第1話 ライ角は、フェースの向きではなく「手元の高さ」である

左に低く飛ぶ人が、アップライトで改善する理由

左に低く飛ぶ傾向がある人に、アップライトなクラブをすすめると、症状が改善することがあります。

一見すると、不思議に思われるかもしれません。

なぜなら、一般的には、

アップライトにすると左へ行きやすい

と言われているからです。

左に飛ぶ人に、さらに左へ行きやすいはずのアップライトなクラブをすすめる。
普通に考えれば、症状が悪化しそうに見えます。

しかし、実際のフィッティングでは、逆のことが起きる場合があります。

左に低く飛んでいたボールが、少し高くなり、左へのひっかけが弱まり、センター方向へ戻ってくる。

こういうケースがあります。

では、なぜそんなことが起きるのでしょうか。

理由は、ライ角を単に、

フェースの向きを変える調整

として見ていると分かりません。

ライ角には、もう一つ大きな役割があります。

それは、

手元の高さを変える

という役割です。


ライ角が変わると、まず手元の高さが変わる

多くの方は、ライ角を方向性の調整だと考えています。

アップライトにすると左。
フラットにすると右。

もちろん、これは間違いではありません。

クラブ単体で見れば、ライ角がアップライトになれば、ロフトのあるクラブほどフェース面は左を向きやすくなります。
その意味では、アップライトは左方向へ影響する調整です。

しかし、実際にクラブを振るのは人間です。

人間がクラブを振る以上、ライ角が変われば、フェースの向きだけではなく、構え方やスイングの通り道も変わります。

特に大きいのが、手元の高さです。

たとえば7番アイアンで、ライ角を1度アップライトにすると、手元はおおよそ7〜8mm高くなります。

たった8mmと思うかもしれません。

しかし、ゴルフスイングでは、この8mmがかなり大きい。

手元が8mm変われば、

  • 腕の下がり方
  • 肘の位置
  • 前傾の保ち方
  • 手元の通り道
  • シャフトプレーン
  • ヘッドの入り方
  • ロフトの残り方

まで変わる可能性があります。

つまり、ライ角とは単にフェースの向きを変える調整ではありません。

クラブをどの手元高さで使わせるかを決める調整

でもあるのです。


左に低く飛ぶ原因は「つかまりすぎ」だけではない

ここで大切なのは、左に低く飛ぶ原因を単純に考えないことです。

左に飛ぶ。
だからフェースが返りすぎている。
だからフラットにする。

この判断だけでは危険な場合があります。

なぜなら、左に低く飛ぶ人の中には、実際には、

  • 手元が低くなりすぎている
  • クラブが外から入っている
  • ロフトが立ちすぎている
  • フェースを手で合わせている
  • 力のベクトルが左下へ向いている

という状態の人がいるからです。

この場合、左に飛んでいる原因は、単に「クラブがアップライトだから」ではありません。

むしろ、手元が低くなりすぎ、クラブが外から入り、ロフトが立ち、フェースを手で左へ向けている。
その結果として、低いひっかけが出ているわけです。

このタイプの人に、さらにフラットなクラブを渡すとどうなるでしょうか。

手元はもっと低くなりやすくなります。
クラブはさらに外へ逃げやすくなります。
それを戻そうとして、さらに手を使います。
結果として、もっと低い左球になる可能性があります。


アップライトにすると、左への構造が弱まることがある

このような人にアップライトなクラブを持たせると、手元の高さが少し上がります。

手元が上がると、クラブが体の近くを通りやすくなります。
クラブが体の近くを通ると、外からかぶせる動きが弱まることがあります。
外から入る力が弱まると、ロフトが残りやすくなります。
ロフトが残ると、ボールは少し高くなります。
フェースを手で合わせる必要も減ります。

