グリップの太さに、店長の「味変」を加えてみます

前回は、グリップの種類と、PINGのグリップカラーコードチャートをご紹介しました。

今回は、そのチャートを出発点に、グリップの太さを少し違う角度から考えてみたいと思います。

まず、一般的に言われている説明を並べてみましょう。

細いグリップ 太いグリップ
手首を使いやすい 手首の余計な動きを抑える
フェースを返しやすく、球がつかまりやすい フェースの返りすぎを抑え、引っかけを防ぐ
操作性が高い 方向性が安定する
小さい手に合いやすい 大きい手に合いやすい

太いグリップには、「握る力を減らしやすい」「手の負担を軽減しやすい」という説明もあります。

経験上、思い当たる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ここで考えたいのは、その変化が、なぜ起きるのかということです。

球がつかまったら、手首を使ったのでしょうか?

細いグリップに替えて、球がつかまるようになった。

この変化を、「手首を使いやすくなったから」と説明することがあります。しかし、フェースが閉じたことと、手首の関節が動いたことは、同じではありません。

試しに、クラブを左手だけで持ち、腕や手首の向きをできるだけ変えずに、指をゆっくり握り込んでみてください。

保持する位置や握り方によっては、グリップが手の中で巻き込まれ、フェースが閉じる方向に動くことがあります。

これは、指の動きがクラブの回転に変わったものです。

この動きによって球がつかまったのであれば、「手首を使いやすくなった」と説明するだけでは、実際に起きていることを見落としてしまいます。

PINGのチャートで、注目したいところ

前回のPINGのグリップチャートを、もう一度見てください。

同じ手の長さでも、指が長い方には、太いグリップが推奨されています。

指が長いから、太くする。

寸法の関係としては分かりますが、それが保持の仕方にどう関係するのでしょうか。

ここで、重いバッグを手で持つ場面を想像してください。

持ち手を握り潰すように締め付けなくても、指をフック状に曲げれば、その形で重さを受けられます。もちろん、指の形を保つ筋力は必要ですが、強く握り締めることとは違います。

店長は、ゴルフのグリップにも、この考え方を取り入れたいと思っています。

指を曲げた内側を、グリップが満たしているか

注目したいのは、指先から二つ目の関節、PIP関節です。

この関節を曲げ、指をフック状にしたとき、その内側にグリップが収まっていれば、指の形を利用して力を受けられます。

ところが、グリップが細すぎると、曲げた指の内側に十分な接触を作れず、保持するために、さらに指を閉じて握り込む方がいるのではないでしょうか。

その握り込みが、グリップを巻き込む動きにもつながる。これが、店長の考えている仕組みです。

「指で保持すること」と「指を握り込むこと」は、分けて考える必要があります。

太さを合わせる目的は、指を使わなくすることではありません。無理のない指の形で接触を作り、必要以上に握り締めずに保持できるようにすることです。

チャートに、握り方を加えて選ぶ

PINGのチャートは、手と指の寸法から太さの目安を示しています。ただし、そこで握り方まで定義しているわけではありません。

そこで当店では、次のような選び方を提案したいと思います。

握り方・傾向 比較する太さの目安
手のひら側で保持するパームグリップ チャートの推奨サイズを基本にする
指側で保持するフィンガーグリップで、フックが出やすい 推奨サイズより太めも比較する

フィンガーグリップの方に太めを提案するのは、手首を動かなくするためではありません。

指との接触を確保し、さらに握り込まなくても支えられるようにする。その結果、左手の握り込みによる、意図しないフェースの回転を減らせないかを確認するためです。

もちろん、フックの原因がすべて握り込みにあるわけではありません。太くすれば必ず改善する、という選び方でもありません。

チャートで寸法の基準を知り、握り方と実際の動きに合わせて調整する。

これが、今回加えたい店長の「味変」です。

次回は、バックラインと右手側の太さについて、保持と力の伝わり方から考えてみたいと思います。

今更だけどグリップ

皆さんは、どのような基準でグリップを選んでいるでしょうか?

