昨日、以前にクラブを再フィッティングさせていただいたお客様の、最近のご様子をお聞きしました。
再フィッティングの内容は、アイアンとハイブリッドのシャフト変更、アイアンのライ角変更、そしてウェッジの新調です。
クラブ間の飛距離差を見直してギャップを最適化し、ウェッジのソールにはBグラインドを選択しました。
このお客様は、基本的に練習をなさいません。
ところが先日、この話を教えてくださったお客様を含む、3人のシングルプレーヤーとのラウンドに参加されたそうです。
結果は、自己ベストを更新。
さらに、3人のシングルプレーヤーのうち、2人を上回ったそうです。
もちろん、一度のラウンド結果だけで、すべてがフィッティングの効果だったと断定することはできません。
しかし、普段ほとんど練習をしないゴルファーが、クラブの仕様を見直した後に自己ベストを更新したという事実は、非常に示唆的です。
ゴルフでは、スコアが悪いと、すぐにスイングを直そうとします。
しかし、ゴルファーの動きは、使用しているクラブから独立しているわけではありません。
シャフトが変われば、タイミングやクラブの戻り方が変わります。
クラブ間のギャップが整えば、無理に距離を作る必要がなくなります。
ウェッジのソールが合えば、インパクトで余計な操作をせずに済みます。
そして、ライ角が変われば、ゴルファーの構えそのものが変わります。
構えが変われば、スイングも変わります。
今回の記事で考えたいのは、この最後の部分です。
支点が変われば、スイングプレーンも変わる
前回は、ライ角が変わると、手元の高さやボールとの距離が変わることを説明しました。
アップライトなクラブでは、手元が高くなり、ボールとの距離は近くなります。
反対に、フラットなクラブでは、手元が低くなり、ボールとの距離は遠くなります。

図を見ると分かりますが、この構えの違いによって、クラブを動かす支点の高さも変わります。
手元が高い構えでは、支点も高くなります。
手元が低い構えでは、支点も低くなります。
支点の高さが変われば、そこから定義されるスイングプレーンも変わります。
つまり、
ライ角が変わる
↓
構えが変わる
↓
支点の高さが変わる
↓
スイングプレーンが変わる
という流れになります。
ここで重要なのは、スイングプレーンは、クラブを振り始めてから意識的に作るものではないということです。
身体とボールとの距離、前傾角度、腕の垂れ方、手元の高さが決まった時点で、クラブが自然に動きやすい面は、すでに大枠が決まっています。
言い換えれば、スイングプレーンはアドレスによって定義されます。
過剰に低い構えでは、手元が浮き上がる
それでは、フラットなライ角に合わせて低く構え、その低い手元のままクラブを振ればよいのでしょうか。
実際には、そう簡単ではありません。
過剰に手元を低くすると、腕の位置が身体に対して低くなりすぎます。
その状態から身体を回し、クラブをバックスイングしようとすると、腕と胸郭の位置関係に無理が生じます。
腕を低い位置のまま後方へ動かせる範囲には限界があるからです。
そのため、ゴルファーはバックスイングの途中で、無意識に手元を持ち上げます。
これは単純なスイングの癖ではありません。
低すぎる構えによって制限された腕の通り道を確保するために、身体が行う補正動作です。
ところが、手元が浮き上がれば、アドレスで設定した支点の高さは維持されません。
支点が上がることで、クラブも最初に想定されたプレーンより上へ移動します。
つまり、過剰に低い構えでは、
低く構える
↓
腕を低い位置のまま動かせない
↓
バックスイングで手元が浮く
↓
支点の高さが変わる
↓
スイングプレーンが変わる
という補正が起こります。
この場合、アドレスではフラットに構えていても、実際のスイングは、そのフラットな構えによって定義されたプレーンの上を動いているとは限りません。
構えとスイングの間に、ずれが生まれているのです。
多くのゴルファーは、上げたラインを基準に下ろす
多くの場合、ゴルファーはバックスイングでクラブを上げたラインを基準にして、ダウンスイングでもクラブを下ろします。
