ウインダム・クラークはなぜ全米オープンで強いのか 第一話 全米オープンはなぜパッティングが難しいのか

ウインダム・クラークの優勝の余韻を借りて、店長が、なぜクラーク推しだったのかを追記いたします。

店長がクラークに注目していた理由は、実は、SCOTTSDALE TEC ALLYBLUE ONSET CBだけではなく、単に飛ぶからでも、体が大きいからでもありません。

もちろん、彼のショット力は大きな武器です。
しかし、全米オープンという大会で本当に勝敗を分けるのは、ただ飛ばす力ではありません。

歴史ある名門コースで行われることの多い全米オープンでは、フェアウェイを外せばラフに捕まり、グリーンを外せば簡単には寄らず、グリーンに乗っても安心できません。

速く、硬く、傾斜の強いグリーンでは、強く打つパッティングよりも、弱く、正確に、ボールへエネルギーを与える技術が求められます。

ここで重要になるのが、クラークのパター選びです。

彼が使ってきたのは、いわゆる普通の長さ・普通の重さのパターではありません。
中尺で、重量感があり、ストローク中の余計な操作を抑えやすいパターです。

店長がクラークを推していた理由は、まさにここにあります。

全米オープンのようなコースでは、豪快なショットだけでは勝ち切れません。
最後に必要になるのは、弱いタッチでもフェースを安定させ、狙った方向へボールを正しく転がす能力です。

クラークのパター選びには、その大会特性に対する合理性が見えます。

つまり、クラークはただ調子が良かったから勝ったのではなく、全米オープンで勝つために必要な要素を、道具の面でも持っていた選手だったのではないか。

今回はその視点から、

ウインダム・クラークはなぜ全米オープンで強いのか

を考えてみたいと思います。

第一話は、全米オープンはなぜパッティングが難しいのか

です。

全米オープンという大会は、他のメジャーとは少し性格が違います。

もちろん、マスターズにも独特の難しさがあります。
全英オープンには風とリンクスの難しさがあります。
PGA選手権には、現代的な総合力を問う難しさがあります。

しかし、全米オープンの難しさは、もっと我慢比べに近いものです。

簡単にバーディーを取らせない。
少しでもズレると、すぐにボギーになる。
よいショットを打ったつもりでも、次の一打が楽にならない。

そういう大会です。

そして、その難しさを作っている大きな要素が、開催コースにあります。

全米オープンは、歴史ある名門コースで行われることが多い大会です。

Oakmont。
Shinnecock Hills。
Winged Foot。
Merion。
Pinehurst No.2。
Pebble Beach。
Los Angeles Country Club。

名前を並べるだけでも、アメリカゴルフの歴史そのものと言ってよいコースが多くあります。

これらのコースは、ただ距離が長いだけではありません。

むしろ、現代の大型造成コースのように、広いグリーンでボールを受け止める設計とは違います。

グリーン面が小さい。
傾斜が強い。
グリーン周りの逃げ場が少ない。
ピンの近くに外したつもりが、実は一番難しい場所に止まっている。

そういう設計が多いのです。

つまり全米オープンでは、ショットの精度だけでは足りません。

フェアウェイに置く。
グリーンに乗せる。
外したら寄せる。
そして、最後にパットを沈める。

この一つ一つの工程で、少しずつ選手にストレスがかかります。

特に厄介なのが、グリーン上です。

全米オープンのグリーンは、速く、硬く、簡単には止まりません。

しかも、ただ速いだけではありません。

速いグリーンなら、弱く打てばよい。
そう考えるのは簡単です。

しかし、実際にはそう単純ではありません。

弱く打つということは、ボールに与えるエネルギーが小さいということです。

エネルギーが小さいということは、フェースの向き、打点、ストロークの緩み、わずかな手首の動きが、そのまま結果に出やすいということです。

強く打つパットなら、多少のズレを勢いでごまかせることがあります。

しかし、速いグリーンで弱く打つパットは、ごまかしが効きません。

フェースがほんの少し開けば、ボールは右へ出ます。
ほんの少し閉じれば、左へ出ます。
インパクトで緩めば、届きません。
少し押し出せば、返しのパットが残ります。

つまり、全米オープンのパッティングで難しいのは、単に距離感を合わせることではありません。

弱いタッチの中で、ボールの進行方向へ正しくエネルギーを与えること。

これが難しいのです。

店長はここが、全米オープンのパッティングの本質だと思っています。

マスターズのパッティングは、大きな傾斜をどう読むか、どのラインに乗せるか、どこで止めるかという距離感の勝負という面が強くなります。

一方、全米オープンでは、もっと小さなズレが命取りになります。

入れにいったパットが少し強ければ、返しが怖い。
寄せにいったパットが少し弱ければ、次もまだ神経を使う。
カップの近くに止まっても、そこからが簡単ではない。

だから選手は、常に「どこまで攻めるか」と「どこで止めるか」の間で揺さぶられます。

この状況で必要になるのは、強く打つ勇気だけではありません。

むしろ必要なのは、弱く打ってもフェースを安定させる能力です。

小さなストロークでも、ボールへきちんとエネルギーを伝える能力です。

そして、狙った方向へ、余計な横ブレを入れずに転がす能力です。

ここに、ウインダム・クラークのパター選びを見る意味があります。

クラークは、全米オープンを力でねじ伏せた選手というより、全米オープンで必要になる「我慢のパッティング」に対して、非常に合理的な道具を選んでいた選手と見ることができます。

長めで、重く、ストローク中に余計な操作をしにくいパター。

これは、速いグリーンで強く打つための道具ではありません。

むしろ、弱く打つための道具です。

弱いタッチでもヘッドが暴れにくい。
弱いタッチでもフェースの向きが変わりにくい。
弱いタッチでも、ボールへ一定のエネルギーを与えやすい。

全米オープンのような大会では、この差が非常に大きくなります。

パターは、入れるための道具です。

しかし、全米オープンではもう一つの役割があります。

それは、外し方を小さくすることです。

大きくオーバーしない。
大きくショートしない。
ラインから大きく外さない。
次のパットを難しくしない。

この「外し方を小さくする」という考え方は、全米オープンでは非常に重要です。

そして、クラークの中尺・重量級パターには、その思想が見えます。

だから店長は、クラークの強さを単なる勢いや調子の良さだけでは見ていません。

全米オープンという大会が要求するパッティング。
その要求に対して、彼の道具選びが非常に合っていた。

ここに、クラーク推しだった理由があります。

次回は、クラークのパターそのものに少し踏み込みます。

2023年のOdyssey Jailbird。
そして、SCOTTSDALE TEC ALLYBLUE ONSET CB。

メーカーは違っても、そこに共通する思想は何か。

第二話では、

ウインダム・クラークはなぜ中尺・重量級パターを選んだのか

を考えてみたいと思います。

iPINGとco-pilotを繋げてもらいました

今日の試打会でiPINGとco-pilotを接続してもらいました。

co-pilotはバージョンアップされており、えっ何これ?と言う感じになってました。

新しいバージョンのiPINGにはco-pilotと接続というボタンが追加され、表示されたコードをco-pilotに設定すると、iPINGの結果が即座にpcに反映されます。これは通信機能があるiphoneにipingを入れてなければならないらしく、インストールしました。

