ハイブリッドのやさしさを間違えてはいけません

そもそも、ハイブリッドが左へ行きやすい理由の一つは、

「ロングアイアンをそのまま簡単にしたクラブ」ではなく、ロングアイアンの距離を、もっと簡単に出すクラブとして設計されたこと

にあるのではないでしょうか。

ロングアイアンの弱点は、単に球が上がりにくいことだけではありません。

短めのクラブ長と小さなヘッドで、必要なキャリーを出すための十分なヘッドスピードを確保しなければなりません。

そこでハイブリッドでは、

  • 重心を深くする
  • ヘッドを大きくする
  • 球を上げやすくする
  • シャフトを少し長くしてヘッドスピードを稼ぐ

という方向へ進みました。

今回の比較では、

クラブ ロフト 長さ
3I 19° 39.0″
HB #3 20° 40.25″

ほぼ同じロフトなのに、ハイブリッドの方が1.25インチ長い

この1.25インチにはかなり意味があります。

クラブの回転半径が大きくなるため、同じ角速度で振ればヘッドの線速度を高めることができます。

つまりハイブリッドは、

ロングアイアンよりも楽にボールスピードを出す

ための設計でもあるわけです。

さらに、ハイブリッドやレスキュー系のクラブは、その成り立ちを見ても、アイアンというより小型のフェアウェイウッドに近い性格を持っています。

そのためクラブ長も、

Iron ← HB → FW

という中間的な設定になります。

19〜20°付近を比較すると、

3I 39.0″

HB #3 40.25″

FW #5 42.5″

となります。

メーカー側から見れば、これは非常に合理的です。

FWほど長くないので当てやすい。

アイアンより長いのでヘッドスピードを出しやすい。

重心が深いので球も上がりやすい。

これで、「難しいロングアイアンの代わりになるクラブ」が成立します。

しかし、ここに別の問題が生まれます。

ハイブリッドが誕生した目的は、

ロングアイアンと同じスイングを再現すること

ではなく、

ロングアイアンの距離を、より簡単に出すこと

だったのではないか。

この二つは似ていますが、同じではありません。

特に上級者やハードヒッターの場合、もともと3番、4番アイアンでも必要なヘッドスピードを出せます。

そこへ、

1インチ以上長いシャフト
+ 深い重心
+ つかまりを補助するヘッド
+ 軽量なハイブリッド用シャフト

を組み合わせれば、「簡単にするための補助」が過剰になる可能性があります。

そして、ここからもう一つの問題につながります。

ハイブリッドは見た目も構え方もアイアンに近い。

そのためゴルファーは、無意識にアイアンに近い感覚で構えます。

しかし、実際にはシャフトが1〜1.5インチ長い。

そこでアイアンと同じような構えを作ろうとすると、その長さの余剰を、どこかで処理しなければならなくなります。

その結果、

アイアンと同じ構えを作ろうとする

実際にはクラブが長い

ダウンスイング後半で長さを処理する必要が出る

クラブを早めにリリースする

という補償動作が起きる可能性があります。

アーリーリリースが起きれば、フェースは早く閉じやすくなります。

つまり、ハイブリッドの左へのミスは、

「ヘッドがつかまりやすいから」

だけではなく、

ロングアイアンより簡単に距離を出すために長くしたこと自体が、ハードヒッターには左へのミスを誘発する要因になっているのではないか

ということです。

ハイブリッドは確かにやさしいクラブです。

しかし、その「やさしさ」はすべてのゴルファーに同じように働くとは限りません。

 

ハイブリッドの弱点、ひっかけやすいのはなぜ?

