ダイナミックで行こう 人間とクラブを一つの系として考える

クラブの数字を揃えることと、動きを揃えることは同じではない

という話をしました。

では、動きを揃えるためには何を見ればよいのでしょうか。

ここで、フィッティングの考え方を少し変えてみます。

先日、あるお客様からこんな相談がありました。

「アイアンは振り切れるようになった。でも今度はドライバーが暴れるようになった」

普通なら、

「では、ドライバーに問題があるのかもしれませんね。新しいドライバーを試してみましょう」

となりそうな場面です。

しかし私は、

「一度、スイングを見せてください」

と連絡しました。

なぜなら、変わったのはドライバーではありません。

お客様のスイングの方だったからです。

クラブと人間を分けて考えていいのか

“ダイナミックで行こう 人間とクラブを一つの系として考える” の続きを読む

ダイナミックでいこう 第4話 ホーガンのスタンス図を慣性で読む

前回は、スタンスの向きそのものよりも、

支点の位置と、そこからどちらへ力が向いているのか

の方が重要ではないか、という話をしました。

その考え方で見ると、ベン・ホーガンの有名なスタンス図は、かなり違って見えてきます。

ショートアイアンではオープン。

クラブが長くなるにつれてスクエアに近づき、

ロングアイアン、ウッドではクローズになっていく。

一般的には、

「クラブが長くなるほどスタンスをクローズにする」

という形で紹介されます。

しかし、それだけでは少し説明が足りません。

なぜクラブが長くなると、スタンスまで変える必要があるのでしょうか。

ここで、もう一度「慣性」を考えてみます。

長くなれば、慣性は大きくなる

クラブの回転のしにくさは、慣性モーメントで考えることができます。

質量が同じでも、回転軸から遠くなるほど、その影響は大きくなります。

つまりクラブが長くなれば、同じヘッド重量でも慣性モーメントは大きくなります。

長いクラブほど、

動き出しにくく、いったん動き出せば、その運動を保とうとする。

これは感覚的にも分かりやすいと思います。

短いウェッジと長いドライバーでは、同じ力で振ったときの反応が違います。

ところが、ホーガンの時代には、もうひとつ大きな違いがありました。

ウッドにもスチールシャフトが入っていた

現代のドライバーでは、50g前後のカーボンシャフトも珍しくありません。

しかし、ホーガンの時代のウッドにはスチールシャフトが使われていました。

つまり、

長いクラブに、重いシャフトが入っていた。

ということです。

これは非常に大きな違いです。

クラブの慣性を考えるとき、ヘッド重量だけを見ることはできません。

シャフトにも質量があります。

しかも、その質量はグリップからヘッドまで長く分布しています。

長くて重いスチールシャフトは、それ自体が大きな慣性を持ちます。

つまり、当時のウッドは、

ヘッドが重いから動かしにくい

だけではなく、

クラブ全体が大きな慣性体だった

と考える必要があります。

ホーガンは途中で調整していたのか

ここでひとつ疑問が出ます。

ショートアイアンからウッドまで、クラブの慣性特性が大きく変わる。

そのたびに、スイングの途中で人間が調整していたのでしょうか。

私は、そうではないように思います。

むしろ、

アドレスの段階で調整を終わらせていた

と考えた方が自然です。

ショートアイアンではオープン。

長くなるほどクローズ。

そうやって最初から人体側の配置を変えておけば、

切り返しから先では、余計な修正をしなくてもよい。

つまり、

クラブの慣性が変わっても、同じようなリニアフォースの方向を作れるように、スタンスをプリセットしていた

のではないでしょうか。

そう考えると、ホーガンのスタンス図は単なる構え方の一覧ではありません。

クラブごとの慣性差を、人間側の幾何学で補正する表

に見えてきます。

現代クラブで同じ補正は必要なのか

では、現代クラブでもホーガンと同じだけスタンスを変える必要があるのでしょうか。

ここで、これまでに簡単な計算をしてみました。

アイアンのシャフト重量を130gとし、

4番アイアンからPWまでのグリップ側を基準にした慣性モーメントを概算すると、

4番アイアン 約0.280
5番アイアン 約0.279
6番アイアン 約0.278
7番アイアン 約0.277
8番アイアン 約0.275
9番アイアン 約0.274
PW     約0.272

