見えないものを見る 第4話 ロフトが増えると、なぜスピンアクシスは傾きにくくなるのか

第3話では、ロフトが大きくなるほど、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなる可能性を考えました。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。

一方、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。

その結果、ボールを左右へ向けるz軸まわりのトルクも小さくなりやすい。

これが、ロフトが増えるほど直進性が高くなる一つ目の理由でした。

しかし、ロフトが大きいクラブの直進性には、もう一つ重要な理由があります。

それが、スピンアクシスです。

ボールは「バックスピン」と「サイドスピン」に分かれて回っているわけではない

ゴルフでは、よく、

  • バックスピン
  • サイドスピン

という言葉が使われます。

しかし、実際のボールが二つの別々の回転をしているわけではありません。

ボールは、一つの軸を中心に回転しています。

その軸が地面に対して水平に近ければ、回転はほぼ純粋なバックスピンになります。

一方、その軸が左右へ傾けば、ボールには横方向の空力が加わり、弾道が曲がります。

つまり、ボールの曲がりを考えるときに重要なのは、

横回転が何回転あるか

というより、

ボールの回転軸がどれだけ傾いているか

です。

この回転軸を、スピンアクシスと呼びます。

スピンアクシスは、回転成分の比で決まる

ボールの回転を単純化して考えると、

  • バックスピン方向の成分
  • 横方向の回転成分

に分けることができます。

スピンアクシスの傾きは、概念的には、この二つの比で決まります。

バックスピン成分を (\omega_{\text{back}})。

横方向の回転成分を (\omega_{\text{side}})。

スピンアクシスの傾きを (\theta) とすれば、

\tan^{-1}
\left(
\frac{\omega_{\text{side}}}
{\omega_{\text{back}}}
\right)
]

と表せます。

ここで重要なのは、スピンアクシスの傾きは、横方向の回転成分だけでは決まらないことです。

同じ横方向の回転成分が存在していても、バックスピン成分が大きければ、軸の傾きは小さくなります。

逆に、バックスピン成分が小さければ、少しの横方向成分でも、軸は大きく傾きます。

同じ500回転でも、意味は同じではない

たとえば、横方向の回転成分が500rpmだったとします。

バックスピンが2,000rpmなら、

となり、スピンアクシスの傾きは約14度です。

一方、バックスピンが5,000rpmなら、

となり、傾きは約6度です。

さらに、バックスピンが8,000rpmなら、傾きは約4度まで小さくなります。

横方向の回転成分は、すべて同じ500rpmです。

しかし、バックスピン量が違うだけで、スピンアクシスの傾きは大きく変わります。

つまり、

横方向の回転が同じ量だけ生じても、総スピンの中で占める割合が違えば、ボールの曲がり方は同じではない

ということです。

ロフトが大きいほど、バックスピン成分が強くなる

一般に、ロフトが大きいクラブほど、ボールには大きなバックスピン成分が与えられます。

もちろん、実際のスピン量は、

  • ボールスピード
  • ダイナミックロフト
  • アタックアングル
  • 打点
  • ボールカバー
  • フェースとボールの摩擦状態

によって変化します。

しかし、ほかの条件が大きく変わらなければ、ロフトの大きいクラブほど、回転ベクトルのうちバックスピン方向の成分は大きくなります。

そのため、同じ大きさの横方向成分が生じても、スピンアクシスは傾きにくくなります。

低ロフトのドライバーでは、総スピン量が少ないため、少しの横方向成分でも、スピンアクシスは大きく傾きます。

一方、ロフトの大きいアイアンやウェッジでは、バックスピン成分が大きいため、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きは小さくなります。

これが、高ロフトクラブほど曲がりにくく見える理由の一つです。

直進性には二つの段階がある

ここまでの話を整理すると、ロフトが大きくなることで直進性が上がる理由は、二段階あります。

一つ目は、インパクト時の問題です。

ロフトが大きくなると、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなります。

その結果、左右方向へ回そうとする作用腕が短くなり、z軸まわりのトルクが小さくなりやすい。

つまり、

そもそも横方向の回転成分を生みにくくなる

ということです。

二つ目は、ボールが飛び出した後の問題です。

仮に横方向の回転成分が生じても、ロフトが大きいクラブでは、バックスピン成分が大きくなります。

そのため、横方向成分の割合が小さくなり、スピンアクシスの傾きも小さくなります。

つまり、

生じた横方向成分が、弾道の曲がりとして現れにくくなる

ということです。

高ロフトクラブは、

  • 横方向の回転を作りにくい
  • 作られた横方向の回転も、軸の傾きとして現れにくい

という二重の構造を持っています。

ドライバーとウェッジでは、同じフェース誤差でも結果が違う

たとえば、ドライバーとウェッジで、フェースとパスの関係に同じ大きさの誤差があったとします。

クラブ側の角度差だけを見れば、同じ誤差です。

しかし、ボール側では結果が異なります。

ドライバーでは、

  • ロフトが小さい
  • 左右方向のコンタクト偏位が大きくなりやすい
  • 総スピン量が少ない
  • 横方向成分の割合が大きくなりやすい
  • スピンアクシスが大きく傾きやすい

という条件が重なります。

一方、ウェッジでは、

  • ロフトが大きい
  • 左右方向のコンタクト偏位が小さくなりやすい
  • バックスピン成分が大きい
  • 横方向成分の割合が小さい
  • スピンアクシスが傾きにくい

という条件になります。

つまり、同じクラブ側の角度誤差でも、

ボールにとっての意味は同じではない

ということです。

ここでも、見えている角度だけで現象を判断することの限界が見えてきます。

スピンアクシスは原因ではなく、結果である

弾道計測器には、スピンアクシスが何度傾いたか表示されます。

しかし、スピンアクシスがボールを曲げた原因なのでしょうか。

より正確には、スピンアクシスは、

  • ボールのどこに力が加わったか
  • どの方向のトルクが生じたか
  • バックスピン方向と横方向へ、どのように角運動量が配分されたか

というインパクトの結果です。

つまり、スピンアクシスは、原因そのものではありません。

ボールが受け取った回転ベクトルを、飛び出した後に表したものです。

この違いは重要です。

一般的な説明では、

フェースとパスの差があるから、スピンアクシスが傾いた

とされます。

実用的には、それで弾道を予測できます。

しかし、実際にボールが受けたのは角度差ではありません。

ボールは、フェース角やクラブパスという数字を読み取って回転したのではありません。

ボールのある位置へ、ある方向の力が加わり、その結果として角運動量を受け取りました。

フェースとパスの差は、その接触状態を作るクラブ側の条件です。

スピンアクシスは、そこから生まれたボール側の出力です。

総スピン量だけを見ても、曲がりは分からない

ゴルフでは、スピン量が多い、少ないという話がよくされます。

しかし、総スピン量だけでは、ボールがどれだけ曲がるかは分かりません。

たとえば、総スピンが6,000rpmでも、その軸がほぼ水平なら、弾道は大きく曲がりません。

反対に、総スピンが2,000rpmでも、軸が大きく傾けば、ボールは大きく曲がる可能性があります。

重要なのは、総量だけではなく、

どの方向の回転として配分されたか

です。

スピン量は角運動量の大きさ。

スピンアクシスは、その角運動量の向き。

この二つを合わせて初めて、ボールの空中での動きを考えることができます。

高ロフトクラブの方向性を、ボール側から見る

一般には、ショートアイアンやウェッジの方向性がよい理由として、

  • シャフトが短い
  • スイングが小さい
  • ヘッドスピードが遅い
  • フェース管理がしやすい

と説明されます。

もちろん、これらも重要です。

しかし、ボール側から見ると、さらに二つの理由が加わります。

第一に、ロフトが大きくなることで、同じフェース開度でも、左右方向のコンタクト偏位が小さくなること。

第二に、バックスピン成分が増えることで、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きが小さくなること。