その結果、左に低く飛んでいたボールが、センター方向へ戻ることがあります。

ここで起きているのは、

アップライトにしたから左へ行った

ではありません。

むしろ、

アップライトにしたことで、左へ低く飛ばすスイング構造が弱まった

ということです。

これが、フィッティングで実際に起こる面白い現象です。


ライ角は「方向」ではなく「入力条件」

ライ角を方向だけで見ると、

左へ行くならフラット。
右へ行くならアップライト。

という単純な判断になります。

しかし、ライ角は方向を後から補正するだけのものではありません。

ライ角は、その人がクラブをどの高さで使うかを決める、入力条件でもあります。

手元の高さが変われば、クラブの通り道が変わります。
クラブの通り道が変われば、ヘッドの入り方が変わります。
ヘッドの入り方が変われば、ボールに加わる力のベクトルが変わります。

つまり、ライ角は、

フェースの向きだけでなく、インパクトへ向かう力の向きを整える調整

でもあるのです。

ここを理解しないと、ライ角フィッティングは非常に危険になります。


PINGカラーコードチャートが見ているもの

PINGのカラーコードチャートは、単なるライ角表ではありません。

身長と、手首から床までの長さをもとに、クラブ長とライ角の基準を出します。

これは、単に、

「この人は左に行きそうだからフラット」
「この人は右に行きそうだからアップライト」

と決めているわけではありません。

その人の体格に対して、

クラブをどの手元高さで使うのが自然か

を見ているわけです。

ここが非常に重要です。

PINGは公式に、

「アウトサイドインの人はアップライトにしましょう」

とは言っていません。

しかし、カラーコードチャートそのものが、手元高さの問題をかなり吸収しています。

身長が高い人。
腕が短い人。
前傾が浅くなりやすい人。
手元が低くなりすぎるとクラブが外から入りやすい人。

こうした条件を、静的な寸法からまず整理し、そこから実際の試打で微調整していく。

つまり、PINGのカラーコードチャートは、ライ角表であると同時に、

手元高さの初期設定表

でもあるのです。


まとめ

左に低く飛ぶ人に、アップライトなクラブをすすめると改善することがあります。

これは一見、常識に反しているように見えます。

しかし、ライ角をフェースの向きだけでなく、手元の高さとして見ると理解できます。

ライ角が変わる。
手元の高さが変わる。
クラブの通り道が変わる。
ヘッドの入り方が変わる。
ボールに加わる力のベクトルが変わる。

だから、アップライトにしたことで、左へ行くのではなく、左へ低く飛ばしていた構造そのものが弱まることがある。

ここが、ライ角フィッティングの非常に大切なところです。

ライ角とは、フェースの向きではありません。

ライ角とは、手元の高さである。

この視点を持つと、PINGのカラーコードチャートの意味も、長いクラブが難しくなる理由も、かなり見え方が変わってきます。

次回は、

アップライトにすると、なぜ低いひっかけが減ることがあるのか

を、もう少し詳しく考えていきます。

第6話 人間だから使える加速資源

二足歩行と左股関節の上昇

前回は、インパクトゾーンでクラブがなぜ加速するのかを整理しました。

ポイントは、クラブを手で叩くことではありませんでした。

バンプによって左股関節側に圧力が移る。
そこから左股関節が上昇する。
骨盤が回転しながら抜ける。
身体の回転が止まらない。
手元が移動し続ける。
クラブの遅れが、接線方向のヘッド速度へ変換される。