先週、ジュニア君たちのラウンドを見ていた時のことです。

本来であれば、距離を欲張るよりも方向性を重視して使いたい場面で、ハイブリッドのショットがかなり左へミスしていました。

これは少し気になるところです。

ハイブリッドは、ロングアイアンよりもボールを上げやすく、ミスにも強い。いわば「お助けクラブ」として使われることの多いクラブです。

ところが、そのクラブで方向性を失ってしまえば、スコアメイクのための武器にはなりません。

特にヘッドスピードの速いゴルファーやハードヒッターにとって、ハイブリッドの大きな弱点になるのが左へのミスです。

ハイブリッドがまだ一般的ではなかった時代、その距離を攻めるクラブといえばロングアイアンでした。

今のように「難しいからハイブリッドに替える」という選択肢はありません。

ですから、3番アイアンや4番アイアンを一生懸命練習したものです。

そのおかげもあって、私自身、今でもロングアイアンがまったく打てないというわけではありません。

そもそも昔のアイアンセットは、3番アイアンから入っているのが普通でした。

バッグの中には当たり前のように3番、4番が入っていましたから、練習場でもラウンドでも自然と触れる機会がありました。

ところが今は、アイアンセットが5番から、場合によっては6番からということも珍しくありません。

そうなると、若いゴルファーほどロングアイアンそのものを打つ機会がほとんどありません。

もしかすると、ハイブリッドが普及したことでロングアイアンが難しくなったのではなく、ロングアイアンを練習する機会そのものがなくなったという面もあるのではないでしょうか。

そうは言っても、今の時代はそうはいきません

では、お助けクラブが、急に牙をむくように、左にボールを飛ばすのでしょうか?
一般にはその理由として、

  • 重心深度の深さ
  • ヘッド形状
  • オフセット
  • フェースの返りやすさ

などが挙げられます。

1. 重心深度が深い

ハイブリッドはロングアイアンよりヘッドに奥行きがあり、一般に重心がフェース面から後方にあります。

ここで重要なのは、ボールと接触する点はフェース面ですが、ヘッドの質量中心はその後方にあることです。

インパクト時に打点が重心線から外れると、

打点 → ヘッド重心

の距離によってモーメントが生じます。

特にトウ寄りに当たった場合には、ヘッドが開く方向に回転し、その反作用としてボールにはドロー方向のギア効果が生じます。

重心深度の大きなヘッドでは、この「フェース面と重心との距離」が大きくなるため、アイアンよりギア効果を無視しにくくなります。

したがって、

少しトウ寄りに当たる
→ ドロー回転が増える
→ ハードヒッターでは左への曲がり幅が大きくなる

ということがあります。

ただし、重心が深いだけでフェースが閉じるわけではありません。
ここは分けて考えた方がよいです。


2. ヘッド形状

アイアンはフェースから後方への奥行きが小さいですが、ハイブリッドは小型のウッドに近い立体的なヘッドです。

そのため、重心位置を

  • 後方
  • ヒール側
  • 低い位置

などへ設計しやすくなります。

特につかまりを重視したモデルでは、重心距離を短くする設計が可能です。

ここでいう重心距離は、おおまかには

シャフト軸からヘッド重心までの距離

です。

これが短ければ、シャフト軸を中心としてヘッドを回転させるために必要なモーメントが小さくなり、

フェースターンを起こしやすいヘッド

になります。

したがって、「ヘッドが厚いから左」というより、

厚みのあるヘッド形状によって、メーカーが重心位置を大きく操作でき、その結果としてつかまりを強く設計できる

と考えた方が正確です。


3. オフセット

これは比較的分かりやすい要素です。

オフセットが大きいと、シャフト軸よりフェースが後方にあります。

その結果、ダウンスイングでグリップが先行してきたとき、

シャフト軸がボール位置を通過してからフェースがボールに到達するまでの時間・距離がわずかに増える

ことになります。

その間にもクラブは回転運動を続けています。

したがって、同じスイングでもフェースがスクエア方向まで戻る余裕が増えます。

また、構えたときにもフェースが後ろに見えるため、ゴルファー自身が無意識にフェースを戻そうとする可能性があります。

もともと右へ逃がしやすいゴルファーには有効ですが、フェースを十分に戻せるハードヒッターには、

「戻り過ぎる」

方向に働く場合があります。


4. 「フェースの返りやすさ」

これは独立した原因というより、重心位置・重心距離・ヘッド慣性モーメント・シャフト特性などの結果として現れる性質です。

クラブを上から見ると、シャフト軸とヘッド重心は一致していません。

シャフトを動かすと、その後ろにある重心が運ばれます。

このとき、

  • 重心距離が短い
  • ヒール寄り重心
  • シャフト軸まわりの慣性モーメントが小さい
  • シャフトのねじり戻りが早い

といった条件が重なると、フェースの回転速度、つまり**closure rate(フェースクロージャーレート)**が高くなりやすくなります。

ハードヒッターの場合、この差がさらに表面化します。

ヘッドスピードが高ければ、わずかなフェース角の違いでも球の初期方向への影響が大きく、さらにドロー系のスピン軸が付けば、左への曲がりも大きくなります。

ですから、

「簡単につかまるクラブ」=「誰にとっても方向性が良いクラブ」

ではありません。

 