ラバーグリップの中から、コード入りか、コードなしかを選ぶ。以前は、そのような選び方も一般的でしたが、現在はさまざまなグリップがあります。

素材だけでも、定番のラバーから、カラーバリエーションが豊富な樹脂系まで。形状も、バックラインの有無だけでなく、その突起を強調したものなど、選択肢が増えています。

装着時の下巻きテープを増やして全体を太くしたり、右打ちなら右手側に当たる部分だけ多く巻いたりする調整もあります。

素材や色に加えて、「太さ」にも少しこだわってみると、何かよい変化があるかもしれません。

当店では、PINGの交換用グリップも販売しています。PINGではグリップの太さをカラーコードで分類しており、6種類のサイズが用意されています。日本での標準サイズはアクアです。

グリップ名 グリップ重量/
選択可能グリップサイズ
バックライン
①GP 360 LITE TOUR VELVET ROUND ×
②GP 360 LITE TOUR VELVET ROUND フルコード ×
③GP LITE TOUR VELVET RIB ◯
④GP LITE TOUR VELVET RIB フルコード ◯
⑤360 DYLAWEDGE ×
⑥ARCCOS GP360 LITE TOUR VELVET ROUND ×
⑦*ARCCOS GP DECADE MCC-WHT ×
⑧IOMIC STICKY SL AQUA ×
⑨IOMIC STICKY LILAC ×

PINGの太さの選択基準は以下となります。

グリップカラーコードチャート

❶「手のひらの長さ」と❷「1番長い指の長さ」をグリップカラーコードチャートに当てはめ、交差したポイントが推奨されるグリップの太さとなります。

  • ※ 右打ちのゴルファーは左手、左打ちのゴルファーは右手の手のひらを計測してください。

日本での標準サイズはアクアですが、当店の交換用PINGグリップの販売実績を見ると、アクア以外のサイズも選ばれています。

ここでチャートをよく見ると、同じ手の長さでも、指が長い方には太いグリップが推奨されていることが分かります。

なぜ、指が長いと太いグリップなのでしょうか。そして、握り方が違っても、同じ基準で選んでよいのでしょうか。

次回は、このチャートを出発点に、店長なりの「味変」を加えて、グリップの太さを考えてみたいと思います。

 

 

ハイブリッドは終わったのか? プロのクラブ選択から考える

ハイブリッドは終わったのか? プロのクラブ選択から考える

前回、なぜ細野勇策プロはハイブリッドを使用しないのか、という話をしました。確かに男子PING PROのセッティングを見ると、ハイブリッドの使用者は少なくなっているように感じます。

しかし、決して皆さんに「ハイブリッドを使わないでください」と言っているわけではありません。

ハイブリッドの恩恵を受けているゴルファーは、たくさんいます。

実際、女子プロの世界では、複数本のハイブリッドをセッティングに組み込んでいる選手も珍しくありません。

ところが、男子プロの世界では、ハイブリッドの時代が終わりつつあるのかもしれない、という興味深い記事がMyGolfSpyに掲載されました。

昨シーズン、ハイブリッドを使ったPGAツアー優勝者はわずか3人でした。アマチュアゴルファーはヒントを受け入れるべきか?

という記事です。 “ハイブリッドは終わったのか? プロのクラブ選択から考える” の続きを読む

細野勇策プロのクラブセッティングに見る、フィッティングの神髄!

実は、以前紹介した佐久間朱莉プロのクラブセッティングについてのコヤマカズヒロ氏の動画で、細野勇策プロのクラブセッティングにも言及されていました。

その中でコヤマ氏は、細野プロが「ピンを狙うのは9番アイアンから下のクラブ」と話していることを紹介しています。

これを根拠に考えるならば、それよりも長いクラブでは、ピンという一点ではなく、ある程度のゾーンを狙っているということになります。

例えば、あるクラブの左右の着弾分散が15ヤードあるとします。

ピンがグリーンのエッジから5ヤードの位置に切られている場合、ピンを直接狙えば、ショットの一部がグリーンを外れる可能性があります。

そこで、ピンを直接狙うのではなく、自分のショットの分散範囲ができるだけグリーン内に収まる位置を目標に設定します。 “細野勇策プロのクラブセッティングに見る、フィッティングの神髄!” の続きを読む

