第1話 カーステンの故郷から来た勝者

Kristoffer Reitanの優勝を支えたPINGカスタムPLDパター

※pga tourでの優勝がありましたので、通常記事に2回割り込みます。

PING Tourの投稿で、非常に興味深いニュースが紹介されていました。

Kristoffer Reitanが、PINGのカスタムPLDパターを使用して優勝。
しかも、その勝利の大きな鍵になったのが、パッティングでした。

投稿によると、Reitanはその大会で Strokes Gained: Putting 2位
つまり、グリーン上でフィールドに対して大きく差をつけていたということです。

ゴルフの試合は、ドライバーの飛距離だけで決まるわけではありません。
アイアンの切れだけで決まるわけでもありません。

最後にボールをカップに沈める。
その部分で差をつけた選手が、優勝争いでは強い。

今回のReitanの勝利は、まさにそのことを示しているように感じます。 “第1話 カーステンの故郷から来た勝者” の続きを読む

ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話

ヘッドスピードで勝って、飛距離で負ける理由

――飛距離を決めるのは、ヘッドスピードだけではありません――

ゴルフでは、よくこう言われます。

ヘッドスピードを上げれば飛ぶ。
ヘッドが走れば飛ぶ。
速く振れれば飛距離が伸びる。

たしかに、これは間違いではありません。

ヘッドスピードは、飛距離を作る大切な要素です。
ヘッドスピードがなければ、ボールスピードも出にくくなります。

しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。

ヘッドスピードが速いことと、実際に飛ぶことは、同じではない。

このことを、非常に分かりやすく感じた出来事がありました。


金沢市のジュニア練習会でのことです。

簡易的にヘッドスピードを測る器具を使って、委員長とジュニアの子がヘッドスピードを競い合っていました。

数値だけを見ると、勝ったのはジュニアでした。
当然、ジュニアは大喜びです。

ヘッドスピードで大人に勝った。
自分の方が速く振れている。
これは、子どもにとってはとても分かりやすい成功体験です。

ところが、実際にボールを打ってみると、結果は違いました。

飛距離は、委員長の方が約50ヤードも飛ぶのです。

“ヘッドスピードは上がった。では、ボールは速くなったのか? 第1話” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【最終回】

PINGには、なぜこういう選手が集まるのか

前回は、Stewart Cinkについて書きました。

Cinkは、2009年の全英オープンをNike契約選手として制したメジャーチャンピオンです。
その後、Nikeがクラブ事業から撤退し、クラブ選択の自由度が高くなった時期に、PINGのクラブを選びました。

つまり、CinkはPINGと契約したからPINGを使い始めたのではありません。

順番は逆です。

PINGを信頼して使っていたから、契約に至った。

この流れが、CinkとPINGの関係の面白いところです。

そして私は、この話はCinkだけの特殊な例ではないと思っています。

PINGには、昔からこういう選手が多くいます。

古くはLee Westwood。
Miguel Angel Jimenez。
そして日本で言えば、金谷拓実選手。

世代も国もプレースタイルも違いますが、共通しているのは、クラブを単なる宣伝道具として見ていないことです。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

CinkはなぜPINGを選んだのか

――契約より先にあったクラブへの信頼【第1話】

Stewart Cinkの優勝から見える、PINGとの関係

Stewart Cinkが、また勝ちました。

2026年のRegions Traditionで優勝。
その少し前にはSenior PGA Championshipも制しており、52歳にしてPGA TOUR Championsのシニアメジャーを短期間で2つ勝ったことになります。