これが、インパクトゾーンでヘッドが減速せずに通過する大きな理由だと考えました。

今回は、その考えをもう少し広げます。

この左股関節の上昇による加速は、アプローチだけの話ではありません。

フルスイングでも、同じ原理は発生しています。

そして、このことを考えるたびに私は、これは 人間だから使える加速資源 なのだと思います。


人間は、股関節を上下させて前へ進む

人間は二足歩行をします。

歩く時、人間はただ脚を前に出しているわけではありません。

股関節が上下する。
骨盤がわずかに回旋する。
左右の脚が交互に支持脚になる。
重心が前へ移動する。

この仕組みによって、人間は前へ進んでいます。

つまり、人間の身体には、もともと

股関節の上下運動と骨盤の回旋を使って、重心を移動させる仕組み

が備わっているわけです。

これは、ゴルフスイングにも非常に大きく関係していると思います。 “第6話 人間だから使える加速資源” の続きを読む

第5話 クラブの遅れは、なぜヘッド速度に変わるのか

左股関節の上昇と接線方向の加速

ここまで、アプローチの距離感を 入力 という視点から整理してきました。

第2話では、有効重量 m を一定にすること。
第3話では、加速度 a を一定にすること。
第4話では、加速距離 s を変えることで、インパクト時の速度 V を管理すること。

式で言えば、

V² = 2as

そして、

E ≒ 1/2mV²

です。

つまり、アプローチの入力制御とは、

m を一定にする。
a を一定にする。
s を変える。

その結果として、インパクト時の V が決まり、ボールへ伝わる仕事量が決まる。

ここまでは整理できました。

しかし、ここで一つ大きな問題が残ります。

では、クラブの遅れは、なぜインパクトゾーンでヘッド速度に変わるのか。

短いアプローチでも、ヘッドが芝に負けず、ボールに仕事をする。
手で叩きにいかなくても、ヘッドがインパクトを通過する。
ポールターのように、短い距離でも緩まない。

その原因を説明しないままでは、入力の話はまだ完成しません。

今回は、インパクトゾーンでの加速の原理を整理します。 “第5話 クラブの遅れは、なぜヘッド速度に変わるのか” の続きを読む

第2話 スクエアスタンスでは、変数が多すぎる

有効重量 m を一定にするためのオープンスタンス

前回は、オリムピッククラブで見たイアン・ポールターのアプローチ練習から、

アプローチは、ボールではなくウェッジへの入力から始まる

という話をしました。

ポールターのアプローチは、手先で距離を合わせているようには見えませんでした。
インパクトで弱めている感じもない。
大きく上げて、当たる直前に調整している感じもない。

むしろ、構えの時点で、すでにウェッジに入る入力の上限を決めているように見えました。

その中心にあったのが、スタンスの向きです。

スタンスをオープンにすることで、バックスイングが大きくなりすぎない。
そして、フォロー側には身体が抜けていく。

この構造が、距離感の安定につながっているのではないか。

今回はその理由を、有効重量という考え方から整理してみます。


距離感は、ヘッドスピードだけでは決まらない

アプローチの距離感というと、多くの人はヘッドスピードを考えます。

速く振れば飛ぶ。
遅く振れば飛ばない。

もちろん、それは間違いではありません。 “第2話 スクエアスタンスでは、変数が多すぎる” の続きを読む

第1話 マキロイより気になったポールターの安定感

アプローチは、ボールではなくウェッジへの入力から始まる

オリムピッククラブで、イアン・ポールターのアプローチ練習を見たことがあります。

その時、近くではローリー・マキロイも練習していました。

普通に考えれば、目を奪われるのはマキロイです。
世界トップクラスのスイング。
圧倒的なスピード。
身体能力の高さ。
ボールを打つ姿そのものに、華があります。

ところが、その時の私は、なぜかポールターのアプローチから目が離せませんでした。

理由は、派手さではありません。
高く上げる球でも、強烈なスピンでもありません。

むしろ、見た目にはとても静かでした。

しかし、ボールが同じような距離に集まっていく。
構えが大きく変わらない。
リズムも大きく変わらない。
インパクトで緩んでいる感じもない。

その安定感が、妙に印象に残ったのです。

イアン・ポールターといえば、ライダーカップで強さを発揮した選手です。

ヨーロッパチームの一員として、何度も重要な場面で結果を出してきました。
“THE POSTMAN” と呼ばれたのも、必要な場面で必ず仕事を届ける、という意味合いがあったのだと思います。

