前回は、スピンを単純な摩擦だけで考えるのではなく、
フェースとボールが接触中に結合し、ボールカバーへ回転方向の力積が伝わった結果
として考えました。
クラブ側には、
- フェース面
- 溝
- ロフト
- 打点
- バンス
- ヘッドの進入方向
があります。
ボール側には、
- カバー材
- カバー厚
- 内部構造
- 変形量
- 復元性
があります。
さらに、その間には、
- 芝
- 水分
- 砂
- 接触圧力
- 接触位置
があります。
スピンは、これらが一つの接触系として働いた結果です。


Play your best.
前回は、スピンを単純な摩擦だけで考えるのではなく、
フェースとボールが接触中に結合し、ボールカバーへ回転方向の力積が伝わった結果
として考えました。
クラブ側には、
があります。
ボール側には、
があります。
さらに、その間には、
があります。
スピンは、これらが一つの接触系として働いた結果です。

USオープン2日目も、ウインダム・クラークが首位をキープしています。
ここまでくると、最近のクラークのパターの変遷を調べておかなければなりません。
現時点でのクラークのパター変遷は、次のように整理できます。
| 時期 | パター | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2023年 全米オープン優勝時 | Odyssey O-Works Versa Jailbird系 | 38〜39インチ級のカウンターバランス系。Rickie Fowler型の流れ |
| 2024年〜2025年頃 | Odyssey Jailbird系を中心に試行錯誤 | 成功した形をベースにしつつ、安定感を探る時期 |
| 2025年後半〜2026年初め | L.A.B. DF3、Toulon Le Mans、Scotty Cameron Tour T-11などをテスト | ゼロトルク系・大型マレット系・別ブランドを広く試す |
| 2026年3月 THE PLAYERS頃 | Bettinardi Antidote SB1 | Whisper Rockのプロショップで見つけた通常長さ系のゼロトルクパター |
| 2026年3月 Houston Open | PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset | まず標準長さに近い仕様で投入 |
| 2026年4月 RBC Heritage以降 | PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB | 38インチ、17インチグリップ、重ヘッドのカウンターバランス仕様 |
| 2026年 CJ Cup Byron Nelson | PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB | SG: Putting +12.573でPGAツアー記録、優勝 |
| 2026年 全米オープン2日目 | PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB | 2日目終了時点で首位キープ |
こうして見ると、クラークはかなりパターを入れ替えています。
そのクラークが、使用期間3か月にも満たない段階で、しかもパターだけの契約をPINGと結んだ。
これはかなり驚きです。 “ウインダム・クラークのパター変遷を見ると、PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CBの意味が見えてくる” の続きを読む
前回は、フェースを開く目的を、単にロフトを増やしてボールを高く上げるためではなく、
ライに対して、ボールとクラブのコンタクト位置を合わせるため
と考えました。
フェースを開くと、
が同時に変わります。
つまり、フェースを開くことは、クラブの見た目を変える操作ではありません。
ボールへどこから、どの方向へ、どのように力を伝えるかを変える操作です。
では、その接触によって生まれるスピンとは、いったい何なのでしょうか。
一般には、
スピンは、クラブフェースとボールの摩擦によって生まれる
と説明されます。
もちろん、摩擦は重要です。
しかし、摩擦だけで十分に説明できるのでしょうか。
今回は、フェースとボールが接触する、極めて短い時間の中で何が起きているのかを、ボール側から考えてみます。
インパクトの超スロー映像を見ると、興味深い現象があります。
クラブフェースに押しつぶされている間、ボールは大きく変形しています。
そして、フェースから離れた直後に、急に回転がはっきり見えるようになります。
映像だけを見ると、
ボールはフェースから離れてから回り始めた
ようにも見えます。
しかし、実際にはそうではありません。
ボールは接触中に、すでに回転のための角運動量を受け取っています。
ただし、その瞬間のボールは、完全な球体ではありません。
大きく押しつぶされ、表面も内部も変形しています。
そのため、接触中の動きを、硬い球がそのまま回転しているようには見ることができません。
フェースから離れ、ボールが元の形へ戻る過程で、内部に蓄えられていた変形と回転方向のエネルギーが、一つの回転運動として現れます。
つまり、
スピンは離れてから突然生まれたのではなく、接触中に与えられた角運動量が、離脱後に見える形になった
と考えるべきです。
「摩擦でスピンがかかる」と聞くと、クラブフェースがボール表面を長くこすっているように感じます。
しかし、実際の接触時間は極めて短いものです。
クラブフェースがボールを数センチにわたってこすり続けているわけではありません。
インパクトでは、
が同時に働きます。
フェースがボールへ垂直に押し込む力は、主にボールスピードを作ります。
一方、フェース面に沿ってボール表面をずらそうとする力は、ボールカバーをせん断方向へ変形させます。
このせん断方向の力が、ボールへ回転を与える重要な要素です。
したがって、スピンは、
フェースがボールをこすった結果
というより、
ボールを圧縮しながら、表面と内部を回転方向へ変形させた結果
と考えた方が、実際の現象に近いように思えます。
インパクトは、一瞬の出来事です。
そのため、ボールへ加わる力の大きさだけを見るのでは不十分です。
重要なのは、
どの方向の力が、どれだけの時間加わったか
です。
力を時間で積み重ねたものを、力積と呼びます。
目標方向へ大きな力積が加われば、ボールスピードが生まれます。
回転方向へ力積が加われば、角運動量が生まれます。
つまり、スピン量を決めるのは、摩擦係数の大きさだけではありません。
が関係します。
同じ摩擦係数を持つ素材であっても、接触圧力が小さければ、大きな回転方向の力積を伝えることはできません。
反対に、ボールがフェースへ強く押し付けられ、表面が食いつけば、短い接触時間でも大きな角運動量を与えることができます。
ここで、摩擦の位置づけを考え直してみます。
摩擦がまったくなければ、フェース面に沿う方向の力をボールへ伝えることはできません。
その意味で、摩擦は不可欠です。
しかし、
摩擦が大きければ、それだけスピンが増える
と単純には言えません。
摩擦は、ボールへ回転方向の力を伝えるための結合条件です。
ボールがフェース上を完全に滑ってしまえば、十分な回転方向の力積は伝わりません。
一方、ボール表面がフェースへ食いつきすぎても、変形によるエネルギー損失が大きくなる可能性があります。
必要なのは、
押し付けられた状態で、適度に変形し、回転方向の力を保持すること
です。
したがって、摩擦はスピンそのものではありません。
フェースからボールへ、回転方向の力積を伝えるための接続機構
と考える方が適切です。
ここで重要になるのが、ボールカバーの材質です。
ゴルフボールの表面は、硬い金属ではありません。
変形するポリマー素材です。
特にツアー系ボールで使われる柔らかいウレタンカバーは、インパクト時に変形しやすくなっています。
カバーが適度に柔らかければ、
ことができます。
つまり、柔らかいカバーは、単に「摩擦が大きい」のではありません。
フェースから与えられた回転方向の力を、一時的な変形として受け止める
ことができます。