 

第6話 Project X LZ、そしてアイアン選びへ

PROJECT X LZ

メーカーはProject X LZについて、次のように説明しています。

新技術TWT(トリプル・ウォール・テクノロジー)にてティップとバット部分の強度を上げ、シャフト中間部分の“Loading Zone”でエネルギー伝導率の最大化・最適化を達成。(当社製品従来比)

さらに、フレックスごとにテーパー率と重量を変え、ツアー選手向けの6.5/125gから、アマチュアゴルファー向けの5.0/110gまで用意されています。

この説明を読んで、腑に落ちることがありました。

このシャフトは、単に「ボールが高くなるシャフト」ではない。

ということです。

私は釣りもしていて、以前はロッドも自作していました。

ピンポイントにルアーを入れることが重要な釣りでは、ロッドのティップを詰めて組んだ方が、ルアーの初速が出て、しかもコントロールしやすいということに気づいていました。

ただ柔らかくして、ロッドを大きくしならせればいいわけではありません。

Loadを受け止める。

そのエネルギーを使う。

そしてリリースした後には、ティップが正確に戻る。

Project X LZの、

ティップとバット部分の強度を上げ、その中間にLoading Zoneを作る

という説明を読んだとき、このキャスティングロッドの感覚と重なるものがありました。

もちろん、ゴルフシャフトと釣り竿は同じではありません。

そして、スイングにもよります。

しかし、今回のお客様のように、ボールの近くまで長くLoadingを続けるタイプのスイングには、このシャフトは非常に合う可能性があります。

メーカー自身が、

「エネルギー伝導率の最大化・最適化」

を掲げているシャフトですから、その意味では当たり前なのかもしれません。

問題は、ちょっとお高い。

でも、

いいシャフトだと思います。

そしてBLUEPRINT Tへ戻ります

さて、ここまでBLUEPRINT Tから始まって、ヘッドの大きさ、フェースターン、リリース、Loading、そしてProject X LZまで話を広げてきました。

最後に、もう一度アイアンの話へ戻りましょう。

PGA TOURでも、マッスルバックをセットの中心として使用している選手は少数派です。

調査の定義にもよりますが、おおよそ2割程度。

世界最高レベルの選手でさえ、キャビティバックを使っている選手の方が多いのです。

これは当然だと思います。

マッスルバックを使わなければ、良いゴルフができないわけではありません。

ヘッドを意図したタイミングで動かす。

弾道を変える。

ロフトを管理する。

リリースのタイミングを自分で作る。

そうしたことができるゴルファーにとって、マッスルバックの運動特性は大きな武器になることがあります。

今回のお客様が、まさにそうでした。

しかし、それができなくてもスコアが良ければ、それもまた良いゴルフです。

むしろクラブに助けてもらい、できるだけ同じ弾道を繰り返す方がスコアにつながるゴルファーもたくさんいます。

だから、

小さいヘッドだから難しい。
大きいヘッドだからやさしい。

だけでは、アイアンを選ぶことはできません。

何をクラブに任せたいのか。

何を自分でコントロールしたいのか。

そして、どのようなゴルフをしたいのか。

ゴルファーの能力だけではなく、プレースタイルまで含めてアイアンを選ぶ。

それが今回のフィッティングから、改めて感じたことでした。

 