この結果だけでも十分にすごいのですが、店長として気になるのは、やはりそのバッグの中身です。

Cinkは、ただ最新モデルを並べている選手ではありません。

最新の性能を取り入れる部分は取り入れる。
しかし、自分にとって必要なクラブは、たとえ旧モデルであっても残す。

ここに、PINGというメーカーの考え方がよく表れているように思います。

では、なぜCinkはPINGを選んだのか。

その答えは、今回の優勝だけでなく、彼がPINGと正式契約する前のクラブ選びにあります。 “CinkはなぜPINGを選んだのか” の続きを読む

PING i540打感考察②

「なんて打感が良いんだ」

——トップアマの言葉から、i540の打感を考える

前回は、PING i540アイアンの海外レビューで使われている表現について整理しました。

日本では「打感が良い」「柔らかい」と表現されることが多い一方で、海外レビューでは、

hot
solid
muted

といった言葉が使われています。

つまりi540の打感は、単純な「柔らかさ」ではなく、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

という方向で理解したほうがよいのではないか、という話でした。

今回は、その感覚を実際の試打の中から考えてみたいと思います。

あるトップアマの方が、i540を打ったときのことです。

その方は、非常に良いスイングをされています。
私の見方で言えば、スターシステムに則ったスイングです。

身体の回転、支点、クラブの走り、ライン・オブ・コンプレッションがきれいにつながり、手でインパクトを作りにいくのではなく、スイングの構造の中でクラブがボールへ届く。