そして、フェースから離れるとき、その変形が元へ戻ろうとします。
その復元とともに、ボール全体へ回転が現れます。
このように考えると、ボールカバーは単なる表面材ではありません。
回転方向の力積を受け取り、蓄え、角運動量へ変換する部品
と見ることができます。
ただし、カバーが柔らかければ柔らかいほど、必ずスピンが増えるわけではありません。
柔らかすぎれば、
可能性があります。
必要なのは、単なる柔らかさではありません。
が重要です。
つまり、スピン性能を決めるのは、硬度だけではありません。
カバーの厚み、弾性、粘り、復元性、その内側にある層の硬さまで関係します。
柔らかい表面の下に、適度に硬い層があると、カバーはフェースと内層の間に挟まれます。
表面は変形できる。
しかし、奥へ逃げすぎない。
そのため、フェースへ強く押し付けられた状態で、接線方向の力を受け止めやすくなります。
これは、柔らかいタイヤ表面を、内部の構造が支えていることに少し似ています。
ウェッジの溝は、スピンを増やすためのものだと説明されます。
しかし、乾いた状態でボールとフェースが直接接触できるなら、フェース表面そのものでも大きなスピンは生まれます。
溝が特に重要になるのは、
がフェースとボールの間に入ったときです。
溝は、それらを逃がす空間を作ります。
その結果、ボールカバーとフェース面が直接接触できる面積を確保します。
つまり、溝の役割は、
ボールを爪で引っかけて回すこと
ではなく、
フェースとカバーの結合を邪魔する異物を排出すること
と考える方が自然です。
接触がクリーンになれば、ボールカバーはフェースへ押し付けられ、せん断方向の力を受け取りやすくなります。
スピンを作るのは溝単独ではありません。
が一つの接触系として働きます。
同じクラブ、同じロフト、同じアタックアングルでも、フェース上の打点が変わればスピン量は変わります。
フェース上部へ当たれば、
が変わります。
一般に高打点では、スピンが減りやすくなります。
一方、リーディングエッジ直上の適正な低打点では、
という条件が作られます。
ただし、低ければ低いほどよいわけではありません。
リーディングエッジそのものへ当たれば、トップやブレードショットに近づきます。
必要なのは、
フェース下部でありながら、ボールを十分に面で受けられる位置
です。
フェースを開き、バンスでヘッドを支える操作は、この適正な低打点を再現するためのものとも考えられます。
以前、ジャンボ尾崎さんが、アプローチにおいて、
バンスがクラブフェースをボールへ押し付ける
という趣旨の表現をしたことがあったと記憶しています。
この表現は、感覚的なものに見えます。
しかし、ここまでの考察とつなげると、非常に本質的です。
バンスが地面や芝から反力を受けると、
という状態を作れます。
つまり、バンスは単にダフリを防ぐのではありません。
フェースとボールの接触を支持し、カバーへ回転方向の力積を伝えやすくする
役割を持つ可能性があります。
「フェースを押し付ける」という表現は、接触時間を何倍にも延ばすという意味ではないでしょう。
そうではなく、
接触中に、フェース法線方向の圧力が急に抜けるのを防ぐ
という意味に近いと考えられます。
ボールをフェースへ押し付ける力が保たれれば、接線方向の力も伝えやすくなります。
その結果、カバーのせん断変形が大きくなり、角運動量も増えます。
ここまで考えると、スピンはクラブ単独の性能ではないことが分かります。
クラブ側には、
があります。
ボール側には、
があります。
さらに、その間には、
があります。
これらが結合したとき、初めてスピンが生まれます。
したがって、
このウェッジはスピンがかかる
という表現も、
このボールはスピンがかかる
という表現も、単独では不完全です。
正確には、
このクラブと、このボールと、このライと、この打点の組み合わせでは、回転方向の力積が効率よく伝わる
ということです。
弾道計測では、スピンロフトがスピン量を考える重要な指標として使われます。
クラブの進行方向とフェース姿勢の差が大きくなれば、フェース面に沿う相対運動も大きくなります。
そのため、スピンロフトとスピン量には強い関係があります。
しかし、スピンロフトが同じでも、
が変われば、スピン量は変わります。
つまり、スピンロフトは、
クラブ側から見た入力条件
を表しています。
しかし、ボールがその入力をどれだけ角運動量として受け取ったかまでは示していません。
ここに、クラブ側から見える数値と、ボール側で起きている現象の間があります。
これまで、スピンは摩擦によって生まれると説明されてきました。
その説明は間違いではありません。
しかし、摩擦という一語だけでは、現象の一部しか見えていません。
より正確に表現するなら、
スピンは、フェースとボールが接触中に結合し、ボールカバーへ回転方向の力積が伝えられた結果として生まれる
となります。
摩擦は、その結合を成立させる要素です。
カバーは、その力積を受け取る要素です。
バンスは、その接触を支える要素です。
打点は、その力がどこへ作用するかを決める要素です。
スピンは、それらすべてが組み合わされた結果です。
弾道計測器には、スピン量が表示されます。
超スロー映像では、ボールが回転して飛び出す様子が見えます。
しかし、その回転が生まれるまでに、
は見えていません。
見えるのは、回転という結果です。
見えないのは、その回転を作った接触中の変形です。
しかし、ボール側から考えることで、見えていない過程を推測することはできます。
次回は、これまでスピンを説明する中心的な考え方として使われてきた、スピンロフトについて改めて考えます。
スピンロフト45度付近でスピンが最大になるという説明は、何を表しているのでしょうか。
そして、そのモデルには、ボール側のコンタクトポイント、カバー変形、バンスによる支持が、どこまで含まれているのでしょうか。
昨日のXに、PING GOLF(@PingTour)から次のような投稿がありました。
Signed and gaming a Scottsdale TEC. We’re excited to announce that Wyndham Clark has signed an agreement to exclusively play a Scottsdale TEC putter. Since switching to an Ally Blue Onset, Wyndham set a Strokes Gained: Putting record for a PGA Tour event (+12.573) and notched his fourth PGA Tour title. #PlayYourBest

どうやら、ウインダム・クラークがSCOTTSDALE TECパターの使用契約をPINGと交わしたようです。
営業さんに確認してもらったところ、契約については事実との返事がありました。
ただし、PINGで過去にこのような契約があったのかについては、現在も確認中です。 “ウインダム・クラークがPINGとSCOTTSDALE TECパター契約” の続きを読む
前回は、番手が変わると、
が一つの組み合わせとして働き、適正なコンタクト状態を作っている可能性を考えました。
ロングアイアンでは、ロフトが小さく、アタックアングルは比較的浅く、バンスも小さい。
ショートアイアンやウェッジでは、ロフトが大きく、アタックアングルは深くなり、バンスも大きくなる。
これらは、それぞれ別の数字として存在しているのではありません。
ボールとクラブがどの高さで、どの位置に、どの姿勢で接触するか。
その接触状態を整えるために、一つの系として組み合わされている可能性があります。
では、アプローチでフェースを開く操作は、この中でどのような意味を持つのでしょうか。
一般には、
フェースを開くのは、ロフトを増やしてボールを高く上げるため
と説明されます。

もちろん、フェースを開けばロフトは増えます。
しかし、変わるのはロフトだけではありません。
フェースを開くと、
まで、すべてが同時に変化します。
そう考えると、フェースを開く操作を、単なるロフト調整として説明するだけでは足りないように思えます。
今回は、