パターフィッティングが終わると、このようなレポートがメールで送られてきます。

先ずは総合点数、その後各項目の詳細が送られてきます。

 

 

最後のページは、パッティングに対する統計です。

PUTTING STATS

パッティング統計

FOUR FEET

4フィート

The most important distance for amateur golfers to practice putting
(Due to large variation in skill + high number of putts from 4 feet)

アマチュアゴルファーがパッティング練習で最も重視すべき距離。
理由は、技術差が大きく、なおかつ4フィートからのパット数が多いため。

85%

of a putt’s start direction is determined by face angle at impact
パットの打ち出し方向の85%は、インパクト時のフェース角によって決まる。

WHY YOU MISS PUTTS

なぜパットを外すのか

  • Green Reading 41%
    グリーン読み:41%
  • Direction Control 38%
    方向性のコントロール:38%
  • Speed Control 18%
    距離感・スピードコントロール:18%
  • Target Selection 3%
    狙い所の選択:3%

15 FEET OR LESS

15フィート以内

Amateurs are 3x more likely to leave a putt short from this distance than a PGA Tour player
アマチュアは、この距離からのパットをショートする確率が、PGAツアープレーヤーの3倍高い。

FROM 5 FEET

5フィートから

PGA Tour pros make 27% more of their putts than 90-golfers
PGAツアープロは、90台で回るゴルファーよりも、5フィートのパット成功率が27%高い。

  • PGA TOUR 77%
    PGAツアー:77%
  • 90-GOLFER 50%
    90台ゴルファー:50%

TARGETING STRATEGY

ターゲット戦略/狙い方の戦略

7 FOOTERS: An uphill 7-footer should finish around one foot past the hole, regardless of slope, while a severely downhill 7-footer should finish nearly 3 feet past the hole.
7フィートのパットでは、上りのパットは傾斜に関係なく、カップを約1フィート過ぎる強さが目安。
一方、強い下りの7フィートでは、カップを約3フィート近く過ぎる強さが目安となる。

AT 33 FEET

33フィートでは

PGA Tour players are more likely to 3-putt than 1-putt
PGAツアープレーヤーでも、33フィートでは1パットで入れるより、3パットする可能性の方が高い。

AROUND 40%

約40%

of your strokes take place on the green
ゴルフの総打数の約40%は、グリーン上で行われる。

1 IN 10

10回に1回

putts from 40 feet end in a three-putt on the PGA TOUR
PGAツアーでも、40フィートからのパットは10回に1回が3パットになる。

13 FEET

13フィート

PGA Tour pros average one made putt per round from 13 feet or longer
PGAツアープロは、1ラウンドあたり平均して、13フィート以上のパットを1回決めている。

REFERENCES

参考文献

Broadie, Mark, and Dongwook Shin.
“A Golf Putting Model for Optimal Targeting Strategy and Attribution Analysis.”
2016年1月18日、1–26ページ。

Mark Broadie 著
『Every Shot Counts: Using the Revolutionary Strokes Gained Approach to Improve Your Golf Performance and Strategy』
Penguin Group, 2014年。

Putting: PGA TOUR Stats.
PGA Tour.
PGAツアー公式パッティング統計。

Amateurs: All “non-professional” golfers
アマチュア:すべての「非プロ」ゴルファー。

スタジオではまだ準備が完了するまでもう少しお待ちください

 

 

PING PUTTER PRO ウインダム・クラークが全米オープンを制しました。

難コース、シネコック・ヒルズを制したのは

PING PUTTER PRO

ウインダム・クラーク

です。これで全米オープン2勝目我慢大会に強いプロですね。

でもですね、朝起きて、スコアを崩していたのでどうしようかと思いましたよ。周りの人にどれだけ優勝予想したか、昨日の試打会でもです。嘘つきになるかならないかの緊張感を味わいました。 “PING PUTTER PRO ウインダム・クラークが全米オープンを制しました。” の続きを読む

見えないものを見る 第10話 クラブを見るのか、ボールを見るのか

これまで、ゴルフのインパクトをクラブ側ではなく、ボール側から見直してきました。

第1話では、コペルニクス的発想の転換について考えました。

人間は、見えているものを中心に理論を作ります。

かつては太陽や星が動いて見えたため、地球が宇宙の中心だと考えられていました。

現代のゴルフでは、弾道計測器によって、

  • クラブパス
  • フェース向き
  • アタックアングル
  • ダイナミックロフト
  • ヘッドスピード

が見えるようになりました。

これは大きな進歩です。

しかし、見えるようになったクラブの動きが、インパクト現象の中心だとは限りません。

実際に力を受け取り、速度、方向、回転を得て飛び出していくのは、ボールだからです。 “見えないものを見る 第10話 クラブを見るのか、ボールを見るのか” の続きを読む

見えないものを見る 第9話 スピンロフト45度説は、何を説明しているのか

前回は、スピンを単純な摩擦だけで考えるのではなく、

フェースとボールが接触中に結合し、ボールカバーへ回転方向の力積が伝わった結果

として考えました。

クラブ側には、

  • フェース面
  • ロフト
  • 打点
  • バンス
  • ヘッドの進入方向

があります。

ボール側には、

  • カバー材
  • カバー厚
  • 内部構造
  • 変形量
  • 復元性

があります。

さらに、その間には、

  • 水分
  • 接触圧力
  • 接触位置

があります。

スピンは、これらが一つの接触系として働いた結果です。

“見えないものを見る 第9話 スピンロフト45度説は、何を説明しているのか” の続きを読む

ウインダム・クラークのパター変遷を見ると、PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CBの意味が見えてくる

