見えないものを見る 第6話 番手が変わると、なぜアタックアングルとバンスも変わるのか

前回は、ダウンブローになることで、ボールへ力を加える方向と実効的な作用位置が変わり、方向性が安定する可能性を考えました。

プロがグリーンを狙う場面では、最大飛距離を求めたフルショットよりも、右手首の角度を保ち、適正なダウンブローでラインを出すショットが多く見られます。

その理由は、単にスピンを増やすためではありません。

ボールへ力を加える位置と方向を揃え、左右方向と縦距離の両方を安定させるためではないか。

それが前回までの考察でした。

では、クラブの番手が変わると、なぜアタックアングルも変わるのでしょうか。

ロングアイアンでは比較的浅く入り、ショートアイアンやウェッジでは、より深いダウンブローになる傾向があります。

同時に、クラブのロフトは増え、バンスも大きくなっていきます。

これは偶然なのでしょうか。

今回は、ロフト、アタックアングル、バンスの関係を、ボールとの接触から考えてみます。

円の接線という中学校の数学

まず、中学校で習う円の基本性質を思い出します。

円の中心から接点へ引いた半径は、その接点における接線と必ず垂直になります。

円の中心を O、接点を P、接線を l とすれば、

OP丄 l

です。

これは、ゴルフボールとクラブフェースの関係を考えるうえで、非常に重要な性質です。

ゴルフボールを完全な球体、クラブフェースを平面として考えると、最初に接触する瞬間には、

  • クラブフェースはボール球面に対する接平面
  • ボール中心から接触点へ向かう半径は、フェース面に垂直
  • その半径方向がフェースの法線方向

になります。

つまり、クラブフェースの向きが決まれば、球面上の幾何学的なコンタクトポイントも決まります。

フェース開度が経度を決め、ロフトが緯度を決めるという前回までの説明は、この接線の性質を土台にしています。

ロフトが変われば、ボール側の接触位置も変わる

ロフトの小さいクラブでは、フェースは比較的立っています。

そのため、ボール中心から接点へ向かう半径は、地面に対して比較的水平に近くなります。

地球に例えれば、コンタクトポイントは赤道に近い位置です。

一方、ロフトが大きくなると、フェースは上を向きます。

フェース面に垂直な半径も下向きに傾くため、ボール側のコンタクトポイントは、より下側へ移ります。

地球に例えれば、南極に近づいていくことになります。

したがって、

ロフトが増えるほど、クラブフェースはボールの下側へ接触する

という関係が生まれます。

これは、ロフトがボールを高く上げるという結果だけではなく、ボール球面上のどこへ接触するかを決めているということです。

ボール側の接触点と、フェース側の打点は別である

ここで、二つの打点を分ける必要があります。

一つは、ボール球面上のどこへ接触したかという、ボール側のコンタクトポイントです。

もう一つは、クラブフェースのどの高さでボールを受けたかという、フェース側の打点です。

この二つは関連しますが、同じものではありません。

同じロフトのクラブでも、

  • ヘッドが高い位置を通過した
  • ヘッドが深く地面へ入った
  • リーディングエッジが浮いた
  • バンスが地面に強く接触した

という違いによって、フェース上の打点は変わります。

したがって、ロフトが大きいから必ずフェース下部へ当たるとは限りません。

フェース側の打点を決めるには、クラブヘッドがどの高さを通過し、地面からどのような反力を受けたかまで考える必要があります。

番手が短くなるほど、アタックアングルは深くなる

一般に、ロングアイアンでは比較的浅いダウンブローになります。

ショートアイアンやウェッジになるほど、アタックアングルは深くなる傾向があります。

しかし、プロが番手ごとにまったく別の打ち方をしているわけではありません。

番手が短くなると、

  • シャフトが短くなる
  • ボール位置が中央寄りになる
  • スイング円の最下点に対するボール位置が変わる
  • ロフトが大きくなる

ため、同じスイング構造の中でも、インパクト時の進入角は自然に深くなります。

つまり、番手別のアタックアングルは、

番手ごとに意識して打ち込んだ結果

というより、

クラブ長とボール位置が変化した結果

として生まれている部分が大きいと考えられます。

ロフトが増えるのに、アタックアングルも深くなる

ここで、一見すると矛盾する関係が現れます。

ロフトが大きくなると、ボール側のコンタクトポイントは下へ移ります。

それに加えて、アタックアングルも深くなれば、クラブヘッドはさらに下方向へ進みます。

そのままなら、ショートアイアンやウェッジでは、

  • リーディングエッジが地面へ深く刺さる
  • フェース下部すぎる位置でボールを受ける
  • ヘッドが急減速する

ように見えます。

しかし、実際にはそうならないように、もう一つの構造が用意されています。

それがバンスです。

バンスは何をしているのか

バンスとは、リーディングエッジよりもソール後方が低く配置されている構造です。

一般には、

バンスはダフリを防ぐもの

と説明されます。

これは間違いではありません。

しかし、ダフリを防ぐという説明だけでは、バンスの役割を十分に表していません。

バンスが地面や芝へ接触すると、地面から反力を受けます。

その反力によって、

  • ヘッドが地面へ潜りすぎるのを防ぐ
  • リーディングエッジの通過高さを保つ
  • フェース姿勢を安定させる
  • ヘッドの急激な減速を抑える

ことができます。

つまり、バンスは、

ヘッドを跳ねさせるためのもの

ではなく、

ヘッドの侵入深さと通過高さを管理する支持機構

と考えることができます。

アタックアングルとバンスは反対方向に働く

ダウンブローが深くなるほど、クラブヘッドは地面へ深く入ろうとします。

一方、バンスが大きくなるほど、ソールは地面から強い反力を受けやすくなり、ヘッドの潜り込みを抑えます。

つまり、

  • アタックアングルはヘッドを下へ向かわせる
  • バンスはヘッドを地面から支える

という、反対方向の作用を持っています。

この二つが適切に組み合わされれば、

ダウンブローで入っても、ヘッドは必要以上に潜らず、適正な高さを通過する

ことができます。

番手が短くなるほどアタックアングルが深くなり、同時にバンスも大きくなる傾向があるのは、両者が一つの組み合わせとして働いているからではないでしょうか。

数字が完全に相殺されるわけではない

ここで注意したいのは、

アタックアングルが5度なら、バンスも5度あれば相殺される

という単純な話ではないことです。

実際のソールと地面の関係には、

  • シャフトの傾き
  • ダイナミックロフト
  • ソール幅
  • ソールの丸み
  • リーディングエッジの形状
  • 地面の硬さ
  • 芝の密度
  • ヘッドスピード