フェースを開く本当の目的は、ボールを高く上げることではなく、ライに対して適正なコンタクトポイントを作ることではないか
という視点から考えていきます。
ゴルフボールは、いつも同じ高さにあるわけではありません。
練習マットでは、ボールの底はほぼ一定の高さにあります。
しかし、実際のコースでは、
など、ライによってボール中心の高さが変わります。
さらに、ボールの高さだけでなく、クラブヘッドが地面へどの程度入るかも変わります。
硬い地面では、ソールは沈みにくい。
柔らかい芝では、ヘッドは深く入りやすい。
ラフでは、ヘッドとボールの間に芝が入りやすい。
つまり、実際の打点を決めるのは、
ボールがどれだけ高く支持されているか
だけではありません。
クラブヘッドがどれだけ地面へ入り、どの高さを通過したか
との相対関係によって決まります。
同じクラブ、同じスイング、同じアタックアングルでも、ライが変われば、ボールとフェースの位置関係は変わります。
ボールが適度に浮いたライを考えます。

フェースをスクエアにしたまま、通常どおりヘッドを地面へ入れると、クラブヘッドはボールに対して低い位置を通過する可能性があります。
すると、フェース上ではボールが高い位置へ当たりやすくなります。
反対に、ボールが沈んだライでは、同じようにソールを使うと、リーディングエッジがボールの下へ入りにくくなることがあります。
つまり、ライが変わると、
ボールの高さと、フェースが通る高さが一致しなくなる
ことがあります。
ここでフェースを開く操作が必要になります。
フェースを開くと、クラブの接地の仕方が変わります。
ソールのどこが地面へ触れるのか。
バンスがどの方向へ働くのか。
リーディングエッジがどの高さを通るのか。
それらを変えることで、ライに対するヘッドの通過高さを調整できるからです。
ウェッジをスクエアに置いた状態からフェースを開くと、一般にリーディングエッジは地面から高くなります。
同時に、ソール後方やヒール側が接地しやすくなり、実効バンスも増えます。
このとき、ヘッドは地面へ深く潜りにくくなります。
つまり、フェースを開くことで、
という変化が起こります。
これを単に「ロフトが増えた」とだけ説明すると、重要な部分が抜け落ちます。
フェースを開くことは、
クラブヘッドが地面に対して、どの高さを通るかを調整する操作
でもあるのです。
ボールが芝の上に少し浮いている場合、ボール中心は通常より高い位置にあります。
このとき、スクエアフェースのままヘッドを低く入れると、フェース上部でボールを受けやすくなります。
フェース上部での接触は、
につながる可能性があります。
そこでフェースを開きます。
フェースを開くことで、バンスが地面からヘッドを支え、ヘッドの沈み込みを抑えます。
同時に、リーディングエッジの通過高さが上がります。
その結果、浮いたボールに対して、フェース下部の適正な位置を合わせやすくなります。
つまり、ボールが浮いたライでフェースを開くのは、
高い球を打ちたいから
という以前に、
高い位置にあるボールへ、クラブの接触位置を合わせるため
と考えることができます。
球が高く上がるのは、その操作に伴ってロフトが増えた結果でもあります。
反対に、ボールが芝の中へ沈んでいる場合を考えます。
このときボールは低い位置にあります。
フェースを大きく開くと、
ため、ボールの下へクラブを届かせにくくなることがあります。
そのため、沈んだライでは、
といった対応が必要になります。
つまり、フェースを開くことが常に正解なのではありません。
ライに対して、
ボールの高さとクラブの通過高さを一致させる
ことが目的です。
フェース開度は、そのための調整手段の一つです。
フェースを開けば、フェース面の向きが変わります。
ボールを球体として考えると、フェース開度は経度を変えます。
同時に、ロフトが増えることで、コンタクトポイントはより下側の緯度へ移ります。
つまり、フェースを開くと、
の両方が変化します。
ここで重要なのは、フェース開度が大きくなっても、ロフトが増えることで、左右方向の実距離は必ずしも大きくならないことです。
以前考えたように、球面上では南極に近づくほど、同じ経度差でも左右方向の距離は小さくなります。
したがって、フェースを開く操作は、
フェースを右へ向ける操作
であると同時に、
コンタクトポイントをボール下部へ移し、左右方向への作用腕を小さくする操作
とも考えられます。
高ロフトのアプローチでフェースを大きく開いても、想像するほど右へ飛び出さないことがあるのは、この構造と関係している可能性があります。
ここで「リーディングエッジをボールへ合わせる」という表現には注意が必要です。
リーディングエッジそのものがボールへ衝突すれば、トップやブレードショットに近づきます。
理想は、エッジそのものを当てることではありません。
リーディングエッジ直上のフェース下部を、ボールの適正な位置へ合わせる
ことです。
ウェッジで強いスピンがかかるとき、フェース中央よりもやや下部、下から数本目の溝付近で接触していることがあります。
そこでは、
という条件が作られます。
フェースを開く操作は、この低い適正打点へ、ヘッドの通過位置を合わせる役割を持つ可能性があります。
フェースを開くと、実効バンスが大きくなります。
バンスは地面から反力を受け、ヘッドが深く潜りすぎるのを防ぎます。
その結果、
という状態を作れます。
つまり、バンスは単にダフリを防ぐのではありません。
フェース下部の適正な打点を、ボールへ通すためにヘッドを支持する
機能を持っていると考えられます。
この見方をすると、フェースを開くこととバンスを使うことは、別々の技術ではありません。
フェースを開くことでバンスの働き方を変え、バンスによってクラブの通過高さを調整し、ボールとのコンタクトポイントを合わせる。
一連の操作として理解できます。
ここまで考えると、従来の説明に一つの問いが生まれます。
フェースを開くからロフトが増え、ボールが高く上がる。
これは結果として正しい。
しかし、プレーヤーが本当に行っていることは、
ロフトを増やすこと
なのでしょうか。
それとも、
ライに対して、クラブヘッドの通過高さ、バンスの接地、フェース下部の打点を調整すること
なのでしょうか。
もし後者だとすれば、ロフトの増加は主目的ではありません。
適正なコンタクト位置を作るためにフェースを開いた結果、ロフトも増えているという順序になります。
これは、見えているクラブ側の変化と、見えていないボール側の目的を入れ替えて考えることです。
見えているのは、フェースが開いたことです。
見えていないのは、その操作によって、ボールとクラブの接触位置が整えられたことです。
一般には、フェースを開くとロフトが増え、スピンが増えると説明されます。
しかし、実際にはフェースを開けば、必ずスピンが増えるわけではありません。
開きすぎれば、
ことで、スピンが減ることもあります。
したがって、スピンを増やすのはフェース開度そのものではありません。
フェースを開くことで、
という条件が作られたとき、スピン効率が高まると考える方が自然です。
つまり、
フェースを開くことがスピンを作るのではない。
フェースを開くことで、スピンを作りやすい接触状態を作っている。
ということです。
フェースを開くという動作をクラブ側から見れば、
と説明できます。
しかし、ボール側から見れば、
という現象が起きています。
どちらも同じインパクトを見ています。
ただし、見ている中心が違います。
クラブ中心に見れば、フェースを開いてロフトを増やした。
ボール中心に見れば、ライに対して適正な接触位置を作った。
どちらがプレーヤーの目的をより正確に表しているのでしょうか。
現在の弾道計測器では、フェースが何度開いていたかを測ることができます。
しかし、その開度によって、
までを、常に正確に表示できるわけではありません。
見えているのはフェース開度です。
見えていないのは、その開度を使って何を調整したかです。
しかし、ライ、バンス、打点、ボールの変形を合わせて考えれば、フェースを開く目的が少し違って見えてきます。
フェースを開くのは、単に球を高く上げるためではない。
ボールの高さに対して、クラブのコンタクト位置を合わせるため
ではないでしょうか。