kg・m²程度になりました。

かなり揃っています。

長い番手ほどクラブ長は長くなります。

しかし、その分ヘッド重量は軽くなります。

そのため、

長さによる慣性の増加を、ヘッド重量の減少がかなり相殺している

と考えることができます。

さらに、

45.25インチ
ヘッド203g
シャフト50g

の現代的なドライバーを同じように概算すると、

約0.290kg・m²。

130gシャフトの4番アイアンが約0.280ですから、

思っていたほど大きな差ではありません。

現代クラブは、かなり揃えられている

ここが非常に面白いところです。

ホーガンの時代は、

クラブが長くなる。

シャフトも重い。

その結果、クラブ全体の慣性差も大きくなる。

だから、スタンスを大きく変えて補正する必要があった。

ところが現代クラブでは、

長いクラブほどシャフトを軽くし、

ヘッド重量も調整し、

番手間の慣性差をかなり小さくしている。

つまり、

クラブそのものが、昔よりも「同じように振れる方向」へ進化している

と考えることができます。

だとすれば、

現代のゴルファーがホーガンのスタンス図をそのままコピーする必要はありません。

ホーガンがやっていたことの本質は、

オープンに立つことでも、

クローズに立つことでもない。

クラブの慣性差に合わせて、力の方向を揃えること

だったのではないでしょうか。

ここを間違えると、

形だけを真似して、

目的を失うことになります。

形ではなく、結果を揃える

これはフィッティングにも通じます。

ライ角。

クラブ長。

シャフト重量。

ヘッド重量。

スタンス。

これらの数字を揃えることが、必ずしも統一感ではありません。

本当に揃えたいのは、

動いたときの反応

です。

スタティックに見れば不連続でも、

ダイナミックには揃っている。

ウェッジを2度フラットにするという話も、

もしかすると、まったく同じなのかもしれません。

数字の流れを壊してでも、

動きの流れを揃える。

それが、

ダイナミックなフィッティング

という考え方なのではないでしょうか。

次は、もう一度ウェッジに戻ります。

なぜ短くなったウェッジで、あえてライ角をフラットにすると「統一感」が出るのか。

ここまで考えてきた慣性と時間差を使って、もう少し深く考えてみたいと思います。

ダイナミックでいこう!第3話 力はどこに向いているのか?