つまり、高ロフトクラブは、

インパクト時にも、飛球中にも、左右方向の誤差が拡大しにくい

という構造を持っている可能性があります。

直進性とは、曲がらないことだけではない

ここでいう直進性とは、単に空中でボールが曲がらないことだけではありません。

  • 初期方向が大きくずれない
  • スピンアクシスが大きく傾かない
  • 横方向の空力が小さい
  • 狙った範囲に着弾しやすい

という一連の安定性です。

ロフトが大きいクラブでは、

まず、コンタクトポイントの左右方向の偏位が小さくなり、初期方向への影響が抑えられる。

さらに、バックスピン成分が大きくなることで、スピンアクシスの傾きも抑えられる。

その結果、打ち出しから着弾まで、左右方向への誤差が拡大しにくくなります。

見えるスピンと、見えない力の配分

弾道計測器には、

  • 総スピン量
  • スピンアクシス
  • 曲がり幅

が表示されます。

しかし、それらはすべて、インパクト後にボールへ残った結果です。

その前に、

  • ボールのどこへ接触したのか
  • どの方向へ力が加わったのか
  • どの方向の角運動量が作られたのか
  • バックスピン成分と横方向成分へ、どのように配分されたのか

という見えない過程があります。

スピンアクシスを見るということは、単に結果の角度を見ることではありません。

その角度の背後で、ボールがどのような力を受け取ったのかを考えることです。

次回は、ロフトというフェース姿勢だけでなく、クラブヘッドの進入方向、つまりアタックアングルが変わると、ボール側の実効コンタクト位置と方向性がどのように変化するのかを考えます。

プロがピンを狙う場面で、なぜダウンブローを強めることがあるのか。

その理由を、スピン量だけではなく、ボール重心に対する作用点とトルクから見直していきます。

天晴!PING GOLF JAPAN

普段は、

「それ、何を言っているんですか?」

と、メーカーのマーケティングに突っ込むことが多い店長です。

しかし今回は、褒めなくてはなりません。

昨年末、i240の日本仕様をコースで試打しました。

打った瞬間に感じたのは、

これは、かなり完成度の高いアイアンだぞ。

ということでした。

ヘッドはコンパクトで、構えた姿は競技志向。

それでいて、必要以上に難しくありません。

ボールはしっかり上がり、飛距離も出る。

そして何より、グリーン上でボールを止められる。

ところが、価格の影響もあるのでしょうか。

実際のマーケットからは、それほど大きな反応を感じません。

MYGOLFSPYの総合評価では目立たない

しかし、ここで少し評価軸を変えてみます。

競技ゴルファーがアイアンに本当に求めるものは何でしょうか。

単純な飛距離でしょうか。

それとも、ヘッドの見た目や打感でしょうか。

もちろん、それらも重要です。

しかし、競技でスコアを作るために欠かせないのは、

狙った距離を打ち、グリーン上でボールを止めること

です。

つまり、ストッピングパワーです。


ストッピングパワーで見ると、i240は別格

MYGOLFSPYのテストデータから、

  • スピン量
  • 最高到達点
  • 落下角
  • キャリーとトータル飛距離の差

を総合して見ると、ストッピング性能の上位は次のようになります。

  1. PING i240
  2. Takomo 201T MKII
  3. Titleist T100
  4. Ballistic CB
  5. Wilson Staff Model CB

i240の7番アイアンは、

項目 テスト結果
ロフト角 33°
キャリー 156.77yd
スピン量 6,170rpm
最高到達点 29.1m
落下角 46.98°
推定ラン 4.96yd

という結果です。

スピン量、最高到達点、落下角、着弾後のラン。

すべてが、今回のテストでトップクラスです。

しかもこれは、単にマッスルバックのようにロフトを寝かせ、スピンを増やした結果ではありません。

33°の7番アイアンでありながら、マッスルバックを上回るほどのストッピング性能を出しています。

PINGが公式に説明しているとおり、i240は低重心化によって高い打ち出しを生み、MOIを高めながら、グリーン上でボールを止めることを狙った設計です。

ただし、このテストはUS仕様

ここで重要なのは、MYGOLFSPYがテストしたのはUS仕様だということです。

US仕様のi240は、7番アイアンが標準で33°。

一方、日本仕様の標準ロフトは31.5°です。

仕様 7番アイアンのロフト
US標準仕様 33°
日本標準仕様 31.5°

USでは31.5°がPower Specとして用意されていますが、日本では、その31.5°が標準仕様として採用されています。

つまり日本仕様は、US仕様より1.5°ロフトを立てることで、飛距離性能を加えた仕様になっています。


日本仕様ではどうなるのか

もちろん、ロフトを33°から31.5°へ変更した場合の正確な数値は、同じテスター、同じボール、同じ打点条件で再計測しなければ分かりません。

それでも一般的な弾道変化から推定すると、おおよそ次のようになります。

項目 33°実測値 日本仕様31.5°の推定
ボール初速 50.4m/s 50.6~50.9m/s
キャリー 156.77yd 160~162yd
トータル 161.73yd 166~168yd
打ち出し角 20.43° 19.2~19.7°
スピン量 6,170rpm 5,700~5,950rpm
最高到達点 29.1m 28.0~28.7m
落下角 46.98° 45.6~46.3°
推定ラン 4.96yd 5.5~6.2yd