次回は、その接触によってスピンがどのように生まれるのかを考えます。
スピンは、本当に摩擦だけで説明できるのでしょうか。
フェースとボールが接触する短い時間の中で、ボールカバーはどのように変形し、どの方向の力積を受け取り、離脱後の回転へ変えているのでしょうか。
前回は、ダウンブローになることで、ボールへ力を加える方向と実効的な作用位置が変わり、方向性が安定する可能性を考えました。
プロがグリーンを狙う場面では、最大飛距離を求めたフルショットよりも、右手首の角度を保ち、適正なダウンブローでラインを出すショットが多く見られます。
その理由は、単にスピンを増やすためではありません。
ボールへ力を加える位置と方向を揃え、左右方向と縦距離の両方を安定させるためではないか。
それが前回までの考察でした。
では、クラブの番手が変わると、なぜアタックアングルも変わるのでしょうか。
ロングアイアンでは比較的浅く入り、ショートアイアンやウェッジでは、より深いダウンブローになる傾向があります。
同時に、クラブのロフトは増え、バンスも大きくなっていきます。
これは偶然なのでしょうか。
今回は、ロフト、アタックアングル、バンスの関係を、ボールとの接触から考えてみます。
まず、中学校で習う円の基本性質を思い出します。
円の中心から接点へ引いた半径は、その接点における接線と必ず垂直になります。
円の中心を O、接点を P、接線を l とすれば、
OP丄 l
です。

これは、ゴルフボールとクラブフェースの関係を考えるうえで、非常に重要な性質です。
ゴルフボールを完全な球体、クラブフェースを平面として考えると、最初に接触する瞬間には、
になります。
つまり、クラブフェースの向きが決まれば、球面上の幾何学的なコンタクトポイントも決まります。
フェース開度が経度を決め、ロフトが緯度を決めるという前回までの説明は、この接線の性質を土台にしています。
ロフトの小さいクラブでは、フェースは比較的立っています。
そのため、ボール中心から接点へ向かう半径は、地面に対して比較的水平に近くなります。
地球に例えれば、コンタクトポイントは赤道に近い位置です。
一方、ロフトが大きくなると、フェースは上を向きます。
フェース面に垂直な半径も下向きに傾くため、ボール側のコンタクトポイントは、より下側へ移ります。
地球に例えれば、南極に近づいていくことになります。
したがって、
ロフトが増えるほど、クラブフェースはボールの下側へ接触する
という関係が生まれます。
これは、ロフトがボールを高く上げるという結果だけではなく、ボール球面上のどこへ接触するかを決めているということです。
ここで、二つの打点を分ける必要があります。
一つは、ボール球面上のどこへ接触したかという、ボール側のコンタクトポイントです。
もう一つは、クラブフェースのどの高さでボールを受けたかという、フェース側の打点です。
この二つは関連しますが、同じものではありません。
同じロフトのクラブでも、
という違いによって、フェース上の打点は変わります。
したがって、ロフトが大きいから必ずフェース下部へ当たるとは限りません。
フェース側の打点を決めるには、クラブヘッドがどの高さを通過し、地面からどのような反力を受けたかまで考える必要があります。
一般に、ロングアイアンでは比較的浅いダウンブローになります。
ショートアイアンやウェッジになるほど、アタックアングルは深くなる傾向があります。
しかし、プロが番手ごとにまったく別の打ち方をしているわけではありません。
番手が短くなると、
ため、同じスイング構造の中でも、インパクト時の進入角は自然に深くなります。
つまり、番手別のアタックアングルは、
番手ごとに意識して打ち込んだ結果
というより、
クラブ長とボール位置が変化した結果
として生まれている部分が大きいと考えられます。
ここで、一見すると矛盾する関係が現れます。
ロフトが大きくなると、ボール側のコンタクトポイントは下へ移ります。
それに加えて、アタックアングルも深くなれば、クラブヘッドはさらに下方向へ進みます。
そのままなら、ショートアイアンやウェッジでは、
ように見えます。
しかし、実際にはそうならないように、もう一つの構造が用意されています。
それがバンスです。
バンスとは、リーディングエッジよりもソール後方が低く配置されている構造です。
一般には、
バンスはダフリを防ぐもの
と説明されます。
これは間違いではありません。
しかし、ダフリを防ぐという説明だけでは、バンスの役割を十分に表していません。
バンスが地面や芝へ接触すると、地面から反力を受けます。
その反力によって、
ことができます。
つまり、バンスは、
ヘッドを跳ねさせるためのもの
ではなく、
ヘッドの侵入深さと通過高さを管理する支持機構
と考えることができます。
ダウンブローが深くなるほど、クラブヘッドは地面へ深く入ろうとします。
一方、バンスが大きくなるほど、ソールは地面から強い反力を受けやすくなり、ヘッドの潜り込みを抑えます。
つまり、
という、反対方向の作用を持っています。
この二つが適切に組み合わされれば、
ダウンブローで入っても、ヘッドは必要以上に潜らず、適正な高さを通過する
ことができます。
番手が短くなるほどアタックアングルが深くなり、同時にバンスも大きくなる傾向があるのは、両者が一つの組み合わせとして働いているからではないでしょうか。
ここで注意したいのは、
アタックアングルが5度なら、バンスも5度あれば相殺される
という単純な話ではないことです。
実際のソールと地面の関係には、
が影響します。
バンス角は、一つの静的な設計値です。
一方、インパクトではクラブ姿勢と地面条件によって、実際に働く実効バンスが変わります。
したがって、アタックアングルとバンスは、数値として単純に引き算するものではありません。
それでも、
深い進入に対して、バンスが地面からヘッドを支持する
という基本的な役割は変わりません。
ロングアイアンは、
という組み合わせです。
フェースが立っているため、ボール側のコンタクトポイントは赤道に近くなります。
アタックアングルも浅いため、大きなバンスによる支持を必要としません。
一方、ショートアイアンやウェッジは、
という組み合わせです。
フェースはボールの下側へ接触します。
クラブヘッドも深い角度で地面へ向かいます。
そこでバンスが地面からヘッドを支え、リーディングエッジの通過高さを整えます。
このように見ると、番手ごとの設計は、
ロフト、長さ、アタックアングル、バンスが別々に存在している
のではなく、
適正なコンタクト状態を作るために、一つの系として組み合わされている
ことが分かります。
さらに、実際のゴルフでは、ボールは完全に地面へ接しているとは限りません。
フェアウェイの芝は、ボールを数ミリ持ち上げています。
薄いライでは地面に近く、芝の上に浮いたライでは、ボール中心はより高い位置にあります。
一方、クラブヘッドも芝や地面へ入ります。
したがって、フェース上の打点を決めるのは、
の差です。
ボールが高く浮いていても、ヘッドが同じだけ深く入れば、打点は大きく変わりません。
しかし、バンスによってヘッドの沈み込みが抑えられれば、フェース上の打点は高くなります。
反対に、硬い地面でバンスが強く反発すれば、リーディングエッジが浮き、ボール下部を薄く捉える可能性もあります。
つまり、ライが変わると、
ボールの高さとヘッドの通過高さの関係
が変わります。
クラブ設計者が番手ごとに変えているのは、ロフトと長さだけではありません。
まで調整されています。
これらは、番手ごとに異なる進入条件でも、フェースの適正な位置でボールを受けるための設計と考えることができます。
ロングアイアンとウェッジでは、クラブの動きも、ボール側の接触位置も異なります。
それでも、極端に打点が上下しないように、クラブ側の形状が整えられているのです。
つまり、
番手が変わるから打点が変わる
だけではなく、
番手が変わっても適正な打点を維持するために、クラブ設計が変えられている
と考える方が自然です。
自動車では、エンジンの力がそのまま路面へ伝わるわけではありません。
シャシー、サスペンション、タイヤを通じて、路面へ力が伝えられます。
サスペンションは、車体を上下に動かすためだけのものではありません。
