前回は、左足一支点によって円の中心が定まり、インパクトにおける接線の向きが安定することを説明しました。
しかし、円の中心を一つにするだけでは、毎回同じ円を描くことはできません。
円の半径も維持しなければならないからです。
そこで登場するのが、ホーマー・ケリーの「パワーパッケージ」です。
パワーパッケージといっても、お得なバリューパッケージではありませんよ。
では、何と訳せばよいのでしょうか。
「力を詰め込んだ手」でしょうか。
手に力を詰め込んだら、ただ力んでいるだけです。
この言葉を理解するには、まず「構造が生み出す力」について考える必要があります。
アーチ型の石橋は、なぜ崩れないのか
構造によって大きな力を発揮するものとして、アーチ型の石橋があります。
石を一つだけ取り出しても、特別な力があるわけではありません。石を横に並べただけでは、重いものを載せれば崩れてしまいます。
ところが、石をアーチ型に組み合わせると、人や荷物の重さを何百年にもわたって支えることができます。
アーチに加わった荷重は、それぞれの石を押し合わせる圧縮力に変わり、曲線に沿って両側の土台へ伝わります。
石が新しい力を生み出しているのではありません。
石の形と位置関係によって、力の通り道がつくられているのです。
構造はエネルギーを生み出しません。
しかし、加えられた力を受け止め、その向きを変え、壊れにくい形で次へ伝えることができます。
三角形が力を伝えるトラス構造
構造の力をさらに分かりやすくしたものが、橋や鉄塔に使われるトラス構造です。
トラス構造の基本は三角形です。
四角形は、角の部分が動けば、辺の長さを変えなくても平行四辺形に変形できます。
しかし三角形は、三本の辺の長さが変わらない限り、形を変えることができません。
そのため、外部から力が加わっても、構造全体の形を維持しやすいのです。
トラスに加わった荷重は、部材を押す圧縮力と、引っ張る張力に分けられ、三角形の中を通って支点へ伝わります。
一本一本の部材を太く重くするだけが、強度を高める方法ではありません。
細い部材であっても、三角形として正しく組み合わせれば、構造全体で大きな荷重を受け止められます。
つまり、力を決めるのは筋力や材料の強さだけではありません。
どのような形で組み合わせ、どこへ力を通すかも重要なのです。
人体のトラス構造
ゴルフスイングにおける肩、腕、手、クラブの関係も、考え方としてはトラス構造に似ています。
もちろん、人体が文字どおり鉄橋と同じ構造になっているわけではありません。
しかし、肩、両腕、手元がつくる三角形を核として、肩からクラブまでの位置関係を維持すれば、身体の回転によって生まれた力をクラブへ伝える道ができます。
反対に、肘が外れたり、手首が必要以上にほどけたりすれば、その構造は変形します。
構造が変形すれば、身体とクラブのつながりが切れ、力の通り道も変わります。
そして、肩からクラブヘッドまでの距離、つまり円の半径も変化してしまいます。
この、身体が回転しても肩から先の構造を維持し、一つの動力ユニットとして働かせる仕組みが、ホーマー・ケリーのいう「パワーパッケージ」です。
パワーパッケージとは、力を詰め込んでおく箱ではありません。
肩から腕、手、クラブまでを一つの構造としてまとめ、身体の回転によって生まれた力をクラブヘッドまで伝えるためのものです。
左足一支点が円の中心を定める。
パワーパッケージが円の半径を維持する。
中心と半径が安定することで、インパクトにおける接線の向きも安定します。
シェフラーの正確性は、一つ一つの関節を器用に調整することで生まれているのではありません。
力を通す構造そのものを、インパクトまで崩さないことによって生まれているのです。