ロフトが立つため、スピン量と落下角は少し減少すると考えられます。

その代わり、

  • ボール初速が上がる
  • キャリーが約3~5yd伸びる
  • トータル飛距離も伸びる

という変化が見込まれます。

重要なのは、ロフトを1.5°立てても、推定落下角は45°を超え、スピン量も5,700~5,950rpm程度を維持できる可能性が高いことです。

つまり、日本仕様のi240は、

飛距離が出るだけのストロングロフトアイアンではありません。

飛距離を増やしながら、

  • 十分な高さが出る
  • 十分なスピンが入る
  • 十分な落下角が確保される
  • グリーン上でボールを止められる

という、競技アイアンとして必要な条件を残していると考えられます。


「飛ぶ」ではなく、「飛んで止まる」

多くの日本仕様アイアンは、ロフトを立てることで飛距離を作ります。

しかし、その結果として、

  • 打ち出しが低くなる
  • スピンが減る
  • 落下角が浅くなる
  • グリーンで止まりにくくなる

という問題が生じることがあります。

i240の日本仕様が面白いのは、元となるUS仕様に、十分すぎるほどの高さとスピン、落下角があることです。

その余裕を使ってロフトを1.5°立てる。

すると、ストッピング性能を完全には失わずに、日本のゴルファーが求める飛距離を加えることができます。

言い換えれば、

US仕様の余裕を、日本仕様では飛距離へ変換した

ということです。

31.5°という数字だけを見れば、競技志向アイアンとしては強めのロフトです。

しかし、低重心設計によって高さを出し、スピンと落下角を残すことができれば、単なるロフト商法ではありません。

飛んで、上がって、止まる。

店長がコースで感じた完成度の高さは、このバランスから生まれていたのだと思います。


今回は、PING GOLF JAPANのマーケティングの勝利

普段の店長なら、

「日本仕様だけロフトを立てて、飛距離を大きく見せただけでは?」

と疑うところです。

しかし、今回のi240は少し違います。

US仕様には、もともと圧倒的なストッピング性能があります。

その性能を土台として、日本仕様ではロフトを31.5°に設定。

ストッピング性能に多少の余裕を残しながら、飛距離を加えています。

これは、

止まる性能を削って飛距離を作ったのではなく、止まる性能の余裕を飛距離へ振り分けた

と見ることができます。

日本のゴルファーが求める飛距離。

競技ゴルファーが求める高さ、スピン、落下角。

その両方を狙った仕様です。

……認めたくはありませんが。

今回は、

PING GOLF JAPANのマーケティングの勝利です。

うぐぐぐぅ……。負けた!