USオープン2日目も、ウインダム・クラークが首位をキープしています。

ここまでくると、最近のクラークのパターの変遷を調べておかなければなりません。

現時点でのクラークのパター変遷は、次のように整理できます。

時期 パター 位置づけ
2023年 全米オープン優勝時 Odyssey O-Works Versa Jailbird系 38〜39インチ級のカウンターバランス系。Rickie Fowler型の流れ
2024年〜2025年頃 Odyssey Jailbird系を中心に試行錯誤 成功した形をベースにしつつ、安定感を探る時期
2025年後半〜2026年初め L.A.B. DF3、Toulon Le Mans、Scotty Cameron Tour T-11などをテスト ゼロトルク系・大型マレット系・別ブランドを広く試す
2026年3月 THE PLAYERS頃 Bettinardi Antidote SB1 Whisper Rockのプロショップで見つけた通常長さ系のゼロトルクパター
2026年3月 Houston Open PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset まず標準長さに近い仕様で投入
2026年4月 RBC Heritage以降 PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB 38インチ、17インチグリップ、重ヘッドのカウンターバランス仕様
2026年 CJ Cup Byron Nelson PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB SG: Putting +12.573でPGAツアー記録、優勝
2026年 全米オープン2日目 PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CB 2日目終了時点で首位キープ

こうして見ると、クラークはかなりパターを入れ替えています。

そのクラークが、使用期間3か月にも満たない段階で、しかもパターだけの契約をPINGと結んだ。

これはかなり驚きです。 “ウインダム・クラークのパター変遷を見ると、PING Scottsdale TEC Ally Blue Onset CBの意味が見えてくる” の続きを読む

見えないものを見る 第8話 スピンは、本当に摩擦だけで生まれるのか

前回は、フェースを開く目的を、単にロフトを増やしてボールを高く上げるためではなく、

ライに対して、ボールとクラブのコンタクト位置を合わせるため

と考えました。

フェースを開くと、

  • リーディングエッジの高さ
  • 実効バンス
  • ソールの接地点
  • ヘッドの沈み込み
  • フェース上の打点
  • ボール側のコンタクトポイント

が同時に変わります。

つまり、フェースを開くことは、クラブの見た目を変える操作ではありません。

ボールへどこから、どの方向へ、どのように力を伝えるかを変える操作です。

では、その接触によって生まれるスピンとは、いったい何なのでしょうか。

一般には、

スピンは、クラブフェースとボールの摩擦によって生まれる

と説明されます。

もちろん、摩擦は重要です。

しかし、摩擦だけで十分に説明できるのでしょうか。

今回は、フェースとボールが接触する、極めて短い時間の中で何が起きているのかを、ボール側から考えてみます。

超スローでは、離れてから回り始めたように見える

インパクトの超スロー映像を見ると、興味深い現象があります。

クラブフェースに押しつぶされている間、ボールは大きく変形しています。

そして、フェースから離れた直後に、急に回転がはっきり見えるようになります。

映像だけを見ると、

ボールはフェースから離れてから回り始めた

ようにも見えます。

しかし、実際にはそうではありません。

ボールは接触中に、すでに回転のための角運動量を受け取っています。

ただし、その瞬間のボールは、完全な球体ではありません。

大きく押しつぶされ、表面も内部も変形しています。

そのため、接触中の動きを、硬い球がそのまま回転しているようには見ることができません。

フェースから離れ、ボールが元の形へ戻る過程で、内部に蓄えられていた変形と回転方向のエネルギーが、一つの回転運動として現れます。

つまり、

スピンは離れてから突然生まれたのではなく、接触中に与えられた角運動量が、離脱後に見える形になった

と考えるべきです。

フェースはボールをこすっているのか

「摩擦でスピンがかかる」と聞くと、クラブフェースがボール表面を長くこすっているように感じます。

しかし、実際の接触時間は極めて短いものです。

クラブフェースがボールを数センチにわたってこすり続けているわけではありません。

インパクトでは、

  • ボールを押しつぶす力
  • ボール表面をずらす力
  • ボールカバーを引き伸ばす力

が同時に働きます。

フェースがボールへ垂直に押し込む力は、主にボールスピードを作ります。

一方、フェース面に沿ってボール表面をずらそうとする力は、ボールカバーをせん断方向へ変形させます。

このせん断方向の力が、ボールへ回転を与える重要な要素です。

したがって、スピンは、

フェースがボールをこすった結果

というより、

ボールを圧縮しながら、表面と内部を回転方向へ変形させた結果

と考えた方が、実際の現象に近いように思えます。

ボールに与えられるのは、力ではなく力積である

インパクトは、一瞬の出来事です。

そのため、ボールへ加わる力の大きさだけを見るのでは不十分です。

重要なのは、

どの方向の力が、どれだけの時間加わったか

です。

力を時間で積み重ねたものを、力積と呼びます。

目標方向へ大きな力積が加われば、ボールスピードが生まれます。

回転方向へ力積が加われば、角運動量が生まれます。

つまり、スピン量を決めるのは、摩擦係数の大きさだけではありません。

  • 接触圧力
  • 接触時間
  • 力の方向
  • 力が作用した位置
  • ボールカバーの変形量
  • 変形を保持できるかどうか

が関係します。

同じ摩擦係数を持つ素材であっても、接触圧力が小さければ、大きな回転方向の力積を伝えることはできません。

反対に、ボールがフェースへ強く押し付けられ、表面が食いつけば、短い接触時間でも大きな角運動量を与えることができます。

摩擦はスピンの原因なのか

ここで、摩擦の位置づけを考え直してみます。

摩擦がまったくなければ、フェース面に沿う方向の力をボールへ伝えることはできません。

その意味で、摩擦は不可欠です。

しかし、

摩擦が大きければ、それだけスピンが増える

と単純には言えません。

摩擦は、ボールへ回転方向の力を伝えるための結合条件です。

ボールがフェース上を完全に滑ってしまえば、十分な回転方向の力積は伝わりません。

一方、ボール表面がフェースへ食いつきすぎても、変形によるエネルギー損失が大きくなる可能性があります。

必要なのは、

押し付けられた状態で、適度に変形し、回転方向の力を保持すること

です。

したがって、摩擦はスピンそのものではありません。

フェースからボールへ、回転方向の力積を伝えるための接続機構

と考える方が適切です。

ボールカバーは何をしているのか

ここで重要になるのが、ボールカバーの材質です。

ゴルフボールの表面は、硬い金属ではありません。

変形するポリマー素材です。

特にツアー系ボールで使われる柔らかいウレタンカバーは、インパクト時に変形しやすくなっています。

カバーが適度に柔らかければ、

  • フェースとの実接触面積が広がる
  • 溝や微細な凹凸へ入り込む
  • 表面がフェースへ食いつく
  • 接線方向へ伸びる
  • せん断方向の力を保持する