そういうスイングでした。

しかし、最近は少し調子を落としていました。

その状態でi540を打ったとき、最初に出た言葉が、

「なんて打感が良いんだ」

でした。

この言葉は、とても印象的でした。 “PING i540打感考察②” の続きを読む

エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感

このシリーズでは、ヘッドスピード、ボールスピード、有効重量、ベクトル分散、体重移動、そしてスターシステムへつなげて、スインガースイングについて考えてきました。

最後に、どうしても触れておきたい言葉があります。

それが、

ボールに当てる

という表現です。

もちろん、物理的にはクラブヘッドはボールに当たっています。
これは間違いありません。

しかし、スイングの意識として、

ボールに当てに行く
フェースを合わせる
インパクトでつじつまを合わせる

となった瞬間、スイングは小さくなります。

手で合わせる。
ヘッドをボールに向ける。
フェースを返す。
身体を止める。
インパクトで押し込む。

こうなると、身体とクラブの接続は切れやすくなります。
有効重量は逃げます。
ベクトルは分散します。

つまり、

当てに行った結果、軽く当たる

のです。

これは、かなり皮肉な話です。 “エピローグ:「ボールに当てる」という言葉への違和感” の続きを読む

体重移動と有効重量は違う

有効重量で考えるスインガースイング・第8話/完結編

前回は、年齢を重ねたゴルファーに残っている武器について考えました。

年齢とともに、筋肉の収縮スピードは落ちやすくなります。
若い頃のように、腕を速く振ることは難しくなる。

その結果、ヘッドスピードは落ちやすくなります。

しかし、そこで私はよくこう言います。

安心してください。
体重は減っていないでしょう。
むしろ若い頃より増えている方も多いですよね。

これは冗談のようで、かなり真面目な話です。

年齢とともに失いやすいのは、速く動かす能力です。
しかし、身体の重さそのものまで失ったわけではありません。

だからこそ、その重さをどう使うかが大切になります。

ただし、ここで大きな誤解が生まれます。

体重移動と有効重量を同じものだと思ってしまうこと

です。


身体の重さを使う。
重く当てる。
有効重量をボールへ届ける。

こういう話をすると、多くの人は、

では、もっと体重を左に乗せればいいのか。
インパクトで体重をぶつければいいのか。
身体をボール方向へ押し込めばいいのか。

と考えがちです。

しかし、それは違います。

体重移動と有効重量は同じではありません。

体重が左に移動したからといって、その体重がクラブを通じてボールに届いているとは限りません。

むしろ、体重移動を大きくしようとして身体が流れれば、クラブとの接続は切れやすくなります。

身体は動いている。
体重も移っている。
しかし、ボールには重く当たっていない。

こういうことが起きます。


たとえば、インパクトで体重を乗せようとして、身体が前に突っ込むケースがあります。

本人は、

体重を使っている。
強く押し込めている。
ボールに力をぶつけている。

と思っているかもしれません。

しかし実際には、身体が前に流れたことで、最下点がずれる。
入射角が変わる。
ロフトが増える。
フェースが開く。
打点がズレる。

その結果、ボールは強くならない。

体重は動いているのに、有効重量としてボールに届いていないのです。

ここで大切なのは、

有効重量とは、動いた体重の量ではない

ということです。

有効重量とは、インパクトの瞬間に、クラブを通じてボールとの衝突に参加している重さです。

そのためには、身体とクラブがつながっていなければなりません。

身体だけが動いても、クラブが遅れる。
手元だけが動いても、ヘッドが暴れる。
上体だけが突っ込んでも、フェースが開く。
腰だけが回っても、腕が取り残される。

これでは、体重移動はあっても、有効重量にはなりません。

有効重量は、身体の移動量ではなく、身体とクラブの接続から生まれます。


これは、油圧機械を考えると分かりやすいと思います。

油圧機械は、目に見えて大きく動いていないときでも、内部には圧力がかかっています。

止まっているように見えるアームでも、シリンダーには圧力があります。
大きく動いていないプレスでも、対象物には強い力がかかっています。

つまり、

動いている量と、かかっている力は同じではない

ということです。

ゴルフスイングも同じです。

身体が大きく移動したからといって、その重さがボールに届いているとは限りません。

反対に、見た目の移動量がそれほど大きくなくても、身体とクラブが一体化し、圧力が逃げない状態でインパクトに入れば、ボールには重く当たります。

もちろん、これはインパクトで手で押し込むという意味ではありません。

インパクトで急に圧力を作るのではなく、身体とクラブがつながった状態で、圧力が逃げずにインパクトへ入るということです。


そして、この話はインパクトだけの話ではありません。

インパクトで有効重量を届けるためには、その前の切り返しで、すでに身体とクラブの接続が保たれている必要があります。

切り返しで大切なのは、強く動き出すことではありません。

そこで発生した力を、途中で逃がさないこと

です。

油圧機械も、ただ圧力が発生すれば仕事をするわけではありません。
その圧力が逃げずに、シリンダーを通じて決められた方向へ伝わるから、大きな力として働きます。

ゴルフスイングも同じです。

切り返しで生まれた力が、手先に逃げたり、身体の突っ込みに逃げたり、フェースの暴れに逃げたりすれば、インパクトでは軽くなります。