が影響します。

バンス角は、一つの静的な設計値です。

一方、インパクトではクラブ姿勢と地面条件によって、実際に働く実効バンスが変わります。

したがって、アタックアングルとバンスは、数値として単純に引き算するものではありません。

それでも、

深い進入に対して、バンスが地面からヘッドを支持する

という基本的な役割は変わりません。

番手ごとの組み合わせ

ロングアイアンは、

  • ロフトが小さい
  • クラブが長い
  • アタックアングルが浅い
  • バンスが比較的小さい

という組み合わせです。

フェースが立っているため、ボール側のコンタクトポイントは赤道に近くなります。

アタックアングルも浅いため、大きなバンスによる支持を必要としません。

一方、ショートアイアンやウェッジは、

  • ロフトが大きい
  • クラブが短い
  • アタックアングルが深い
  • バンスが大きい

という組み合わせです。

フェースはボールの下側へ接触します。

クラブヘッドも深い角度で地面へ向かいます。

そこでバンスが地面からヘッドを支え、リーディングエッジの通過高さを整えます。

このように見ると、番手ごとの設計は、

ロフト、長さ、アタックアングル、バンスが別々に存在している

のではなく、

適正なコンタクト状態を作るために、一つの系として組み合わされている

ことが分かります。

芝の上ではボールも動いている

さらに、実際のゴルフでは、ボールは完全に地面へ接しているとは限りません。

フェアウェイの芝は、ボールを数ミリ持ち上げています。

薄いライでは地面に近く、芝の上に浮いたライでは、ボール中心はより高い位置にあります。

一方、クラブヘッドも芝や地面へ入ります。

したがって、フェース上の打点を決めるのは、

  • ボールが地面からどれだけ高く支持されているか
  • クラブヘッドが地面へどれだけ入るか

の差です。

ボールが高く浮いていても、ヘッドが同じだけ深く入れば、打点は大きく変わりません。

しかし、バンスによってヘッドの沈み込みが抑えられれば、フェース上の打点は高くなります。

反対に、硬い地面でバンスが強く反発すれば、リーディングエッジが浮き、ボール下部を薄く捉える可能性もあります。

つまり、ライが変わると、

ボールの高さとヘッドの通過高さの関係

が変わります。

適正な打点を揃えるための設計

クラブ設計者が番手ごとに変えているのは、ロフトと長さだけではありません。

  • バンス
  • ソール幅
  • ソールの丸み
  • リーディングエッジ形状
  • ヘッド重心
  • フェース高さ

まで調整されています。

これらは、番手ごとに異なる進入条件でも、フェースの適正な位置でボールを受けるための設計と考えることができます。

ロングアイアンとウェッジでは、クラブの動きも、ボール側の接触位置も異なります。

それでも、極端に打点が上下しないように、クラブ側の形状が整えられているのです。

つまり、

番手が変わるから打点が変わる

だけではなく、

番手が変わっても適正な打点を維持するために、クラブ設計が変えられている

と考える方が自然です。

バンスはインパクトを支えるサスペンションなのか

自動車では、エンジンの力がそのまま路面へ伝わるわけではありません。

シャシー、サスペンション、タイヤを通じて、路面へ力が伝えられます。

サスペンションは、車体を上下に動かすためだけのものではありません。

タイヤの接地を保ち、路面へ安定して力を伝えるための装置です。

ゴルフクラブにおけるバンスにも、似た役割があるのかもしれません。

バンスは、ヘッドを地面から支え、

  • フェースの通過高さ
  • ヘッドの姿勢
  • ボールとの接触状態

を安定させます。

そう考えると、バンスは単なるダフリ防止機能ではありません。

クラブフェースとボールの接触を支えるサスペンション

と表現することもできます。

フェースを開く意味へつながる

ここまで考えると、アプローチでフェースを開く意味も変わって見えてきます。

一般には、

フェースを開くのは、ロフトを増やしてボールを高く上げるため

と説明されます。

しかし、フェースを開けば、ロフトだけでなく、

  • バンスの向き
  • ソールの接地点
  • リーディングエッジの高さ
  • ヘッドの侵入深さ
  • ボール側のコンタクトポイント
  • フェース上の打点

も同時に変わります。

そうであれば、フェースを開く主な目的は、

ロフトを増やすこと

ではなく、

ライとアタックアングルに対して、適正なコンタクト位置を作ること

なのかもしれません。

ロフトが増えるのは、その操作に伴って起きる結果の一つにすぎない可能性があります。

見えるロフトと、見えない組み合わせ

私たちは、クラブを見ればロフトを確認できます。

弾道計測器を使えば、アタックアングルも確認できます。

カタログを見れば、バンス角も分かります。

しかし、それらがインパクトでどのように組み合わされ、

  • リーディングエッジがどの高さを通過したか
  • ソールがどこで地面に接触したか
  • ボールのどこへ力が加わったか
  • フェースのどこでボールを受けたか

までは、直接には見えません。

見えている数値は、それぞれ独立しているように見えます。

しかし、実際のインパクトでは、すべてが一つの接触状態を作っています。

番手が変われば、ロフトが変わる。

クラブ長が変わり、アタックアングルも変わる。

その進入角に対応するように、バンスとソール形状も変わる。

それらすべてが、適正な打点とボール出力を作るために組み合わされているのではないでしょうか。

次回は、フェースを開く操作を、単にロフトを増やす動作としてではなく、

ボールとフェースのコンタクトポイントをライに合わせて調整する動作

として考えていきます。

見えないものを見る 第5話 ダウンブローになると、なぜ方向性が安定するのか

前回は、ロフトが大きくなるほどバックスピン成分が強くなり、同じ横方向の回転成分があっても、スピンアクシスの傾きが小さくなることを考えました。

ロフトが大きいクラブでは、

  • 左右方向のコンタクト偏位が小さくなりやすい
  • 横方向のトルクが小さくなりやすい
  • バックスピン成分が大きくなる
  • スピンアクシスが傾きにくくなる

という複数の条件が重なります。

では、クラブのロフトではなく、クラブヘッドがボールへ入ってくる方向が変わると、何が起きるのでしょうか。

グリーンを狙う場面で、プロは必ずしも最大飛距離を求めたフルショットを行いません。

スイング幅を抑え、右手首の角度を保ちながら、いわゆる「ラインを出す」ショットを選ぶことがあります。

そのとき、インパクトロフトは抑えられ、クラブヘッドは適正なダウンブローでボールへ入ります。

プロがこの打ち方を選ぶのは、経験的に、打ち出し方向と縦距離の両方を管理しやすいことを知っているからでしょう。

では、なぜダウンブローで捉えると、方向性が安定するのでしょうか。

今回は、アタックアングルについて考えます。

アタックアングルとは何か

アタックアングルとは、インパクト付近でクラブヘッドがどの方向へ進んでいるかを、上下方向の角度として表したものです。

地面に対して水平に近く進めば、アタックアングルは浅くなります。

目標方向へ進みながら、より強く下方向へ向かえば、ダウンブローが深くなります。

ここで大切なのは、目標方向そのものが変わるのではなく、クラブヘッドの進み方が変わるということです。

ダウンブローが深くなるほど、クラブは単に前へ進むのではなく、前へ進みながら、より下方向へ向かってボールへ入ってきます。

見えているのは、クラブが下へ進んでいる動きです。

しかし、ボール側から見て重要なのは、その下向きの進行によって、ボールのどの位置へ、どの方向の力が加わったのか、という点です。

最初の接触点と、力が作用した中心は同じではない

完全な球体と平面が最初に触れる一点だけを考えれば、その位置は主にフェースの向きによって決まります。

そのため、アタックアングルだけを変え、フェースの向きをまったく変えないなら、最初に触れる一点が必ず下へ動くとは限りません。

しかし、実際のゴルフボールはインパクトで大きく変形します。

接触は一点で終わるのではなく、時間とともに面へ広がります。

その接触面の中では、

  • 圧力が高くかかる場所
  • 摩擦が強く働く場所
  • ボールカバーが大きく変形する場所
  • 力が集中的に伝わる中心

が存在します。

ここでは、この「力が集中的に伝わる中心」を実効コンタクトポイントと考えます。

今回の考え方は、ダウンブローになると、球面上の最初の接触点が必ず下へ動くという意味ではありません。

そうではなく、ボールが変形して接触面が広がる過程の中で、圧力や力の中心が下方へ移るのではないか、という考えです。

クラブの進行方向が下へ傾けば、接触面の中での圧力分布や、摩擦の働き方も変わるはずです。

その結果、ボールが最終的に受け取る力の中心は、より下方へ移る可能性があります。

地球の経度・緯度で考える

ボールを地球のような球体として考えます。

フェース開度は経度、ロフトや上下方向の作用位置は緯度に相当します。

赤道付近では、同じ10度の経度差でも、左右方向の距離は大きくなります。

一方、南極へ近づくほど、同じ10度の経度差でも、左右方向の距離は小さくなります。

もしダウンブローが深くなることで、実効コンタクトポイントがボール下部へ移るなら、同じフェース開度であっても、ボール重心から見た左右方向の作用腕は短くなります。

つまり、フェース向きの誤差が同じでも、作用位置が下がるほど、左右方向への影響は小さくなると考えられます。

左右方向の作用腕と方向性

ボールが左右へ向きを変えるかどうかは、どれだけ目標方向へ力が加わったかだけではなく、その力がボール中心からどれだけ左右にずれた位置へ加わったかにも関係します。

同じ強さで前へ押されたとしても、その力がボール中心から左右へ大きくずれた位置にかかれば、ボールは前へ飛ぶだけでなく、左右へ向きを変えようとする回転も受けやすくなります。