ことができます。

つまり、柔らかいカバーは、単に「摩擦が大きい」のではありません。

フェースから与えられた回転方向の力を、一時的な変形として受け止める

ことができます。

そして、フェースから離れるとき、その変形が元へ戻ろうとします。

その復元とともに、ボール全体へ回転が現れます。

このように考えると、ボールカバーは単なる表面材ではありません。

回転方向の力積を受け取り、蓄え、角運動量へ変換する部品

と見ることができます。

柔らかければ柔らかいほどよいのか

ただし、カバーが柔らかければ柔らかいほど、必ずスピンが増えるわけではありません。

柔らかすぎれば、

  • 変形が大きくなりすぎる
  • 力が内部で逃げる
  • 復元が遅れる
  • エネルギー損失が増える
  • ボールスピードが下がる
  • 表面が傷つきやすくなる

可能性があります。

必要なのは、単なる柔らかさではありません。

  • どれだけ伸びるか
  • どれだけせん断力を保持できるか
  • どの速度で元へ戻るか
  • どれだけの圧力に耐えられるか

が重要です。

つまり、スピン性能を決めるのは、硬度だけではありません。

カバーの厚み、弾性、粘り、復元性、その内側にある層の硬さまで関係します。

柔らかい表面の下に、適度に硬い層があると、カバーはフェースと内層の間に挟まれます。

表面は変形できる。

しかし、奥へ逃げすぎない。

そのため、フェースへ強く押し付けられた状態で、接線方向の力を受け止めやすくなります。

これは、柔らかいタイヤ表面を、内部の構造が支えていることに少し似ています。

フェースの溝は、スピンを直接作っているのか

ウェッジの溝は、スピンを増やすためのものだと説明されます。

しかし、乾いた状態でボールとフェースが直接接触できるなら、フェース表面そのものでも大きなスピンは生まれます。

溝が特に重要になるのは、

  • 水分
  • 汚れ

がフェースとボールの間に入ったときです。

溝は、それらを逃がす空間を作ります。

その結果、ボールカバーとフェース面が直接接触できる面積を確保します。

つまり、溝の役割は、

ボールを爪で引っかけて回すこと

ではなく、

フェースとカバーの結合を邪魔する異物を排出すること

と考える方が自然です。

接触がクリーンになれば、ボールカバーはフェースへ押し付けられ、せん断方向の力を受け取りやすくなります。

スピンを作るのは溝単独ではありません。

  • フェース面
  • ボールカバー
  • 接触圧力
  • 打点
  • ライ

が一つの接触系として働きます。

打点によってスピンが変わる理由

同じクラブ、同じロフト、同じアタックアングルでも、フェース上の打点が変わればスピン量は変わります。

フェース上部へ当たれば、

  • 接触圧力
  • ヘッドの回転
  • ボールカバーの変形
  • 芝の介在量

が変わります。

一般に高打点では、スピンが減りやすくなります。

一方、リーディングエッジ直上の適正な低打点では、

  • ボールを十分に圧縮できる
  • フェースとの直接接触を確保しやすい
  • カバーへ接線方向の力を伝えやすい
  • 芝や水分の介在を抑えやすい

という条件が作られます。

ただし、低ければ低いほどよいわけではありません。

リーディングエッジそのものへ当たれば、トップやブレードショットに近づきます。

必要なのは、

フェース下部でありながら、ボールを十分に面で受けられる位置

です。

フェースを開き、バンスでヘッドを支える操作は、この適正な低打点を再現するためのものとも考えられます。

バンスがフェースをボールへ押し付ける

以前、ジャンボ尾崎さんが、アプローチにおいて、

バンスがクラブフェースをボールへ押し付ける

という趣旨の表現をしたことがあったと記憶しています。

この表現は、感覚的なものに見えます。

しかし、ここまでの考察とつなげると、非常に本質的です。

バンスが地面や芝から反力を受けると、

  • ヘッドが地面へ潜りすぎない
  • フェースの通過高さが安定する
  • ヘッド姿勢が急激に変わりにくい
  • ボールとの接触圧力が抜けにくい

という状態を作れます。

つまり、バンスは単にダフリを防ぐのではありません。

フェースとボールの接触を支持し、カバーへ回転方向の力積を伝えやすくする

役割を持つ可能性があります。

「フェースを押し付ける」という表現は、接触時間を何倍にも延ばすという意味ではないでしょう。

そうではなく、

接触中に、フェース法線方向の圧力が急に抜けるのを防ぐ

という意味に近いと考えられます。

ボールをフェースへ押し付ける力が保たれれば、接線方向の力も伝えやすくなります。

その結果、カバーのせん断変形が大きくなり、角運動量も増えます。

クラブ側とボール側が結合して初めてスピンになる

ここまで考えると、スピンはクラブ単独の性能ではないことが分かります。

クラブ側には、

  • フェース面
  • ロフト
  • 打点
  • バンス
  • ヘッドの進入方向

があります。

ボール側には、

  • カバー材
  • カバー厚
  • 内部構造
  • 変形量
  • 復元性
  • 表面状態

があります。

さらに、その間には、

  • 水分
  • 接触圧力
  • 接触位置

があります。

これらが結合したとき、初めてスピンが生まれます。

したがって、

このウェッジはスピンがかかる

という表現も、

このボールはスピンがかかる

という表現も、単独では不完全です。

正確には、

このクラブと、このボールと、このライと、この打点の組み合わせでは、回転方向の力積が効率よく伝わる

ということです。

スピンロフトだけでは見えないもの

弾道計測では、スピンロフトがスピン量を考える重要な指標として使われます。

クラブの進行方向とフェース姿勢の差が大きくなれば、フェース面に沿う相対運動も大きくなります。

そのため、スピンロフトとスピン量には強い関係があります。

しかし、スピンロフトが同じでも、

  • 打点
  • カバー材
  • 接触圧力
  • 芝や水分
  • バンスの働き
  • フェースとの滑り方

が変われば、スピン量は変わります。

つまり、スピンロフトは、

クラブ側から見た入力条件

を表しています。

しかし、ボールがその入力をどれだけ角運動量として受け取ったかまでは示していません。

ここに、クラブ側から見える数値と、ボール側で起きている現象の間があります。

摩擦から、結合へ

これまで、スピンは摩擦によって生まれると説明されてきました。

その説明は間違いではありません。

しかし、摩擦という一語だけでは、現象の一部しか見えていません。

より正確に表現するなら、

スピンは、フェースとボールが接触中に結合し、ボールカバーへ回転方向の力積が伝えられた結果として生まれる

となります。

摩擦は、その結合を成立させる要素です。

カバーは、その力積を受け取る要素です。

バンスは、その接触を支える要素です。

打点は、その力がどこへ作用するかを決める要素です。

スピンは、それらすべてが組み合わされた結果です。

見える回転と、見えない変形

弾道計測器には、スピン量が表示されます。

超スロー映像では、ボールが回転して飛び出す様子が見えます。

しかし、その回転が生まれるまでに、

  • カバーがどれだけ伸びたのか
  • どこへ圧力が集中したのか
  • どの部分が滑り、どの部分が食いついたのか
  • どの方向へ力積が伝わったのか
  • 離脱時にどのように復元したのか