細野勇策プロのクラブセッティングに見る、もう一つのフィッティングの考え方

以下が細野勇策プロのクラブセッティングとなります。

DRIVER
LH G440 LST 10.5° STD +1.0 TOUR AD GC 6 TX 44.75″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
FAIRWAY
LH G440 MAX 4W  STD TOUR AD GC 7 X Tip-0.5″ 43.0″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH G440 MAX 7W  STD TOUR AD GC 8 X Tip-0.5″ 42.0″ elite grips TOUR STINGREY M60X
IRONS
LH i500 #3 BLACK 18(+1度)  TOUR AD 105 X 39.5″ D0 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH G440 #5 BLACK 24.5(+2.5度)
Bounce Grind (-2°)
N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 38.75″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH G440 #6 BLACK 28(+2.5度)

Bounce Grind (-2°)

N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 38.25″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH i230 #7 BLACK 35(+2度) N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 37.25″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH i230 #8 BLACK 39(+2度) N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 36.75″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH BLUEPRINT-T #9 BLACK 43(+2度) N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 36.25″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH BLUEPRINT-T PW BLACK 47(+2度) N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 TX 35.75″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
WEDGE
LH s159 Chrome 52/S BLACK 52 N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 X 35.75″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH s159 Chrome 56/S BLACK 56 N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 X 35.5″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
LH s159 Chrome 60/H BLACK 60 N.S.PRO MODUS3 TOUR 120 X 35.25″ D2 elite grips TOUR STINGREY M60X
PUTTER
LH 2021 KUSHIN 4 70 3.5 Black Chrome Steel 34.25″ PP60 (BLACK/RED)

一見すると見過ごしてしまいそうですが、よく観察すると、かなりのこだわりが隠されているようです。

店長が考える、このセッティングのメインストリームは、「すべてのクラブをできるだけ同じようにスイングし、それぞれのクラブヘッドの性能によって欲しい結果を引き出す」というものです。