前回は、ライ角を変えることでクラブの運動特性が変わり、手元の時間軸まで変わる可能性について考えました。

では、その手元を動かしている「力」は、いったいどちらへ向いているのでしょうか。

ここで思い出したい言葉があります。

Geometrically Oriented Linear Force

直訳すれば、

「幾何学的に方向づけられた直線的な力」

といった意味になります。

少し難しく聞こえます。

しかし、考えていることは意外と単純です。

ゴルフスイングでは、ただ力を出せばいいわけではありません。

その力が、

どちらへ向いているか

が重要です。

スタンスの向きと、力の向きは同じなのか

ゴルフでは一般的に、

「目標に対してスクエアに構える」

ことが基本とされます。

足のライン。

膝のライン。

腰のライン。

肩のライン。

これらを目標線に合わせる。

とても分かりやすい考え方です。

しかし、ここまでダイナミックに考えてくると、ひとつ疑問が出てきます。

スタンスが目標に対してスクエアなら、力も目標方向へ向くのでしょうか。

これは必ずしも同じではありません。

人間は一本の棒ではありません。

足があります。

膝があります。

股関節があります。

骨盤があります。

背骨があります。

肩があります。

肘があります。

手首があります。

それらがつながったリンク機構です。

足元がどちらを向いているかと、

最終的に手元やクラブへ伝わる力がどちらを向くかは、

別の問題です。

円運動には「支点」がある

ゴルフスイングを円運動として考えると、重要になるのが支点です。

ここでは仮に、左股関節付近を有効な支点として考えてみます。

支点からクラブヘッドへ向かう線を「半径」と考えれば、その瞬間のクラブヘッドの進行方向は、半径に対して90度の接線方向になります。

つまり、

です。

もしインパクトでクラブヘッドを目標方向へ動かしたいなら、

支点からインパクト位置へ引いた線は、目標線に対して90度になる必要があります。

ここで大切なのは、

スタンスラインが目標に対して何度か

ではありません。

重要なのは、

支点がどこにあり、そこからどちらへ力が向いているか

です。

左を向いた方が真っすぐ飛ぶ

私自身、実験していて不思議に感じたことがあります。

かなり左を向いて構えた方が、ボールが目標方向へ真っすぐ飛ぶことがあるのです。

スタティックに考えれば、おかしな話です。

左を向けば、左へ飛びそうです。

しかし、実際にはそうならない。

なぜでしょう。

考えられるのは、

左を向くことで、インパクト時の左股関節の位置と、そこから発生するリニアフォースの方向が整った

ということです。

つまり、

左を向いたから真っすぐ飛んだのではなく、

左を向くことで、実際にクラブへ伝わる力の方向が真っすぐになった

と考えることができます。

切り返しですでに方向は決まっているのではないか

さらに興味深いのは、トップから切り返す瞬間です。

切り返しの時点で、

左股関節と右股関節の位置関係は、すでにある程度決まっています。

そこから余計な力を加えず、

クラブと身体の慣性に任せて動かしたとします。

すると、その瞬間の人体リンクの配置によって、

最初のリニアフォースの方向が決まる

と考えることができます。

もしそれが正しいなら、

ボールの方向を決めているのは、

インパクト直前の手先の操作ではありません。

もっと前。

切り返しの時点ですでに、かなり決まっている

ことになります。

方向はインパクトで作るのではない

これは、かなり大きな違いです。

一般的には、

「インパクトでフェースを合わせる」

「目標へ振り抜く」

と考えます。

しかし、ダイナミックに考えるなら、