は見えていません。

見えるのは、回転という結果です。

見えないのは、その回転を作った接触中の変形です。

しかし、ボール側から考えることで、見えていない過程を推測することはできます。

次回は、これまでスピンを説明する中心的な考え方として使われてきた、スピンロフトについて改めて考えます。

スピンロフト45度付近でスピンが最大になるという説明は、何を表しているのでしょうか。

そして、そのモデルには、ボール側のコンタクトポイント、カバー変形、バンスによる支持が、どこまで含まれているのでしょうか。

ウインダム・クラークがPINGとSCOTTSDALE TECパター契約

昨日のXに、PING GOLF(@PingTour)から次のような投稿がありました。

Signed and gaming a Scottsdale TEC. We’re excited to announce that Wyndham Clark has signed an agreement to exclusively play a Scottsdale TEC putter. Since switching to an Ally Blue Onset, Wyndham set a Strokes Gained: Putting record for a PGA Tour event (+12.573) and notched his fourth PGA Tour title. #PlayYourBest

どうやら、ウインダム・クラークがSCOTTSDALE TECパターの使用契約をPINGと交わしたようです。

営業さんに確認してもらったところ、契約については事実との返事がありました。
ただし、PINGで過去にこのような契約があったのかについては、現在も確認中です。 “ウインダム・クラークがPINGとSCOTTSDALE TECパター契約” の続きを読む

見えないものを見る 第7話 フェースを開く本当の目的は何か

前回は、番手が変わると、

  • ロフト
  • クラブ長
  • アタックアングル
  • バンス
  • ソール形状

が一つの組み合わせとして働き、適正なコンタクト状態を作っている可能性を考えました。

ロングアイアンでは、ロフトが小さく、アタックアングルは比較的浅く、バンスも小さい。

ショートアイアンやウェッジでは、ロフトが大きく、アタックアングルは深くなり、バンスも大きくなる。

これらは、それぞれ別の数字として存在しているのではありません。

ボールとクラブがどの高さで、どの位置に、どの姿勢で接触するか。

その接触状態を整えるために、一つの系として組み合わされている可能性があります。

では、アプローチでフェースを開く操作は、この中でどのような意味を持つのでしょうか。

一般には、

フェースを開くのは、ロフトを増やしてボールを高く上げるため

と説明されます。

もちろん、フェースを開けばロフトは増えます。

しかし、変わるのはロフトだけではありません。

フェースを開くと、

  • リーディングエッジの向き
  • リーディングエッジの高さ
  • 実効バンス
  • ソールの接地点
  • ヘッドの沈み込み
  • フェース上の打点
  • ボール側のコンタクトポイント

まで、すべてが同時に変化します。

そう考えると、フェースを開く操作を、単なるロフト調整として説明するだけでは足りないように思えます。

今回は、

フェースを開く本当の目的は、ボールを高く上げることではなく、ライに対して適正なコンタクトポイントを作ることではないか

という視点から考えていきます。

ライが変われば、ボールの高さも変わる

ゴルフボールは、いつも同じ高さにあるわけではありません。

練習マットでは、ボールの底はほぼ一定の高さにあります。

しかし、実際のコースでは、

  • 芝が薄い
  • 芝の上に少し浮いている
  • 柔らかい地面に沈んでいる
  • ラフの上に浮いている
  • 芝の間に深く沈んでいる

など、ライによってボール中心の高さが変わります。

さらに、ボールの高さだけでなく、クラブヘッドが地面へどの程度入るかも変わります。

 