なぜ、そのように考えたのか。

いくつかの根拠を挙げてみたいと思います。 “細野勇策プロのクラブセッティングに見る、もう一つのフィッティングの考え方” の続きを読む

ダイナミックでいこう 最後に

ここまで、

「ダイナミックでいこう」

というタイトルで、ゴルフクラブとスイングを少し違った角度から考えてきました。

最初のきっかけは、

ウェッジのライ角を、アイアンの流れより2度ほどフラットにすると統一感が出る

という話でした。

スタティックに考えれば、

ライ角をフラットにするとフェースは相対的に右を向く。

それで説明は終わります。

しかし実際には、

ライ角を変えると手元の位置が変わり、

腕の位置が変わり、

人間とクラブの慣性関係が変わり、

時間差が変わり、

クラブパスやフェースの動きまで変わる可能性があります。

つまり、

止まっているクラブだけを見ても、動いているクラブのすべては説明できない。

そこから、このシリーズは始まりました。 “ダイナミックでいこう 最後に” の続きを読む

ダイナミックでいこう 第4話 ホーガンのスタンス図を慣性で読む

前回は、スタンスの向きそのものよりも、

支点の位置と、そこからどちらへ力が向いているのか

の方が重要ではないか、という話をしました。

その考え方で見ると、ベン・ホーガンの有名なスタンス図は、かなり違って見えてきます。

ショートアイアンではオープン。

クラブが長くなるにつれてスクエアに近づき、

ロングアイアン、ウッドではクローズになっていく。

一般的には、

「クラブが長くなるほどスタンスをクローズにする」

という形で紹介されます。

しかし、それだけでは少し説明が足りません。

なぜクラブが長くなると、スタンスまで変える必要があるのでしょうか。

ここで、もう一度「慣性」を考えてみます。

長くなれば、慣性は大きくなる

クラブの回転のしにくさは、慣性モーメントで考えることができます。

質量が同じでも、回転軸から遠くなるほど、その影響は大きくなります。

つまりクラブが長くなれば、同じヘッド重量でも慣性モーメントは大きくなります。

長いクラブほど、

動き出しにくく、いったん動き出せば、その運動を保とうとする。

これは感覚的にも分かりやすいと思います。

短いウェッジと長いドライバーでは、同じ力で振ったときの反応が違います。

ところが、ホーガンの時代には、もうひとつ大きな違いがありました。

ウッドにもスチールシャフトが入っていた

現代のドライバーでは、50g前後のカーボンシャフトも珍しくありません。

しかし、ホーガンの時代のウッドにはスチールシャフトが使われていました。

つまり、

長いクラブに、重いシャフトが入っていた。

ということです。

これは非常に大きな違いです。

クラブの慣性を考えるとき、ヘッド重量だけを見ることはできません。

シャフトにも質量があります。

しかも、その質量はグリップからヘッドまで長く分布しています。

長くて重いスチールシャフトは、それ自体が大きな慣性を持ちます。

つまり、当時のウッドは、

ヘッドが重いから動かしにくい

だけではなく、

クラブ全体が大きな慣性体だった

と考える必要があります。

ホーガンは途中で調整していたのか

ここでひとつ疑問が出ます。

ショートアイアンからウッドまで、クラブの慣性特性が大きく変わる。

そのたびに、スイングの途中で人間が調整していたのでしょうか。

私は、そうではないように思います。

むしろ、

アドレスの段階で調整を終わらせていた

と考えた方が自然です。

ショートアイアンではオープン。

長くなるほどクローズ。

そうやって最初から人体側の配置を変えておけば、

切り返しから先では、余計な修正をしなくてもよい。

つまり、

クラブの慣性が変わっても、同じようなリニアフォースの方向を作れるように、スタンスをプリセットしていた

のではないでしょうか。

そう考えると、ホーガンのスタンス図は単なる構え方の一覧ではありません。

クラブごとの慣性差を、人間側の幾何学で補正する表

に見えてきます。

現代クラブで同じ補正は必要なのか

では、現代クラブでもホーガンと同じだけスタンスを変える必要があるのでしょうか。

ここで、これまでに簡単な計算をしてみました。

アイアンのシャフト重量を130gとし、

4番アイアンからPWまでのグリップ側を基準にした慣性モーメントを概算すると、

4番アイアン 約0.280
5番アイアン 約0.279
6番アイアン 約0.278
7番アイアン 約0.277
8番アイアン 約0.275
9番アイアン 約0.274
PW     約0.272