第4話 抑えられるから、もっと上げてみる

前回まで、なぜBLUEPRINT Tではボールを抑えて打つことが容易だったのかを考えてきました。

フィッティング中、お客様にボールを抑えて打つことについて確認すると、

「抑えるのは容易です」

という答えが返ってきました。

ここまでくると、フィッターとしては、

「それなら、とことんやってみましょう」

ということになります。

このお客様は、自分でダイナミックロフトを減らすことができます。

必要であれば、ボールを低く抑えることもできる。

それなら、クラブ側まで低い弾道を作る必要はありません。

むしろ逆です。

ダイナミックロフトをとことん減らしても、ボールが十分な高さまで上がればいい。

そう考えました。

飛距離ではなく「高さ」を見る

ここから、シャフト選びが始まりました。

今回、シャフトを選ぶときに基準にしたのは、飛距離ではありません。

弾道の高さです。

低く打つ能力は、すでにお客様が持っています。

ならばクラブに求めるのは、その能力をさらに強くすることではありません。

反対側の余裕を作ることです。

つまり、

もっと高く打てるようにする。

高いところまで使えるようになれば、そこから必要な高さまで自分で下げることができます。

低い弾道しか打てないクラブよりも、

高くも打てる。

低くも打てる。

その方が、このお客様が持っている能力をより広い範囲で使うことができます。

候補は二つ

そこで、重量を確保しながら高さを出せる可能性のあるシャフトを考えました。

候補になったのが、

N.S.PRO MODUS³ TOUR 130

そして、

Project X LZ

です。

今回のお客様が希望する重量帯まで考えると、Project X LZが候補になりました。

さらに話を聞いてみると、以前にもProject X LZを使用したことがあるとのことでした。

これは試してみる価値があります。

実際に打っていただきました。

すると、

ぴったりとはまりました。

高さを出したら、飛距離も出た

面白いのはここからです。

Project X LZを試した目的は、飛距離を伸ばすことではありません。

あくまで、

弾道の高さを確保すること

でした。

ところが結果として、飛距離も伸びました。

しかも、曲がらない。

そして現在、BLUEPRINT Tの9番アイアンで150ヤード。

お客様からは、

「30代の頃の飛距離が戻った」

という言葉まで出てきました。

なぜ、高さを求めた結果として飛距離まで戻ったのでしょうか。

ここには、今回のフィッティングを考える上でもう一つ重要な要素があります。

シャフトです。

クラブの性能を引き出すのか、ゴルファーの能力を引き出すのか

クラブフィッティングというと、

「このヘッドは飛ぶ」

「このシャフトはつかまる」

「このシャフトは球が上がる」

といった、クラブそのものの性能を比較することが多いと思います。

もちろん、それも重要です。

しかし、今回のフィッティングで私が見ていたのは、少し違うものでした。

このお客様は、何ができるのか。

ボールを抑えることができる。

ダイナミックロフトを減らすことができる。

クラブを自分のタイミングでリリースすることができる。

そうした能力をすでに持っています。

ならば、クラブに求めるべきなのは、その代わりをすることではありません。

その能力を、もっと引き出すことです。

BLUEPRINT Tによって、自分のタイミングでクラブを動かせるようになった。

そして、そこへProject X LZによって高さを加えた。

低くする能力を持っている人に、さらに低くするクラブを渡したわけではありません。

低くできる人だからこそ、高さを与えたのです。

結果として、お客様が使える弾道の範囲が広がりました。

そして、その中で通常のショットを打ったとき、飛距離まで戻ってきた。

今回起きたことを考えると、

フィッティングとは、クラブの性能をゴルファーに使ってもらうことだけではない。

むしろ、

ゴルファーがすでに持っている能力を、クラブによって引き出すこと。

それがフィッティングの一つの役割なのではないかと思います。

ただ、まだ一つ疑問が残っています。

なぜProject X LZだったのでしょうか。

同じように重量のあるシャフトは他にもあります。

単純に「球が上がるシャフトだったから」というだけでは、今回の結果を十分に説明できません。

Project X LZという名前の「LZ」は、

Loading Zone

を意味します。

次回は、このLoading Zoneが何をしているのか。

そして、お客様のリリースとシャフトの動きがどのようにつながったのか。

Project X LZそのものを、もう少し詳しく見てみたいと思います。