硬い地面では、ソールは沈みにくい。

柔らかい芝では、ヘッドは深く入りやすい。

ラフでは、ヘッドとボールの間に芝が入りやすい。

つまり、実際の打点を決めるのは、

ボールがどれだけ高く支持されているか

だけではありません。

クラブヘッドがどれだけ地面へ入り、どの高さを通過したか

との相対関係によって決まります。

同じクラブ、同じスイング、同じアタックアングルでも、ライが変われば、ボールとフェースの位置関係は変わります。

スクエアフェースでは合わないライがある

ボールが適度に浮いたライを考えます。

フェースをスクエアにしたまま、通常どおりヘッドを地面へ入れると、クラブヘッドはボールに対して低い位置を通過する可能性があります。

すると、フェース上ではボールが高い位置へ当たりやすくなります。

反対に、ボールが沈んだライでは、同じようにソールを使うと、リーディングエッジがボールの下へ入りにくくなることがあります。

つまり、ライが変わると、

ボールの高さと、フェースが通る高さが一致しなくなる

ことがあります。

ここでフェースを開く操作が必要になります。

フェースを開くと、クラブの接地の仕方が変わります。

ソールのどこが地面へ触れるのか。

バンスがどの方向へ働くのか。

リーディングエッジがどの高さを通るのか。

それらを変えることで、ライに対するヘッドの通過高さを調整できるからです。

フェースを開くと、リーディングエッジの高さが変わる

ウェッジをスクエアに置いた状態からフェースを開くと、一般にリーディングエッジは地面から高くなります。

同時に、ソール後方やヒール側が接地しやすくなり、実効バンスも増えます。

このとき、ヘッドは地面へ深く潜りにくくなります。

つまり、フェースを開くことで、

  • リーディングエッジが上がる
  • ソールの接地点が変わる
  • バンスによる支持が強くなる
  • ヘッドの通過位置が高くなる

という変化が起こります。

これを単に「ロフトが増えた」とだけ説明すると、重要な部分が抜け落ちます。

フェースを開くことは、

クラブヘッドが地面に対して、どの高さを通るかを調整する操作

でもあるのです。

ボールが浮いたライでは、なぜ開くのか

ボールが芝の上に少し浮いている場合、ボール中心は通常より高い位置にあります。

このとき、スクエアフェースのままヘッドを低く入れると、フェース上部でボールを受けやすくなります。

フェース上部での接触は、

  • ボール初速の低下
  • スピン量の低下
  • 打ち出しの不安定化
  • 芝の介在

につながる可能性があります。

そこでフェースを開きます。

フェースを開くことで、バンスが地面からヘッドを支え、ヘッドの沈み込みを抑えます。

同時に、リーディングエッジの通過高さが上がります。

その結果、浮いたボールに対して、フェース下部の適正な位置を合わせやすくなります。

つまり、ボールが浮いたライでフェースを開くのは、

高い球を打ちたいから

という以前に、

高い位置にあるボールへ、クラブの接触位置を合わせるため

と考えることができます。

球が高く上がるのは、その操作に伴ってロフトが増えた結果でもあります。

ボールが沈んだライでは、開きすぎてはいけない

反対に、ボールが芝の中へ沈んでいる場合を考えます。

このときボールは低い位置にあります。

フェースを大きく開くと、

  • リーディングエッジが高くなる
  • バンスが強く働く
  • ヘッドが地面へ入りにくくなる

ため、ボールの下へクラブを届かせにくくなることがあります。

そのため、沈んだライでは、

  • フェースを開きすぎない
  • リーディングエッジを低く使う
  • バンスを減らす
  • より深いアタックアングルを使う

といった対応が必要になります。

つまり、フェースを開くことが常に正解なのではありません。

ライに対して、

ボールの高さとクラブの通過高さを一致させる

ことが目的です。

フェース開度は、そのための調整手段の一つです。

フェースを開くと、ボール側のコンタクトポイントも変わる

フェースを開けば、フェース面の向きが変わります。

ボールを球体として考えると、フェース開度は経度を変えます。

同時に、ロフトが増えることで、コンタクトポイントはより下側の緯度へ移ります。

つまり、フェースを開くと、

  • 左右方向の位置
  • 上下方向の位置

の両方が変化します。

ここで重要なのは、フェース開度が大きくなっても、ロフトが増えることで、左右方向の実距離は必ずしも大きくならないことです。

以前考えたように、球面上では南極に近づくほど、同じ経度差でも左右方向の距離は小さくなります。

したがって、フェースを開く操作は、

フェースを右へ向ける操作

であると同時に、

コンタクトポイントをボール下部へ移し、左右方向への作用腕を小さくする操作

とも考えられます。

高ロフトのアプローチでフェースを大きく開いても、想像するほど右へ飛び出さないことがあるのは、この構造と関係している可能性があります。

リーディングエッジそのものを当てるのか

ここで「リーディングエッジをボールへ合わせる」という表現には注意が必要です。

リーディングエッジそのものがボールへ衝突すれば、トップやブレードショットに近づきます。

理想は、エッジそのものを当てることではありません。

リーディングエッジ直上のフェース下部を、ボールの適正な位置へ合わせる

ことです。

ウェッジで強いスピンがかかるとき、フェース中央よりもやや下部、下から数本目の溝付近で接触していることがあります。

そこでは、

  • ボールを十分に圧縮できる
  • フェース面との接触を保てる
  • 芝や水分の介在を抑えやすい
  • ボールカバーへ接線方向の力を伝えやすい

という条件が作られます。

フェースを開く操作は、この低い適正打点へ、ヘッドの通過位置を合わせる役割を持つ可能性があります。

バンスがヘッドを支える

フェースを開くと、実効バンスが大きくなります。

バンスは地面から反力を受け、ヘッドが深く潜りすぎるのを防ぎます。

その結果、

  • フェースの通過高さが安定する
  • リーディングエッジが急激に下がらない
  • ヘッド姿勢が大きく変化しにくい
  • ボールとの接触位置が揃いやすい

という状態を作れます。

つまり、バンスは単にダフリを防ぐのではありません。

フェース下部の適正な打点を、ボールへ通すためにヘッドを支持する

機能を持っていると考えられます。

この見方をすると、フェースを開くこととバンスを使うことは、別々の技術ではありません。

フェースを開くことでバンスの働き方を変え、バンスによってクラブの通過高さを調整し、ボールとのコンタクトポイントを合わせる。

一連の操作として理解できます。

フェースを開くのは、ロフトを増やすためなのか

ここまで考えると、従来の説明に一つの問いが生まれます。

フェースを開くからロフトが増え、ボールが高く上がる。

これは結果として正しい。

しかし、プレーヤーが本当に行っていることは、

ロフトを増やすこと

なのでしょうか。

それとも、

ライに対して、クラブヘッドの通過高さ、バンスの接地、フェース下部の打点を調整すること

なのでしょうか。

もし後者だとすれば、ロフトの増加は主目的ではありません。

適正なコンタクト位置を作るためにフェースを開いた結果、ロフトも増えているという順序になります。

これは、見えているクラブ側の変化と、見えていないボール側の目的を入れ替えて考えることです。

見えているのは、フェースが開いたことです。

見えていないのは、その操作によって、ボールとクラブの接触位置が整えられたことです。

フェースを開けば、スピンが増えるのか

一般には、フェースを開くとロフトが増え、スピンが増えると説明されます。

しかし、実際にはフェースを開けば、必ずスピンが増えるわけではありません。

開きすぎれば、

  • ボールがフェース上を滑る
  • 接触圧力が不足する
  • ボールスピードが落ちる
  • 打点が高くなる
  • 芝や水分が介在する

ことで、スピンが減ることもあります。

したがって、スピンを増やすのはフェース開度そのものではありません。

フェースを開くことで、

  • 適正な低い打点へ合わせる
  • バンスでヘッドを支持する
  • ボールとフェースをクリーンに接触させる
  • カバーへ十分な圧力とせん断を与える

という条件が作られたとき、スピン効率が高まると考える方が自然です。

つまり、

フェースを開くことがスピンを作るのではない。
フェースを開くことで、スピンを作りやすい接触状態を作っている。

ということです。

ロフト中心の説明から、コンタクト中心の説明へ

フェースを開くという動作をクラブ側から見れば、

  • フェース向きが変わる
  • ロフトが増える
  • バンスが増える

と説明できます。

しかし、ボール側から見れば、

  • コンタクトポイントが移る
  • クラブの通過高さが変わる
  • 接触圧力が変わる
  • カバーの変形方向が変わる
  • 力積の作用位置が変わる

という現象が起きています。

どちらも同じインパクトを見ています。

ただし、見ている中心が違います。

クラブ中心に見れば、フェースを開いてロフトを増やした。

ボール中心に見れば、ライに対して適正な接触位置を作った。

どちらがプレーヤーの目的をより正確に表しているのでしょうか。

見えるフェース開度と、見えない接触の調整

現在の弾道計測器では、フェースが何度開いていたかを測ることができます。

しかし、その開度によって、

  • リーディングエッジが何ミリ上がったか
  • ソールのどこが地面へ接触したか
  • ヘッドがどれだけ沈み込んだか
  • ボールのどこへ接触したか
  • フェースのどの高さでボールを受けたか