完全に同じ線を往復するわけではありませんが、バックスイングで形成されたクラブと腕の位置は、ダウンスイングの入口になります。
したがって、低すぎる構えによってバックスイングで手元が浮けば、その高くなった位置からダウンスイングが始まります。
アドレス時のプレーンではなく、補正後のプレーンを基準にクラブが下りてくることになります。
ここへ、さらに「強く打ちたい」という動きが加わると、問題は大きくなります。
強く打とうとすると、プレーンの外側を通る
強く打とうとすると、多くのゴルファーは肩の回転量を増やします。
しかし、このときに増えるのは、必ずしも身体全体の効率的な回転ではありません。
上体、とくに肩をボール方向へ強く回そうとする動きが加わります。

すると、肩と腕の接続部が本来のプレーンより外側へ移動し、手元とクラブも外側へ押し出されます。
図の赤い線が、この動きを示しています。
クラブを意識的に外から下ろしているとは限りません。
強く打とうとして肩を過剰に回した結果、腕とクラブがスイングプレーンの外側を通っているのです。
つまり、
過剰に低い構え
↓
バックスイングで手元が浮く
↓
支点とプレーンが上方へ変化する
↓
強く打とうとして肩が過剰に回る
↓
手元とクラブがプレーンの外側へ出る
という流れになります。
ここまで来ると、ダウンスイングでクラブを内側へ下ろそうとしても、簡単には直りません。
原因がダウンスイングだけにあるのではなく、ライ角と構え、そしてバックスイングの補正動作から始まっているからです。
スイングの問題を、スイングだけで直してはいけない
アウトサイドイン軌道や手元の浮き上がりを見ると、多くの場合、その動き自体を直そうとします。
「手元を低く保つ」
「クラブを内側から下ろす」
「肩を開かない」
といった修正です。
しかし、クラブのライ角がフラットすぎ、アドレスの手元が過剰に低くなっているのであれば、手元が浮くことには身体的な理由があります。
その状態で手元だけを低く保とうとすると、腕の通り道がなくなり、別の補正動作が発生します。
クラブを無理に内側から下ろそうとすれば、今度は身体の回転が止まり、手だけでクラブを操作する可能性もあります。
ゴルファーの身体は、合わないクラブに対して何らかの方法で適応します。
その適応をスイングの欠点と見なし、動きだけを修正すると、身体が行っている補正の理由を見失ってしまいます。
だからこそ、スイングを見るときには、その前に構えを見る必要があります。
構えを見るときには、その構えを作っているクラブの長さやライ角を見る必要があります。
ライ角は、球の方向だけを調整する数値ではない
従来の説明では、
- アップライトならフェースが左を向く
- フラットならフェースが右を向く
という、インパクト時の幾何学的な作用が中心でした。
この作用自体は間違いではありません。
しかし、実際のゴルファーは、同じ構えと同じスイングのまま、ライ角だけが変化するわけではありません。
ライ角が変われば構えが変わります。
構えが変われば支点が変わります。
支点が変われば、バックスイングの腕の通り道とスイングプレーンが変わります。
そして、そこで生じた補正動作は、ダウンスイングのクラブ軌道やフェースの戻り方まで変えてしまいます。
したがって、ライ角とは、単にソールを地面へ合わせたり、球の左右方向を調整したりするための数値ではありません。
ゴルファーが無理な補正をせず、自然な位置からクラブを上げ、自然なプレーンでクラブを戻せるようにするための数値でもあります。
冒頭のお客様は、基本的に練習をなさいません。
それでも、シャフト、クラブ間のギャップ、ウェッジのソール、そしてアイアンのライ角を見直したことで、クラブに合わせるための余計な動きが減った可能性があります。
スイングを作り替えたのではありません。
そのゴルファーが本来持っている動きを、クラブが邪魔しにくくなったのです。
フィッティングの目的は、クラブによって新しいスイングを作ることではありません。
ゴルファーが無意識に行っている補正を減らし、本来のスイングを出しやすくすること。
自己ベストの更新と、2人のシングルプレーヤーを上回ったという結果は、その可能性を示す非常に分かりやすい実例だと思います。