一打一打の意味が重くなる場面で、力を発揮できる選手です。

そのポールターのアプローチ練習を見ていると、なるほどと思う部分がありました。

勝負どころで強い選手のアプローチは、手先で距離を合わせているようには見えない。
偶然寄せているようにも見えない。

最初から、距離が大きく外れない構造を作っているように見えたのです。

私が特に気になったのは、スタンスの向きでした。

ポールターは、スタンスのオープン度を変えることで、バックスイングの大きさを制限しているように見えました。

つまり、何ヤードだから手でここまで上げる、というよりも、
構えた時点で、

そこまでしか上がらない状態

を作っているように見えたのです。

これは、非常に重要です。

多くのアマチュアは、短いアプローチで距離を落とそうとすると、インパクトで弱めます。

大きく上げて、当たる直前に緩める。
ヘッドを止める。
身体を止める。
手で合わせる。

しかし、それでは毎回違うインパクトになります。

ある時は身体ごと動く。
ある時は腕だけになる。
ある時は手首だけで合わせる。
ある時はヘッドだけが走る。

これでは、距離感がそろいません。

アプローチの距離感というと、多くの人はまず結果を考えます。

何ヤード飛ばすか。
どこに落とすか。
どれくらい転がすか。
スピンを入れるか。
高く上げるか。
低く出すか。

もちろん、それらは大切です。

しかし、それはすべて結果側の話です。

その前にあるのは、

ウェッジにどれだけの入力を与えるか

です。

ここを見落としてはいけません。

アプローチは、ボールをどうするかの前に、ウェッジに何をさせるかです。

ウェッジに入る入力が大きすぎれば、インパクトで減速しなければならない。
入力が小さすぎれば、芝に負ける。
入力が毎回違えば、キャリーもスピンもランも読めない。

だから、まず制御すべきなのはボールではありません。

ウェッジへの入力です。

この時のポールターのアプローチは、まさにそこが整理されているように見えました。

スタンスの向きで、バックスイングの大きさを制限する。
バックスイングの大きさが制限されれば、クラブヘッドが加速できる距離も制限される。
加速できる距離が制限されれば、インパクト時のヘッド速度も大きくなりすぎない。