kg・m²程度になりました。

かなり揃っています。

長い番手ほどクラブ長は長くなります。

しかし、その分ヘッド重量は軽くなります。

そのため、

長さによる慣性の増加を、ヘッド重量の減少がかなり相殺している

と考えることができます。

さらに、

45.25インチ
ヘッド203g
シャフト50g

の現代的なドライバーを同じように概算すると、

約0.290kg・m²。

130gシャフトの4番アイアンが約0.280ですから、

思っていたほど大きな差ではありません。

現代クラブは、かなり揃えられている

ここが非常に面白いところです。

ホーガンの時代は、

クラブが長くなる。

シャフトも重い。

その結果、クラブ全体の慣性差も大きくなる。

だから、スタンスを大きく変えて補正する必要があった。

ところが現代クラブでは、

長いクラブほどシャフトを軽くし、

ヘッド重量も調整し、

番手間の慣性差をかなり小さくしている。

つまり、

クラブそのものが、昔よりも「同じように振れる方向」へ進化している

と考えることができます。

だとすれば、

現代のゴルファーがホーガンのスタンス図をそのままコピーする必要はありません。

ホーガンがやっていたことの本質は、

オープンに立つことでも、

クローズに立つことでもない。

クラブの慣性差に合わせて、力の方向を揃えること

だったのではないでしょうか。

ここを間違えると、

形だけを真似して、

目的を失うことになります。

形ではなく、結果を揃える

これはフィッティングにも通じます。

ライ角。

クラブ長。

シャフト重量。

ヘッド重量。

スタンス。

これらの数字を揃えることが、必ずしも統一感ではありません。

本当に揃えたいのは、

動いたときの反応

です。

スタティックに見れば不連続でも、

ダイナミックには揃っている。

ウェッジを2度フラットにするという話も、

もしかすると、まったく同じなのかもしれません。

数字の流れを壊してでも、

動きの流れを揃える。

それが、

ダイナミックなフィッティング

という考え方なのではないでしょうか。

次は、もう一度ウェッジに戻ります。

なぜ短くなったウェッジで、あえてライ角をフラットにすると「統一感」が出るのか。

ここまで考えてきた慣性と時間差を使って、もう少し深く考えてみたいと思います。

ダイナミックでいこう!第2話 手元はなぜ遅れるのか

前回は、ライ角を変えることで、静止したフェースの向きだけでなく、クラブが運動するときの挙動そのものが変わる可能性について考えました。

その中で出てきたのが、

フラットにすると、手元が少し遅れる。

という現象です。

では、なぜ手元が遅れるのでしょうか。

ここで、いきなりクラブだけを見てはいけません。

人間とクラブは、別々に動いているわけではないからです。

肩が動きます。

肘が動きます。

手首が動きます。

骨盤が動きます。

その先にクラブがあります。

つまり、ゴルフスイングは、

人間とクラブがつながったリンク機構

として考えた方が自然です。

たとえば、からくり人形を想像してください。

ひとつの動力から、いくつものリンクを通して複雑な動きを作ります。

ひとつの関節の角度が変われば、その先の部品の動きも変わります。

ゴルフスイングも、これとよく似ています。

ライ角を2度変える。

数字だけを見れば、ほんのわずかな変更です。

しかし、その2度によって、クラブが人体に対して置かれる位置が変わります。

手元の高さも変わります。

腕の角度も変わります。

肩から手元までの有効半径も変わります。

そして、クラブから人間へ返ってくる反力の向きも変わります。

つまり、ライ角変更は、

クラブヘッドだけの問題ではありません。

人体を含めたリンク機構全体の初期条件を変える操作なのです。

ここで慣性モーメントを思い出します。

[
I=\sum mr^2
]

質量が同じでも、回転軸から遠くなれば、回転しにくさは大きくなります。

では、ライ角をフラットにしたことで、手元や腕の運動半径がわずかに大きくなったらどうでしょう。

仮に、その有効半径が600mmから614mmへ変わったとします。

増加量はわずか14mmです。

しかし慣性モーメントは距離の二乗で効きます。

[
\left(\frac{614}{600}\right)^2
\approx1.047
]