コースでは3番アイアンも試打しています。

ロフトは19度、昔でいうと2番アイアンです。流石に立って見えますが、打ってみると高さが出て、ちゃんと飛んでいくんですよ。

帝王の言葉 第7話 ゴルフは、いつから陸上競技になったのか

前回は、メーカーとメディアが飛距離を商品として売り、それに合わせてゴルフの価値観まで変わっていった可能性を考えました。

今回は、そもそもゴルフとは、どのような競技だったのかを考えてみます。

ゴルフには、体操やフィギュアスケートのような採点競技とは大きく異なる特徴があります。

スイングが美しいか。

球筋が芸術的か。

難しいショットを打ったか。

それを審判が点数にする必要はありません。

狙った場所へボールを運び、最終的に何打でホールアウトしたか。

その結果だけで勝敗が決まります。

しかし、これはゴルフが単純な競技だという意味ではありません。

むしろゴルフは、審判の主観を使わずに、非常に多くの技術を評価できる競技でした。

飛距離。

方向性。

距離感。

弾道の高さ。

球筋の打ち分け。

風への対応。

傾斜への対応。

クラブ選択。

ミスを避ける判断。

そして、ボールを狙った場所へ止める能力。

それらをコースそのものが問い、最終的な打数として答えを出します。

コースが採点者だったのです。

正しい場所へティーショットを置けば、次のショットが打ちやすくなる。

間違った側へ打てば、木やバンカーによってピンを狙えなくなる。

飛距離を抑えて平らな場所へ置くのか。

多少の危険を承知で、さらに前へ出すのか。

選手の判断と技術が、次の課題を変えていきます。

つまりゴルフは、1打ごとに試験問題が変わる競技です。

しかも、その問題を作るのは選手自身です。

ティーショットをどこへ打ったかによって、次のショットの難易度が決まる。

セカンドショットをどこへ外したかによって、アプローチの難易度が決まる。

判断と結果が連続し、最後の打数へつながります。

これが、ゴルフという競技の大きな特徴だったはずです。

ところが、飛距離が常に利益へ変換されるようになると、この評価装置は単純化されます。

できるだけ遠くへ飛ばす。

残り距離を短くする。

短いクラブを持つ。

高い球でピンの近くへ止める。

この方法がほとんどのホールで正解になれば、選手が考える必要は少なくなります。

もちろん、遠くへ正確に飛ばすことも高度な技術です。

しかし、その能力が他の技術を大きく代替するようになると、ゴルフは多面的な競技ではなくなります。

飛距離があれば、長いクラブを使う技術を減らせる。

飛距離があれば、低い球を転がして止める技術を使わなくてもよい。

飛距離があれば、フェアウェイの細かな位置よりも、残り距離の短さを優先できる。

つまり、最大出力によって試験問題そのものを簡単にできるのです。

ここまで来ると、ゴルフは陸上競技に近づいていきます。

誰が最も速く走れるか。

誰が最も遠くへ投げられるか。

誰が最も高く跳べるか。

陸上競技は、身体能力を純粋に測るという意味で、非常に完成された競技です。

しかし、ゴルフは本来、それとは違いました。

身体能力だけでなく、判断、精度、距離管理、球筋、地形の利用を組み合わせる競技でした。

飛距離がない選手でも、別の能力によって勝つことができました。

サム・スニードほど飛ばなかったベン・ホーガンが、ボールコントロールによって勝つことができた。

ツアー屈指のロングヒッターではなかったコリー・ペイビンやジム・フューリクが、全米オープンを制することができた。

それは、当時のコースが、異なる能力を持つ選手に異なる勝ち方を残していたからです。

この違いは重要です。

飛距離のない選手にも勝つ道があるということは、飛距離の価値が低いという意味ではありません。

飛距離以外の能力にも、同じように勝敗を変える力があったということです。

しかし現在は、まず一定以上の飛距離を持っていなければ、ほかの技術を評価される段階まで進みにくくなっています。

高いコントロール技術を持っていても、長いクラブで硬いグリーンを狙わなければならない。

飛距離のある選手は、多少位置を外しても、短いクラブで同じグリーンを狙える。

同じホールをプレーしていても、実際には違う難易度の試験を受けています。

では、飛距離のない選手の技術が落ちたのでしょうか。

そうではないでしょう。

弾道計測器。

スイング解析。

クラブフィッティング。

コースデータ。

フィジカルトレーニング。

現代の選手は、過去よりも多くの情報と技術を持っています。

それでも飛距離のない選手が勝ちにくくなったのであれば、変わったのは選手ではありません。

競技が、どの能力を評価するかです。

本来のゴルフでは、コースが選手へ複数の問いを投げかけていました。

どこへ運ぶのか。

どの球筋を使うのか。

どこまで飛ばすのか。

どの場所からなら、次のボールを止められるのか。

しかし現在は、その多くが一つの問いへ集約されつつあります。

どれだけ前へ出せるのか。

これでは、ゴルフが持っていた精密な評価機能が失われます。

人の採点を必要とせず、コースそのものが多様な技術を評価する。

それがゴルフの優れたところでした。

ところが、飛距離だけが強く報われるコースでは、コースは採点者として十分に機能しません。

ゴルフが陸上競技に近づいたというのは、選手が筋力をつけたからではありません。

競技側が、最大出力を最も重要な評価項目にしてしまったからです。

戻すべきなのは、昔の飛距離ではありません。

飛距離のある選手にも、飛距離のない選手にも、それぞれ異なる方法で正解へたどり着けるコースです。

飛距離を使う。

位置を選ぶ。

角度を作る。

地面を使う。

球筋を変える。

それらの能力を、コースがもう一度平等に問い直す必要があります。

ゴルフは、誰が最も遠くへ飛ばせるかを測る競技ではありません。

誰が最も適切な方法で、ボールを目的地へ止められるかを測る競技です。

さらにゴルフでは、人間の身体が生み出した力を、クラブという長い道具を通して増幅し、ボールへ伝えます。

そのため、ほんのわずかなタイミングやフェース向きの狂いが、打ち出す方向、球筋、飛距離、着弾地点に大きな違いを生みます。

どれほど優れた選手でも、すべてのショットを完全に再現することはできません。

大切なのは、ミスを完全になくすことではありません。

起きた結果を受け入れ、そこから与えられた次の問題を工夫して解くことです。

そして可能であれば、目の前の一打を成功させるだけでなく、次に与えられる問題が少しでも簡単になる場所へボールを運ぶ。

ティーショットでは、次のショットを打ちやすい場所を選ぶ。

グリーンを外すなら、アプローチしやすい側へ外す。

ピンを直接狙えないなら、ボギーではなくパーを残せる場所へ運ぶ。

ゴルフでは、一打ごとの結果が、次の問題の難易度を変えていきます。

だからこそ、ゴルフは単なる動作の正確性を競うスポーツではありません。

不完全な結果を受け入れながら、判断と技術によって次の一打を組み立て直す競技です。

ここに紹介する動画も、そのことを考えるうえで参考になると思います。

次回は、このシリーズの出発点となったジャック・ニクラスの言葉へ戻ります。

帝王が本当に守ろうとしているものは、昔のゴルフなのでしょうか。

それとも、異なる技術を持つ選手が、それぞれの方法で勝つことのできるゴルフなのでしょうか。

シリーズの結論として考えてみます。

SCOTTSDALE TEC のドット

緊急投稿です。

以前の担当の営業さんとSCOTTSDALE TECについて、かなりいいパターだよと言っていたら。

私はそれに加えて、BSさんの限定ボールを使ってますからと聞かされ、気を失いそうにになりました。ドットが2つあるのでどちらを見たらいいのか悩みますとも付け加えてくれました。

どうも、フェースぎりぎりのところにドットがあるのかわかっていないようでしたのでマーケさんの代わりに説明しておきました。

ちょうどSCOTRSDALE TECのドットの位置は円の接線の接点になります。この時、フェースが正しく目標に向いているとします。つまりドットはボールの中心を通り、目標に完全に向いています。そのドットに集中して、ストローク中ドットが構えた位置にあるとして、その点でインパクトすると、必ずストロークパスがインサイドアウトであろうと、アウトサイドインであろうと、また、フェースが開いて閉じたとしても、インパクトのフェースの向きは必ず目標にスクエアです。

中学校で、円の中心を O、円周上の接点を P、その点での接線を とすると、

OP⊥l

ですと習ったでしょ。つまり、

接点へ引いた半径は、その点の接線に必ず垂直になる

という性質があるんだからと説明しました。

ストロークがどうであれ、目標に向かって打ち出されるんだよ説明しました。

そうしたら、彼は、ボールのドットを見ええるか見えない位置して目標の反対側に合わせればいいんですねと。

おおそうきたか!

一理あるので、それに関しては否定しませんでした。

私も以前はそうだったんですが、パターの動きを目で追う癖のある人はそれを直して試してくださいね。

見えないものを見る 第3話 ロフトが増えると、なぜ直進性が上がるのか

第2話では、クラブのフェース向きだけを見るのではなく、球体であるボールのどこへ接触したのかを考えました。

ボールの重心を原点に置き、左右方向をx軸、上下方向をz軸として考えると、同じフェース開度であっても、ロフトによってコンタクトポイントの位置は変わります。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。

一方、ボールウッドの実験の結果がそうであったように、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。

この関係を単純化した式で表すと、

となります。

  • (R):ボール半径
  • (L):ロフト
  • (F):フェース開度
  • (x):ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位

フェース開度 (F) が同じであっても、ロフト (L) が大きくなるほど、cos L は小さくなります。

したがって、ボール重心から見た左右方向のズレ (x) も小さくなります。

ここから、ロフトが大きいクラブほど、フェース向きの変化に対する左右方向の感度が下がる理由が見えてきます。

ロフトが増えると、フェースの向きが消えるわけではない

ここで誤解してはいけないのは、

ロフトが増えると、フェース向きの影響がなくなる

ということではありません。

フェースが右を向けば、右方向への影響は残ります。

左を向けば、左方向への影響も残ります。

ただし、その影響がボール重心から見た左右方向へ現れる割合が、小さくなるのです。

ロフトが大きくなると、フェースの向きによって生じる接触位置の変化は、左右方向だけではなく、上下方向にも分配されるようになります。

つまり、

ロフトが増えるほど、フェース向きの変化が左右方向へ集中しにくくなる

と考えられます。

これが、高ロフトのクラブほど直進性が高く見える一つの理由です。

ドライバーとウェッジでは、同じ2度でも意味が違う

たとえば、ドライバーとサンドウェッジのフェースが、それぞれ目標に対して2度右を向いていたとします。

クラブ側の測定値だけを見れば、どちらも同じ「2度オープン」です。

しかし、ボール側から見ると、同じ2度ではありません。

低ロフトのドライバーでは、フェース向きの変化がボール重心から見た左右方向の偏位として大きく現れます。

そのため、打ち出し方向も右へ変化しやすくなります。

一方、ロフトの大きいサンドウェッジでは、同じ2度のフェース開度でも、左右方向の偏位は小さくなります。

接触位置の変化は、左右よりも上下方向へ多く配分されます。

したがって、ドライバーとウェッジでは、

同じ2度のフェース開度でも、ボールにとっての意味は同じではない

ということになります。

測定器に表示される角度が同じでも、球体であるボールとの関係は変わるのです。

数字で比較してみる

フェースが5度開いていると仮定します。

ボール半径 (R) はすべて同じなので、左右方向の偏位を比較するためには、

の値を見れば十分です。

おおよその値は次のようになります。

ロフト 左右方向の偏位を示す係数
10度 0.0858
20度 0.0819
30度 0.0755
40度 0.0668
50度 0.0560
60度 0.0436

ロフト10度と60度を比べると、同じ5度のフェース開度でも、左右方向の偏位はほぼ半分になります。

フェースの開きが半分になったわけではありません。

クラブ側の角度は同じです。

しかし、ボール重心から見た左右方向への作用は、小さくなっています。

これが、ロフトによってフェース向きの影響率が変化する理由として考えられます。

高ロフトほど真っすぐ飛ぶ、という意味ではない

ただし、

ロフトが大きいクラブなら、必ず真っすぐ飛ぶ

という意味ではありません。

実際の弾道には、ほかにも多くの条件が関係します。

  • クラブパス
  • フェース上の打点
  • トウ・ヒール方向のズレ
  • ライ角
  • アタックアングル
  • ヘッド重心
  • ギア効果
  • 芝や水分の介在