スインガーにとって切り返しとは、力を入れる瞬間というより、

発生した力を逃がさず、クラブを通じてボールへ届けるための方向づけの瞬間

なのだと思います。


ここで、今回のシリーズ全体を振り返ります。

第1話では、

ヘッドスピードは入力、ボールスピードは出力。
けれど入力はそれだけではない。

という話をしました。

ヘッドスピードは大切です。
しかし、ボールスピードという出力は、ヘッドスピードだけで決まるものではありません。

打点。
ロフト。
フェース向き。
入射角。
クラブの姿勢。
力の方向。
そして、有効重量。

これらが衝突の瞬間に統合され、ボールスピードという出力になります。

第2話では、時速5キロの電車と三輪車の話をしました。

同じ時速5キロでも、ぶつかったときの衝撃はまったく違う。
速度が同じでも、衝突に参加している重さが違うからです。

第3話では、軽く振った方が飛ぶ理由を考えました。

軽く振ったから飛んだのではなく、軽く振ったことで身体とクラブの接続が切れず、有効重量が逃げなかった可能性がある。

第4話では、有効重量を数字で考えました。

腕だけで動いている場合の有効重量を1〜2kg前後。
身体とクラブが一体化している場合を5〜12kg前後と仮定すると、同じ速度でもエネルギーは大きく変わります。

第5話では、ヘッドスピードを上げたつもりが、なぜ軽く当たってしまうのかを考えました。

手でヘッドを走らせる。
フェースを返す。
インパクトで押し込む。

これらは一見、飛ばす努力に見えます。
しかし、身体とクラブの接続が切れれば、有効重量は小さくなります。

第6話では、ベクトル分散を考えました。

力は大きければよいわけではありません。
その力が、どの方向へ通るかが重要です。

上に逃げる。
横に逃げる。
ロフトに逃げる。
スピンに変わる。
フェースの暴れに変わる。

これでは、力を出していてもボールスピードにはなりません。

第7話では、加齢ゴルファーに残っている武器を考えました。

加齢で失いやすいのはスピードです。
しかし、重さまで失ったわけではありません。

そして今回、第8話では、体重移動と有効重量は違うという話をしています。


ここまでをまとめると、スインガーとは何かが見えてきます。

スインガーは、単に軽く振る人ではありません。
弱く振る人でもありません。
ゆっくり振る人でもありません。

スインガーとは、

身体とクラブを一体化させ、
有効重量を逃がさず、
発生した力を途中で散らさず、
クラブを通じてボールへ届ける人

です。

そして、その力はただ大きければよいわけではありません。

強くても、上に逃げれば吹け上がります。
横に逃げれば曲がります。
ロフトに逃げればスピンに変わります。
手先に逃げればフェースが暴れます。

大切なのは、

力の大きさ
有効重量
そして方向

です。

速さ。
重さ。
方向。

この三つがそろって、初めてボールスピードになります。


ここで、The Star System of G.O.L.F. の言葉に戻ります。

Geometrically Oriented Linear Force
幾何学的に指向された直線力

この言葉は、とても重要だと思います。

力は、ただ強ければよいわけではありません。
速ければよいわけでもありません。
重ければよいだけでもありません。

その力が、幾何学的に正しい方向へ通る必要があります。

体重を移動させることが目的ではない。
ヘッドを速く動かすことが目的でもない。
インパクトで手で押し込むことが目的でもない。

身体とクラブがつながり、切り返しで生まれた力を逃がさず、ライン・オブ・コンプレッションへ通す。

そこに、スインガーというメカニズムの本質があるのだと思います。


今回の結論は、こうです。

体重が移動したからといって、その体重がボールに届いているとは限りません。

重さを使うことと、体重をぶつけることは違います。
体重移動と、有効重量は違います。

スインガーは、身体を大きく流して重さをぶつける人ではありません。

身体とクラブを一体化させ、切り返しで発生した力を逃がさず、ライン・オブ・コンプレッションへ通す人です。

だから、見た目には大きく動いていないように見えても、ボールは強くなることがあります。

大切なのは、体重がどこへ移動したかではありません。

その重さと力が、クラブを通じてボールへ届いたかどうか

です。


最後に、もう一度だけ整理します。

ヘッドスピードは大切です。
しかし、ヘッドスピードだけでは飛距離は語れません。

体重も大切です。
しかし、体重移動だけでは有効重量にはなりません。

力も大切です。
しかし、力が散ればボールスピードにはなりません。

スインガーの飛距離は、力任せではありません。
単なる速さでもありません。

身体とクラブが一体化し、重さが逃げず、力の方向がそろう。
その結果として、クラブが走らされ、ボールスピードが生まれる。

これが、私が考えるスインガースイングです。

速く振るのではなく、速さに重さを乗せる。
重さをぶつけるのではなく、重さを逃がさず届ける。
力を出すのではなく、力を正しい方向へ通す。

この考え方が、年齢を重ねても、身体に無理をかけすぎず、それでいてボールを強くするための大きなヒントになると思っています。

そして、その最後にあるのが、

Geometrically Oriented Linear Force
幾何学的に指向された直線力

です。

スインガーとは、力を使わない人ではありません。

力を逃がさず、散らさず、幾何学的に正しい方向へ通せる人なのです。

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加齢で飛ばなくなった人に、まだ残っている武器