切り返しの時点で、

支点の位置。

人体リンクの配置。

クラブの慣性。

そしてリニアフォースの方向。

これらがほぼ決まっていて、

その結果としてインパクトが訪れる。

つまり、

方向はインパクトで作るのではなく、その前に作られている。

ということになります。

ここでホーガンのスタンスを見る

この考え方で、ベン・ホーガンの有名なスタンス図を見ると、少し違って見えてきます。

ショートアイアンではオープン。

ミドルアイアンではスクエアに近づき、

長いクラブになるほどクローズ。

一般的には、

「クラブによってスタンスを変えていた」

と説明されます。

しかし、本当に変えたかったのはスタンスだったのでしょうか。

もしかすると、

クラブごとに変わる慣性に合わせて、切り返し時のリニアフォースの方向を揃えていた

のかもしれません。

そう考えると、

ショートアイアンでオープン。

長いクラブでクローズ。

という変化にも意味が出てきます。

スタンスを変えることが目的なのではありません。

同じ方向へ力を出すために、スタンスを変えていた。

そう考えると、ホーガンのスタンス図は、

単なるアドレスの教科書ではなく、

クラブの慣性に合わせた、人体側の幾何学的な補正表

に見えてきます。

これこそ、

Geometrically Oriented Linear Force

という言葉にふさわしい考え方ではないでしょうか。

力は、ただ強ければいいのではありません。

どちらへ向いているか。

その方向は、どの支点から作られているか。

そして、その支点はクラブによってどう変わるのか。

次は、このホーガンのスタンス図を、現代クラブの質量分布と比較しながら考えてみたいと思います。

ダイナミックでいこう!第2話 手元はなぜ遅れるのか

前回は、ライ角を変えることで、静止したフェースの向きだけでなく、クラブが運動するときの挙動そのものが変わる可能性について考えました。

その中で出てきたのが、

フラットにすると、手元が少し遅れる。

という現象です。

では、なぜ手元が遅れるのでしょうか。

ここで、いきなりクラブだけを見てはいけません。

人間とクラブは、別々に動いているわけではないからです。

肩が動きます。

肘が動きます。

手首が動きます。

骨盤が動きます。

その先にクラブがあります。

つまり、ゴルフスイングは、

人間とクラブがつながったリンク機構

として考えた方が自然です。

たとえば、からくり人形を想像してください。

ひとつの動力から、いくつものリンクを通して複雑な動きを作ります。

ひとつの関節の角度が変われば、その先の部品の動きも変わります。

ゴルフスイングも、これとよく似ています。

ライ角を2度変える。

数字だけを見れば、ほんのわずかな変更です。

しかし、その2度によって、クラブが人体に対して置かれる位置が変わります。

手元の高さも変わります。

腕の角度も変わります。

肩から手元までの有効半径も変わります。

そして、クラブから人間へ返ってくる反力の向きも変わります。

つまり、ライ角変更は、

クラブヘッドだけの問題ではありません。

人体を含めたリンク機構全体の初期条件を変える操作なのです。

ここで慣性モーメントを思い出します。

[
I=\sum mr^2
]

質量が同じでも、回転軸から遠くなれば、回転しにくさは大きくなります。

では、ライ角をフラットにしたことで、手元や腕の運動半径がわずかに大きくなったらどうでしょう。

仮に、その有効半径が600mmから614mmへ変わったとします。

増加量はわずか14mmです。

しかし慣性モーメントは距離の二乗で効きます。

[
\left(\frac{614}{600}\right)^2
\approx1.047
]