タイヤの接地を保ち、路面へ安定して力を伝えるための装置です。
ゴルフクラブにおけるバンスにも、似た役割があるのかもしれません。
バンスは、ヘッドを地面から支え、
を安定させます。
そう考えると、バンスは単なるダフリ防止機能ではありません。
クラブフェースとボールの接触を支えるサスペンション
と表現することもできます。
ここまで考えると、アプローチでフェースを開く意味も変わって見えてきます。
一般には、
フェースを開くのは、ロフトを増やしてボールを高く上げるため
と説明されます。
しかし、フェースを開けば、ロフトだけでなく、
も同時に変わります。
そうであれば、フェースを開く主な目的は、
ロフトを増やすこと
ではなく、
ライとアタックアングルに対して、適正なコンタクト位置を作ること
なのかもしれません。
ロフトが増えるのは、その操作に伴って起きる結果の一つにすぎない可能性があります。
私たちは、クラブを見ればロフトを確認できます。
弾道計測器を使えば、アタックアングルも確認できます。
カタログを見れば、バンス角も分かります。
しかし、それらがインパクトでどのように組み合わされ、
までは、直接には見えません。
見えている数値は、それぞれ独立しているように見えます。
しかし、実際のインパクトでは、すべてが一つの接触状態を作っています。
番手が変われば、ロフトが変わる。
クラブ長が変わり、アタックアングルも変わる。
その進入角に対応するように、バンスとソール形状も変わる。
それらすべてが、適正な打点とボール出力を作るために組み合わされているのではないでしょうか。
次回は、フェースを開く操作を、単にロフトを増やす動作としてではなく、
ボールとフェースのコンタクトポイントをライに合わせて調整する動作
として考えていきます。
前回は、ロフトが大きくなるほどバックスピン成分が強くなり、同じ横方向の回転成分があっても、スピンアクシスの傾きが小さくなることを考えました。
ロフトが大きいクラブでは、
という複数の条件が重なります。
では、クラブのロフトではなく、クラブヘッドがボールへ入ってくる方向が変わると、何が起きるのでしょうか。
グリーンを狙う場面で、プロは必ずしも最大飛距離を求めたフルショットを行いません。
スイング幅を抑え、右手首の角度を保ちながら、いわゆる「ラインを出す」ショットを選ぶことがあります。
そのとき、インパクトロフトは抑えられ、クラブヘッドは適正なダウンブローでボールへ入ります。
プロがこの打ち方を選ぶのは、経験的に、打ち出し方向と縦距離の両方を管理しやすいことを知っているからでしょう。
では、なぜダウンブローで捉えると、方向性が安定するのでしょうか。
今回は、アタックアングルについて考えます。
アタックアングルとは、インパクト付近でクラブヘッドがどの方向へ進んでいるかを、上下方向の角度として表したものです。
地面に対して水平に近く進めば、アタックアングルは浅くなります。
目標方向へ進みながら、より強く下方向へ向かえば、ダウンブローが深くなります。
ここで大切なのは、目標方向そのものが変わるのではなく、クラブヘッドの進み方が変わるということです。
ダウンブローが深くなるほど、クラブは単に前へ進むのではなく、前へ進みながら、より下方向へ向かってボールへ入ってきます。
見えているのは、クラブが下へ進んでいる動きです。
しかし、ボール側から見て重要なのは、その下向きの進行によって、ボールのどの位置へ、どの方向の力が加わったのか、という点です。
完全な球体と平面が最初に触れる一点だけを考えれば、その位置は主にフェースの向きによって決まります。
そのため、アタックアングルだけを変え、フェースの向きをまったく変えないなら、最初に触れる一点が必ず下へ動くとは限りません。
しかし、実際のゴルフボールはインパクトで大きく変形します。
接触は一点で終わるのではなく、時間とともに面へ広がります。
その接触面の中では、
が存在します。
ここでは、この「力が集中的に伝わる中心」を実効コンタクトポイントと考えます。
今回の考え方は、ダウンブローになると、球面上の最初の接触点が必ず下へ動くという意味ではありません。
そうではなく、ボールが変形して接触面が広がる過程の中で、圧力や力の中心が下方へ移るのではないか、という考えです。
クラブの進行方向が下へ傾けば、接触面の中での圧力分布や、摩擦の働き方も変わるはずです。
その結果、ボールが最終的に受け取る力の中心は、より下方へ移る可能性があります。
ボールを地球のような球体として考えます。
フェース開度は経度、ロフトや上下方向の作用位置は緯度に相当します。
赤道付近では、同じ10度の経度差でも、左右方向の距離は大きくなります。
一方、南極へ近づくほど、同じ10度の経度差でも、左右方向の距離は小さくなります。
もしダウンブローが深くなることで、実効コンタクトポイントがボール下部へ移るなら、同じフェース開度であっても、ボール重心から見た左右方向の作用腕は短くなります。
つまり、フェース向きの誤差が同じでも、作用位置が下がるほど、左右方向への影響は小さくなると考えられます。
ボールが左右へ向きを変えるかどうかは、どれだけ目標方向へ力が加わったかだけではなく、その力がボール中心からどれだけ左右にずれた位置へ加わったかにも関係します。
同じ強さで前へ押されたとしても、その力がボール中心から左右へ大きくずれた位置にかかれば、ボールは前へ飛ぶだけでなく、左右へ向きを変えようとする回転も受けやすくなります。
逆に、同じように前へ押されても、その力がより中心に近い位置へかかれば、左右へ向きを変えようとする作用は小さくなります。
ここで重要なのが、左右方向の作用腕です。
実効コンタクトポイントが下方へ移ると、同じフェース向きの誤差があったとしても、その誤差が左右方向へ及ぼす影響は小さくなります。
つまり、ダウンブローになるほど、同じフェース誤差が左右方向の回転や方向変化として現れにくくなる可能性があります。
プロゴルファーは、ピンを狙うショットで、払い打つよりも、適正なダウンブローでボールを捉えることがあります。
一般には、
と説明されます。
もちろん、これらも無関係ではありません。
しかし、プロが求めているのは最大飛距離ではありません。
ピンを狙う場面で必要なのは、
ことです。
プロは経験的に、クラブを適正なダウンブローで入れた方が、ボールの出力を安定させやすいことを知っています。
その理由の一つとして、
実効コンタクトポイントがボール下部へ安定し、左右方向の作用腕が短くなるため、方向への感度が下がる
という構造が考えられます。
プロが「ラインを出す」と表現する打ち方は、単に低い球を打つことではないのでしょう。
フェースの開閉量を抑え、インパクトロフトと打点を管理し、ボールへ力を加える位置と方向を揃える。
その結果として、打ち出し方向と縦距離の再現性が上がると考えられます。
アタックアングルを語るとき、多くの説明はスピンロフトへ向かいます。
ダウンブローが深くなると、ダイナミックロフトとの差が広がり、その結果としてスピン量が増える、という説明です。
これはクラブ側の角度関係としては有用です。
しかし、ボール側から見ると、それだけではありません。
アタックアングルが変われば、
も変わります。
したがって、ダウンブローは、
スピン量を変える操作
であると同時に、
ボールへ力を加える位置と方向を変える操作
でもあります。
この後者を考えなければ、プロが方向性を求める場面でダウンブローを使う理由は、十分には説明できません。
プロが求める方向性は、単にボールが右へ行くか、左へ行くかだけではありません。
ピンを狙うショットでは、
まで含めて、狙った空間へボールを運ぶ必要があります。
適正なダウンブローで打点とインパクトロフトが揃えば、
も揃いやすくなります。
その結果、左右方向だけでなく、縦距離も安定します。
つまり、プロが求めている方向性とは、
二次元の直進性ではなく、三次元空間における弾道の再現性
です。
ただし、アタックアングルが深いほど、無条件に方向性がよくなるわけではありません。
過度に深くなれば、
が起こります。
必要なのは、最大のダウンブローではありません。
番手、ロフト、バンス、ライに対して適正なアタックアングル
です。
プロが行っているのは、ただ上から打ち込むことではありません。