第2話 「やさしい」はずのアイアンで、なぜ飛距離が落ちたのか

前回、一般的には「難しい」と言われるBLUEPRINT Tが、他のアイアンより5ヤード以上飛び、しかも曲がらなかったというお話をしました。

今回のお客様は、以前はマッスルバックを使用していました。

その後、年齢のことも考えて、少し「やさしい」と言われるハーフキャビティへ変更されています。

ところが、少しずつ飛距離が落ち、方向性もぼやけてきた。

そして今回、再びマッスルバックであるBLUEPRINT Tを打ってみると、飛距離が伸び、方向性まで良くなったのです。

なぜでしょうか。

「やさしさ」とは何を助けることなのか

一般的に「やさしいアイアン」と呼ばれるクラブには、いくつかの特徴があります。

ヘッドが大きい。

ミスヒットに強い。

ボールが上がりやすい。

多少打点がずれても、飛距離が落ちにくい。

こうした性能は、多くのゴルファーにとって大きな助けになります。

だから「やさしい」と呼ばれます。

しかし、ここで考えてみたいことがあります。

その助けを必要としていないゴルファーにとっても、それは「やさしさ」なのでしょうか。

今回のお客様はクラブチャンピオンになるほどの腕前です。

芯に当てることをクラブに大きく助けてもらう必要はありません。

それよりも、自分が意図したようにクラブが動いてくれることの方が重要になります。

ここで「やさしさ」の意味が変わってきます。

操作性は左右だけではない

前回も少し触れましたが、マッスルバックの特徴としてよく使われる言葉に、

「操作性が高い」

があります。

操作性というと、

フェードを打つ。
ドローを打つ。

このような左右方向の球筋を思い浮かべることが多いと思います。

しかし、上級者がコントロールしているのは左右だけではありません。

高さもコントロールしています。

高く打つ。

低く打つ。

風の下を通す。

ピンの位置やグリーンの状況によって弾道を変える。

今回のお客様も、ボールを抑えて打つことを得意としています。

ここが今回のフィッティングを考える上で、大きなポイントになりました。

ヘッドが大きくなると何が変わるのか

マッスルバックからハーフキャビティへ変更すると、単純に「芯が大きくなる」だけではありません。

ヘッドの大きさも変わり、重量の配置も変わります。

当然、クラブヘッドの運動特性も変わります。

一般的にヘッドを大きくし、重量を外側へ配置すれば、慣性モーメントを大きくすることができます。

慣性モーメントが大きいということは、簡単に言えば、

ヘッドの姿勢が変化しにくい

ということでもあります。

これはミスヒットしたときには大きなメリットです。

打点が芯から外れてもヘッドがブレにくい。

だから方向や飛距離が安定します。

ところが、意図的にクラブの動きを変えたいゴルファーから見ると、少し違った意味を持つ可能性があります。

変わりにくいということは、変えようとしたときにも変わりにくい。

ここが重要です。

クラブに任せたい人と、自分で動かしたい人

クラブに弾道を助けてもらいたいゴルファーにとって、ヘッドが安定して動いてくれることは「やさしさ」になります。

しかし、自分で弾道を作ることのできるゴルファーにとってはどうでしょう。

自分はこう動かしたい。

この高さで打ちたい。

ここでは少し抑えたい。

そうした入力に対してクラブが素直に反応してくれることの方が、「やさしい」と感じることがあります。

今回、BLUEPRINT Tを打ったときに起きたことは、まさにこちらだったのではないかと考えています。

小さなヘッドだから「難しい」。

大きなヘッドだから「やさしい」。

それほど単純ではないのです。

BLUEPRINT Tで戻ってきたもの

BLUEPRINT Tにすると、他のモデルより飛距離が出ました。

そして曲がらなくなりました。

しかし、もう一つ重要だったのが、

弾道を自分でコントロールできることでした。

通常に打てば、しっかり高さが出る。

必要なら、その高さを自分で変えることができる。

これは、以前マッスルバックを使っていたこのお客様にとって、とても重要な性能だったのだと思います。

フィッティングを進めながら、私はお客様に確認しました。

ボールを抑えて打つことについてです。

すると返ってきたのは、

「抑えるのは容易です。」

という言葉でした。

この一言を聞いたとき、もう一つ試してみたいことが出てきました。

抑えることが容易なのであれば、もっと高さを出せる組み合わせにしてもいいのではないか。

ここから、今回のフィッティングはもう一段面白い方向へ進んでいきます。

そして、それが「30代の頃の飛距離が戻った」という結果にもつながっていきます。

重いシャフトなのに、なぜ軽く感じるのか?