これらが加われば、高ロフトのクラブでも左右へ飛び、曲がります。

ここでいう直進性とは、

同じフェース開閉量に対して、左右方向の出力変化が小さくなる

という意味です。

高ロフトになるほど、フェース向きに対する左右方向の感度が下がる。

その結果として、低ロフトのクラブよりも、左右方向への変化が小さく見えるのです。

なぜショートアイアンは方向が安定しやすいのか

一般に、ロングアイアンよりショートアイアンの方が、方向を合わせやすいと感じる人は多いでしょう。

これまでは、

  • シャフトが短いから
  • ヘッドスピードが遅いから
  • ロフトが大きいから
  • スイングが小さくなるから

と説明されてきました。

もちろん、それらも影響します。

しかし、ボール側から見ると、もう一つ理由があります。

ロフトが大きくなることで、同じフェース向きの誤差が、ボール重心から見た左右方向へ現れにくくなるからです。

つまり、ショートアイアンやウェッジは、単に扱いやすいのではなく、

球体であるボールに対して、左右方向の誤差が大きく伝わりにくい幾何学的な条件を持っている

と考えられます。

フェース向きは原因なのか、条件なのか

一般的な飛球理論では、ボールの打ち出し方向は、主にフェース向きによって決まると説明されます。

実用上、この説明は有効です。

しかし、今回のようにロフトによって影響率が変わることを考えると、フェース向きを単独の原因として扱うことには疑問が残ります。

もし、フェース向きそのものがボール方向を直接決めているなら、同じフェース角の変化は、ロフトが変わっても同じように作用するはずです。

しかし、実際にはそうなりません。

ロフトが変わることで、ボール球面上のコンタクトポイントが変わる。

ボール重心から見た左右方向の偏位が変わる。

その結果、ボールへ加わる力の方向と配分も変わる。

つまり、フェース向きは、

ボールの飛び方を単独で決める原因

というより、

ボール上の接触位置と力の方向を決める条件の一つ

と考えた方が、現象を説明しやすくなります。

直進性はクラブ側だけでは決まらない

クラブを正面から見れば、フェースが何度開いているかは測定できます。

しかし、ボール側から見れば重要なのは、

  • そのフェースがボールのどこへ接触したか
  • ボール重心からどの方向へずれていたか
  • どの方向へ力が加わったか

です。

低ロフトでは、フェース向きの変化が左右方向の偏位として大きく現れる。

高ロフトでは、その左右方向の偏位が小さくなり、上下方向への成分が大きくなる。

この構造を考えると、ロフトが増えるほど直進性が上がる理由は、

ロフトそのものがボールを真っすぐ飛ばすから

ではなく、

同じフェース向きの誤差が、ボール重心から見た左右方向へ伝わりにくくなるから

と説明できます。

見える角度と、見えない作用

弾道計測器には、フェース向きが2度開いていたと表示されます。

その数字は正しいのでしょう。

しかし、その2度がボールにどのように作用したかは、ロフトによって変わります。

見えているのは、クラブ側の2度です。

見えていないのは、その2度によって、

  • ボールのどこへ接触したのか
  • ボール重心からどれだけ左右へずれたのか
  • 力がどの方向へ配分されたのか

という、ボール側の変化です。

同じ数字でも、現象の意味は同じではありません。

知識というフィルターを通して見えない部分を考えると、表示された角度の向こう側にある構造が見えてきます。

次回は、アイアンの番手が変わると、ロフトだけでなく、アタックアングル、バンス、ボールの支持高さがどのように変化し、それによって打点がどう移動するのかを考えていきます。