までを、常に正確に表示できるわけではありません。

見えているのはフェース開度です。

見えていないのは、その開度を使って何を調整したかです。

しかし、ライ、バンス、打点、ボールの変形を合わせて考えれば、フェースを開く目的が少し違って見えてきます。

フェースを開くのは、単に球を高く上げるためではない。

ボールの高さに対して、クラブのコンタクト位置を合わせるため

ではないでしょうか。

次回は、その接触によってスピンがどのように生まれるのかを考えます。

スピンは、本当に摩擦だけで説明できるのでしょうか。

フェースとボールが接触する短い時間の中で、ボールカバーはどのように変形し、どの方向の力積を受け取り、離脱後の回転へ変えているのでしょうか。

見えないものを見る 第6話 番手が変わると、なぜアタックアングルとバンスも変わるのか

前回は、ダウンブローになることで、ボールへ力を加える方向と実効的な作用位置が変わり、方向性が安定する可能性を考えました。

プロがグリーンを狙う場面では、最大飛距離を求めたフルショットよりも、右手首の角度を保ち、適正なダウンブローでラインを出すショットが多く見られます。

その理由は、単にスピンを増やすためではありません。

ボールへ力を加える位置と方向を揃え、左右方向と縦距離の両方を安定させるためではないか。

それが前回までの考察でした。

では、クラブの番手が変わると、なぜアタックアングルも変わるのでしょうか。

ロングアイアンでは比較的浅く入り、ショートアイアンやウェッジでは、より深いダウンブローになる傾向があります。

同時に、クラブのロフトは増え、バンスも大きくなっていきます。

これは偶然なのでしょうか。

今回は、ロフト、アタックアングル、バンスの関係を、ボールとの接触から考えてみます。

円の接線という中学校の数学

まず、中学校で習う円の基本性質を思い出します。

円の中心から接点へ引いた半径は、その接点における接線と必ず垂直になります。

円の中心を O、接点を P、接線を l とすれば、

OP丄 l

です。

これは、ゴルフボールとクラブフェースの関係を考えるうえで、非常に重要な性質です。

ゴルフボールを完全な球体、クラブフェースを平面として考えると、最初に接触する瞬間には、

  • クラブフェースはボール球面に対する接平面
  • ボール中心から接触点へ向かう半径は、フェース面に垂直
  • その半径方向がフェースの法線方向

になります。

つまり、クラブフェースの向きが決まれば、球面上の幾何学的なコンタクトポイントも決まります。

フェース開度が経度を決め、ロフトが緯度を決めるという前回までの説明は、この接線の性質を土台にしています。

ロフトが変われば、ボール側の接触位置も変わる

ロフトの小さいクラブでは、フェースは比較的立っています。

そのため、ボール中心から接点へ向かう半径は、地面に対して比較的水平に近くなります。

地球に例えれば、コンタクトポイントは赤道に近い位置です。

一方、ロフトが大きくなると、フェースは上を向きます。

フェース面に垂直な半径も下向きに傾くため、ボール側のコンタクトポイントは、より下側へ移ります。

地球に例えれば、南極に近づいていくことになります。

したがって、

ロフトが増えるほど、クラブフェースはボールの下側へ接触する

という関係が生まれます。

これは、ロフトがボールを高く上げるという結果だけではなく、ボール球面上のどこへ接触するかを決めているということです。

ボール側の接触点と、フェース側の打点は別である

ここで、二つの打点を分ける必要があります。

一つは、ボール球面上のどこへ接触したかという、ボール側のコンタクトポイントです。

もう一つは、クラブフェースのどの高さでボールを受けたかという、フェース側の打点です。

この二つは関連しますが、同じものではありません。

同じロフトのクラブでも、

  • ヘッドが高い位置を通過した
  • ヘッドが深く地面へ入った
  • リーディングエッジが浮いた
  • バンスが地面に強く接触した

という違いによって、フェース上の打点は変わります。

したがって、ロフトが大きいから必ずフェース下部へ当たるとは限りません。

フェース側の打点を決めるには、クラブヘッドがどの高さを通過し、地面からどのような反力を受けたかまで考える必要があります。

番手が短くなるほど、アタックアングルは深くなる

一般に、ロングアイアンでは比較的浅いダウンブローになります。

ショートアイアンやウェッジになるほど、アタックアングルは深くなる傾向があります。

しかし、プロが番手ごとにまったく別の打ち方をしているわけではありません。

番手が短くなると、

  • シャフトが短くなる
  • ボール位置が中央寄りになる
  • スイング円の最下点に対するボール位置が変わる
  • ロフトが大きくなる

ため、同じスイング構造の中でも、インパクト時の進入角は自然に深くなります。

つまり、番手別のアタックアングルは、

番手ごとに意識して打ち込んだ結果

というより、

クラブ長とボール位置が変化した結果

として生まれている部分が大きいと考えられます。

ロフトが増えるのに、アタックアングルも深くなる

ここで、一見すると矛盾する関係が現れます。

ロフトが大きくなると、ボール側のコンタクトポイントは下へ移ります。

それに加えて、アタックアングルも深くなれば、クラブヘッドはさらに下方向へ進みます。

そのままなら、ショートアイアンやウェッジでは、

  • リーディングエッジが地面へ深く刺さる
  • フェース下部すぎる位置でボールを受ける
  • ヘッドが急減速する

ように見えます。

しかし、実際にはそうならないように、もう一つの構造が用意されています。

それがバンスです。

バンスは何をしているのか

バンスとは、リーディングエッジよりもソール後方が低く配置されている構造です。

一般には、

バンスはダフリを防ぐもの

と説明されます。

これは間違いではありません。

しかし、ダフリを防ぐという説明だけでは、バンスの役割を十分に表していません。

バンスが地面や芝へ接触すると、地面から反力を受けます。

その反力によって、

  • ヘッドが地面へ潜りすぎるのを防ぐ
  • リーディングエッジの通過高さを保つ
  • フェース姿勢を安定させる
  • ヘッドの急激な減速を抑える

ことができます。

つまり、バンスは、

ヘッドを跳ねさせるためのもの

ではなく、

ヘッドの侵入深さと通過高さを管理する支持機構

と考えることができます。

アタックアングルとバンスは反対方向に働く

ダウンブローが深くなるほど、クラブヘッドは地面へ深く入ろうとします。

一方、バンスが大きくなるほど、ソールは地面から強い反力を受けやすくなり、ヘッドの潜り込みを抑えます。