つまり、距離をインパクトで殺しているのではなく、
構えの時点で、ウェッジに入る入力の上限を決めている。

ここに、プロのアプローチの大きなヒントがあります。

アプローチが苦手な人ほど、インパクトで距離を合わせようとします。

「強かった」
「弱かった」
「緩んだ」
「入った」
「手が出た」
「ヘッドが走った」

こういう言葉が多くなります。

しかし、インパクトで調整している限り、距離感は安定しません。

なぜなら、インパクトは一瞬だからです。
その一瞬で、速度、ロフト、フェース向き、最下点、入射角、スピン量をすべて合わせようとするのは、あまりにも難しい。

本来は逆です。

インパクトで合わせるのではなく、
インパクトまでに、すでに合う状態を作っておく。

ポールターのアプローチには、その考え方が見えたのです。

このシリーズでは、アプローチを少し違う角度から考えていきます。

テーマは、距離感ではありません。

もっと手前にある、

ウェッジへの入力制御

です。

アプローチの距離は、単に振り幅だけで決まるわけではありません。
ヘッドスピードだけで決まるわけでもありません。

身体とクラブがどれだけつながっているか。
どれだけ一定の圧力でクラブを動かせているか。
どれだけの加速距離を与えているか。

そうした要素によって、ウェッジへの入力は決まります。

そして、その入力が安定して初めて、ボール位置、フェースの開き、バンス、グリップポジションといった出力側の調整が意味を持ちます。

ポールターのアプローチ練習を見た時、私はただ「安定している」と感じました。

しかし、今あらためて考えると、その安定感には理由があったのだと思います。

距離を手で合わせていたのではない。
インパクトで弱めていたのでもない。
大きく振って、途中で調整していたのでもない。

構えの段階で、ウェッジへの入力を決めていた。

その入力が大きくなりすぎないように、スタンスの向きでバックスイングを制限していた。
そして、その制限された入力を、最後まで止めずに使っていた。

だから、短い距離でも緩まない。
だから、ボールが同じような距離に集まる。
だから、アプローチに安定感が出る。

アプローチは、ボールに合わせる技術ではありません。

まず、ウェッジに入る入力をそろえる技術です。

ボールの高さ、スピン、ラン、落とし場所は、その後に出てくる結果です。

次回は、この入力をもう少し物理的に考えます。

特に重要になるのは、

有効重量

です。

同じヘッドスピードでも、身体とクラブが一体で動いているのか、手先だけで合わせているのかで、ボールに伝わる仕事量は変わります。

つまり、距離感を狂わせているのは、スピードだけではありません。

ウェッジに乗っている有効重量が、毎回変わっていること。

ここに、アプローチが安定しない大きな理由があります。

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ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話

売れる言葉と、PINGが見ていたもの

――しなりの大きさではなく、ボールに何が伝わったか――

前回は、ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性について書きました。

ヘッドスピードを上げる練習器具には、たしかに効用があります。

普段より強く振るきっかけになる。
出力制限が外れる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
一時的に飛距離が伸びることもある。

ですから、ヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

ただし、問題はその先です。

そのヘッドスピードが、どのように作られたのか。
そして、その速度がボールスピードに変換されたのか。

ここを見なければなりません。

体を止める。
手を使う。
リリースを早くする。
身体とクラブの束縛を早く切る。

こうした動きでも、ヘッドスピードという数字は上がります。

しかし、その代わりに有効重量を失い、インパクトでクラブが軽くなっているなら、それは本当に飛ぶスイングに近づいたとは言えません。

ヘッドスピードは上がった。
しかし、クラブは軽くなった。

ここに、ヘッドスピードアップという言葉の難しさがあります。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第3話” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話

ヘッドスピードアップ練習器具の効用と危険性

――一時的に飛ぶからこそ、注意が必要です――

前回は、金沢市のジュニア練習会での出来事から、ヘッドスピードと飛距離は同じではないという話をしました。

簡易的な測定器では、ジュニアの方がヘッドスピードで勝っていました。
しかし、実際にボールを打つと、委員長の方が50ヤードほど飛ぶ。

ここに、ヘッドスピードという数字の難しさがあります。

ヘッドスピードは、クラブヘッドがどれだけ速く動いたかを示す数字です。
しかし、飛距離を決めるのは、それだけではありません。

本当に見るべきなのは、

そのヘッドスピードが、どれだけボールスピードに変換されたか

です。

今回は、そこからもう一歩進んで、ヘッドスピードを上げる練習器具について考えてみたいと思います。


ゴルフの練習器具には、ヘッドスピードアップを前面に出したものがたくさんあります。

ヘッドスピードが上がる。
振るだけで飛距離アップ。
ヘッドが走る。
速く振れるようになる。

こうした言葉は、とても分かりやすいです。

そして、実際に使ってみると、一時的にヘッドスピードが上がることもあります。
場合によっては、ボールスピードが上がり、飛距離が伸びることもあります。

ですから、私はヘッドスピードアップ系の練習器具を、すべて否定したいわけではありません。

効用はあります。

普段より強く振るきっかけになる。
普段より大きく振るきっかけになる。
リリース不足だった人が、ヘッドを出せるようになる。
クラブを振ることへの怖さが減る。
自分にはまだ速く振れる余地があると気づく。

こういう意味では、ヘッドスピードアップ系の器具は、一定の役割を持っています。 “ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか?第2話” の続きを読む