約4.7%増えます。

もちろん、これは人間をかなり単純化したモデルです。

実際には、肩、肘、手首、骨盤が同時に動きます。

ですから、「ライ角を2度フラットにすると慣性が必ず4.7%増える」という意味ではありません。

大切なのは、

数ミリ、数度の配置変化でも、動いている系では無視できない差になる

ということです。

さらに重要なのが「時間」です。

同じトルクで動かすなら、

α=r/l

です。

慣性モーメント (I) が大きくなれば、角加速度 (\alpha) は小さくなります。

つまり、動き始めがわずかに遅くなる。

この「わずか」が問題です。

ゴルフスイングは高速で進んでいます。

トップからインパクトまでの時間は、ほんの一瞬です。

その中で、もし手元の到達が5ミリ秒遅れたらどうでしょう。

5ミリ秒。

数字だけを見れば、ほとんどゼロに見えます。

しかし、その5ミリ秒の間にも、

骨盤は回っています。

胸郭も回っています。

腕も動いています。

クラブも回っています。

つまり、手元が5ミリ秒遅れるということは、

同じ人間なのに、違う身体の向きでインパクトを迎える

ということです。

ここで、スタティックな考え方との差が一気に大きくなります。

スタティックでは、

「ライ角が2度変わった」

で終わります。

ダイナミックでは、

「その2度によって、クラブと人体の運動の時間軸が変わった」

と考えます。

そして時間軸が変われば、

手元の位置が変わります。

ハンドファースト量が変わります。

クラブパスが変わります。

フェースが閉じるタイミングも変わります。

結果として、

静的なフェース向きとは逆方向に、ボールが飛ぶことすらあり得る。

では、ここでひとつ疑問が出てきます。

もしクラブの動きが、人体との時間関係によって決まるのであれば、

ゴルフスイングで本当に重要なのは、

「スタンスがどちらを向いているか」

なのでしょうか。

それとも、

力がどちらへ向いているか

なのでしょうか。

次は、そこを考えてみたいと思います。

ダイナミックで行こう。第1話 2°フラットの謎

PINGの営業さんから、以前こんな話を聞いたことがあります。

「ウェッジのライ角は、アイアンの流れより2度ほどフラットにした方がいいですよ」

その理由として聞いたのは、ライ角をフラットにすることでフェースが相対的に右を向き、ボールにスライス方向の回転が入りやすくなる、という考え方でした。

これはこれで、ひとつの説明です。

しかし、この説明はクラブを止めた状態から考えています。

つまり、スタティック(静的)な考察です。

では、ウェッジのライ角を2度フラットにするというセッティングを、本当に静的な考察だけで説明してしまってよいのでしょうか。

以前このブログで、左への引っかけに悩んでいたお客様のクラブを、あえてアップライトに調整した話を書きました。

一般的なライ角理論だけで考えれば、これは逆です。

アップライトにすれば、フェース面の幾何学的な向きは左方向へ作用します。

左へ引っかける人なら、さらに左へ行きそうです。

ところが、実際には逆でした。

アップライトに調整すると、左への引っかけがなくなったのです。

なぜでしょう。

クラブは、インパクトの瞬間まで静止しているわけではありません。

人間が動きます。
クラブが動きます。
シャフトが動きます。
ヘッドが動きます。

そこには質量があります。
慣性があります。
回転があります。
そして、それぞれの運動には時間差があります。

ライ角を変えれば、変わるのは静止したフェースの向きだけではありません。

クラブが運動するときの挙動そのものが、変わる可能性があります。

つまり、

静的には左へ行くはずの変更が、動的には右方向への変化を生むことがある。

運動は、ときとして静的な予測とは逆の結果を生みます。

ここが、今回のシリーズの出発点です。

止まっているクラブを見て考える「スタティック」から、

動いているクラブと、動いている人間を考える「ダイナミック」へ。

まずは、

「ウェッジを2度フラットにすると、なぜ統一感が出るのか」

この話から考えてみたいと思います。

では、ウェッジを2度フラットにすると、何が起きるのでしょうか。

まず、スタティックに考えてみます。

クラブを地面に置き、フェースを目標方向へ向けます。

そこからライ角をフラットにすれば、フェース面には右方向を向く成分が生まれます。

これは幾何学です。

クラブを動かさなければ、この説明でほぼ終わります。

しかし、ゴルフクラブは動かして使う道具です。

ここからダイナミックに考えてみます。

クラブには「重さ」だけでなく「慣性」がある

ゴルフクラブの振りやすさを考えるとき、

「このシャフトは130gです」

「このヘッドは270gです」

というように、私たちはどうしても重量を見ます。

しかし、動いている物体では、重量だけでは十分ではありません。

重要になるのが質量分布です。

同じ400gのクラブでも、その400gが手元近くに集まっているクラブと、ヘッド側に集まっているクラブでは、動かしたときの感覚はまったく違います。

これは慣性モーメント、

I=Σmr2乗

で考えることができます。

質量 (m) が同じでも、回転軸からの距離 (r) が大きくなれば、その影響は距離の二乗で大きくなります。

つまりクラブは、

何グラムあるか

だけではなく、

その何グラムが、どこにあるのか

で動き方が変わります。

現代のアイアンは意外なほど揃っている

ここで、現代のアイアンを簡単なモデルで計算してみました。

シャフト重量を130gとし、一般的な番手ごとのクラブ長とヘッド重量を使って、グリップ側を基準にした慣性モーメントを概算します。

すると、

4番アイアン 約0.280
5番アイアン 約0.279
6番アイアン 約0.278
7番アイアン 約0.277
8番アイアン 約0.275
9番アイアン 約0.274
PW     約0.272