帝王の言葉 第6話 飛距離を売ったのは誰なのか

前作より5ヤード飛ぶ」

「ボール初速が上がる」

「300ヤードを超えた」

こうした表現は分かりやすく、数字で比較できます。

新しいクラブを買う理由にもなります。

一方で、

正しい場所へ運びやすい。

縦距離が安定する。

左右のミスを限定できる。

球筋を管理しやすい。

次のショットを打ちやすい場所へ置ける。

といった性能は、一言では伝わりません。

そのためメーカーは、クラブの価値を飛距離で説明するようになりました。

そしてゴルフメディアも、その価値観を繰り返し伝えてきました。

何ヤード飛んだのか。

どの番手で打ったのか。

ボール初速はどれくらいだったのか。

パー5で2オンしたのか。

こうした情報は、テレビでも記事でも扱いやすいものです。

しかし本来、ゴルフで重要なのは、何ヤード飛んだかだけではありません。

なぜそのクラブを選んだのか。

どちら側を狙ったのか。

どのミスを消したのか。

次のショットをどこから打とうとしたのか。

そこまで説明しなければ、良いショットの意味は伝わりません。

遠くへ飛んだショットは、一目で価値が分かります。

しかし、20ヤード抑えて正しい場所へ置いたショットは、解説されなければ地味に見えます。

その結果、観客もゴルファーも、

飛ばす選手は優れている。

短いクラブを持つ選手は有利である。

狭いコースは質が低い。

ドライバーを振れないコースは面白くない。

と考えるようになりました。

ここで、商業と競技の主従が逆転します。

本来は、優れたゴルフをどう見せ、どう伝えるかを考えるべきでした。

ところが実際には、売りやすいゴルフに合わせて、競技の方が変えられていきました。

飛距離が映えるコースを使う。

大観衆の前でドライバーを振らせる。

パー5の2オンや短いパー4のワンオンを見せ場にする。

その結果、飛距離のある選手が上位に来る。

そして、その結果を見て、

やはり飛距離が最も重要だ。

という評価がさらに強くなる。

メーカーが飛距離を売る。

メディアが飛距離を賞賛する。

PGAツアーが飛距離の映える舞台を用意する。

そこでロングヒッターが勝つ。

その勝利を使って、また飛距離が商品として売られる。

この循環が、現代ゴルフの価値観を作ってきたのではないでしょうか。

問題は、ロングヒッターが勝つことではありません。

ロングヒッターにも、高い技術があります。

問題は、飛距離以外の技術が見えなくなったことです。

例えばベン・ホーガンは、サム・スニードほど飛ぶ選手ではありませんでした。

それでもホーガンは、飛距離を追うのではなく、ボールをコントロールする道を選びました。

ドローで距離を求めるゴルフから、フェードで曲がり幅と停止地点を管理するゴルフへ変えた後、メジャーで大きな成功を収めています。

これは、当時のゴルフが飛距離だけを評価していなかったことを示しています。

飛距離を少し失っても、方向、球筋、着弾地点、停止位置を管理できれば、勝つことができた。

ジャック・ニクラスも、当時としては飛距離のある選手でした。

しかし、彼が帝王になった理由は、単に遠くへ飛ばしたからではありません。

飛距離を含め、ボールの高さ、曲がり、距離、着弾地点をコントロールできたからです。

彼らは、パワーを捨てたのではありません。

パワーをコントロールの中に置いたのです。

日本でも、似た問題を見ることができます。

宮里藍選手が米国へ主戦場を移した頃、スポンサーやメディアは、飛距離を強く強調しました。

彼女の本来の強みは、正確性、距離感、コースマネジメント、パッティングを含めた総合的なゲームでした。

しかし、米国で戦うためには飛距離が必要だという評価が強くなれば、選手自身も、その尺度で戦おうとしてしまう可能性があります。

相手の長所と同じ土俵で戦おうとすれば、自分が勝ってきた方法を見失うことがあります。

宮里選手が後に世界ランキング1位まで上がったのは、飛距離で他の選手を圧倒したからではありません。

自分のリズム、正確性、ショートゲーム、パッティングを中心に、再び自分のゴルフを作り上げたからでしょう。

商業は、選手の弱点を分かりやすく示します。

「もっと飛ばせ」

そう言えば、クラブもボールも売れます。

しかし、その言葉を選手やゴルファーが受け入れすぎると、本来持っていた勝ち方まで失うことがあります。

商業そのものが悪いわけではありません。

メーカーも、メディアも、プロツアーも、商業によって成り立っています。

問題は、商業が競技を支えるのではなく、競技の価値を決めるようになったことです。

ゴルフの一部である飛距離を、ゴルフ全体として売った。

その結果、ゴルファーは「何が上手いのか」を誤解するようになりました。

遠くへ飛ばしたショットが、必ずしも良いショットではありません。

必要な距離を、必要な方向へ運び、次のボールを止める条件を作ったショットこそ、価値のあるショットです。

戻すべきなのは、ボールの飛距離だけではありません。

メーカー、メディア、ツアーが、何を価値として伝えるのか。

その基準そのものです。

次回は、ゴルフが本来どのように選手の技術を評価してきた競技なのか。

そして、なぜ現在のゴルフが、総合技術を問う競技から、最大出力を競う陸上競技のようになってしまったのかを考えます。

見えないものを見る 第2話 ボールのどこに当たったのか

第1話では、人間は見えているものを中心に理論を作りやすい、という話をしました。

かつて人類には、太陽や星が動いているように見えました。

地球が動いていることは見えませんでした。

だから、地球を中心に宇宙を考える天動説は、当時の人々にとって自然な説明でした。

ゴルフでも、弾道計測器の登場によって、以前は見えなかったクラブの動きが見えるようになりました。

  • クラブパス。
  • フェース向き。
  • アタックアングル。
  • ダイナミックロフト。

これらの数値によって、インパクト直前のクラブの状態は、以前よりはるかに詳しく説明できるようになりました。 “見えないものを見る 第2話 ボールのどこに当たったのか” の続きを読む