有効重量で考えるスインガースイング・第7話

前回は、

ベクトル分散が飛距離を奪う

という話をしました。

飛距離に必要なのは、力の大きさだけではありません。
その力が、どの方向へ通っているかです。

ヘッドスピードを上げても、力が上に逃げれば吹け上がります。
横に逃げれば曲がります。
ロフトが増えればスピンに変わります。
フェースが暴れれば打点が散ります。

つまり、力は出しているのに、ボールスピードや飛距離に変わらない。

これがベクトル分散です。

スインガーに必要なのは、有効重量を大きくすること。
そして、その有効重量を散らさずにボールへ届けることです。

今回は、この考え方を、年齢を重ねたゴルファーに当てはめて考えてみたいと思います。


年齢とともに飛距離が落ちた、という相談はとても多くあります。

以前よりドライバーが飛ばない。
アイアンの番手が一つ変わった。
同じように振っているつもりなのに、ボールが前に行かない。
若い頃のようにヘッドが走らない。

こういう悩みは、年齢を重ねたゴルファーには自然に起こります。

なぜなら、加齢によって筋肉の収縮スピードは落ちやすいからです。

若い頃のように、瞬間的に速く動かす。
腕を鋭く振る。
切り返しで一気に加速する。
インパクトで強く叩く。

こうした能力は、どうしても年齢の影響を受けます。

その結果、ヘッドスピードは落ちやすくなります。

これは、ある程度は自然なことです。

“加齢で飛ばなくなった人に、まだ残っている武器” の続きを読む

PING i540打感考察①

PING i540の打感は、なぜ「柔らかい」だけでは説明できないのか

——海外レビューの “hot / solid / muted” から読み解く

PING i540アイアンについて、海外レビューも含めて確認していると、少し面白いことに気づきました。

日本では、i540の打感について、

「打感が良い」
「柔らかい」
「中空とは思えない」
「音が静か」

という表現が多く見られます。

もちろん、i540の打感は非常によく作られていると思います。

ただ、海外レビューでは少し表現が違います。

i540の打感を単純に soft と言うよりも、

hot
solid
muted
lively
responsive

といった言葉で表現しているものが目立ちます。

ここが、とても気になりました。

日本語で「打感が良い」と言うと、多くの方はまず「柔らかい打感」を想像するかもしれません。

軟鉄鍛造のように、しっとりしている。
手に伝わる衝撃が丸い。
フェースにボールが乗るように感じる。

そういう感覚です。

しかし、海外レビューで使われる hot は、それとは少し違います。

hot は、ゴルフクラブの打感で使われる場合、

ボールが強く出る
初速感がある
自分の想像より打球が前へ出る

という意味に近いと思います。

つまり、i540の打感は、

「柔らかく沈み込む」

というより、

一瞬受け止めて、そこから強く出る

と表現したほうが近いのかもしれません。

ここで、日本語の表現の難しさがあります。

たとえば英語では、「辛い」にもいくつかの言い方があります。

salty なら、塩辛い。
hot なら、唐辛子のような熱い辛さ。
spicy なら、香辛料が効いた刺激。

日本語では、これらをまとめて「辛い」と言ってしまうことがあります。

「甘い」も同じです。

砂糖の甘さだけでなく、

米が甘い。
脂が甘い。
出汁が甘い。

本当は、旨みやコク、角の取れた丸さを感じているのに、「甘い」と表現することがあります。

打感も、これに近いと思います。

日本語の「打感が良い」という言葉の中には、実はいろいろな感覚が含まれています。

柔らかい。
芯がある。
音が低い。
振動が少ない。
球が強く出る。
打点が分かる。
嫌な硬さがない。
弾くけれど雑ではない。

これらをまとめて、私たちは「打感が良い」と言ってしまうことがあります。

しかし英語レビューでは、その中身をもう少し分けます。

soft は、柔らかい。
軟鉄鍛造のように、衝撃が丸く、しっとりした打感です。

hot は、打球が強く出る。
フェースからボールが勢いよく飛び出す感覚です。

solid は、芯がある。
薄っぺらくなく、当たり負けしない感覚です。

muted は、音や振動が抑えられている。
甲高い音や余計な響きが少ない打感です。

lively は、反応が良い。
ボールが元気よく出る感覚です。

responsive は、入力に対して返りがある。
打点や当たり方の情報が手に伝わる感覚です。

こう考えると、海外レビューでi540が soft というより hot / solid / muted と表現されている理由が見えてきます。

i540は、軟鉄鍛造アイアンのように、ただ柔らかく沈み込む打感を目指したクラブではありません。

C300マレージング鋼の薄肉フェースを使い、フェースをたわませ、その復元でボール初速を作るアイアンです。

つまり、打感の中には明らかに「出球の強さ」があります。

しかし、その強さが不快な硬さとして出ていない。

ここが重要です。

薄肉フェースのアイアンは、一歩間違えると、

カチッと硬い。
パチンと軽い。
音が高い。
中空っぽく響く。

という印象になりやすいです。

ところがi540では、inR-Airやi-Beamによって、余計な音と振動を抑えています。

そのため、球は強く出る。
しかし、音は暴れない。
フェースの弾きはある。
しかし、手には嫌な硬さとして残りにくい。

だから海外レビューでは、単純に soft ではなく、

hot
solid
muted

という表現になるのだと思います。