つまり、

  • アタックアングルはヘッドを下へ向かわせる
  • バンスはヘッドを地面から支える

という、反対方向の作用を持っています。

この二つが適切に組み合わされれば、

ダウンブローで入っても、ヘッドは必要以上に潜らず、適正な高さを通過する

ことができます。

番手が短くなるほどアタックアングルが深くなり、同時にバンスも大きくなる傾向があるのは、両者が一つの組み合わせとして働いているからではないでしょうか。

数字が完全に相殺されるわけではない

ここで注意したいのは、

アタックアングルが5度なら、バンスも5度あれば相殺される

という単純な話ではないことです。

実際のソールと地面の関係には、

  • シャフトの傾き
  • ダイナミックロフト
  • ソール幅
  • ソールの丸み
  • リーディングエッジの形状
  • 地面の硬さ
  • 芝の密度
  • ヘッドスピード

が影響します。

バンス角は、一つの静的な設計値です。

一方、インパクトではクラブ姿勢と地面条件によって、実際に働く実効バンスが変わります。

したがって、アタックアングルとバンスは、数値として単純に引き算するものではありません。

それでも、

深い進入に対して、バンスが地面からヘッドを支持する

という基本的な役割は変わりません。

番手ごとの組み合わせ

ロングアイアンは、

  • ロフトが小さい
  • クラブが長い
  • アタックアングルが浅い
  • バンスが比較的小さい

という組み合わせです。

フェースが立っているため、ボール側のコンタクトポイントは赤道に近くなります。

アタックアングルも浅いため、大きなバンスによる支持を必要としません。

一方、ショートアイアンやウェッジは、

  • ロフトが大きい
  • クラブが短い
  • アタックアングルが深い
  • バンスが大きい

という組み合わせです。

フェースはボールの下側へ接触します。

クラブヘッドも深い角度で地面へ向かいます。

そこでバンスが地面からヘッドを支え、リーディングエッジの通過高さを整えます。

このように見ると、番手ごとの設計は、

ロフト、長さ、アタックアングル、バンスが別々に存在している

のではなく、

適正なコンタクト状態を作るために、一つの系として組み合わされている

ことが分かります。

芝の上ではボールも動いている

さらに、実際のゴルフでは、ボールは完全に地面へ接しているとは限りません。

フェアウェイの芝は、ボールを数ミリ持ち上げています。

薄いライでは地面に近く、芝の上に浮いたライでは、ボール中心はより高い位置にあります。

一方、クラブヘッドも芝や地面へ入ります。

したがって、フェース上の打点を決めるのは、

  • ボールが地面からどれだけ高く支持されているか
  • クラブヘッドが地面へどれだけ入るか

の差です。

ボールが高く浮いていても、ヘッドが同じだけ深く入れば、打点は大きく変わりません。

しかし、バンスによってヘッドの沈み込みが抑えられれば、フェース上の打点は高くなります。

反対に、硬い地面でバンスが強く反発すれば、リーディングエッジが浮き、ボール下部を薄く捉える可能性もあります。

つまり、ライが変わると、

ボールの高さとヘッドの通過高さの関係

が変わります。

適正な打点を揃えるための設計

クラブ設計者が番手ごとに変えているのは、ロフトと長さだけではありません。

  • バンス
  • ソール幅
  • ソールの丸み
  • リーディングエッジ形状
  • ヘッド重心
  • フェース高さ

まで調整されています。

これらは、番手ごとに異なる進入条件でも、フェースの適正な位置でボールを受けるための設計と考えることができます。

ロングアイアンとウェッジでは、クラブの動きも、ボール側の接触位置も異なります。

それでも、極端に打点が上下しないように、クラブ側の形状が整えられているのです。

つまり、

番手が変わるから打点が変わる

だけではなく、

番手が変わっても適正な打点を維持するために、クラブ設計が変えられている

と考える方が自然です。

バンスはインパクトを支えるサスペンションなのか

自動車では、エンジンの力がそのまま路面へ伝わるわけではありません。

シャシー、サスペンション、タイヤを通じて、路面へ力が伝えられます。

サスペンションは、車体を上下に動かすためだけのものではありません。

タイヤの接地を保ち、路面へ安定して力を伝えるための装置です。

ゴルフクラブにおけるバンスにも、似た役割があるのかもしれません。

バンスは、ヘッドを地面から支え、

  • フェースの通過高さ
  • ヘッドの姿勢
  • ボールとの接触状態

を安定させます。

そう考えると、バンスは単なるダフリ防止機能ではありません。

クラブフェースとボールの接触を支えるサスペンション

と表現することもできます。

フェースを開く意味へつながる

ここまで考えると、アプローチでフェースを開く意味も変わって見えてきます。

一般には、

フェースを開くのは、ロフトを増やしてボールを高く上げるため

と説明されます。

しかし、フェースを開けば、ロフトだけでなく、

  • バンスの向き
  • ソールの接地点
  • リーディングエッジの高さ
  • ヘッドの侵入深さ
  • ボール側のコンタクトポイント
  • フェース上の打点

も同時に変わります。

そうであれば、フェースを開く主な目的は、

ロフトを増やすこと

ではなく、

ライとアタックアングルに対して、適正なコンタクト位置を作ること

なのかもしれません。

ロフトが増えるのは、その操作に伴って起きる結果の一つにすぎない可能性があります。

見えるロフトと、見えない組み合わせ

私たちは、クラブを見ればロフトを確認できます。

弾道計測器を使えば、アタックアングルも確認できます。

カタログを見れば、バンス角も分かります。

しかし、それらがインパクトでどのように組み合わされ、

  • リーディングエッジがどの高さを通過したか
  • ソールがどこで地面に接触したか
  • ボールのどこへ力が加わったか
  • フェースのどこでボールを受けたか

までは、直接には見えません。

見えている数値は、それぞれ独立しているように見えます。

しかし、実際のインパクトでは、すべてが一つの接触状態を作っています。

番手が変われば、ロフトが変わる。

クラブ長が変わり、アタックアングルも変わる。

その進入角に対応するように、バンスとソール形状も変わる。

それらすべてが、適正な打点とボール出力を作るために組み合わされているのではないでしょうか。

次回は、フェースを開く操作を、単にロフトを増やす動作としてではなく、

ボールとフェースのコンタクトポイントをライに合わせて調整する動作

として考えていきます。