逆に、同じように前へ押されても、その力がより中心に近い位置へかかれば、左右へ向きを変えようとする作用は小さくなります。

ここで重要なのが、左右方向の作用腕です。

実効コンタクトポイントが下方へ移ると、同じフェース向きの誤差があったとしても、その誤差が左右方向へ及ぼす影響は小さくなります。

つまり、ダウンブローになるほど、同じフェース誤差が左右方向の回転や方向変化として現れにくくなる可能性があります。

プロがピンを狙うときにダウンブローを使う理由

プロゴルファーは、ピンを狙うショットで、払い打つよりも、適正なダウンブローでボールを捉えることがあります。

一般には、

  • ボールを圧縮するため
  • スピンを増やすため
  • ターフを取るため
  • ロフトを立てて距離を管理するため

と説明されます。

もちろん、これらも無関係ではありません。

しかし、プロが求めているのは最大飛距離ではありません。

ピンを狙う場面で必要なのは、

  • ボールスピードを揃える
  • 打ち出し角を揃える
  • スピン量を揃える
  • 左右の方向を揃える
  • キャリーを揃える

ことです。

プロは経験的に、クラブを適正なダウンブローで入れた方が、ボールの出力を安定させやすいことを知っています。

その理由の一つとして、

実効コンタクトポイントがボール下部へ安定し、左右方向の作用腕が短くなるため、方向への感度が下がる

という構造が考えられます。

プロが「ラインを出す」と表現する打ち方は、単に低い球を打つことではないのでしょう。

フェースの開閉量を抑え、インパクトロフトと打点を管理し、ボールへ力を加える位置と方向を揃える。

その結果として、打ち出し方向と縦距離の再現性が上がると考えられます。

ダウンブローはスピンを増やすためだけではない

アタックアングルを語るとき、多くの説明はスピンロフトへ向かいます。

ダウンブローが深くなると、ダイナミックロフトとの差が広がり、その結果としてスピン量が増える、という説明です。

これはクラブ側の角度関係としては有用です。

しかし、ボール側から見ると、それだけではありません。

アタックアングルが変われば、

  • ボールへ向かう進入方向
  • 接触面の圧力分布
  • ボールカバーの変形方向
  • 力が作用する位置
  • 左右方向の作用腕

も変わります。

したがって、ダウンブローは、

スピン量を変える操作

であると同時に、

ボールへ力を加える位置と方向を変える操作

でもあります。

この後者を考えなければ、プロが方向性を求める場面でダウンブローを使う理由は、十分には説明できません。

方向性とは左右だけではない

プロが求める方向性は、単にボールが右へ行くか、左へ行くかだけではありません。

ピンを狙うショットでは、

  • 左右のばらつき
  • キャリーの前後差
  • 打ち出し高さ
  • スピン量
  • ランディング角

まで含めて、狙った空間へボールを運ぶ必要があります。

適正なダウンブローで打点とインパクトロフトが揃えば、

  • ボールスピード
  • 打ち出し角
  • スピン量
  • スピンアクシス

も揃いやすくなります。

その結果、左右方向だけでなく、縦距離も安定します。

つまり、プロが求めている方向性とは、

二次元の直進性ではなく、三次元空間における弾道の再現性

です。

深ければ深いほどよいわけではない

ただし、アタックアングルが深いほど、無条件に方向性がよくなるわけではありません。

過度に深くなれば、

  • フェース下部すぎる打点
  • ボールスピードの低下
  • スピン過多
  • リーディングエッジの刺さり
  • ヘッドの急減速
  • ターフや芝の介在
  • 距離のばらつき

が起こります。

必要なのは、最大のダウンブローではありません。

番手、ロフト、バンス、ライに対して適正なアタックアングル

です。

プロが行っているのは、ただ上から打ち込むことではありません。

クラブとボールが最も安定して結合する進入条件を作っているのです。

アタックアングルは原因なのか、入力条件なのか

弾道計測器には、アタックアングルが何度だったか表示されます。

しかし、その角度が直接ボールを真っすぐ飛ばしたわけではありません。

ボールが受け取ったのは、

  • 接触位置
  • 圧力分布
  • 力の向き
  • 力の大きさ
  • 回転の受け取り方

です。

アタックアングルは、それらを作るクラブ側の入力条件です。

したがって、

ダウンブローだから方向性がよい

というより、

ダウンブローによって、方向性が安定しやすい接触条件が作られた

と考えた方が正確です。

見える進入角と、見えない作用点

クラブヘッドが何度下向きに進んでいたかは、現在の計測器で確認できます。

しかし、その進入角によって、

  • ボール上の圧力中心がどこへ移ったのか
  • ボールカバーがどの方向へ変形したのか
  • 左右方向の作用腕がどれだけ変化したのか
  • ボールがどのような回転を受け取ったのか