第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか

Reitanの使用パターから見えるPINGのツアーカスタム思想

前回は、Kristoffer Reitanの優勝について見てきました。

ノルウェー出身のReitan。
ノルウェーといえば、ビクター・ホブラン。
そして、PING創業者カーステン・ソルハイムの故郷でもあります。

そのノルウェーから来た選手が、PINGのパターを手にしてPGA TOURで勝利した。

しかも、勝利の大きな鍵になったのがパッティングでした。

PING Tourの投稿では、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上で大きくフィールドに差をつけていたことになります。

では、そのパッティングを支えたパターは、いったいどのようなものだったのでしょうか。

今回見ていきたいのは、Reitanが使用した Custom PLD Ally Blue H です。

ただし、このパターは少し不思議です。

公式にはPLD。
しかし、見た目にはScottsdale TEC Ally Blue Hの要素も強く感じます。

今回は、そのあたりを整理してみたいと思います。


公式には、Custom PLD Ally Blue H

まず、事実として押さえておきたいのは、Reitanのパターが Custom PLD Ally Blue H と紹介されていることです。

Alistair Cameron@ACameronWRX

A great time for Kristoffer Reitan to add a

PLD Milled Ally Blue H to the bag! With more toe hang than his previous putter, the custom head was created so that he could see an uninterrupted sight line. He also added the G440 K 9 degree w/Mitsubishi Tensei White 1K 60TX

PLDと聞くと、多くのPINGファンは、削り出し、精密加工、ツアー仕様、プレーヤーの感覚に合わせた作り込みを思い浮かべると思います。 “第2話 PLDなのか、Scottsdale TECなのか” の続きを読む

PING i540打感考察②

「なんて打感が良いんだ」

——トップアマの言葉から、i540の打感を考える

前回は、PING i540アイアンの海外レビューで使われている表現について整理しました。

日本では「打感が良い」「柔らかい」と表現されることが多い一方で、海外レビューでは、

hot
solid
muted

といった言葉が使われています。

つまりi540の打感は、単純な「柔らかさ」ではなく、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

という方向で理解したほうがよいのではないか、という話でした。

今回は、その感覚を実際の試打の中から考えてみたいと思います。

あるトップアマの方が、i540を打ったときのことです。

その方は、非常に良いスイングをされています。
私の見方で言えば、スターシステムに則ったスイングです。

身体の回転、支点、クラブの走り、ライン・オブ・コンプレッションがきれいにつながり、手でインパクトを作りにいくのではなく、スイングの構造の中でクラブがボールへ届く。