シャフト選びの第二話となります。

前回、シャフト選びの第一歩は「重量」であるという話をしました。

今回は、その「重量」についてもう少し考えてみたいと思います。

フィッティングをしている時にシャフトのフィーリングをお聞きします。

その中で、非常によく聞く言葉があります。

「このシャフト、軽く感じます。」

ところが面白いことに、実際には、それまで打っていたシャフトより重いことがあります。

10g近く重いシャフトなのに、

「こっちの方が軽い」

と言われることさえあります。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

人間が感じる「重さ」は一つではない

人がクラブの重さを感じる場面は、大きく分けると二つあります。

一つは、クラブを持ったとき。

もう一つは、クラブを振ったときです。

クラブを手に持って静止していれば、基本的にはクラブの質量と、その重量がどこに分布しているかによって重さを感じます。

しかし、クラブを振り始めると話が変わってきます。

クラブには加速や減速が生まれ、ヘッドには慣性が働きます。

そしてシャフトは、まっすぐな状態のまま動いているわけではありません。

しなり、そして戻っています。

つまり、スイング中にゴルファーが感じている「重さ」は、カタログに書かれている何グラムという数字だけでは説明できません。

45インチの長いクラブを動かしている

もう少し具体的に考えてみましょう。

ダウンスイング初期では、まずグリップエンド方向へクラブを進めていきます。

しかし、そのままグリップエンド方向へ動かし続けるわけではありません。

やがてクラブはリリースを始めます。

このとき、人間は腕とクラブによるてこの作用も利用してクラブを動かしています。

ここで重要になってくるのが、シャフトのしなり戻りです。

ダウンスイングで生じたシャフトのしなりが、ちょうどリリースを始めたいタイミングで戻ってくればどうでしょう。

シャフトの復元する力が、てこの作用を助けてくれます。

ゴルファーが自分の力だけでクラブを動かす必要が少なくなるわけです。

だから、クラブを軽く感じます。

反対に、しなり戻りのタイミングが自分のリリースと合っていなかったらどうでしょう。

シャフトから十分な助けを得られません。

45インチ前後もある長いクラブを、自分の力で動かさなければならなくなります。

当然、大きな抵抗を感じます。

実際には軽いシャフトなのに、

「重い」「振りにくい」

と感じることがあるのは、このためだと私は考えています。

タイミングだけではない

もう一つ重要なのが、しなり戻りの方向です。

シャフトが戻ろうとしている方向と、自分がクラブを振りたい方向が一致していれば、余分な力は必要ありません。

シャフト自身が、クラブを進めたい方向へ動くことを助けてくれるからです。

しかし、両者がずれていたらどうでしょう。

自分はこっちへ振りたい。

ところがクラブは違う方向へ動こうとしている。

そうなれば、ゴルファーはその動きを修正しなければなりません。

当然、そこには余分な力が必要になります。

つまり、同じ重量のシャフトであっても、

しなり戻りのタイミングが合っているか。

そして、

しなり戻りの方向が合っているか。

によって、ゴルファーが感じる重さは変わってくるということです。

「軽く感じる」は重要なサイン

こう考えると、フィッティング中にお客様から聞く、

「このシャフトは軽く感じる」

という言葉の意味も変わってきます。

必ずしも、

「もっと重いシャフトを使える」

という意味ではありません。

むしろ、

そのシャフトの運動と、ゴルファーの運動が同調している。

その可能性を示しているのではないでしょうか。

実重量では重いのに軽く感じる。

これは決して矛盾ではありません。

ゴルファーがクラブと喧嘩せずに振れているから、軽く感じているのかもしれないのです。

元調子が振りやすいと感じる理由もここにある

ここで少しだけ「元調子」について触れておきます。

元調子は、手元側のしなりが大きいシャフトです。

手元に近いところで大きく曲がるため、スイング中には実質的に少し短いクラブを振っているような状態を作ることができます。

もちろん、45インチのクラブが物理的に短くなるわけではありません。

しかし、長い棒の途中が曲がることで、ゴルファーから見たクラブの運動は変わります。

