけていたということです。

ゴルフの試合は、ドライバーの飛距離だけで決まるわけではありません。
アイアンの切れだけで決まるわけでもありません。

最後にボールをカップに沈める。
その部分で差をつけた選手が、優勝争いでは強い。

今回のReitanの勝利は、まさにそのことを示しているように感じます。 “第1話 カーステンの故郷から来た勝者” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話

ヘッドスピードで勝って、飛距離で負ける理由

――飛距離を決めるのは、ヘッドスピードだけではありません――

ゴルフでは、よくこう言われます。

ヘッドスピードを上げれば飛ぶ。
ヘッドが走れば飛ぶ。
速く振れれば飛距離が伸びる。

たしかに、これは間違いではありません。

ヘッドスピードは、飛距離を作る大切な要素です。
ヘッドスピードがなければ、ボールスピードも出にくくなります。

しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。

ヘッドスピードが速いことと、実際に飛ぶことは、同じではない。

このことを、非常に分かりやすく感じた出来事がありました。


金沢市のジュニア練習会でのことです。

簡易的にヘッドスピードを測る器具を使って、委員長とジュニアの子がヘッドスピードを競い合っていました。

数値だけを見ると、勝ったのはジュニアでした。
当然、ジュニアは大喜びです。

ヘッドスピードで大人に勝った。
自分の方が速く振れている。
これは、子どもにとってはとても分かりやすい成功体験です。

ところが、実際にボールを打ってみると、結果は違いました。

飛距離は、委員長の方が約50ヤードも飛ぶのです。

“ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【最終回】

PINGには、なぜこういう選手が集まるのか

前回は、Stewart Cinkについて書きました。

Cinkは、2009年の全英オープンをNike契約選手として制したメジャーチャンピオンです。
その後、Nikeがクラブ事業から撤退し、クラブ選択の自由度が高くなった時期に、PINGのクラブを選びました。

つまり、CinkはPINGと契約したからPINGを使い始めたのではありません。

順番は逆です。

PINGを信頼して使っていたから、契約に至った。

この流れが、CinkとPINGの関係の面白いところです。

そして私は、この話はCinkだけの特殊な例ではないと思っています。

PINGには、昔からこういう選手が多くいます。

古くはLee Westwood。
Miguel Angel Jimenez。
そして日本で言えば、金谷拓実選手。

世代も国もプレースタイルも違いますが、共通しているのは、クラブを単なる宣伝道具として見ていないことです。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【第1話】

Stewart Cinkの優勝から見える、PINGとの関係

Stewart Cinkが、また勝ちました。

2026年のRegions Traditionで優勝。
その少し前にはSenior PGA Championshipも制しており、52歳にしてPGA TOUR Championsのシニアメジャーを短期間で2つ勝ったことになります。

この結果だけでも十分にすごいのですが、店長として気になるのは、やはりそのバッグの中身です。

Cinkは、ただ最新モデルを並べている選手ではありません。

最新の性能を取り入れる部分は取り入れる。
しかし、自分にとって必要なクラブは、たとえ旧モデルであっても残す。

ここに、PINGというメーカーの考え方がよく表れているように思います。

では、なぜCinkはPINGを選んだのか。

その答えは、今回の優勝だけでなく、彼がPINGと正式契約する前のクラブ選びにあります。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

PING i540打感考察②

「なんて打感が良いんだ」

——トップアマの言葉から、i540の打感を考える

前回は、PING i540アイアンの海外レビューで使われている表現について整理しました。

日本では「打感が良い」「柔らかい」と表現されることが多い一方で、海外レビューでは、

hot
solid
muted

といった言葉が使われています。

つまりi540の打感は、単純な「柔らかさ」ではなく、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

という方向で理解したほうがよいのではないか、という話でした。

今回は、その感覚を実際の試打の中から考えてみたいと思います。

あるトップアマの方が、i540を打ったときのことです。

その方は、非常に良いスイングをされています。
私の見方で言えば、スターシステムに則ったスイングです。

身体の回転、支点、クラブの走り、ライン・オブ・コンプレッションがきれいにつながり、手でインパクトを作りにいくのではなく、スイングの構造の中でクラブがボールへ届く。

そういうスイングでした。

しかし、最近は少し調子を落としていました。

その状態でi540を打ったとき、最初に出た言葉が、

「なんて打感が良いんだ」

でした。

この言葉は、とても印象的でした。 “PING i540打感考察②” の続きを読む

エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感

このシリーズでは、ヘッドスピード、ボールスピード、有効重量、ベクトル分散、体重移動、そしてスターシステムへつなげて、スインガースイングについて考えてきました。

最後に、どうしても触れておきたい言葉があります。

それが、

ボールに当てる

という表現です。

もちろん、物理的にはクラブヘッドはボールに当たっています。
これは間違いありません。

しかし、スイングの意識として、

ボールに当てに行く
フェースを合わせる
インパクトでつじつまを合わせる

となった瞬間、スイングは小さくなります。

手で合わせる。
ヘッドをボールに向ける。
フェースを返す。
身体を止める。
インパクトで押し込む。

こうなると、身体とクラブの接続は切れやすくなります。
有効重量は逃げます。
ベクトルは分散します。

つまり、

当てに行った結果、軽く当たる

のです。

これは、かなり皮肉な話です。 “エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感” の続きを読む