kg・m²程度になりました。

もちろん、これはクラブを非常に単純化した計算です。

しかし、傾向を見るには十分です。

驚くほど揃っています。

クラブは長くなるほど回転半径が大きくなります。

そのままなら長いクラブほど慣性モーメントは大きくなるはずです。

しかし実際には、長い番手ほどヘッドが軽く設計されています。

そのため、

クラブが長くなることによる慣性の増加を、ヘッド重量の減少によって相殺している

と見ることができます。

さらに、ドライバーを

45.25インチ
ヘッド203g
シャフト50g

として同じように計算すると、

約0.290kg・m²。

130gシャフトの4番アイアンが約0.280ですから、思ったほど大きな差ではありません。

現代のクラブは、私たちが想像している以上に、

番手が変わっても似た運動をしやすいように質量が配置されている

のかもしれません。

では、ウェッジはどうでしょう

ここで最初の話に戻ります。

アイアンセットの流れで考えれば、クラブが短くなるにつれてライ角は徐々にアップライトになります。

スタティックに見れば、とてもきれいな流れです。

ところがPINGの営業さんから聞いた話では、

ウェッジは、その流れより2度ほどフラットにする。

数字だけを見れば、ここで突然流れを壊しています。

なぜでしょう。

もしかすると、

静的な数値の流れを壊すことで、動的な流れを揃えている

のではないでしょうか。

ウェッジは短い。

そしてヘッドは重い。

さらに、アイアンより小さな振り幅で使うことも多くなります。

短いクラブは、人間の動きに対して反応が速くなります。

同じように身体を動かしたとしても、長いクラブより早くクラブが追従してくる可能性があります。

だとすれば、ウェッジだけライ角を少しフラットにすることによって、その反応をわずかに遅らせることができれば、

長いクラブから短いクラブまで、

人間に対するクラブの時間的な反応を揃える

ことができるかもしれません。

ここで私は、ひとつの経験を思い出しました。

ライ角をフラットにすると、

手元が少し遅れる。

逆にアップライトにすると、

手元が少し先行する。

何度も試しているうちに、この傾向が見えてきました。

もちろん、2度ライ角を変えたことで、何ミリ秒遅れるのか。

それを単純な計算だけで求めることはできません。

人間には肩があります。

肘があります。

手首があります。

股関節があります。

さらにクラブにはシャフトのしなりがあります。

すべてがつながったリンク機構として動いているからです。

しかし、ここで重要なのは、

手元の位置が変わる

ということです。

手元が遅れれば、同じインパクトにはなりません。

身体はその間にも動いています。

骨盤も回っています。

胸郭も回っています。

クラブも回っています。

仮に手元の到達がわずか5ミリ秒違っただけでも、インパクト付近で身体が毎秒数百度という角速度で回転しているなら、その5ミリ秒の間に身体の位置関係は数度変わる可能性があります。