これも、元調子を「振りやすい」「軽く感じる」と評価する人が多い理由の一つではないかと考えています。

ただし、

「だから元調子を選べばいい」

という話ではありません。

ここからが、シャフト選びの面白いところです。

なぜなら、シャフトには「しなり」だけでなく、

しなり戻り

があり、

さらに、

ねじれと、ねじれ戻り

もあるからです。

そして、それらはダウンスイングだけで起きているわけではありません。

シャフトは、テークバックを始めた瞬間からすでに動き始めています。

その動きがゴルファーのスイングとどのように組み合わさるのか。

次回は、そこから考えてみたいと思います。

飛ばないはずのBLUEPRINT Tが、一番飛んだ。

先日、フィッティングしたお客様に、その後の調子をお聞きしました。

フィッティングの際にも確認していた現象なのですが、現在も9番アイアンで150ヤード飛ぶということでした。

選択されたアイアンは、PINGのBLUEPRINT T

いわゆる「飛び系アイアン」ではありませんから、9番アイアンで150ヤードというのは、かなりの飛距離と言えるでしょう。

このお客様はクラブチャンピオンになるほどの腕前です。

ですから、今回のお話が多くのゴルファーにそのまま当てはまるとは思っていません。

ただ、

「こういうこともあるんだ」
「常識が、すべての人に常識として通用するわけではないんだ」

という一つの事例として、参考にしていただければと思います。

四十にして惑わず。でもゴルフクラブには惑う

「四十にして惑わず」と言います。

ところが40歳を超えて、逆に惑い始めるものがあります。

ゴルフクラブです。

40代といえば、少しずつ体力の衰えを感じ始める年代でもあります。

そこで考えるのが、

「年齢も年齢だし、そろそろ少しやさしいクラブを使おうか」

ということです。

これは40代に限った話ではありません。

還暦を迎える頃にも、同じようなクラブ選びの転換点がやってくるようです。

こちらについては、また別の機会に書きたいと思います。

「少しやさしいクラブ」に替えたけれど

今回のお客様も、一般的に「少しやさしい」と言われるハーフキャビティモデルをお使いでした。

年齢とともに少しずつ飛距離が落ち始め、方向性もぼやけてきたそうです。

スコア重視のお客様なので、i240、BLUEPRINT Sを含め、いくつかのアイアンを打っていただきました。

ところが結果は、少し意外なものになりました。

BLUEPRINT Tの方が、他のモデルより5ヤード以上飛んだのです。

しかも、飛んだだけではありません。

曲がらない。

一般的には「飛ばない」「難しい」と思われがちなBLUEPRINT Tが、なぜこのゴルファーにとっては、最も飛んで、最も曲がらないアイアンになったのでしょうか。

今回の少し不思議なフィッティング結果から、

「やさしいクラブとは何なのか」

を考えてみたいと思います。

「操作性」とは左右に曲げることだけなのか

ここでよく言われるのが、

「マッスルバックは操作性が高い」

という言葉です。

「操作性」というと、ボールを左右に曲げて弾道をコントロールすることを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

しかし、ボールのコントロールは左右だけではありません。

上下にもコントロールできます。

高い球を打つ。

低い球を打つ。

特に今回のお客様は、もともとボールを抑えて打つ技術を持ったゴルファーです。

どうやら今回の結果には、この上下方向のコントロール性能が大きく関係しているようです。

一般的には「飛ばない」と思われがちなBLUEPRINT Tが、なぜ他のアイアンより飛んだのか。

なぜ弾道が高くなったのか。

そして、なぜ曲がらなかったのか。

次回は、この「なぜ?」を少し掘り下げてみたいと思います。

シャフト選びについて

毎年、メーカーは新しいシャフトを発表し、市場へ送り出しています。

一つのメーカーだけでも複数のシャフトシリーズがあり、それぞれに重量帯やフレックス違いがラインナップされています。さらに、メーカー純正シャフトも数多く用意されています。

最新のシャフトが誰にでも、どのヘッドにも合うのだったら、以前のシャフトは即座井に廃盤となるんですが、廃盤にならないのは、そうではないということを逆に証明しています。