約4.7%増えます。

もちろん、これは人間をかなり単純化したモデルです。

実際には、肩、肘、手首、骨盤が同時に動きます。

ですから、「ライ角を2度フラットにすると慣性が必ず4.7%増える」という意味ではありません。

大切なのは、

数ミリ、数度の配置変化でも、動いている系では無視できない差になる

ということです。

さらに重要なのが「時間」です。

同じトルクで動かすなら、

α=r/l

です。

慣性モーメント (I) が大きくなれば、角加速度 (\alpha) は小さくなります。

つまり、動き始めがわずかに遅くなる。

この「わずか」が問題です。

ゴルフスイングは高速で進んでいます。

トップからインパクトまでの時間は、ほんの一瞬です。

その中で、もし手元の到達が5ミリ秒遅れたらどうでしょう。

5ミリ秒。

数字だけを見れば、ほとんどゼロに見えます。

しかし、その5ミリ秒の間にも、

骨盤は回っています。

胸郭も回っています。

腕も動いています。

クラブも回っています。

つまり、手元が5ミリ秒遅れるということは、

同じ人間なのに、違う身体の向きでインパクトを迎える

ということです。

ここで、スタティックな考え方との差が一気に大きくなります。

スタティックでは、

「ライ角が2度変わった」

で終わります。

ダイナミックでは、

「その2度によって、クラブと人体の運動の時間軸が変わった」

と考えます。

そして時間軸が変われば、

手元の位置が変わります。

ハンドファースト量が変わります。

クラブパスが変わります。

フェースが閉じるタイミングも変わります。

結果として、

静的なフェース向きとは逆方向に、ボールが飛ぶことすらあり得る。

では、ここでひとつ疑問が出てきます。

もしクラブの動きが、人体との時間関係によって決まるのであれば、

ゴルフスイングで本当に重要なのは、

「スタンスがどちらを向いているか」

なのでしょうか。

それとも、

力がどちらへ向いているか

なのでしょうか。

次は、そこを考えてみたいと思います。

ダイナミックで行こう。第1話 2°フラットの謎

PINGの営業さんから、以前こんな話を聞いたことがあります。

「ウェッジのライ角は、アイアンの流れより2度ほどフラットにした方がいいですよ」

その理由として聞いたのは、ライ角をフラットにすることでフェースが相対的に右を向き、ボールにスライス方向の回転が入りやすくなる、という考え方でした。

これはこれで、ひとつの説明です。

しかし、この説明はクラブを止めた状態から考えています。

つまり、スタティック(静的)な考察です。

では、ウェッジのライ角を2度フラットにするというセッティングを、本当に静的な考察だけで説明してしまってよいのでしょうか。

以前このブログで、左への引っかけに悩んでいたお客様のクラブを、あえてアップライトに調整した話を書きました。

一般的なライ角理論だけで考えれば、これは逆です。

アップライトにすれば、フェース面の幾何学的な向きは左方向へ作用します。

左へ引っかける人なら、さらに左へ行きそうです。

ところが、実際には逆でした。

アップライトに調整すると、左への引っかけがなくなったのです。

なぜでしょう。

クラブは、インパクトの瞬間まで静止しているわけではありません。

人間が動きます。
クラブが動きます。
シャフトが動きます。
ヘッドが動きます。

そこには質量があります。
慣性があります。
回転があります。
そして、それぞれの運動には時間差があります。

ライ角を変えれば、変わるのは静止したフェースの向きだけではありません。

クラブが運動するときの挙動そのものが、変わる可能性があります。

つまり、

静的には左へ行くはずの変更が、動的には右方向への変化を生むことがある。

運動は、ときとして静的な予測とは逆の結果を生みます。

ここが、今回のシリーズの出発点です。

止まっているクラブを見て考える「スタティック」から、

動いているクラブと、動いている人間を考える「ダイナミック」へ。

まずは、

「ウェッジを2度フラットにすると、なぜ統一感が出るのか」

この話から考えてみたいと思います。

では、ウェッジを2度フラットにすると、何が起きるのでしょうか。

まず、スタティックに考えてみます。

クラブを地面に置き、フェースを目標方向へ向けます。

そこからライ角をフラットにすれば、フェース面には右方向を向く成分が生まれます。

これは幾何学です。

クラブを動かさなければ、この説明でほぼ終わります。

しかし、ゴルフクラブは動かして使う道具です。

ここからダイナミックに考えてみます。

クラブには「重さ」だけでなく「慣性」がある

ゴルフクラブの振りやすさを考えるとき、

「このシャフトは130gです」

「このヘッドは270gです」

というように、私たちはどうしても重量を見ます。

しかし、動いている物体では、重量だけでは十分ではありません。

重要になるのが質量分布です。

同じ400gのクラブでも、その400gが手元近くに集まっているクラブと、ヘッド側に集まっているクラブでは、動かしたときの感覚はまったく違います。

これは慣性モーメント、

I=Σmr2乗

で考えることができます。

質量 (m) が同じでも、回転軸からの距離 (r) が大きくなれば、その影響は距離の二乗で大きくなります。

つまりクラブは、

何グラムあるか

だけではなく、

その何グラムが、どこにあるのか

で動き方が変わります。

現代のアイアンは意外なほど揃っている

ここで、現代のアイアンを簡単なモデルで計算してみました。

シャフト重量を130gとし、一般的な番手ごとのクラブ長とヘッド重量を使って、グリップ側を基準にした慣性モーメントを概算します。

すると、

4番アイアン 約0.280
5番アイアン 約0.279
6番アイアン 約0.278
7番アイアン 約0.277
8番アイアン 約0.275
9番アイアン 約0.274
PW     約0.272