は直接には見えません。

見えているのは、アタックアングルというクラブ側の数値です。

見えていないのは、その数値によって作られた、ボール側の接触状態です。

しかし、ボールを中心に考えることで、その見えない部分を推測することはできます。

プロがピンを狙う場面でダウンブローを使うのは、単なる習慣ではないのでしょう。

長年の経験から、

その進入条件の方が、ボールへ力を加える位置と方向を揃えやすい

ことを知っているのかもしれません。

次回は、番手が変わると、ロフト、アタックアングル、バンスがどのように組み合わされ、フェース上の打点とボール側のコンタクトポイントを整えているのかを考えます。

帝王の言葉 第8話 帝王が守ろうとしているもの

ここまで、ジャック・ニクラスの発言を起点に、現代ゴルフが抱える問題を考えてきました。

ニクラスは、現在のPGAツアーの日程について、重要な大会が短期間に集中しすぎていると懸念を示しました。

大きな大会が連続すれば、トップ選手はすべての試合へ万全な状態で出場することができません。

その結果、一部の大会へ選手と注目が集中し、それ以外の大会は存在感を失っていきます。

また、ボールのロールバックについても、トッププロで十数ヤード程度の飛距離低下では問題を解決できないとして、

「タイタニック号からデッキチェアを投げ捨てるようなもの」

と表現しました。

これらを別々の発言として読めば、一方は日程問題、もう一方は飛距離問題です。

しかし、ここまで考えてきたことを重ねると、二つの発言は同じ問題へつながっているように見えます。

それは、現代のゴルフ界が、

何をゴルフの価値として残そうとしているのか

という問題です。

高額賞金大会へトップ選手を集中させる。

大観衆を収容できるスタジアムコースを使う。

飛距離が映える広いコースを用意する。

300ヤードを超えるドライバーショットや、パー5の2オンを見せ場として売る。

こうした興行は、非常に分かりやすいものです。

しかし、その一方で、各大会が持っていた固有の価値が薄れていきます。

狭いコース。

短いコース。

風の強いコース。

木によって射線が限定されるコース。

地面の硬さや傾斜を使わなければ、ボールを止められないコース。

それぞれ異なる能力を選手へ要求するからこそ、ツアーには多様性がありました。

ところが、大会の価値を賞金額と出場選手の顔ぶれだけで決めるようになれば、開催コースが選手へ何を問うのかは、二次的なものになります。

その結果、高額大会に選ばれなかった大会だけでなく、そこで行われてきたゴルフそのものまで評価されなくなります。

ニクラスがコグニザント・クラシックを例に挙げた意味も、ここにあるのではないでしょうか。

単に、自分に縁のある大会へトップ選手を集めてほしいという話ではありません。

PGAナショナルというコースが選手へ与える課題。

地域大会として積み重ねてきた歴史。

ほかの大会とは違うゴルフを見せる価値。

それらが、賞金額による序列の中で埋もれてしまうことへの懸念だったのかもしれません。

ニクラスは飛距離を否定しているのか

ニクラス自身は、全盛期に圧倒的な飛距離を持つ選手でした。

したがって、彼が飛距離の価値を否定しているとは考えられません。

しかし、ニクラスの強さは、単に遠くへ飛ばしたことではありませんでした。

どこへ打つのか。

どの高さで打つのか。

どの方向へ曲げるのか。

どこへ着弾させるのか。

どのミスを避けるのか。

ピン位置から逆算して、ボールをコントロールする能力があったからこそ、帝王と呼ばれる成績を残したのです。

飛距離は、彼の技術の一部でした。

しかし、飛距離が他の技術を必要としなくするほど、無条件の利益ではありませんでした。

飛距離のある選手であっても、その飛距離をどこで使うのかを問われました。

飛ばしすぎれば、悪い位置へ入る。

方向を間違えれば、グリーンへの射線を失う。

残り距離が短くても、悪い角度からはピンの周辺へボールを止められない。

そのようなコースの中で、飛距離をコントロールできたことが、ニクラスの強さだったはずです。

ベン・ホーガンも同じです。

ホーガンは、サム・スニードほど飛ぶ選手ではありませんでした。

それでも、飛距離を追うのではなく、ドローからフェードへ持ち球を変え、曲がり幅と停止地点を管理することで大きな成功を収めました。

ホーガンやニクラスが証明したのは、パワーが不要だということではありません。

パワーは、コントロールの中に置かれて初めてゴルフの技術になる

ということです。

守ろうとしているのは、昔のゴルフではない

ニクラスの発言を、昔のゴルフを懐かしむ老人の言葉として片づけることは簡単です。

しかし、彼が守ろうとしているのは、昔の飛距離や古い用具ではないでしょう。

飛ばないボールへ戻せばよい。

木製のクラブへ戻せばよい。

選手のフィジカルトレーニングを制限すればよい。

そのような話ではありません。

技術が進歩することは当然です。

選手が強くなり、クラブやボールの性能が高まることも、スポーツの発展の一部です。

しかし、競技側がその進歩に対して、ただコースを長くするだけでは、飛距離のある選手をさらに有利にします。

ボールを十数ヤード飛ばなくするだけでも、全員が同じだけ後ろへ下がるだけで、飛距離の相対的な優位は残ります。

必要なのは、昔へ戻ることではありません。

現代の技術を前提にしながら、飛距離、方向性、距離管理、球筋、判断力を、もう一度コースが評価できるようにすることです。

飛ばした方が有利なホールがあってもよい。

距離を抑えた方が有利なホールがあってもよい。

空中から高い球で止める方法があってもよい。

地面を使って転がし、止める方法があってもよい。

一つの正解だけではなく、異なる能力を持つ選手に、異なる攻略法が残されていることが重要です。

商業が競技を支えるのか、競技を変えるのか

メーカー、メディア、PGAツアーにとって、飛距離は売りやすい価値です。

数字で表せる。

映像で伝わる。

新しいクラブやボールの購入理由になる。

観客も、一目で凄さを理解できます。

しかし、売りやすいからという理由で、飛距離だけをゴルフの中心に置けば、競技の方が商品に合わせて変えられていきます。

本来は、優れたゴルフをどのように見せるかを考えるべきでした。

ところが、

売りやすいゴルフとは何か。

盛り上がりやすいゴルフとは何か。

商品を買ってもらえるゴルフとは何か。

という発想が先に立ち、それに合わせてコースや選手の評価まで変わってしまいました。

商業がゴルフを支えるのではなく、商業がゴルフの形を決めるようになったのです。

ニクラスが現在のツアーへ示した違和感は、その主従の逆転に対するものではないでしょうか。

大会の価値は、賞金額だけで決まるのか。

選手の価値は、飛距離だけで決まるのか。

コースの価値は、大観衆を収容できるかどうかで決まるのか。

ゴルフの価値は、すぐに理解できる派手な映像だけで決まるのか。

帝王は、ゴルフ界へその問いを投げかけているように思えます。

帝王の言葉を聞き入れられるのか

PGAツアーが最初に取り組むべきなのは、ボール規制だけではありません。

まず、自らの大会で使用するコース設定を変えることです。

飛距離がそのまま残り距離の短さへ変換され、短いクラブによって簡単にボールを止められる設定を見直す。

フェアウェイの中に、正しい位置と間違った位置を作る。

飛ばした先からは、ピンの周辺へ止めにくくする。

グリーンへの進入角度と、使える着弾地点を重視する。

観客をホールの両側へ並べ、ミスショットを救う構造も改める。

現代のドローン、弾道追尾、大型ビジョンを使えば、観客を特定の観戦エリアへ集めながら、ホール全体の戦略を見せることができます。

観客をコースへ近づけるのではなく、コースと選手の判断を映像で観客へ届ける。

技術は、コースを簡単にするためではなく、ゴルフの複雑さを伝えるために使うべきです。

そしてメーカーやメディアも、飛距離以外の技術を伝えなければなりません。

なぜ、そのクラブを選んだのか。

なぜ、20ヤード短く打ったのか。

なぜ、フェアウェイの左側を狙ったのか。

なぜ、ピンではなくグリーン手前へボールを落としたのか。

それを説明できれば、ターゲットゴルフも十分に観客を魅了できます。

飛距離だけが、ゴルフの見せ場ではありません。

ゴルフは、問題を解き続ける競技

ゴルフでは、人間の身体が作った力を、長いクラブによって増幅してボールへ伝えます。

わずかな狂いが、大きな結果の違いを生みます。

どれほど優れた選手でも、すべてのショットを完全には再現できません。

だからこそ、起きた結果を受け入れ、次に与えられた問題を解かなければなりません。

そして、目の前の一打を成功させるだけでなく、次の問題を少しでも簡単にする場所へボールを運ぶ。

この連続がゴルフです。

ゴルフは、完璧なショットを並べる競技ではありません。

不完全な結果の中から、判断と技術によって最善の答えを探し続ける競技です。

コースは、その能力を人間の主観的な採点を使わずに評価してきました。

ところが飛距離が常に正解になれば、コースが出す問題は単純になります。

どれだけ前へ出せるのか。

それだけでは、ゴルフが持つ多面的な評価機能は失われてしまいます。

帝王が守ろうとしているのは、昔のゴルフではありません。

異なる能力を持つ選手が、それぞれの技術と判断によって問題を解き、それぞれの方法で勝つことのできるゴルフです。

ジャック・ニクラスの言葉を、ゴルフ界は聞き入れることができるのでしょうか。

それとも、これからも飛距離、賞金、観客数という分かりやすい数字だけを追い続けるのでしょうか。

その選択によって、ゴルフがこれからも総合的な技術を問う競技であり続けるのか。

あるいは、最大出力を競うだけのスポーツへ近づいていくのかが決まります。

ニクラスが投げかけた問いに答えるのは、帝王自身ではありません。

PGAツアー。

メーカー。

メディア。

そして、私たちゴルファーです。

見えないものを見る 第4話 ロフトが増えると、なぜスピンアクシスは傾きにくくなるのか

第3話では、ロフトが大きくなるほど、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなる可能性を考えました。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。

一方、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。

その結果、ボールを左右へ向けるz軸まわりのトルクも小さくなりやすい。

これが、ロフトが増えるほど直進性が高くなる一つ目の理由でした。

しかし、ロフトが大きいクラブの直進性には、もう一つ重要な理由があります。

それが、スピンアクシスです。

ボールは「バックスピン」と「サイドスピン」に分かれて回っているわけではない

ゴルフでは、よく、

  • バックスピン
  • サイドスピン

という言葉が使われます。

しかし、実際のボールが二つの別々の回転をしているわけではありません。

ボールは、一つの軸を中心に回転しています。

その軸が地面に対して水平に近ければ、回転はほぼ純粋なバックスピンになります。

一方、その軸が左右へ傾けば、ボールには横方向の空力が加わり、弾道が曲がります。

つまり、ボールの曲がりを考えるときに重要なのは、

横回転が何回転あるか

というより、

ボールの回転軸がどれだけ傾いているか

です。

この回転軸を、スピンアクシスと呼びます。

スピンアクシスは、回転成分の比で決まる

ボールの回転を単純化して考えると、

  • バックスピン方向の成分
  • 横方向の回転成分

に分けることができます。

スピンアクシスの傾きは、概念的には、この二つの比で決まります。

バックスピン成分を (\omega_{\text{back}})。

横方向の回転成分を (\omega_{\text{side}})。

スピンアクシスの傾きを (\theta) とすれば、

\tan^{-1}
\left(
\frac{\omega_{\text{side}}}
{\omega_{\text{back}}}
\right)
]

と表せます。

ここで重要なのは、スピンアクシスの傾きは、横方向の回転成分だけでは決まらないことです。

同じ横方向の回転成分が存在していても、バックスピン成分が大きければ、軸の傾きは小さくなります。

逆に、バックスピン成分が小さければ、少しの横方向成分でも、軸は大きく傾きます。

同じ500回転でも、意味は同じではない

たとえば、横方向の回転成分が500rpmだったとします。

バックスピンが2,000rpmなら、

となり、スピンアクシスの傾きは約14度です。

一方、バックスピンが5,000rpmなら、

となり、傾きは約6度です。

さらに、バックスピンが8,000rpmなら、傾きは約4度まで小さくなります。

横方向の回転成分は、すべて同じ500rpmです。

しかし、バックスピン量が違うだけで、スピンアクシスの傾きは大きく変わります。

つまり、

横方向の回転が同じ量だけ生じても、総スピンの中で占める割合が違えば、ボールの曲がり方は同じではない

ということです。

ロフトが大きいほど、バックスピン成分が強くなる

一般に、ロフトが大きいクラブほど、ボールには大きなバックスピン成分が与えられます。

もちろん、実際のスピン量は、

  • ボールスピード
  • ダイナミックロフト
  • アタックアングル
  • 打点
  • ボールカバー
  • フェースとボールの摩擦状態

によって変化します。

しかし、ほかの条件が大きく変わらなければ、ロフトの大きいクラブほど、回転ベクトルのうちバックスピン方向の成分は大きくなります。

そのため、同じ大きさの横方向成分が生じても、スピンアクシスは傾きにくくなります。

低ロフトのドライバーでは、総スピン量が少ないため、少しの横方向成分でも、スピンアクシスは大きく傾きます。

一方、ロフトの大きいアイアンやウェッジでは、バックスピン成分が大きいため、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きは小さくなります。