その膨大な選択肢の中から、自分に本当に合う一本を探し出すことは、まさに至難の業です。

では、シャフトを選択する最初の基準となる項目は何でしょうか。 “シャフト選びについて” の続きを読む

スピンアウト 第4話 ボールに当てるのではない。ボールが当たるスイングへ。

私たちは、

「クラブが開いているから、良いダウンスイングになる」

と考えがちです。

しかし、順番は逆なのではないでしょうか。

右肘が自然に収束し、上体の回転によって左肩・右肘・グリップの三角形が運ばれる。

その結果として、クラブが開いて見え、ホーガンが示したダウンスイングプレーンが現れます。

つまり、目に見えているクラブの動きは原因ではなく、骨格が自然に働いた結果なのです。

もし、この考え方が正しいのであれば、ゴルファーが意識すべきことはクラブを操作することではありません。

人間の骨格が本来持っている働きを引き出し、その動きを邪魔しないこと。

私は、それこそがスイングをシンプルにし、再現性を高めるための本質ではないかと考えています。

そうであるならば、ボールに当てるのがスイングではなく、ボールが当たるのがスイングなのではないでしょうか。

そして、その自然な動きを引き出すためのお手伝いをするのが、フィッティングです。

もちろん、ボールに当てることを意識したスイングであっても、静的フィッティングの重要性は変わりません。人間の体の機能を使ってスイングする以上、クラブが骨格や構えに与える影響は避けられないからです。

だからこそ、すべてのゴルファーにとって、適切なフィッティングは重要だと私は考えています。

特に、これからゴルフを始める人が自分に合わないクラブを使うと、そのクラブに合わせたスイングを身につけてしまう可能性があります。

その結果、本来であれば必要のない動きを覚え、それが癖として残ってしまうこともあります。

また、努力しているにもかかわらず思うような結果が得られない人は、その原因が技術だけではなく、クラブに制約されていることにあるかもしれません。

もしそう感じるのであれば、一度フィッティングを受けてみることをお勧めします。

クラブが変わることで、今まで無意識に補っていた動きが必要なくなり、人間が本来持っている骨格の働きを、より自然に発揮できるようになるかもしれません。

私は、フィッティングとは単にクラブを選ぶ作業ではないと考えています。

ゴルファーが本来持っている能力を引き出し、人間の骨格が自然に働ける環境を整えること。

それこそが、本当のフィッティングの役割なのです。

なぜPINGの静的フィッティングは成り立つのか

これまで私は、

「右肘は鳩尾付近へ収束する」

という現象を、人間の骨格という視点から考えてきました。

もし、人間の骨格が自然に選ぶインパクトの構造が存在するのであれば、フィッティングの考え方も変わります。

一般的には、

「スイングを見てクラブを選ぶ」

という順番が当たり前だと思われています。

しかし、PINGが長年取り組んできた静的フィッティングは、その逆の発想です。

まず、人間の体を測ります。

身長。

手首から床までの長さ。

そして、その人の骨格に合ったライ角やクラブ長を選択します。

なぜ、それだけで方向性が改善することがあるのでしょうか。

それは、人間には骨格が最も自然に働く構造があり、その構造へ無理なく収束できるクラブほど、インパクトが安定するからではないでしょうか。

つまり、静的フィッティングは「スイングを予測する」のではありません。

人間が本来持っている骨格の働きを邪魔しないクラブを探しているのです。

もちろん、そのようなことがPINGの資料に書かれているわけではありません。

しかし、このシリーズで考えてきたように、人間の骨格が自然な構造へ収束してインパクトが作られるのであれば、静的フィッティングはその骨格を基準にクラブを選んでいると考えることもできます。

私は、この推論は十分に成り立つのではないかと思っています。

その結果として、

  • グリップの位置
  • 左手首
  • 右手首
  • ラグ
  • 右肘

といった構造要件が自然に整い、クラブフェースもスクエアに戻りやすくなります。

もちろん、すべてのゴルファーが同じスイングをするわけではありません。

体格も柔軟性も筋力も違います。

だからこそ、一人ひとりに合ったクラブが必要になります。

フィッティングとは、理想のフォームを押し付けることではありません。

その人が本来持っている自然な骨格の働きを引き出すこと。

私は、それこそがフィッティングの本質だと考えています。

このシリーズでは、右肘という一つの現象から、人間の骨格、インパクトの構造、そしてフィッティングの意味まで考えてきました。

もし皆さんがクラブを選ぶ機会があれば、「このクラブは自分の骨格が自然に働けるクラブなのか」という視点でも、ぜひ見直してみてください。