クラブとボールが最も安定して結合する進入条件を作っているのです。
弾道計測器には、アタックアングルが何度だったか表示されます。
しかし、その角度が直接ボールを真っすぐ飛ばしたわけではありません。
ボールが受け取ったのは、
です。
アタックアングルは、それらを作るクラブ側の入力条件です。
したがって、
ダウンブローだから方向性がよい
というより、
ダウンブローによって、方向性が安定しやすい接触条件が作られた
と考えた方が正確です。
クラブヘッドが何度下向きに進んでいたかは、現在の計測器で確認できます。
しかし、その進入角によって、
は直接には見えません。
見えているのは、アタックアングルというクラブ側の数値です。
見えていないのは、その数値によって作られた、ボール側の接触状態です。
しかし、ボールを中心に考えることで、その見えない部分を推測することはできます。
プロがピンを狙う場面でダウンブローを使うのは、単なる習慣ではないのでしょう。
長年の経験から、
その進入条件の方が、ボールへ力を加える位置と方向を揃えやすい
ことを知っているのかもしれません。
次回は、番手が変わると、ロフト、アタックアングル、バンスがどのように組み合わされ、フェース上の打点とボール側のコンタクトポイントを整えているのかを考えます。
ここまで、ジャック・ニクラスの発言を起点に、現代ゴルフが抱える問題を考えてきました。
ニクラスは、現在のPGAツアーの日程について、重要な大会が短期間に集中しすぎていると懸念を示しました。
大きな大会が連続すれば、トップ選手はすべての試合へ万全な状態で出場することができません。
その結果、一部の大会へ選手と注目が集中し、それ以外の大会は存在感を失っていきます。
また、ボールのロールバックについても、トッププロで十数ヤード程度の飛距離低下では問題を解決できないとして、
「タイタニック号からデッキチェアを投げ捨てるようなもの」
と表現しました。
これらを別々の発言として読めば、一方は日程問題、もう一方は飛距離問題です。
しかし、ここまで考えてきたことを重ねると、二つの発言は同じ問題へつながっているように見えます。
それは、現代のゴルフ界が、
何をゴルフの価値として残そうとしているのか
という問題です。
高額賞金大会へトップ選手を集中させる。
大観衆を収容できるスタジアムコースを使う。
飛距離が映える広いコースを用意する。
300ヤードを超えるドライバーショットや、パー5の2オンを見せ場として売る。
こうした興行は、非常に分かりやすいものです。
しかし、その一方で、各大会が持っていた固有の価値が薄れていきます。
狭いコース。
短いコース。
風の強いコース。
木によって射線が限定されるコース。
地面の硬さや傾斜を使わなければ、ボールを止められないコース。
それぞれ異なる能力を選手へ要求するからこそ、ツアーには多様性がありました。
ところが、大会の価値を賞金額と出場選手の顔ぶれだけで決めるようになれば、開催コースが選手へ何を問うのかは、二次的なものになります。
その結果、高額大会に選ばれなかった大会だけでなく、そこで行われてきたゴルフそのものまで評価されなくなります。
ニクラスがコグニザント・クラシックを例に挙げた意味も、ここにあるのではないでしょうか。
単に、自分に縁のある大会へトップ選手を集めてほしいという話ではありません。
PGAナショナルというコースが選手へ与える課題。
地域大会として積み重ねてきた歴史。
ほかの大会とは違うゴルフを見せる価値。
それらが、賞金額による序列の中で埋もれてしまうことへの懸念だったのかもしれません。
ニクラス自身は、全盛期に圧倒的な飛距離を持つ選手でした。
したがって、彼が飛距離の価値を否定しているとは考えられません。
しかし、ニクラスの強さは、単に遠くへ飛ばしたことではありませんでした。
どこへ打つのか。
どの高さで打つのか。
どの方向へ曲げるのか。
どこへ着弾させるのか。
どのミスを避けるのか。
ピン位置から逆算して、ボールをコントロールする能力があったからこそ、帝王と呼ばれる成績を残したのです。
飛距離は、彼の技術の一部でした。
しかし、飛距離が他の技術を必要としなくするほど、無条件の利益ではありませんでした。
飛距離のある選手であっても、その飛距離をどこで使うのかを問われました。
飛ばしすぎれば、悪い位置へ入る。
方向を間違えれば、グリーンへの射線を失う。
残り距離が短くても、悪い角度からはピンの周辺へボールを止められない。
そのようなコースの中で、飛距離をコントロールできたことが、ニクラスの強さだったはずです。
ベン・ホーガンも同じです。
ホーガンは、サム・スニードほど飛ぶ選手ではありませんでした。
それでも、飛距離を追うのではなく、ドローからフェードへ持ち球を変え、曲がり幅と停止地点を管理することで大きな成功を収めました。
ホーガンやニクラスが証明したのは、パワーが不要だということではありません。
パワーは、コントロールの中に置かれて初めてゴルフの技術になる
ということです。
ニクラスの発言を、昔のゴルフを懐かしむ老人の言葉として片づけることは簡単です。
しかし、彼が守ろうとしているのは、昔の飛距離や古い用具ではないでしょう。
飛ばないボールへ戻せばよい。
木製のクラブへ戻せばよい。
選手のフィジカルトレーニングを制限すればよい。
そのような話ではありません。
技術が進歩することは当然です。
選手が強くなり、クラブやボールの性能が高まることも、スポーツの発展の一部です。
しかし、競技側がその進歩に対して、ただコースを長くするだけでは、飛距離のある選手をさらに有利にします。
ボールを十数ヤード飛ばなくするだけでも、全員が同じだけ後ろへ下がるだけで、飛距離の相対的な優位は残ります。
必要なのは、昔へ戻ることではありません。
現代の技術を前提にしながら、飛距離、方向性、距離管理、球筋、判断力を、もう一度コースが評価できるようにすることです。
飛ばした方が有利なホールがあってもよい。
距離を抑えた方が有利なホールがあってもよい。
空中から高い球で止める方法があってもよい。
地面を使って転がし、止める方法があってもよい。
一つの正解だけではなく、異なる能力を持つ選手に、異なる攻略法が残されていることが重要です。
メーカー、メディア、PGAツアーにとって、飛距離は売りやすい価値です。
数字で表せる。
映像で伝わる。
新しいクラブやボールの購入理由になる。
観客も、一目で凄さを理解できます。
しかし、売りやすいからという理由で、飛距離だけをゴルフの中心に置けば、競技の方が商品に合わせて変えられていきます。
本来は、優れたゴルフをどのように見せるかを考えるべきでした。
ところが、
売りやすいゴルフとは何か。
盛り上がりやすいゴルフとは何か。
商品を買ってもらえるゴルフとは何か。
という発想が先に立ち、それに合わせてコースや選手の評価まで変わってしまいました。
商業がゴルフを支えるのではなく、商業がゴルフの形を決めるようになったのです。
ニクラスが現在のツアーへ示した違和感は、その主従の逆転に対するものではないでしょうか。
大会の価値は、賞金額だけで決まるのか。
選手の価値は、飛距離だけで決まるのか。
コースの価値は、大観衆を収容できるかどうかで決まるのか。
ゴルフの価値は、すぐに理解できる派手な映像だけで決まるのか。
帝王は、ゴルフ界へその問いを投げかけているように思えます。
PGAツアーが最初に取り組むべきなのは、ボール規制だけではありません。
まず、自らの大会で使用するコース設定を変えることです。
飛距離がそのまま残り距離の短さへ変換され、短いクラブによって簡単にボールを止められる設定を見直す。
フェアウェイの中に、正しい位置と間違った位置を作る。
飛ばした先からは、ピンの周辺へ止めにくくする。
グリーンへの進入角度と、使える着弾地点を重視する。
観客をホールの両側へ並べ、ミスショットを救う構造も改める。
現代のドローン、弾道追尾、大型ビジョンを使えば、観客を特定の観戦エリアへ集めながら、ホール全体の戦略を見せることができます。
観客をコースへ近づけるのではなく、コースと選手の判断を映像で観客へ届ける。
技術は、コースを簡単にするためではなく、ゴルフの複雑さを伝えるために使うべきです。