日本語で言えば、

強く出るのに、嫌な硬さがない打感

です。

あるいは、

弾くのに、雑ではない打感

と言ってもよいかもしれません。

ここを「柔らかい」とだけ言ってしまうと、i540の本当の良さが少しぼやけます。

i540の打感は、軟鉄鍛造のしっとりした柔らかさとは違います。

しかし、ただ硬く弾くわけでもありません。

一瞬、ボールを受け止める。
そこから、自分が想像しているよりも強い打球が出る。
そして、その強さを音や振動で過剰に主張しない。

このあたりが、i540の打感の面白さだと思います。

日本のレビューで「打感が良い」と言われる理由も、海外レビューで hot / solid / muted と表現される理由も、おそらく同じところを見ています。

ただ、使っている言葉が違う。

日本語では「打感が良い」とまとめる。
海外では、その中身を hot、solid、muted と分ける。

その違いです。

ですから、i540の打感を理解するうえでは、まずこの整理が大事になります。

i540は、柔らかいだけのアイアンではありません。

むしろ、

強く出る。
芯がある。
音と振動は抑えられている。

この3つがそろった打感です。

そしてこの「強く出るのに、嫌な硬さがない」という感覚は、昔の良いアイアンを知っているゴルファーほど、少し懐かしく感じる部分があるのかもしれません。

次回は、実際にi540を打ったトップアマの方が口にした、

「なんて打感が良いんだ」

という言葉から、この打感の正体をもう少し掘り下げてみたいと思います。

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ベクトル分散が飛距離を奪う

有効重量で考えるスインガースイング・第6話

前回は、

ヘッドスピードを上げたつもりが、なぜ軽く当たってしまうのか

について考えました。

飛ばそうとして、もっと速く振る。
もっと強く振る。
もっと手を使う。
もっとヘッドを走らせる。

その気持ちは、とてもよく分かります。

しかし、その動きによって身体とクラブの接続が切れてしまうと、有効重量は小さくなります。

つまり、ヘッドは速く動いている。
しかし、ボールにぶつかっているものは軽い。

これが、

速く振っているのに、軽く当たっている

という状態です。

今回は、そこからさらに一歩進めて、

ベクトル分散

について考えてみます。


飛距離を考えるとき、多くの人は力の大きさを考えます。

もっと強く振る。
もっと速く振る。
もっと大きく動く。

もちろん、力の大きさは大切です。
エネルギーが小さければ、ボールは飛びません。

しかし、ゴルフで本当に難しいのは、

その力がどの方向へ向かっているか

です。

力は、大きければよいわけではありません。

前に届く力。
上に逃げる力。
横に逃げる力。
フェースを開閉させる力。
ロフトを増やす力。
スピンに変わる力。

同じように強く振っていても、その力がどこへ向かっているかによって、結果はまったく変わります。

私はこの、力の向きがあちこちへ散ってしまう状態を、

ベクトル分散

と考えています。


たとえば、ヘッドスピードを上げようとして、手でヘッドを走らせたとします。

クラブヘッドは速く動いているように感じるかもしれません。
しかし、身体とクラブの接続が切れると、クラブは安定した方向へ動きにくくなります。

その結果、力の向きが散ります。

ボールを前へ押す力にならず、
フェースを開く力になったり、
ロフトを寝かせる力になったり、
スピンを増やす力になったり、
横方向へ曲げる力になったりします。

本人は強く振っている。
しかし、その強さがボールを前へ飛ばす方向へ集中していない。

これが、ベクトル分散です。


ベクトル分散が起きると、ボールは弱くなります。

ヘッドスピードは出ている。
でも、ボールスピードが出ない。

フェースに当たっている。
でも、前に強く進まない。

高く上がる。
でも、キャリーが出ない。

スピンが増える。
曲がる。
打点が散る。

こういう現象は、単に「ミスショット」と片づけるよりも、

エネルギーが前方へ集中していない

と考えた方が分かりやすい場合があります。

クラブは動いている。
力も出している。
しかし、ボールへ向かう一本の方向へまとまっていない。

だから、飛距離にならないのです。


ここで、有効重量の話とつながります。

有効重量が大きくても、ベクトルが分散すれば、ボールには届きません。

逆に、有効重量が小さく、さらにベクトルも分散していれば、最悪です。

腕だけでクラブを速く動かす。
有効重量は小さくなる。
身体とクラブの接続も切れる。
力の向きも散る。

こうなると、本人は一生懸命振っているのに、ボールは強くなりません。

むしろ、

頑張るほど曲がる
強く振るほどスピンが増える
速く振るほど当たりが薄くなる

ということが起きます。

これは努力不足ではありません。
力の通り道の問題です。


では、スインガーは何が違うのでしょうか。

スインガーは、力を出していないわけではありません。
むしろ、身体とクラブが一体化しているため、有効重量は大きくなります。

しかし、その力が散りにくい。

身体とクラブがつながっている。
クラブが急に暴れない。
手先だけでフェースを返さない。
インパクトで急に押し込まない。
身体が前へ突っ込まない。

その結果、力の向きがそろいやすくなります。

上に逃げる力ではなく、
横に逃げる力でもなく、
ロフトを寝かせる力でもなく、
ボールを前へ進める力として届きやすくなる。

これが、スインガーの強さです。


ここで、よくある誤解があります。

では、真っすぐ前に押せばよいのか?