そういうスイングでした。

しかし、最近は少し調子を落としていました。

その状態でi540を打ったとき、最初に出た言葉が、

「なんて打感が良いんだ」

でした。

この言葉は、とても印象的でした。 “PING i540打感考察②” の続きを読む

PING i540打感考察①

PING i540の打感は、なぜ「柔らかい」だけでは説明できないのか

——海外レビューの “hot / solid / muted” から読み解く

PING i540アイアンについて、海外レビューも含めて確認していると、少し面白いことに気づきました。

日本では、i540の打感について、

「打感が良い」
「柔らかい」
「中空とは思えない」
「音が静か」

という表現が多く見られます。

もちろん、i540の打感は非常によく作られていると思います。

ただ、海外レビューでは少し表現が違います。

i540の打感を単純に soft と言うよりも、

hot
solid
muted
lively
responsive

といった言葉で表現しているものが目立ちます。

ここが、とても気になりました。

日本語で「打感が良い」と言うと、多くの方はまず「柔らかい打感」を想像するかもしれません。

軟鉄鍛造のように、しっとりしている。
手に伝わる衝撃が丸い。
フェースにボールが乗るように感じる。

そういう感覚です。

しかし、海外レビューで使われる hot は、それとは少し違います。

hot は、ゴルフクラブの打感で使われる場合、

ボールが強く出る
初速感がある
自分の想像より打球が前へ出る

という意味に近いと思います。

つまり、i540の打感は、

「柔らかく沈み込む」

というより、

一瞬受け止めて、そこから強く出る

と表現したほうが近いのかもしれません。

ここで、日本語の表現の難しさがあります。

たとえば英語では、「辛い」にもいくつかの言い方があります。

salty なら、塩辛い。
hot なら、唐辛子のような熱い辛さ。
spicy なら、香辛料が効いた刺激。

日本語では、これらをまとめて「辛い」と言ってしまうことがあります。

「甘い」も同じです。

砂糖の甘さだけでなく、

米が甘い。
脂が甘い。
出汁が甘い。

本当は、旨みやコク、角の取れた丸さを感じているのに、「甘い」と表現することがあります。

打感も、これに近いと思います。

日本語の「打感が良い」という言葉の中には、実はいろいろな感覚が含まれています。

柔らかい。
芯がある。
音が低い。
振動が少ない。
球が強く出る。
打点が分かる。
嫌な硬さがない。
弾くけれど雑ではない。

これらをまとめて、私たちは「打感が良い」と言ってしまうことがあります。

しかし英語レビューでは、その中身をもう少し分けます。

soft は、柔らかい。
軟鉄鍛造のように、衝撃が丸く、しっとりした打感です。

hot は、打球が強く出る。
フェースからボールが勢いよく飛び出す感覚です。

solid は、芯がある。
薄っぺらくなく、当たり負けしない感覚です。

muted は、音や振動が抑えられている。
甲高い音や余計な響きが少ない打感です。

lively は、反応が良い。
ボールが元気よく出る感覚です。

responsive は、入力に対して返りがある。
打点や当たり方の情報が手に伝わる感覚です。

こう考えると、海外レビューでi540が soft というより hot / solid / muted と表現されている理由が見えてきます。

i540は、軟鉄鍛造アイアンのように、ただ柔らかく沈み込む打感を目指したクラブではありません。

C300マレージング鋼の薄肉フェースを使い、フェースをたわませ、その復元でボール初速を作るアイアンです。

つまり、打感の中には明らかに「出球の強さ」があります。

しかし、その強さが不快な硬さとして出ていない。

ここが重要です。

薄肉フェースのアイアンは、一歩間違えると、

カチッと硬い。
パチンと軽い。
音が高い。
中空っぽく響く。

という印象になりやすいです。

ところがi540では、inR-Airやi-Beamによって、余計な音と振動を抑えています。

そのため、球は強く出る。
しかし、音は暴れない。
フェースの弾きはある。
しかし、手には嫌な硬さとして残りにくい。

だから海外レビューでは、単純に soft ではなく、

hot
solid
muted

という表現になるのだと思います。

日本語で言えば、

強く出るのに、嫌な硬さがない打感

です。

あるいは、

弾くのに、雑ではない打感

と言ってもよいかもしれません。

ここを「柔らかい」とだけ言ってしまうと、i540の本当の良さが少しぼやけます。

i540の打感は、軟鉄鍛造のしっとりした柔らかさとは違います。

しかし、ただ硬く弾くわけでもありません。

一瞬、ボールを受け止める。
そこから、自分が想像しているよりも強い打球が出る。
そして、その強さを音や振動で過剰に主張しない。

このあたりが、i540の打感の面白さだと思います。

日本のレビューで「打感が良い」と言われる理由も、海外レビューで hot / solid / muted と表現される理由も、おそらく同じところを見ています。

ただ、使っている言葉が違う。

日本語では「打感が良い」とまとめる。
海外では、その中身を hot、solid、muted と分ける。

その違いです。

ですから、i540の打感を理解するうえでは、まずこの整理が大事になります。

i540は、柔らかいだけのアイアンではありません。

むしろ、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

この3つがそろった打感です。

そしてこの「強く出るのに、嫌な硬さがない」という感覚は、昔の良いアイアンを知っているゴルファーほど、少し懐かしく感じる部分があるのかもしれません。

次回は、実際にi540を打ったトップアマの方が口にした、

「なんて打感が良いんだ」

という言葉から、この打感の正体をもう少し掘り下げてみたいと思います。

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