そしてメーカーやメディアも、飛距離以外の技術を伝えなければなりません。
なぜ、そのクラブを選んだのか。
なぜ、20ヤード短く打ったのか。
なぜ、フェアウェイの左側を狙ったのか。
なぜ、ピンではなくグリーン手前へボールを落としたのか。
それを説明できれば、ターゲットゴルフも十分に観客を魅了できます。
飛距離だけが、ゴルフの見せ場ではありません。
ゴルフでは、人間の身体が作った力を、長いクラブによって増幅してボールへ伝えます。
わずかな狂いが、大きな結果の違いを生みます。
どれほど優れた選手でも、すべてのショットを完全には再現できません。
だからこそ、起きた結果を受け入れ、次に与えられた問題を解かなければなりません。
そして、目の前の一打を成功させるだけでなく、次の問題を少しでも簡単にする場所へボールを運ぶ。
この連続がゴルフです。
ゴルフは、完璧なショットを並べる競技ではありません。
不完全な結果の中から、判断と技術によって最善の答えを探し続ける競技です。
コースは、その能力を人間の主観的な採点を使わずに評価してきました。
ところが飛距離が常に正解になれば、コースが出す問題は単純になります。
どれだけ前へ出せるのか。
それだけでは、ゴルフが持つ多面的な評価機能は失われてしまいます。
帝王が守ろうとしているのは、昔のゴルフではありません。
異なる能力を持つ選手が、それぞれの技術と判断によって問題を解き、それぞれの方法で勝つことのできるゴルフです。
ジャック・ニクラスの言葉を、ゴルフ界は聞き入れることができるのでしょうか。
それとも、これからも飛距離、賞金、観客数という分かりやすい数字だけを追い続けるのでしょうか。
その選択によって、ゴルフがこれからも総合的な技術を問う競技であり続けるのか。
あるいは、最大出力を競うだけのスポーツへ近づいていくのかが決まります。
ニクラスが投げかけた問いに答えるのは、帝王自身ではありません。
PGAツアー。
メーカー。
メディア。
そして、私たちゴルファーです。
第3話では、ロフトが大きくなるほど、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなる可能性を考えました。
低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。
一方、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。
その結果、ボールを左右へ向けるz軸まわりのトルクも小さくなりやすい。
これが、ロフトが増えるほど直進性が高くなる一つ目の理由でした。
しかし、ロフトが大きいクラブの直進性には、もう一つ重要な理由があります。
それが、スピンアクシスです。
ゴルフでは、よく、
という言葉が使われます。
しかし、実際のボールが二つの別々の回転をしているわけではありません。
ボールは、一つの軸を中心に回転しています。
その軸が地面に対して水平に近ければ、回転はほぼ純粋なバックスピンになります。
一方、その軸が左右へ傾けば、ボールには横方向の空力が加わり、弾道が曲がります。
つまり、ボールの曲がりを考えるときに重要なのは、
横回転が何回転あるか
というより、
ボールの回転軸がどれだけ傾いているか
です。
この回転軸を、スピンアクシスと呼びます。
ボールの回転を単純化して考えると、
に分けることができます。
スピンアクシスの傾きは、概念的には、この二つの比で決まります。
バックスピン成分を (\omega_{\text{back}})。
横方向の回転成分を (\omega_{\text{side}})。
スピンアクシスの傾きを (\theta) とすれば、
\tan^{-1}
\left(
\frac{\omega_{\text{side}}}
{\omega_{\text{back}}}
\right)
]
と表せます。

ここで重要なのは、スピンアクシスの傾きは、横方向の回転成分だけでは決まらないことです。
同じ横方向の回転成分が存在していても、バックスピン成分が大きければ、軸の傾きは小さくなります。
逆に、バックスピン成分が小さければ、少しの横方向成分でも、軸は大きく傾きます。
たとえば、横方向の回転成分が500rpmだったとします。
バックスピンが2,000rpmなら、

となり、スピンアクシスの傾きは約14度です。
一方、バックスピンが5,000rpmなら、

となり、傾きは約6度です。
さらに、バックスピンが8,000rpmなら、傾きは約4度まで小さくなります。
横方向の回転成分は、すべて同じ500rpmです。
しかし、バックスピン量が違うだけで、スピンアクシスの傾きは大きく変わります。
つまり、
横方向の回転が同じ量だけ生じても、総スピンの中で占める割合が違えば、ボールの曲がり方は同じではない
ということです。
一般に、ロフトが大きいクラブほど、ボールには大きなバックスピン成分が与えられます。
もちろん、実際のスピン量は、
によって変化します。
しかし、ほかの条件が大きく変わらなければ、ロフトの大きいクラブほど、回転ベクトルのうちバックスピン方向の成分は大きくなります。
そのため、同じ大きさの横方向成分が生じても、スピンアクシスは傾きにくくなります。
低ロフトのドライバーでは、総スピン量が少ないため、少しの横方向成分でも、スピンアクシスは大きく傾きます。
一方、ロフトの大きいアイアンやウェッジでは、バックスピン成分が大きいため、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きは小さくなります。
これが、高ロフトクラブほど曲がりにくく見える理由の一つです。
ここまでの話を整理すると、ロフトが大きくなることで直進性が上がる理由は、二段階あります。
一つ目は、インパクト時の問題です。
ロフトが大きくなると、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなります。
その結果、左右方向へ回そうとする作用腕が短くなり、z軸まわりのトルクが小さくなりやすい。
つまり、
そもそも横方向の回転成分を生みにくくなる
ということです。
二つ目は、ボールが飛び出した後の問題です。
仮に横方向の回転成分が生じても、ロフトが大きいクラブでは、バックスピン成分が大きくなります。
そのため、横方向成分の割合が小さくなり、スピンアクシスの傾きも小さくなります。
つまり、
生じた横方向成分が、弾道の曲がりとして現れにくくなる
ということです。
高ロフトクラブは、
という二重の構造を持っています。
たとえば、ドライバーとウェッジで、フェースとパスの関係に同じ大きさの誤差があったとします。
クラブ側の角度差だけを見れば、同じ誤差です。
しかし、ボール側では結果が異なります。
ドライバーでは、
という条件が重なります。
一方、ウェッジでは、
という条件になります。
つまり、同じクラブ側の角度誤差でも、
ボールにとっての意味は同じではない
ということです。
ここでも、見えている角度だけで現象を判断することの限界が見えてきます。
弾道計測器には、スピンアクシスが何度傾いたか表示されます。
しかし、スピンアクシスがボールを曲げた原因なのでしょうか。
より正確には、スピンアクシスは、
というインパクトの結果です。
つまり、スピンアクシスは、原因そのものではありません。
ボールが受け取った回転ベクトルを、飛び出した後に表したものです。
この違いは重要です。
一般的な説明では、
フェースとパスの差があるから、スピンアクシスが傾いた
とされます。
実用的には、それで弾道を予測できます。
しかし、実際にボールが受けたのは角度差ではありません。
ボールは、フェース角やクラブパスという数字を読み取って回転したのではありません。
ボールのある位置へ、ある方向の力が加わり、その結果として角運動量を受け取りました。
フェースとパスの差は、その接触状態を作るクラブ側の条件です。
スピンアクシスは、そこから生まれたボール側の出力です。
ゴルフでは、スピン量が多い、少ないという話がよくされます。
しかし、総スピン量だけでは、ボールがどれだけ曲がるかは分かりません。
たとえば、総スピンが6,000rpmでも、その軸がほぼ水平なら、弾道は大きく曲がりません。