これが、高ロフトクラブほど曲がりにくく見える理由の一つです。

直進性には二つの段階がある

ここまでの話を整理すると、ロフトが大きくなることで直進性が上がる理由は、二段階あります。

一つ目は、インパクト時の問題です。

ロフトが大きくなると、同じフェース開度でも、ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位が小さくなります。

その結果、左右方向へ回そうとする作用腕が短くなり、z軸まわりのトルクが小さくなりやすい。

つまり、

そもそも横方向の回転成分を生みにくくなる

ということです。

二つ目は、ボールが飛び出した後の問題です。

仮に横方向の回転成分が生じても、ロフトが大きいクラブでは、バックスピン成分が大きくなります。

そのため、横方向成分の割合が小さくなり、スピンアクシスの傾きも小さくなります。

つまり、

生じた横方向成分が、弾道の曲がりとして現れにくくなる

ということです。

高ロフトクラブは、

  • 横方向の回転を作りにくい
  • 作られた横方向の回転も、軸の傾きとして現れにくい

という二重の構造を持っています。

ドライバーとウェッジでは、同じフェース誤差でも結果が違う

たとえば、ドライバーとウェッジで、フェースとパスの関係に同じ大きさの誤差があったとします。

クラブ側の角度差だけを見れば、同じ誤差です。

しかし、ボール側では結果が異なります。

ドライバーでは、

  • ロフトが小さい
  • 左右方向のコンタクト偏位が大きくなりやすい
  • 総スピン量が少ない
  • 横方向成分の割合が大きくなりやすい
  • スピンアクシスが大きく傾きやすい

という条件が重なります。

一方、ウェッジでは、

  • ロフトが大きい
  • 左右方向のコンタクト偏位が小さくなりやすい
  • バックスピン成分が大きい
  • 横方向成分の割合が小さい
  • スピンアクシスが傾きにくい

という条件になります。

つまり、同じクラブ側の角度誤差でも、

ボールにとっての意味は同じではない

ということです。

ここでも、見えている角度だけで現象を判断することの限界が見えてきます。

スピンアクシスは原因ではなく、結果である

弾道計測器には、スピンアクシスが何度傾いたか表示されます。

しかし、スピンアクシスがボールを曲げた原因なのでしょうか。

より正確には、スピンアクシスは、

  • ボールのどこに力が加わったか
  • どの方向のトルクが生じたか
  • バックスピン方向と横方向へ、どのように角運動量が配分されたか

というインパクトの結果です。

つまり、スピンアクシスは、原因そのものではありません。

ボールが受け取った回転ベクトルを、飛び出した後に表したものです。

この違いは重要です。

一般的な説明では、

フェースとパスの差があるから、スピンアクシスが傾いた

とされます。

実用的には、それで弾道を予測できます。

しかし、実際にボールが受けたのは角度差ではありません。

ボールは、フェース角やクラブパスという数字を読み取って回転したのではありません。

ボールのある位置へ、ある方向の力が加わり、その結果として角運動量を受け取りました。

フェースとパスの差は、その接触状態を作るクラブ側の条件です。

スピンアクシスは、そこから生まれたボール側の出力です。

総スピン量だけを見ても、曲がりは分からない

ゴルフでは、スピン量が多い、少ないという話がよくされます。

しかし、総スピン量だけでは、ボールがどれだけ曲がるかは分かりません。

たとえば、総スピンが6,000rpmでも、その軸がほぼ水平なら、弾道は大きく曲がりません。

反対に、総スピンが2,000rpmでも、軸が大きく傾けば、ボールは大きく曲がる可能性があります。

重要なのは、総量だけではなく、

どの方向の回転として配分されたか

です。

スピン量は角運動量の大きさ。

スピンアクシスは、その角運動量の向き。

この二つを合わせて初めて、ボールの空中での動きを考えることができます。

高ロフトクラブの方向性を、ボール側から見る

一般には、ショートアイアンやウェッジの方向性がよい理由として、

  • シャフトが短い
  • スイングが小さい
  • ヘッドスピードが遅い
  • フェース管理がしやすい

と説明されます。

もちろん、これらも重要です。

しかし、ボール側から見ると、さらに二つの理由が加わります。

第一に、ロフトが大きくなることで、同じフェース開度でも、左右方向のコンタクト偏位が小さくなること。

第二に、バックスピン成分が増えることで、同じ横方向成分が存在しても、スピンアクシスの傾きが小さくなること。

つまり、高ロフトクラブは、

インパクト時にも、飛球中にも、左右方向の誤差が拡大しにくい

という構造を持っている可能性があります。

直進性とは、曲がらないことだけではない

ここでいう直進性とは、単に空中でボールが曲がらないことだけではありません。

  • 初期方向が大きくずれない
  • スピンアクシスが大きく傾かない
  • 横方向の空力が小さい
  • 狙った範囲に着弾しやすい

という一連の安定性です。

ロフトが大きいクラブでは、

まず、コンタクトポイントの左右方向の偏位が小さくなり、初期方向への影響が抑えられる。

さらに、バックスピン成分が大きくなることで、スピンアクシスの傾きも抑えられる。

その結果、打ち出しから着弾まで、左右方向への誤差が拡大しにくくなります。

見えるスピンと、見えない力の配分

弾道計測器には、

  • 総スピン量
  • スピンアクシス
  • 曲がり幅

が表示されます。

しかし、それらはすべて、インパクト後にボールへ残った結果です。

その前に、

  • ボールのどこへ接触したのか
  • どの方向へ力が加わったのか
  • どの方向の角運動量が作られたのか
  • バックスピン成分と横方向成分へ、どのように配分されたのか

という見えない過程があります。

スピンアクシスを見るということは、単に結果の角度を見ることではありません。

その角度の背後で、ボールがどのような力を受け取ったのかを考えることです。

次回は、ロフトというフェース姿勢だけでなく、クラブヘッドの進入方向、つまりアタックアングルが変わると、ボール側の実効コンタクト位置と方向性がどのように変化するのかを考えます。

プロがピンを狙う場面で、なぜダウンブローを強めることがあるのか。

その理由を、スピン量だけではなく、ボール重心に対する作用点とトルクから見直していきます。

天晴!PING GOLF JAPAN

普段は、

「それ、何を言っているんですか?」

と、メーカーのマーケティングに突っ込むことが多い店長です。

しかし今回は、褒めなくてはなりません。

昨年末、i240の日本仕様をコースで試打しました。

打った瞬間に感じたのは、

これは、かなり完成度の高いアイアンだぞ。

ということでした。

ヘッドはコンパクトで、構えた姿は競技志向。

それでいて、必要以上に難しくありません。

ボールはしっかり上がり、飛距離も出る。

そして何より、グリーン上でボールを止められる。

ところが、価格の影響もあるのでしょうか。

実際のマーケットからは、それほど大きな反応を感じません。

MYGOLFSPYの総合評価では目立たない

しかし、ここで少し評価軸を変えてみます。

競技ゴルファーがアイアンに本当に求めるものは何でしょうか。

単純な飛距離でしょうか。

それとも、ヘッドの見た目や打感でしょうか。

もちろん、それらも重要です。

しかし、競技でスコアを作るために欠かせないのは、

狙った距離を打ち、グリーン上でボールを止めること

です。

つまり、ストッピングパワーです。


ストッピングパワーで見ると、i240は別格

MYGOLFSPYのテストデータから、

  • スピン量
  • 最高到達点
  • 落下角
  • キャリーとトータル飛距離の差

を総合して見ると、ストッピング性能の上位は次のようになります。

  1. PING i240
  2. Takomo 201T MKII
  3. Titleist T100
  4. Ballistic CB
  5. Wilson Staff Model CB

i240の7番アイアンは、

項目 テスト結果
ロフト角 33°
キャリー 156.77yd
スピン量 6,170rpm
最高到達点 29.1m
落下角 46.98°
推定ラン 4.96yd

という結果です。

スピン量、最高到達点、落下角、着弾後のラン。

すべてが、今回のテストでトップクラスです。

しかもこれは、単にマッスルバックのようにロフトを寝かせ、スピンを増やした結果ではありません。

33°の7番アイアンでありながら、マッスルバックを上回るほどのストッピング性能を出しています。

PINGが公式に説明しているとおり、i240は低重心化によって高い打ち出しを生み、MOIを高めながら、グリーン上でボールを止めることを狙った設計です。

ただし、このテストはUS仕様

ここで重要なのは、MYGOLFSPYがテストしたのはUS仕様だということです。

US仕様のi240は、7番アイアンが標準で33°。

一方、日本仕様の標準ロフトは31.5°です。

仕様 7番アイアンのロフト
US標準仕様 33°
日本標準仕様 31.5°

USでは31.5°がPower Specとして用意されていますが、日本では、その31.5°が標準仕様として採用されています。

つまり日本仕様は、US仕様より1.5°ロフトを立てることで、飛距離性能を加えた仕様になっています。


日本仕様ではどうなるのか

もちろん、ロフトを33°から31.5°へ変更した場合の正確な数値は、同じテスター、同じボール、同じ打点条件で再計測しなければ分かりません。

それでも一般的な弾道変化から推定すると、おおよそ次のようになります。

項目 33°実測値 日本仕様31.5°の推定
ボール初速 50.4m/s 50.6~50.9m/s
キャリー 156.77yd 160~162yd
トータル 161.73yd 166~168yd
打ち出し角 20.43° 19.2~19.7°
スピン量 6,170rpm 5,700~5,950rpm
最高到達点 29.1m 28.0~28.7m
落下角 46.98° 45.6~46.3°
推定ラン 4.96yd 5.5~6.2yd