帝王の言葉 第5話 飛距離を無条件の利益にしないコース設定

前回は、ハーバータウン・ゴルフリンクスとオリンピッククラブを例に、開催コースが変われば、同じ選手でも飛距離の価値が変わることを考えました。

飛距離のある選手が勝つこと自体に、問題があるわけではありません。

問題は、遠くへ飛ばすことに、ほとんど代償がないことです。

現在の多くのツアー競技では、ティーショットを遠くへ飛ばすほど残り距離が短くなります。

残り距離が短くなれば、ロフトの大きなクラブを持つことができます。

短いクラブなら、高い球を打ちやすく、スピン量と落下角も確保しやすくなります。

その結果、ピンの近くへボールを止めることも容易になります。

つまり、

飛ばす。
残り距離を短くする。
短いクラブを持つ。
高い球でピンの近くへ止める。

という流れが、ほぼ一直線につながっています。

これでは、飛距離が単なる一つの技術ではなく、次のショットを簡単にするための万能の能力になってしまいます。

では、飛距離を抑えるためにフェアウェイを狭くし、ラフを深くすればよいのでしょうか。

それだけでは不十分です。

ロングヒッターは、飛距離のない選手よりも短いクラブでグリーンを狙えます。

飛ばない選手がフェアウェイから5番アイアンを持つ場面で、飛距離のある選手はラフから8番アイアンや9番アイアンを持てるかもしれません。

ラフへ入れた罰があっても、短いクラブと大きな出力によって、その不利を取り戻すことができます。

単にラフを深くするだけでは、飛距離の優位性は消えません。

むしろ、飛距離のない選手の方が、長いクラブで硬いグリーンへボールを止めなければならず、難しい課題を与えられることになります。

必要なのは、飛距離を直接罰することではありません。

飛ばした先から、ピンの周辺へボールを止めにくくすることです。

例えば、ティーショットが300ヤードを超えると、フェアウェイを突き抜けてセミラフまで転がるようにします。

残り距離は短くなります。

しかし、セミラフからはボールとフェースの間に芝が入り、スピン量や打ち出し条件が不安定になります。

フライヤーが出れば、短いクラブでもグリーン上へ正確に止めることはできません。

さらに、飛ばした先のフェアウェイをグリーンに対して悪い角度にすれば、短いクラブを持つ利益は小さくなります。

手前のバンカーを越えなければならない。

グリーンの奥行きを使えない。

着弾地点からピンまでの停止距離がない。

グリーン面が奥へ下っている。

こうした条件が重なれば、残り距離が短くても、ピンの周辺へボールを止めることは難しくなります。

一方、280ヤード地点の正しい場所へティーショットを置けば、残り距離は長くなります。

しかし、フェアウェイからクリーンに打てる。

グリーンの奥行きを使える。

手前の広い着弾地点を使える。

受け傾斜へボールを落とせる。

そうなれば、長いクラブを持っていても、戦略によってボールを止めることができます。

ここで、飛距離に初めて交換条件が生まれます。

300ヤードを超えて飛ばせば、残り距離は短くなる。

しかし、ボールを止めるためのライと角度を失う。

少し距離を抑えれば、残り距離は長くなる。

しかし、ボールを止められる場所と角度を得る。

どちらを選ぶのかは、ピン位置、風、地面の硬さ、選手の持ち球によって変わります。

毎回同じ答えにはなりません。

この「答えが一つではない」ということが、ゴルフの戦略です。

飛距離のある選手は、それでも大きな武器を持っています。

正しい方向へ300ヤードを運ぶことができれば、大きな利益を得られます。

しかし、方向や着弾地点を間違えれば、その飛距離が次打を難しくする。

飛距離が武器であると同時に、使い方を問われる能力になります。

スタジアムコースが作った、もう一つの問題

ここで考えなければならないのが、PGAツアーのスタジアムコースです。

スタジアムコースは、多くの観客を収容し、トップ選手のプレーを間近で見せることを目的に造られています。

観客が立てる広い場所。

選手を追いかけやすい動線。

テレビカメラを配置しやすい空間。

グリーン周辺を囲む観戦席。

興行を成立させるためには、非常に合理的な構造です。

しかし、観客を入れやすいことと、競技として優れたターゲットを作ることは、同じではありません。

ホールの両側へ多くの観客を配置すると、本来なら林や深いラフへ入るはずだったボールが、観客や仮設物によって止められることがあります。

ラフは観客に踏み固められます。

大きく曲げても、ボールはすぐに発見されます。

観客用の通路や仮設物の近くでは、ルール上の救済を受けられる場合もあります。

つまり、ホールの両側にいる観客が、ミスショットを受け止めるセーフティーネットになるのです。

フェアウェイが30ヤードしかなくても、その両側に観客エリアが広がっていれば、選手が実際に使える幅は、それ以上に広くなります。

コース図では狭く見えても、競技上の有効幅は観客席まで広がってしまいます。

これでは、フェアウェイを狭く設定しても、本来の効果は得られません。

また、スタジアム型の会場では、観客へ派手なショットを見せるために、ドライバーを思い切り振れるホールが好まれます。

広い着弾地点。

短いパー4のワンオン。

パー5の2オン。

大量のバーディーやイーグル。

こうした場面は、テレビ中継でも分かりやすく、観客も盛り上がります。

しかし、それが繰り返されると、コースはターゲットを示す場所ではなく、飛距離を展示する舞台になってしまいます。

観客を入れるための広さが、そのまま選手の許容範囲になっていることが問題なのです。

観客のために、コースを簡単にする必要はない

では、観客を減らさなければならないのでしょうか。

そうではありません。

現在には、ドローン、高倍率カメラ、弾道追尾、大型ビジョン、スマートフォンへの映像配信があります。

観客をホールの両側へ並べなくても、選手のプレーを届けることはできます。

例えば観客を、

ティーイングエリア周辺。

グリーン周辺。

複数ホールを見渡せる丘。

大型ビジョンを備えた集中観戦エリア。

安全に管理できる特定のホール。

へ集約します。

グリーン周辺の観客は、大型ビジョンでティーショットやセカンドショットを確認できます。

ドローン映像なら、選手がどこを狙い、ボールがどのルートを飛び、どの位置に止まったのかを上空から見せられます。

弾道追尾とコース図を組み合わせれば、

なぜドライバーを持たなかったのか。

なぜフェアウェイの左側を狙ったのか。

なぜ20ヤード短く打ったのか。

次打でどの着弾地点を使おうとしているのか。

まで観客へ伝えられます。

これは、単に従来の観戦を映像で代替するだけではありません。

飛距離以外の技術を、観客が理解するための装置にもなります。

観客をコースの両側へ並べ、選手の近くへ連れていくのではありません。

コース全体と選手の戦略を、映像によって観客へ届けるのです。

こうすれば、観客数を維持しながら、ラフや林、傾斜といった本来のペナルティを守ることができます。

スタジアムコースでも、敷地全体は広く使いながら、選手が狙うべき有効なターゲットを狭く設定できます。

観客のための空間と、競技のための空間を分ければよいのです。

フェアウェイの中にも、正解と不正解を作る

現代のコース設定には、もう一つ問題があります。

それは、ティーショットの落下地点だけでなく、フェアウェイのどこから打っても、グリーンへの条件があまり変わらないことです。

フェアウェイの左側でも右側でも、短いクラブを持てばピンを狙える。

これでは、ティーショットの方向性は、フェアウェイに入ったかどうかだけで評価されます。

本来は、フェアウェイの中にも正しい場所と間違った場所が必要です。

右側のピンに対して、左側のフェアウェイからならグリーンの奥行きを使える。

右側からは、バンカーや急な傾斜を越えなければならない。

翌日は左側にピンを切り、正しいティーショットの位置も反対側に変える。

ピン位置とティーショットのターゲットを連動させれば、同じホールでも毎日違う攻略が生まれます。

選手は、単にフェアウェイへ打つのではありません。

次のショットから逆算して、フェアウェイ内のどこへ打つのかを決める必要があります。

そして、ボールを止めるために使えるスペースを設計することも重要です。

グリーンを硬くするだけでは、すべての選手が止めにくくなるだけです。

正しい場所からなら、グリーンの手前へ着弾させ、傾斜とランを使ってピンへ寄せられる。

間違った場所からは、その着弾地点がバンカーやマウンドによって隠される。

こうすれば、ボールを止める能力は、クラブのロフトだけでなく、ティーショットの位置と戦略によって決まります。

ゴルフは、ボールを空中から直接ピンの近くへ止める競技だけではありません。

地面へ着弾させ、傾斜と速度を使い、最終的な停止地点を作る競技でもあります。

ところが現代のツアーでは、短いクラブで高い球を打ち、直接グリーンへ止める方法が優先されます。

飛距離によって短いクラブを持てる選手ほど、地形や角度を考える必要がなくなります。

それでは、コースが持つ立体的な意味が失われてしまいます。

飛距離問題の解決策は、すべての選手を同じ距離まで戻すことではありません。

飛距離が、常に同じ利益を生む構造を変えることです。

飛ばした方がよいホールがあってもよい。

距離を抑えた方がよいホールがあってもよい。

飛ばすなら、方向と着弾地点まで正確でなければならない。

抑えるなら、長いクラブでボールを止める技術が必要になる。

異なる選手が、異なる方法で同じターゲットへ到達できる。

その多様性こそが、ゴルフを単なる飛距離競争ではなく、技術と判断を問う競技にします。

必要なのは、ロングヒッターを排除するコースではありません。

飛距離だけでは正解にたどり着けないコースです。

そして現代の映像技術があれば、観客動員のために、そのターゲットを広げる必要もありません。

観客を多く入れることと、選手に簡単なコースを提供することは、まったく別の問題なのです。

次回は、飛距離を商品として売ってきたメーカーとメディアが、ゴルファーの価値観をどのように変えたのかを考えます。

見えないものを見る 第1話 コペルニクスは、なぜ中心を入れ替えたのか

コペルニクス的発想の転換とは、既存の理論に新しい説明を付け加えることではありません。

自分が立っている場所そのものを、別の位置から見直すことです。

かつて人類は、地球を中心に太陽や星が動いていると考えていました。

なぜ、人類は間違えたのでしょうか。

当時の人々の観察力が低かったからではありません。

地球が動いていることが、見えなかったからです。

地面に立っていても、地球が自転している感覚はありません。

一方、太陽は東から昇り、西へ沈んで見えます。

夜空の星も、時間とともに空を移動していきます。

見えているものだけを素直に受け取れば、空が動き、地球は止まっていると考える方が自然です。

しかし、コペルニクスは、見えている天体の動きに説明を付け足したのではありません。

地球を中心から外し、地球そのものが動いていると考えました。

現象を見る中心を入れ替えたのです。

人間は、網膜に映った画像を、そのまま脳内へ転写しているわけではありません。

目に入った情報を、知識や経験、身体感覚と組み合わせて、意味のある世界へ再構成しています。

その証拠に、現代人が夜空の星や太陽の動きを見ても、それをそのまま天体が地球の周囲を回っている証拠だとは考えません。

網膜に映る景色は、昔の人々とほとんど変わらないはずです。

変わったのは、画像を処理するための知識です。 “見えないものを見る 第1話 コペルニクスは、なぜ中心を入れ替えたのか” の続きを読む

帝王の言葉 第4話 飛距離が通用しないコースは、何を試しているのか

前回は、全米オープンの歴代優勝者を振り返り、2016年以降、飛距離のある選手が優勝者の中心になっていることを考えました。

では、本当に現代のゴルフでは、飛距離がなければ勝てないのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