つまり、

ライ角を2度変えた。

ただそれだけの変更が、

インパクトでは2度以上の違いを生み出す可能性がある。

ここに、スタティックとダイナミックの大きな違いがあります。

静的な理論では、

ライ角 → フェースの向き

だけを見ます。

しかしダイナミックに考えるなら、

ライ角
→ クラブの運動特性
→ 手元の速度
→ 身体との時間差
→ インパクト時のクラブ位置
→ クラブパス
→ フェース向き
→ 弾道

まで考えなければなりません。

こうなると、

「アップライトだから左」

「フラットだから右」

という単純な話ではなくなります。

そして、私が実際に経験した、

左への引っかけに対してアップライトにしたら、逆に真っすぐ飛ぶようになった

という現象も、少し違って見えてきます。

静的には左へ向かう変更。

しかしその変更によって手元の時間軸が変わり、クラブパスやフェースの動きまで変化すれば、

結果は逆になることがあります。

クラブを止めて見ていたのでは、これは分かりません。

ゴルフクラブは、動いているからです。

そして人間も、動いています。

これが、

ダイナミックに考える

ということなのだと思います。

ダイナミックでいこう

「ダイナミック」という言葉は、なぜか気持ちを上げてくれます。

力強い。大胆な。迫力がある。

いわば「上げワード」です。

しかし、このシリーズを読み終えるころには、「ダイナミック」という言葉に対するイメージが、少し変わっているかもしれません。

ダイナミックの反対語は「スタティック」。

Staticは「静的」。
Dynamicは「動的」です。

つまり本来のダイナミックとは、「力強い」という意味より先に、動いているものを扱うという意味を持っています。

動いているから、力強さを連想するのでしょう。

ところが不思議なことに、ゴルフになると話は逆になります。 “ダイナミックでいこう” の続きを読む

ハンターメイハン最終話 ゴルフは形を争うスポーツではない

ここまで、

ハンター・メイハンについて長く書いてきました。

このシリーズを書こうと思ったきっかけは、

PINGのProven Grounds Podcastで、

久しぶりにメイハンを見たことでした。

店長にとって、

ハンター・メイハンは、

かつて

「理想的なゴルフスイング」

の象徴のような選手でした。

クラブはプレーン上を動く。

トップはコンパクト。

身体と腕は同調する。

無駄な動きが少なく、

まるで教科書の完成形のように見えました。

だからこそ、

現在のメイハンの言葉は、

とても興味深く聞こえます。

彼が若い選手に伝えているのは、

自分と同じスイングを作りなさい、

ではありません。

むしろ、

「自分が本当に得意なものを見つけなさい。」

そして、

「それを理解し、磨き上げ、誰にも触らせるな。」

ということです。

その具体例として出てきたのが、

スコッティ・シェフラーでした。

シェフラーの足の動きは、

教科書的には決してきれいには見えません。

しかしメイハンは、

あの足の動きは、

彼のパワーの一部であり、彼自身の一部だ

と話します。

ここに、

このシリーズの最初のテーマがありました。

形を見るのか。

それとも、

その形を生み出している機能を見るのか。

ということです。

人間の身体は、

骨と関節で構成されたリンク機構です。

基本となる機能には共通するものがあっても、

骨格の長さや関節の向きは、

一人一人違います。

だから、

同じ機能を使っていても、

外から見える形まで、

全員同じになるはずはありません。

形は見えます。

だから教えやすい。

しかし、

一つの形を変えれば、

スイング全体の機構にも影響します。

だから、

「機能しているものには触るな」

というメイハンの言葉には、

大きな意味があるのだと思います。

ただし、

何でも自由でいいという話でもありません。

メイハンは、

高校生に高い基準を求めています。

準備する。

一球一球に目的を持つ。

自分でコントロールできることを、

きちんとやる。

そして、

Competeする。

前のミスを引きずらず、

次の一打に最善を尽くす。

そこには、

高い基準を求めていい。

個性を尊重することと、要求水準を下げることは違う。

ということです。

そして、

メイハンは、

「80をどうやって77にするのか」

という話もしています。

77を74、73にするのは、

スイング改造ではなく、

18ホールの中の、

たった1回か2回の判断かもしれない。

これは、

とてもゴルフらしい話です。

スコアが悪いと、

私たちはすぐにスイングを疑います。

しかし、

本当に直すべきなのは、

そのショットを選んだ判断だったかもしれない。

自分にできないショットを選んだことかもしれない。