ロフトが立つため、スピン量と落下角は少し減少すると考えられます。

その代わり、

  • ボール初速が上がる
  • キャリーが約3~5yd伸びる
  • トータル飛距離も伸びる

という変化が見込まれます。

重要なのは、ロフトを1.5°立てても、推定落下角は45°を超え、スピン量も5,700~5,950rpm程度を維持できる可能性が高いことです。

つまり、日本仕様のi240は、

飛距離が出るだけのストロングロフトアイアンではありません。

飛距離を増やしながら、

  • 十分な高さが出る
  • 十分なスピンが入る
  • 十分な落下角が確保される
  • グリーン上でボールを止められる

という、競技アイアンとして必要な条件を残していると考えられます。


「飛ぶ」ではなく、「飛んで止まる」

多くの日本仕様アイアンは、ロフトを立てることで飛距離を作ります。

しかし、その結果として、

  • 打ち出しが低くなる
  • スピンが減る
  • 落下角が浅くなる
  • グリーンで止まりにくくなる

という問題が生じることがあります。

i240の日本仕様が面白いのは、元となるUS仕様に、十分すぎるほどの高さとスピン、落下角があることです。

その余裕を使ってロフトを1.5°立てる。

すると、ストッピング性能を完全には失わずに、日本のゴルファーが求める飛距離を加えることができます。

言い換えれば、

US仕様の余裕を、日本仕様では飛距離へ変換した

ということです。

31.5°という数字だけを見れば、競技志向アイアンとしては強めのロフトです。

しかし、低重心設計によって高さを出し、スピンと落下角を残すことができれば、単なるロフト商法ではありません。

飛んで、上がって、止まる。

店長がコースで感じた完成度の高さは、このバランスから生まれていたのだと思います。


今回は、PING GOLF JAPANのマーケティングの勝利

普段の店長なら、

「日本仕様だけロフトを立てて、飛距離を大きく見せただけでは?」

と疑うところです。

しかし、今回のi240は少し違います。

US仕様には、もともと圧倒的なストッピング性能があります。

その性能を土台として、日本仕様ではロフトを31.5°に設定。

ストッピング性能に多少の余裕を残しながら、飛距離を加えています。

これは、

止まる性能を削って飛距離を作ったのではなく、止まる性能の余裕を飛距離へ振り分けた

と見ることができます。

日本のゴルファーが求める飛距離。

競技ゴルファーが求める高さ、スピン、落下角。

その両方を狙った仕様です。

……認めたくはありませんが。

今回は、

PING GOLF JAPANのマーケティングの勝利です。

うぐぐぐぅ……。負けた!