反対に、総スピンが2,000rpmでも、軸が大きく傾けば、ボールは大きく曲がる可能性があります。
重要なのは、総量だけではなく、
どの方向の回転として配分されたか
です。
スピン量は角運動量の大きさ。
スピンアクシスは、その角運動量の向き。
この二つを合わせて初めて、ボールの空中での動きを考えることができます。
一般には、ショートアイアンやウェッジの方向性がよい理由として、
と説明されます。
もちろん、これらも重要です。
しかし、ボール側から見ると、さらに二つの理由が加わります。
第一に、ロフトが大きくなることで、同じフェース開度でも、左右方向のコンタクト偏位が小さくなること。
第二に、バックスピン成分が増えることで、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きが小さくなること。
つまり、高ロフトクラブは、
インパクト時にも、飛球中にも、左右方向の誤差が拡大しにくい
という構造を持っている可能性があります。
ここでいう直進性とは、単に空中でボールが曲がらないことだけではありません。
という一連の安定性です。
ロフトが大きいクラブでは、
まず、コンタクトポイントの左右方向の偏位が小さくなり、初期方向への影響が抑えられる。
さらに、バックスピン成分が大きくなることで、スピンアクシスの傾きも抑えられる。
その結果、打ち出しから着弾まで、左右方向への誤差が拡大しにくくなります。
弾道計測器には、
が表示されます。
しかし、それらはすべて、インパクト後にボールへ残った結果です。
その前に、
という見えない過程があります。
スピンアクシスを見るということは、単に結果の角度を見ることではありません。
その角度の背後で、ボールがどのような力を受け取ったのかを考えることです。
次回は、ロフトというフェース姿勢だけでなく、クラブヘッドの進入方向、つまりアタックアングルが変わると、ボール側の実効コンタクト位置と方向性がどのように変化するのかを考えます。
プロがピンを狙う場面で、なぜダウンブローを強めることがあるのか。
その理由を、スピン量だけではなく、ボール重心に対する作用点とトルクから見直していきます。
普段は、
「それ、何を言っているんですか?」
と、メーカーのマーケティングに突っ込むことが多い店長です。
しかし今回は、褒めなくてはなりません。
昨年末、i240の日本仕様をコースで試打しました。
打った瞬間に感じたのは、
これは、かなり完成度の高いアイアンだぞ。
ということでした。

ヘッドはコンパクトで、構えた姿は競技志向。
それでいて、必要以上に難しくありません。
ボールはしっかり上がり、飛距離も出る。
そして何より、グリーン上でボールを止められる。
ところが、価格の影響もあるのでしょうか。
実際のマーケットからは、それほど大きな反応を感じません。

MYGOLFSPYの総合評価では目立たない
しかし、ここで少し評価軸を変えてみます。
競技ゴルファーがアイアンに本当に求めるものは何でしょうか。
単純な飛距離でしょうか。
それとも、ヘッドの見た目や打感でしょうか。
もちろん、それらも重要です。
しかし、競技でスコアを作るために欠かせないのは、
狙った距離を打ち、グリーン上でボールを止めること
です。
つまり、ストッピングパワーです。
MYGOLFSPYのテストデータから、
を総合して見ると、ストッピング性能の上位は次のようになります。
i240の7番アイアンは、
| 項目 | テスト結果 |
|---|---|
| ロフト角 | 33° |
| キャリー | 156.77yd |
| スピン量 | 6,170rpm |
| 最高到達点 | 29.1m |
| 落下角 | 46.98° |
| 推定ラン | 4.96yd |
という結果です。
スピン量、最高到達点、落下角、着弾後のラン。
すべてが、今回のテストでトップクラスです。

しかもこれは、単にマッスルバックのようにロフトを寝かせ、スピンを増やした結果ではありません。
33°の7番アイアンでありながら、マッスルバックを上回るほどのストッピング性能を出しています。
PINGが公式に説明しているとおり、i240は低重心化によって高い打ち出しを生み、MOIを高めながら、グリーン上でボールを止めることを狙った設計です。
ここで重要なのは、MYGOLFSPYがテストしたのはUS仕様だということです。
US仕様のi240は、7番アイアンが標準で33°。
一方、日本仕様の標準ロフトは31.5°です。
| 仕様 | 7番アイアンのロフト |
|---|---|
| US標準仕様 | 33° |
| 日本標準仕様 | 31.5° |
USでは31.5°がPower Specとして用意されていますが、日本では、その31.5°が標準仕様として採用されています。
つまり日本仕様は、US仕様より1.5°ロフトを立てることで、飛距離性能を加えた仕様になっています。
もちろん、ロフトを33°から31.5°へ変更した場合の正確な数値は、同じテスター、同じボール、同じ打点条件で再計測しなければ分かりません。
それでも一般的な弾道変化から推定すると、おおよそ次のようになります。
| 項目 | 33°実測値 | 日本仕様31.5°の推定 |
|---|---|---|
| ボール初速 | 50.4m/s | 50.6~50.9m/s |
| キャリー | 156.77yd | 160~162yd |
| トータル | 161.73yd | 166~168yd |
| 打ち出し角 | 20.43° | 19.2~19.7° |
| スピン量 | 6,170rpm | 5,700~5,950rpm |
| 最高到達点 | 29.1m | 28.0~28.7m |
| 落下角 | 46.98° | 45.6~46.3° |
| 推定ラン | 4.96yd | 5.5~6.2yd |
ロフトが立つため、スピン量と落下角は少し減少すると考えられます。
その代わり、
という変化が見込まれます。
重要なのは、ロフトを1.5°立てても、推定落下角は45°を超え、スピン量も5,700~5,950rpm程度を維持できる可能性が高いことです。
つまり、日本仕様のi240は、
飛距離が出るだけのストロングロフトアイアンではありません。
飛距離を増やしながら、
という、競技アイアンとして必要な条件を残していると考えられます。
多くの日本仕様アイアンは、ロフトを立てることで飛距離を作ります。
しかし、その結果として、
という問題が生じることがあります。
i240の日本仕様が面白いのは、元となるUS仕様に、十分すぎるほどの高さとスピン、落下角があることです。
その余裕を使ってロフトを1.5°立てる。
すると、ストッピング性能を完全には失わずに、日本のゴルファーが求める飛距離を加えることができます。
言い換えれば、
US仕様の余裕を、日本仕様では飛距離へ変換した
ということです。
31.5°という数字だけを見れば、競技志向アイアンとしては強めのロフトです。
しかし、低重心設計によって高さを出し、スピンと落下角を残すことができれば、単なるロフト商法ではありません。
飛んで、上がって、止まる。

店長がコースで感じた完成度の高さは、このバランスから生まれていたのだと思います。
普段の店長なら、
「日本仕様だけロフトを立てて、飛距離を大きく見せただけでは?」
と疑うところです。
しかし、今回のi240は少し違います。
US仕様には、もともと圧倒的なストッピング性能があります。
その性能を土台として、日本仕様ではロフトを31.5°に設定。
ストッピング性能に多少の余裕を残しながら、飛距離を加えています。
これは、
止まる性能を削って飛距離を作ったのではなく、止まる性能の余裕を飛距離へ振り分けた
と見ることができます。
日本のゴルファーが求める飛距離。
競技ゴルファーが求める高さ、スピン、落下角。
その両方を狙った仕様です。
……認めたくはありませんが。
今回は、
PING GOLF JAPANのマーケティングの勝利です。
うぐぐぐぅ……。負けた!
コースでは3番アイアンも試打しています。

ロフトは19度、昔でいうと2番アイアンです。流石に立って見えますが、打ってみると高さが出て、ちゃんと飛んでいくんですよ。