同じ選手が、同じクラブと同じボールを使っていても、開催コースが変われば、飛距離の価値は大きく変わるからです。

その代表が、ハーバータウン・ゴルフリンクスです。

ハーバータウンは、PGAツアーの中では決して長いコースではありません。

フェアウェイも広大ではなく、木の枝がショットの通り道を限定し、小さなグリーンへ入れる角度が重視されます。

ここでは、ティーショットを遠くへ飛ばせば、それだけで有利になるわけではありません。

フェアウェイに置いたとしても、左右を間違えれば、次のショットを木が遮ります。

グリーンが見えていても、進入角度が悪ければ、ピンの近くへボールを止めることができません。

つまり、ハーバータウンにおけるティーショットのターゲットは、単なるフェアウェイではありません。

次のショットを打つための、フェアウェイ内の特定の場所です。

飛距離がある選手でも、必要以上に前へ出せば、木の枝や悪い角度によって次打を難しくします。

反対に、飛距離が平均的でも、正しい側へ置くことができれば、グリーンの奥行きを使ってボールを止めることができます。

ここでは、

「どれだけ前へ行ったか」

よりも、

「次のショットをどこから打てるか」

の方が重要になります。

オリンピッククラブのレイクコースも、同じことを教えてくれます。

このコースで行われた全米オープンでは、必ずしもロングヒッターばかりが優勝してきたわけではありません。

ビリー・キャスパー。
スコット・シンプソン。
リー・ジャンゼン。
ウェブ・シンプソン。

いずれも、圧倒的な飛距離だけで試合を支配した選手ではありません。

オリンピッククラブのレイクコースは、サンフランシスコ南西部、太平洋岸に近いレイク・マーセッドを見下ろす丘陵地に造られています。

各ホールは起伏のある斜面を横切るように配置され、フェアウェイも地形に沿って左右へ傾いています。

さらに、フェアウェイを囲む大きな木々がショットのルートを限定し、ボールを通さなければならない狭い空間を作ります。

全米オープンでは、フェアウェイやグリーンがコンクリートのように硬く仕上げられることがあります。

小さなグリーンに直接ボールを落としても止まらず、グリーンのはるか手前へ着弾させ、地面を転がして止めなければならないホールもあります。

そのため、単に残り距離を短くするだけでは、ピンを狙うことができません。

どこから打つのか。

どの方向へ打ち出すのか。

どこへ着弾させ、どれだけ転がすのか。

そのすべてを逆算する必要があります。

ティーショットを曲げれば、単にラフへ入るだけではありません。

次のターゲットへ向かう射線そのものを失います。

深いラフなら、パワーのある選手が短いクラブで振り抜くことができるかもしれません。

しかし、木によって打つ方向を失えば、筋力では解決できません。

また、木がなくても、グリーンへボールを止めるために必要な着弾スペースを使えなければ、同じようにピンを狙うことができなくなります。

ここに、ターゲットゴルフの本質があります。

単にフェアウェイを狭くし、ラフを深くすればよいわけではありません。

正しい場所と、間違った場所の差を作ることが重要です。

フェアウェイの右側からなら、グリーンの奥行きを使える。

左側からは、バンカー越えになる。

少し距離を抑えれば、平らなライが残る。

飛ばしすぎれば、下り傾斜から打たなければならない。

このような構造があれば、選手は毎回ドライバーを最大出力で振ることができません。

飛距離を使うのか。

位置を優先するのか。

次のショットを、どの角度から打つのか。

それを考えること自体が競技になります。

狭いコースは、しばしば質が低いコースのように扱われます。

「ドライバーを振れない」

「プロには短すぎる」

「現代のツアーには向かない」

そのように評価されることもあります。

しかし、これはコースの質を見ているのではありません。

飛距離を発揮しやすいかどうかだけで、コースを評価しているのです。

本来、狭いコースほど設計の質が問われます。

ただ狭いだけなら、窮屈なコースです。

しかし、

どこへ打つべきかが明確である。

飛ばすルートと安全なルートが用意されている。

正しい位置からは次打が打ちやすい。

間違った位置からは、ピンへ止めにくい。

こうした意味があるなら、狭さは選手の技術と判断を測るための装置になります。

ハーバータウンやオリンピッククラブで、飛距離だけの選手が上位を独占しないのは、飛距離を不当に罰しているからではありません。

飛距離が、正しい場所へ運ばれたときにだけ価値を持つように設計されているからです。

ロングヒッターが勝てないわけではありません。

飛距離があり、なおかつ正しい位置へ運び、そこからボールを止められる選手なら勝つことができます。

今年のハーバータウンでも、十分な飛距離を持つスコッティ・シェフラーがプレーオフまで進みました。

しかし優勝したのは、ハーバータウンを過去にも制しているマット・フィッツパトリックでした。

これは、飛距離のある選手が排除されるという意味ではありません。

飛距離だけでは勝てず、位置、角度、距離管理、ボールコントロールまで揃えた選手が評価されるということです。

つまり、飛距離は絶対的な正解ではなく、総合技術の一つに戻されます。

ここから分かることがあります。

現代の飛距離問題は、クラブやボールだけの問題ではありません。

同じ用具を使っていても、コースが明確なターゲットを示せば、飛距離の支配力は小さくなります。

反対に、広いフェアウェイと柔らかいグリーンを用意し、飛ばした先から短いクラブで止められるようにすれば、飛距離は絶対的な価値になります。

選手が変わったのではありません。

コースが、何を良いショットとして評価するかが変わったのです。

ハーバータウンやオリンピッククラブが示しているのは、飛距離のある選手を排除する方法ではありません。

遠くへ飛ばす能力を、方向性、位置、角度、距離管理と同じ土俵へ戻す方法です。

ゴルフは、遠くへ飛ばした者が勝つ競技ではありません。

必要な距離を、必要な方向へ運び、次のボールを止める条件を作った者が勝つ競技です。

ニクラスは、すでに約7500ヤードまで延長されたミュアフィールド・ビレッジを、これ以上長くするには、周辺の道路まで買収しなければならないと語っています。

これは、単なる冗談ではないでしょう。

選手の飛距離が伸びるたびにコースを延長する方法には、物理的な限界があります。

だからこそ、次に考えなければならないのは、コースをどこまで長くするかではありません。

飛距離が、どのような条件で利益になり、どのような条件では不利益になるのか。

次回は、飛距離を無条件の利益にしないコース設定について考えます。