コースでは3番アイアンも試打しています。

ロフトは19度、昔でいうと2番アイアンです。流石に立って見えますが、打ってみると高さが出て、ちゃんと飛んでいくんですよ。

帝王の言葉 第7話 ゴルフは、いつから陸上競技になったのか

前回は、メーカーとメディアが飛距離を商品として売り、それに合わせてゴルフの価値観まで変わっていった可能性を考えました。

今回は、そもそもゴルフとは、どのような競技だったのかを考えてみます。

ゴルフには、体操やフィギュアスケートのような採点競技とは大きく異なる特徴があります。

スイングが美しいか。

球筋が芸術的か。

難しいショットを打ったか。

それを審判が点数にする必要はありません。

狙った場所へボールを運び、最終的に何打でホールアウトしたか。

その結果だけで勝敗が決まります。

しかし、これはゴルフが単純な競技だという意味ではありません。

むしろゴルフは、審判の主観を使わずに、非常に多くの技術を評価できる競技でした。

飛距離。

方向性。

距離感。

弾道の高さ。

球筋の打ち分け。

風への対応。

傾斜への対応。

クラブ選択。

ミスを避ける判断。

そして、ボールを狙った場所へ止める能力。

それらをコースそのものが問い、最終的な打数として答えを出します。

コースが採点者だったのです。

正しい場所へティーショットを置けば、次のショットが打ちやすくなる。

間違った側へ打てば、木やバンカーによってピンを狙えなくなる。

飛距離を抑えて平らな場所へ置くのか。

多少の危険を承知で、さらに前へ出すのか。

選手の判断と技術が、次の課題を変えていきます。

つまりゴルフは、1打ごとに試験問題が変わる競技です。

しかも、その問題を作るのは選手自身です。

ティーショットをどこへ打ったかによって、次のショットの難易度が決まる。

セカンドショットをどこへ外したかによって、アプローチの難易度が決まる。

判断と結果が連続し、最後の打数へつながります。

これが、ゴルフという競技の大きな特徴だったはずです。

ところが、飛距離が常に利益へ変換されるようになると、この評価装置は単純化されます。

できるだけ遠くへ飛ばす。

残り距離を短くする。

短いクラブを持つ。

高い球でピンの近くへ止める。

この方法がほとんどのホールで正解になれば、選手が考える必要は少なくなります。

もちろん、遠くへ正確に飛ばすことも高度な技術です。

しかし、その能力が他の技術を大きく代替するようになると、ゴルフは多面的な競技ではなくなります。

飛距離があれば、長いクラブを使う技術を減らせる。

飛距離があれば、低い球を転がして止める技術を使わなくてもよい。

飛距離があれば、フェアウェイの細かな位置よりも、残り距離の短さを優先できる。

つまり、最大出力によって試験問題そのものを簡単にできるのです。

ここまで来ると、ゴルフは陸上競技に近づいていきます。

誰が最も速く走れるか。

誰が最も遠くへ投げられるか。

誰が最も高く跳べるか。

陸上競技は、身体能力を純粋に測るという意味で、非常に完成された競技です。

しかし、ゴルフは本来、それとは違いました。

身体能力だけでなく、判断、精度、距離管理、球筋、地形の利用を組み合わせる競技でした。

飛距離がない選手でも、別の能力によって勝つことができました。

サム・スニードほど飛ばなかったベン・ホーガンが、ボールコントロールによって勝つことができた。

ツアー屈指のロングヒッターではなかったコリー・ペイビンやジム・フューリクが、全米オープンを制することができた。

それは、当時のコースが、異なる能力を持つ選手に異なる勝ち方を残していたからです。

この違いは重要です。

飛距離のない選手にも勝つ道があるということは、飛距離の価値が低いという意味ではありません。

飛距離以外の能力にも、同じように勝敗を変える力があったということです。

しかし現在は、まず一定以上の飛距離を持っていなければ、ほかの技術を評価される段階まで進みにくくなっています。

高いコントロール技術を持っていても、長いクラブで硬いグリーンを狙わなければならない。

飛距離のある選手は、多少位置を外しても、短いクラブで同じグリーンを狙える。

同じホールをプレーしていても、実際には違う難易度の試験を受けています。

では、飛距離のない選手の技術が落ちたのでしょうか。

そうではないでしょう。

弾道計測器。

スイング解析。

クラブフィッティング。

コースデータ。

フィジカルトレーニング。

現代の選手は、過去よりも多くの情報と技術を持っています。

それでも飛距離のない選手が勝ちにくくなったのであれば、変わったのは選手ではありません。

競技が、どの能力を評価するかです。

本来のゴルフでは、コースが選手へ複数の問いを投げかけていました。

どこへ運ぶのか。

どの球筋を使うのか。

どこまで飛ばすのか。

どの場所からなら、次のボールを止められるのか。

しかし現在は、その多くが一つの問いへ集約されつつあります。

どれだけ前へ出せるのか。

これでは、ゴルフが持っていた精密な評価機能が失われます。

人の採点を必要とせず、コースそのものが多様な技術を評価する。

それがゴルフの優れたところでした。

ところが、飛距離だけが強く報われるコースでは、コースは採点者として十分に機能しません。

ゴルフが陸上競技に近づいたというのは、選手が筋力をつけたからではありません。

競技側が、最大出力を最も重要な評価項目にしてしまったからです。

戻すべきなのは、昔の飛距離ではありません。

飛距離のある選手にも、飛距離のない選手にも、それぞれ異なる方法で正解へたどり着けるコースです。

飛距離を使う。

位置を選ぶ。

角度を作る。

地面を使う。

球筋を変える。

それらの能力を、コースがもう一度平等に問い直す必要があります。

ゴルフは、誰が最も遠くへ飛ばせるかを測る競技ではありません。

誰が最も適切な方法で、ボールを目的地へ止められるかを測る競技です。

さらにゴルフでは、人間の身体が生み出した力を、クラブという長い道具を通して増幅し、ボールへ伝えます。

そのため、ほんのわずかなタイミングやフェース向きの狂いが、打ち出す方向、球筋、飛距離、着弾地点に大きな違いを生みます。

どれほど優れた選手でも、すべてのショットを完全に再現することはできません。

大切なのは、ミスを完全になくすことではありません。

起きた結果を受け入れ、そこから与えられた次の問題を工夫して解くことです。

そして可能であれば、目の前の一打を成功させるだけでなく、次に与えられる問題が少しでも簡単になる場所へボールを運ぶ。

ティーショットでは、次のショットを打ちやすい場所を選ぶ。

グリーンを外すなら、アプローチしやすい側へ外す。

ピンを直接狙えないなら、ボギーではなくパーを残せる場所へ運ぶ。

ゴルフでは、一打ごとの結果が、次の問題の難易度を変えていきます。

だからこそ、ゴルフは単なる動作の正確性を競うスポーツではありません。

不完全な結果を受け入れながら、判断と技術によって次の一打を組み立て直す競技です。

ここに紹介する動画も、そのことを考えるうえで参考になると思います。

次回は、このシリーズの出発点となったジャック・ニクラスの言葉へ戻ります。

帝王が本当に守ろうとしているものは、昔のゴルフなのでしょうか。

それとも、異なる技術を持つ選手が、それぞれの方法で勝つことのできるゴルフなのでしょうか。

シリーズの結論として考えてみます。

SCOTTSDALE TEC のドット

緊急投稿です。

以前の担当の営業さんとSCOTTSDALE TECについて、かなりいいパターだよと言っていたら。

私はそれに加えて、BSさんの限定ボールを使ってますからと聞かされ、気を失いそうにになりました。ドットが2つあるのでどちらを見たらいいのか悩みますとも付け加えてくれました。

どうも、フェースぎりぎりのところにドットがあるのかわかっていないようでしたのでマーケさんの代わりに説明しておきました。

ちょうどSCOTRSDALE TECのドットの位置は円の接線の接点になります。この時、フェースが正しく目標に向いているとします。つまりドットはボールの中心を通り、目標に完全に向いています。そのドットに集中して、ストローク中ドットが構えた位置にあるとして、その点でインパクトすると、必ずストロークパスがインサイドアウトであろうと、アウトサイドインであろうと、また、フェースが開いて閉じたとしても、インパクトのフェースの向きは必ず目標にスクエアです。

中学校で、円の中心を O、円周上の接点を P、その点での接線を とすると、

OP⊥l

ですと習ったでしょ。つまり、

接点へ引いた半径は、その点の接線に必ず垂直になる

という性質があるんだからと説明しました。

ストロークがどうであれ、目標に向かって打ち出されるんだよ説明しました。

そうしたら、彼は、ボールのドットを見ええるか見えない位置して目標の反対側に合わせればいいんですねと。

おおそうきたか!

一理あるので、それに関しては否定しませんでした。

私も以前はそうだったんですが、パターの動きを目で追う癖のある人はそれを直して試してくださいね。

見えないものを見る 第3話 ロフトが増えると、なぜ直進性が上がるのか

第2話では、クラブのフェース向きだけを見るのではなく、球体であるボールのどこへ接触したのかを考えました。

ボールの重心を原点に置き、左右方向をx軸、上下方向をz軸として考えると、同じフェース開度であっても、ロフトによってコンタクトポイントの位置は変わります。

低ロフトのクラブでは、フェース向きの変化が、ボール重心から見た左右方向のズレとして大きく現れます。

一方、ボールウッドの実験の結果がそうであったように、ロフトが大きくなるほど、その左右方向のズレは小さくなります。

この関係を単純化した式で表すと、

となります。

  • (R):ボール半径
  • (L):ロフト
  • (F):フェース開度
  • (x):ボール重心から見た左右方向のコンタクト偏位

フェース開度 (F) が同じであっても、ロフト (L) が大きくなるほど、cos L は小さくなります。

したがって、ボール重心から見た左右方向のズレ (x) も小さくなります。

ここから、ロフトが大きいクラブほど、フェース向きの変化に対する左右方向の感度が下がる理由が見えてきます。

ロフトが増えると、フェースの向きが消えるわけではない

ここで誤解してはいけないのは、

ロフトが増えると、フェース向きの影響がなくなる

ということではありません。

フェースが右を向けば、右方向への影響は残ります。

左を向けば、左方向への影響も残ります。

ただし、その影響がボール重心から見た左右方向へ現れる割合が、小さくなるのです。

ロフトが大きくなると、フェースの向きによって生じる接触位置の変化は、左右方向だけではなく、上下方向にも分配されるようになります。

つまり、

ロフトが増えるほど、フェース向きの変化が左右方向へ集中しにくくなる

と考えられます。

これが、高ロフトのクラブほど直進性が高く見える一つの理由です。

ドライバーとウェッジでは、同じ2度でも意味が違う

たとえば、ドライバーとサンドウェッジのフェースが、それぞれ目標に対して2度右を向いていたとします。

クラブ側の測定値だけを見れば、どちらも同じ「2度オープン」です。

しかし、ボール側から見ると、同じ2度ではありません。

低ロフトのドライバーでは、フェース向きの変化がボール重心から見た左右方向の偏位として大きく現れます。

そのため、打ち出し方向も右へ変化しやすくなります。

一方、ロフトの大きいサンドウェッジでは、同じ2度のフェース開度でも、左右方向の偏位は小さくなります。

接触位置の変化は、左右よりも上下方向へ多く配分されます。

したがって、ドライバーとウェッジでは、

同じ2度のフェース開度でも、ボールにとっての意味は同じではない

ということになります。

測定器に表示される角度が同じでも、球体であるボールとの関係は変わるのです。

数字で比較してみる

フェースが5度開いていると仮定します。

ボール半径 (R) はすべて同じなので、左右方向の偏位を比較するためには、

の値を見れば十分です。

おおよその値は次のようになります。

ロフト 左右方向の偏位を示す係数
10度 0.0858
20度 0.0819
30度 0.0755
40度 0.0668
50度 0.0560
60度 0.0436

ロフト10度と60度を比べると、同じ5度のフェース開度でも、左右方向の偏位はほぼ半分になります。

フェースの開きが半分になったわけではありません。

クラブ側の角度は同じです。

しかし、ボール重心から見た左右方向への作用は、小さくなっています。

これが、ロフトによってフェース向きの影響率が変化する理由として考えられます。

高ロフトほど真っすぐ飛ぶ、という意味ではない

ただし、

ロフトが大きいクラブなら、必ず真っすぐ飛ぶ

という意味ではありません。

実際の弾道には、ほかにも多くの条件が関係します。

  • クラブパス
  • フェース上の打点
  • トウ・ヒール方向のズレ
  • ライ角
  • アタックアングル
  • ヘッド重心
  • ギア効果
  • 芝や水分の介在