という考えです。

しかし、ゴルフスイングは単純に直線的に押す運動ではありません。

クラブは円運動をしています。
身体も回転しています。
シャフトも傾いています。
ロフトもあります。
フェース面もあります。

その中で、ボールに対してどの方向に力が通るのか。

ここが重要です。

ですから、ベクトルをそろえるというのは、単にボール方向へ体を突っ込ませることではありません。
また、手でボールを押すことでもありません。

身体とクラブが一体化した運動の中で、結果として力がボールへ通る状態を作ることです。


ここで、ライン・オブ・コンプレッションの話が出てきます。

ライン・オブ・コンプレッションとは、簡単に言えば、インパクトで力がボールに圧縮として通る方向です。

この方向に力が通れば、ボールは強くなります。

反対に、このラインから外れれば、エネルギーは逃げます。

ロフトが増えすぎれば、上に逃げる。
フェースが開けば、横に逃げる。
手元が止まれば、フェースが返りすぎる。
身体が突っ込めば、入射角や最下点が乱れる。

つまり、ベクトル分散とは、ライン・オブ・コンプレッションに力が集まっていない状態とも言えます。

スインガーを考えるうえで、ここは非常に大切です。


多くのゴルファーは、飛距離を伸ばすために力を増やそうとします。

しかし、本当に必要なのは、

力を増やすこと

だけではありません。

力を散らさないこと

です。

これは、とても大事な違いです。

力を増やしても、上や横に逃げれば飛距離にはなりません。
むしろ、曲がりやスピンや身体への負担が増えるだけです。

一方、力そのものがそれほど大きく見えなくても、向きがそろっていれば、ボールは強くなります。

だから、上手い人のスイングは静かに見えることがあります。

力がないのではありません。
力が散っていないのです。


この見方をすると、

軽く振っているのに飛ぶ

という現象も、さらに分かりやすくなります。

軽く振ったから飛んだのではありません。
余計な力が入らなかったことで、身体とクラブの接続が切れにくくなった。
有効重量が逃げにくくなった。
そして、力の向きが分散しにくくなった。

その結果、ボールへ届く出力が大きくなった。

つまり、軽く見えるスイングは、

力が小さいスイング

ではなく、

力の無駄が少ないスイング

である可能性があります。

ここを間違えると、ただ力を抜くだけのスイングになってしまいます。


スインガーは、弱く振る人ではありません。

スインガーは、有効重量を逃がさず、力の向きをそろえる人です。

クラブを手で走らせるのではなく、身体とクラブが一体化した運動の結果として、クラブが走らされる。

そして、そのクラブの運動が、ライン・オブ・コンプレッションへ向かって通る。

だから、見た目には力感が少なくても、ボールは強い。

これが、スインガーのメカニズムです。


今回の結論は、こうです。

飛距離に必要なのは、力の大きさだけではありません。
その力が、どの方向へ通っているかです。

ヘッドスピードを上げても、力が上に逃げれば吹け上がります。
横に逃げれば曲がります。
ロフトを増やせばスピンに変わります。
フェースを暴れさせれば打点が散ります。

つまり、力は出しているのに、ボールスピードや飛距離に変わらない。

これがベクトル分散です。

スインガーに必要なのは、

有効重量を大きくすること
そして、その有効重量を散らさずにボールへ届けること

です。

速さ。
重さ。
方向。

この三つがそろって、初めてボールスピードになります。


次回は、ここから少し視点を変えて、

加齢で飛ばなくなった人に、まだ残っている武器

について考えてみます。

年齢とともに、筋肉の収縮スピードは落ちます。
ヘッドスピードが落ちるのは自然なことです。

しかし、身体の重さまで失ったわけではありません。

むしろ、若い頃より体重が増えている方も多いはずです。

次回は、加齢ゴルファーこそ、なぜスインガーの考え方が必要なのかを考えてみたいと思います。

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