kg・m²程度になりました。

もちろん、これはクラブを非常に単純化した計算です。

しかし、傾向を見るには十分です。

驚くほど揃っています。

クラブは長くなるほど回転半径が大きくなります。

そのままなら長いクラブほど慣性モーメントは大きくなるはずです。

しかし実際には、長い番手ほどヘッドが軽く設計されています。

そのため、

クラブが長くなることによる慣性の増加を、ヘッド重量の減少によって相殺している

と見ることができます。

さらに、ドライバーを

45.25インチ
ヘッド203g
シャフト50g

として同じように計算すると、

約0.290kg・m²。

130gシャフトの4番アイアンが約0.280ですから、思ったほど大きな差ではありません。

現代のクラブは、私たちが想像している以上に、

番手が変わっても似た運動をしやすいように質量が配置されている

のかもしれません。

では、ウェッジはどうでしょう

ここで最初の話に戻ります。

アイアンセットの流れで考えれば、クラブが短くなるにつれてライ角は徐々にアップライトになります。

スタティックに見れば、とてもきれいな流れです。

ところがPINGの営業さんから聞いた話では、

ウェッジは、その流れより2度ほどフラットにする。

数字だけを見れば、ここで突然流れを壊しています。

なぜでしょう。

もしかすると、

静的な数値の流れを壊すことで、動的な流れを揃えている

のではないでしょうか。

ウェッジは短い。

そしてヘッドは重い。

さらに、アイアンより小さな振り幅で使うことも多くなります。

短いクラブは、人間の動きに対して反応が速くなります。

同じように身体を動かしたとしても、長いクラブより早くクラブが追従してくる可能性があります。

だとすれば、ウェッジだけライ角を少しフラットにすることによって、その反応をわずかに遅らせることができれば、

長いクラブから短いクラブまで、

人間に対するクラブの時間的な反応を揃える

ことができるかもしれません。

ここで私は、ひとつの経験を思い出しました。

ライ角をフラットにすると、

手元が少し遅れる。

逆にアップライトにすると、

手元が少し先行する。

何度も試しているうちに、この傾向が見えてきました。

もちろん、2度ライ角を変えたことで、何ミリ秒遅れるのか。

それを単純な計算だけで求めることはできません。

人間には肩があります。

肘があります。

手首があります。

股関節があります。

さらにクラブにはシャフトのしなりがあります。

すべてがつながったリンク機構として動いているからです。

しかし、ここで重要なのは、

手元の位置が変わる

ということです。

手元が遅れれば、同じインパクトにはなりません。

身体はその間にも動いています。

骨盤も回っています。

胸郭も回っています。

クラブも回っています。

仮に手元の到達がわずか5ミリ秒違っただけでも、インパクト付近で身体が毎秒数百度という角速度で回転しているなら、その5ミリ秒の間に身体の位置関係は数度変わる可能性があります。

つまり、

ライ角を2度変えた。

ただそれだけの変更が、

インパクトでは2度以上の違いを生み出す可能性がある。

ここに、スタティックとダイナミックの大きな違いがあります。

静的な理論では、

ライ角 → フェースの向き

だけを見ます。

しかしダイナミックに考えるなら、

ライ角
→ クラブの運動特性
→ 手元の速度
→ 身体との時間差
→ インパクト時のクラブ位置
→ クラブパス
→ フェース向き
→ 弾道

まで考えなければなりません。

こうなると、

「アップライトだから左」

「フラットだから右」

という単純な話ではなくなります。

そして、私が実際に経験した、

左への引っかけに対してアップライトにしたら、逆に真っすぐ飛ぶようになった

という現象も、少し違って見えてきます。

静的には左へ向かう変更。

しかしその変更によって手元の時間軸が変わり、クラブパスやフェースの動きまで変化すれば、

結果は逆になることがあります。

クラブを止めて見ていたのでは、これは分かりません。

ゴルフクラブは、動いているからです。

そして人間も、動いています。

これが、

ダイナミックに考える

ということなのだと思います。

コヤマカズヒロ氏の朱莉プロのクラブ解説よりまとめ 連続性の呪縛

コヤマカズヒロ氏は多くの示唆を与えてくれた内容です。朱莉プロだけではなく細野プロの事に引き合いに出していただいたのがよかったと思います。

さて、結論をまとめたいと思います。

連続性の呪縛

例えば、ドライバーのキャリーが230ヤードだったとします。

そこから10ヤード刻みでクラブをバッグに入れようとすると、

230ヤード
220ヤード
210ヤード
200ヤード
190ヤード
180ヤード……

というように、きれいな階段を作りたくなります。 “コヤマカズヒロ氏の朱莉プロのクラブ解説よりまとめ 連続性の呪縛” の続きを読む