これらが加われば、高ロフトのクラブでも左右へ飛び、曲がります。

ここでいう直進性とは、

同じフェース開閉量に対して、左右方向の出力変化が小さくなる

という意味です。

高ロフトになるほど、フェース向きに対する左右方向の感度が下がる。

その結果として、低ロフトのクラブよりも、左右方向への変化が小さく見えるのです。

なぜショートアイアンは方向が安定しやすいのか

一般に、ロングアイアンよりショートアイアンの方が、方向を合わせやすいと感じる人は多いでしょう。

これまでは、

  • シャフトが短いから
  • ヘッドスピードが遅いから
  • ロフトが大きいから
  • スイングが小さくなるから

と説明されてきました。

もちろん、それらも影響します。

しかし、ボール側から見ると、もう一つ理由があります。

ロフトが大きくなることで、同じフェース向きの誤差が、ボール重心から見た左右方向へ現れにくくなるからです。

つまり、ショートアイアンやウェッジは、単に扱いやすいのではなく、

球体であるボールに対して、左右方向の誤差が大きく伝わりにくい幾何学的な条件を持っている

と考えられます。

フェース向きは原因なのか、条件なのか

一般的な飛球理論では、ボールの打ち出し方向は、主にフェース向きによって決まると説明されます。

実用上、この説明は有効です。

しかし、今回のようにロフトによって影響率が変わることを考えると、フェース向きを単独の原因として扱うことには疑問が残ります。

もし、フェース向きそのものがボール方向を直接決めているなら、同じフェース角の変化は、ロフトが変わっても同じように作用するはずです。

しかし、実際にはそうなりません。

ロフトが変わることで、ボール球面上のコンタクトポイントが変わる。

ボール重心から見た左右方向の偏位が変わる。

その結果、ボールへ加わる力の方向と配分も変わる。

つまり、フェース向きは、

ボールの飛び方を単独で決める原因

というより、

ボール上の接触位置と力の方向を決める条件の一つ

と考えた方が、現象を説明しやすくなります。

直進性はクラブ側だけでは決まらない

クラブを正面から見れば、フェースが何度開いているかは測定できます。

しかし、ボール側から見れば重要なのは、

  • そのフェースがボールのどこへ接触したか
  • ボール重心からどの方向へずれていたか
  • どの方向へ力が加わったか

です。

低ロフトでは、フェース向きの変化が左右方向の偏位として大きく現れる。

高ロフトでは、その左右方向の偏位が小さくなり、上下方向への成分が大きくなる。

この構造を考えると、ロフトが増えるほど直進性が上がる理由は、

ロフトそのものがボールを真っすぐ飛ばすから

ではなく、

同じフェース向きの誤差が、ボール重心から見た左右方向へ伝わりにくくなるから

と説明できます。

見える角度と、見えない作用

弾道計測器には、フェース向きが2度開いていたと表示されます。

その数字は正しいのでしょう。

しかし、その2度がボールにどのように作用したかは、ロフトによって変わります。

見えているのは、クラブ側の2度です。

見えていないのは、その2度によって、

  • ボールのどこへ接触したのか
  • ボール重心からどれだけ左右へずれたのか
  • 力がどの方向へ配分されたのか

という、ボール側の変化です。

同じ数字でも、現象の意味は同じではありません。

知識というフィルターを通して見えない部分を考えると、表示された角度の向こう側にある構造が見えてきます。

次回は、アイアンの番手が変わると、ロフトだけでなく、アタックアングル、バンス、ボールの支持高さがどのように変化し、それによって打点がどう移動するのかを考えていきます。

帝王の言葉 第6話 飛距離を売ったのは誰なのか

前作より5ヤード飛ぶ」

「ボール初速が上がる」

「300ヤードを超えた」

こうした表現は分かりやすく、数字で比較できます。

新しいクラブを買う理由にもなります。

一方で、

正しい場所へ運びやすい。

縦距離が安定する。

左右のミスを限定できる。

球筋を管理しやすい。

次のショットを打ちやすい場所へ置ける。

といった性能は、一言では伝わりません。

そのためメーカーは、クラブの価値を飛距離で説明するようになりました。

そしてゴルフメディアも、その価値観を繰り返し伝えてきました。

何ヤード飛んだのか。

どの番手で打ったのか。

ボール初速はどれくらいだったのか。

パー5で2オンしたのか。

こうした情報は、テレビでも記事でも扱いやすいものです。

しかし本来、ゴルフで重要なのは、何ヤード飛んだかだけではありません。

なぜそのクラブを選んだのか。

どちら側を狙ったのか。

どのミスを消したのか。

次のショットをどこから打とうとしたのか。

そこまで説明しなければ、良いショットの意味は伝わりません。

遠くへ飛んだショットは、一目で価値が分かります。

しかし、20ヤード抑えて正しい場所へ置いたショットは、解説されなければ地味に見えます。

その結果、観客もゴルファーも、

飛ばす選手は優れている。

短いクラブを持つ選手は有利である。

狭いコースは質が低い。

ドライバーを振れないコースは面白くない。

と考えるようになりました。

ここで、商業と競技の主従が逆転します。

本来は、優れたゴルフをどう見せ、どう伝えるかを考えるべきでした。

ところが実際には、売りやすいゴルフに合わせて、競技の方が変えられていきました。

飛距離が映えるコースを使う。

大観衆の前でドライバーを振らせる。

パー5の2オンや短いパー4のワンオンを見せ場にする。

その結果、飛距離のある選手が上位に来る。

そして、その結果を見て、

やはり飛距離が最も重要だ。

という評価がさらに強くなる。

メーカーが飛距離を売る。

メディアが飛距離を賞賛する。

PGAツアーが飛距離の映える舞台を用意する。

そこでロングヒッターが勝つ。

その勝利を使って、また飛距離が商品として売られる。

この循環が、現代ゴルフの価値観を作ってきたのではないでしょうか。

問題は、ロングヒッターが勝つことではありません。

ロングヒッターにも、高い技術があります。

問題は、飛距離以外の技術が見えなくなったことです。

例えばベン・ホーガンは、サム・スニードほど飛ぶ選手ではありませんでした。

それでもホーガンは、飛距離を追うのではなく、ボールをコントロールする道を選びました。

ドローで距離を求めるゴルフから、フェードで曲がり幅と停止地点を管理するゴルフへ変えた後、メジャーで大きな成功を収めています。

これは、当時のゴルフが飛距離だけを評価していなかったことを示しています。

飛距離を少し失っても、方向、球筋、着弾地点、停止位置を管理できれば、勝つことができた。

ジャック・ニクラスも、当時としては飛距離のある選手でした。

しかし、彼が帝王になった理由は、単に遠くへ飛ばしたからではありません。

飛距離を含め、ボールの高さ、曲がり、距離、着弾地点をコントロールできたからです。

彼らは、パワーを捨てたのではありません。

パワーをコントロールの中に置いたのです。

日本でも、似た問題を見ることができます。

宮里藍選手が米国へ主戦場を移した頃、スポンサーやメディアは、飛距離を強く強調しました。

彼女の本来の強みは、正確性、距離感、コースマネジメント、パッティングを含めた総合的なゲームでした。

しかし、米国で戦うためには飛距離が必要だという評価が強くなれば、選手自身も、その尺度で戦おうとしてしまう可能性があります。

相手の長所と同じ土俵で戦おうとすれば、自分が勝ってきた方法を見失うことがあります。

宮里選手が後に世界ランキング1位まで上がったのは、飛距離で他の選手を圧倒したからではありません。

自分のリズム、正確性、ショートゲーム、パッティングを中心に、再び自分のゴルフを作り上げたからでしょう。

商業は、選手の弱点を分かりやすく示します。

「もっと飛ばせ」

そう言えば、クラブもボールも売れます。

しかし、その言葉を選手やゴルファーが受け入れすぎると、本来持っていた勝ち方まで失うことがあります。

商業そのものが悪いわけではありません。

メーカーも、メディアも、プロツアーも、商業によって成り立っています。

問題は、商業が競技を支えるのではなく、競技の価値を決めるようになったことです。

ゴルフの一部である飛距離を、ゴルフ全体として売った。

その結果、ゴルファーは「何が上手いのか」を誤解するようになりました。

遠くへ飛ばしたショットが、必ずしも良いショットではありません。

必要な距離を、必要な方向へ運び、次のボールを止める条件を作ったショットこそ、価値のあるショットです。

戻すべきなのは、ボールの飛距離だけではありません。

メーカー、メディア、ツアーが、何を価値として伝えるのか。

その基準そのものです。

次回は、ゴルフが本来どのように選手の技術を評価してきた競技なのか。

そして、なぜ現在のゴルフが、総合技術を問う競技から、最大出力を競う陸上競技のようになってしまったのかを考えます。

見えないものを見る 第2話 ボールのどこに当たったのか

第1話では、人間は見えているものを中心に理論を作りやすい、という話をしました。

かつて人類には、太陽や星が動いているように見えました。

地球が動いていることは見えませんでした。

だから、地球を中心に宇宙を考える天動説は、当時の人々にとって自然な説明でした。

ゴルフでも、弾道計測器の登場によって、以前は見えなかったクラブの動きが見えるようになりました。

  • クラブパス。
  • フェース向き。
  • アタックアングル。
  • ダイナミックロフト。

これらの数値によって、インパクト直前のクラブの状態は、以前よりはるかに詳しく説明できるようになりました。 “見えないものを見る 第2話 ボールのどこに当たったのか” の続きを読む