あるいは、

前のミスを次の一打へ持ち込んだことかもしれません。

だから、

スイングがきれいになることと、ゴルフが上手くなることは同じではない。

のだと思います。

2010年のライダーカップで、

メイハンは極限のプレッシャーの中で、

あのアプローチを打ちました。

世界でもトップクラスの選手で、

誰もが手本にしたようなスイングを持っていた選手です。

それでも、

一打のミスは起きます。

だからこそ、

自分のゴルフを知る必要がある。

何が得意なのか。

何ならプレッシャーの中でも再現できるのか。

そのうえで、

一つのショットを選ぶ。

考えるときは考える。

決めたら、

打つ。

前のショットを引きずらない。

そして、

目の前の一打をCompeteする。

こうして振り返ると、

一見別々に見えたメイハンの話は、

全部同じところへ向かっていたように思います。

自分の得意なものを知る。

機能しているものを壊さない。

自分にできるショットを選ぶ。

決断したら迷わない。

そして、

一打一打に最善を尽くす。

店長には、

これが現在のハンター・メイハンが考えている、

「ゴルフが上手くなる」

ということなのではないかと思います。

かつて、

誰よりも「きれいなスイング」の象徴だったハンター・メイハン。

その彼が現在、

若い選手たちに伝えているのが、

自分と同じ形にしなさい、

ではなく、

「自分が本当に得意なものを見つけなさい。」

だったこと。

店長には、

そこにこのシリーズの答えがあるように思います。

ゴルフは、

形を競うスポーツではありません。

最後に問われるのは、

その人が持っているものを使って、目の前の一打をどう打つか。

です。

その一打、一打を積み重ねて、

できるだけ少ない打数で18ホールを終える。

結局、

ゴルフとは、

そこへ戻ってくるのだと思います。

長いシリーズになりましたが、

ハンター・メイハンについては、

これで一度終わりたいと思います。

ハンター・メイハン第10話 どこまで選手に要求してよいのか?

前回は、

考えるときは考える。
打つときは打つ。

という話をしました。

ハンター・メイハンがタイガー・ウッズについて語った、

必要なだけ考える。しかしクラブを持ったら速い。

という話。

そしてVISION54の、

Think BoxとPlay Box。

さらに、

一度に二つのことへ意識を集中させない、

というメンタルマネジメントの考え方。

これらは、

ゴルフを教えるうえでも非常に重要な考え方だと思います。

では、

実際に選手を指導するとき、

コーチはどこまで要求していいのでしょうか。

これは、

ジュニアや高校生を教えていると、

必ず出てくる問題です。

厳しく言いすぎてはいけない。

楽しくゴルフをしてほしい。

まだ子供なのだから、

プロと同じことを求めてはいけない。

そう考えるのは自然です。

ハンター・メイハンも、

高校生のチームを指導し始めたとき、

同じようなことを考えていたようです。 “ハンター・メイハン第10話 どこまで選手に要求してよいのか?” の続きを読む

ハンター・メイハン 第9話 考えるのは打つ前まで

前回は、

ルーティンは毎回同じでなければならないのか。

という話をしました。

ハンター・メイハンがタイガー・ウッズについて語っていたのは、

毎回同じ秒数で打つことではありませんでした。

タイガーは、

必要なら考える。

長く考えることもある。

そして、

自分が納得できるところまで時間を使う。 “ハンター・メイハン 第9話 考えるのは打つ前まで” の続きを読む

ハンター・メイハン 第8話 ルーチンは毎回同じでなければならないか?

前回は、ハンター・メイハンが高校生に伝えている、

Compete――一打一打を競争する

という言葉について書きました。

前のショットを引きずらない。

未来の結果を考えない。

今、目の前にある一打に集中する。

では、その一打に入るために、プロは何をしているのでしょうか。

そこでメイハンが話していたのが、

タイガー・ウッズのプリショットルーティン

です。

一般的にプリショットルーティンというと、

毎回同じ場所に立つ。

同じ回数素振りをする。

同じタイミングでアドレスに入る。

そして、

同じ秒数で打つ。

そんなイメージがあると思います。

店長も、

「ルーティンとは、毎回同じことをするもの」

という説明を何度も聞いてきました。

しかし、

メイハンが実際にタイガーとプレーして感じていたものは、少し違いました。

メイハンは、

タイガーのプレーには素晴らしいcadence――間とリズムがあったと話しています。

“ハンター・メイハン 第8話 ルーチンは毎回同じでなければならないか?” の続きを読む